
災害が起きたとき、足腰の弱い利用者や離れて暮らす親御さんが避難所でどのような生活を送るのか、気になっていませんか?
避難所で高齢者が困るのは、トイレや床での就寝、薬や食事の管理、情報の受け取りといった日々の生活の場面です。こうした不便は、脱水や生活不活発病などの健康リスクにもつながります。避難所で必要な配慮と、介護職が平時にできる備えもあわせて解説します。
この記事を読めば、利用者やご家族に何を伝え、施設として何を準備しておけばよいかを整理できるでしょう。
避難所で高齢者が困ることとは
避難所は、限られたスペースと支援物資の中で多くの人が共同生活を送る場所です。足腰が弱い人や持病のある人にとっては、普段は気にならなかった場面が負担になります。
ここでは、高齢者が避難所で困る場面を、生活・体調管理・情報の3つに分けて見ていきましょう。
トイレや床での就寝の不便
高齢者の負担が大きくなる場面の一つが、避難所のトイレです。建物によっては和式便器のトイレが多く、仮設トイレにも和式便器が多いため、足腰の弱い高齢者にはトイレの使用が極度に困難になります。
東日本大震災では、設置場所が暗い、段差があるといった理由で、高齢者などに使いにくいトイレもありました。和式トイレが使いづらいと水分を控えたり、トイレに行かなくなって日常生活の動作の力が落ちたりする場合があります。
床での就寝も、健康面で注意が必要です。床に長く横たわっていると、エコノミークラス症候群を引き起こすだけでなく、埃などを吸い込む健康被害も心配されます。
そのため、国の指針はベッドの設置が望ましいとしています。パーティションなどが全員に行きわたらない場合は、高齢者などを優先して提供する方針です。
薬や食事など体調管理の難しさ
持病のある高齢者にとって、避難所で薬や食事の管理を続けるのは簡単ではありません。高血圧や喘息などの慢性疾患は、治療を中断すると病気が悪化するおそれがあります。
内閣府がまとめた能登半島地震の災害関連死の事例集には、避難先の集会所で薬を服用できないまま3日間を過ごした70歳代女性の事例もあります。避難先で治療を続けるには、普段の薬を持ち出しておく準備が必要です。
食事で配慮が必要なのは、かむ力が落ちた人や病気で食事制限のある人などです。入れ歯をなくしたり壊したりして、食べるのに困る人もいます。水が足りずに歯や入れ歯の清掃がおろそかになると、高齢者は体力の低下も重なり、誤嚥性肺炎などの呼吸器感染症を引き起こすおそれもあります。
関連記事:避難所に持って行かない方がいいもの・持っていった方がいいものとは?
参考:令和6年能登半島地震において災害関連死として認定された事例及び認定されなかった事例(災害関連死事例集)|内閣府
必要な情報の届きにくさ
避難所では、健康に関する情報なども掲示や音声で伝えられます。ただし、目や耳が不自由な人や認知症の人などには情報が伝わりにくいため、状態にあわせた伝え方の工夫が求められています。
認知症の人には、わかりやすい短い言葉や文字、絵や写真で示すのが一つの方法です。高齢者と話すときは、まず眼鏡や補聴器を付けているかを確かめましょう。
そのうえで、大きな声ではっきりと簡潔に話し、聞き取れて理解できたかを確認するのが基本です。掲示か音声のどちらか一方ではなく、両方で伝える工夫も必要です。
普段から眼鏡や補聴器を使っている利用者には、避難のときに忘れず持ち出すよう伝えておきましょう。手元にあれば、避難先でも掲示を読み、会話を聞き取る支えになるでしょう。
避難所で高齢者が困ることによる健康リスク
避難所での不便が続くと、体調の悪化につながる場合があります。内閣府の事例集(令和8年1月)によると、能登半島地震で一部の市町が審査会を経て災害関連死と認めた286名のうち、80歳代以上は234名(約82%)でした。
ここでは、避難所の生活で高齢者に起こりうる3つの健康リスクを解説します。
脱水やエコノミークラス症候群
トイレの使用をためらって排せつを我慢すると、水分や食べ物を控えるようになり、脱水症状やエコノミークラス症候群などの健康被害を招くおそれがあります。高齢者は若い人に比べてのどの渇きを自覚しにくく、薬の影響で脱水症状になる場合もあります。
脱水は、尿路感染症や心筋梗塞の原因にもなるため注意が必要です。食事や水分を十分にとらずに車などの狭い座席に長時間座り、足を動かさないでいると、血行が悪くなって血液が固まる場合があります。
その血の固まり(血栓)が肺に詰まり、肺塞栓などを招くおそれのある症状がエコノミークラス症候群です。胸の痛みや、片側の足の痛み・赤み・むくみがある人は、早めに救護所や医療機関につなぎましょう。
生活不活発病による心身の衰え
生活不活発病は「動かない」状態が続いて心身の機能が低下し「動けなくなる」状態を指します。避難所では、それまでご本人がしていた掃除や炊事ができなかったり、ボランティアなどが代わりに家事をしてくれてあまり動かなかったりと、生活が不活発になりがちです。
体を動かす場面が減ると、特に高齢者は筋力が落ちたり関節が固くなったりして徐々に動けなくなり、気分も沈んでくる場合があります。動きにくくなるとますます動かなくなる悪循環に陥るため、早めの対応が必要です。高齢者や持病のある方の様子には、特に気を配りましょう。
参考:一連の熊本県熊本地方を震源とする地震による避難生活に伴う心身の機能の低下の予防について|厚生労働省
認知症の症状の悪化
認知症の人は急な環境の変化に適応するのが難しく、避難所で混乱し、行動や心理の症状が多く出る場合があります。認知症介護研究・研修仙台センターが東日本大震災で避難所を支援した事業所・機関に実施した調査では、支援に入った334件のうち、認知症の人がいた避難所は282か所(約84%)でした。
同じ調査で最も多かった出来事は「イライラして落ち着かない(不穏)」で、このほか「徘徊」や「帰宅願望」に分類された事例もありました。
見当識障害を防ぐ工夫には、次のような方法があります。
- 時計やカレンダーを置く
- 使い慣れたものをそばに置く
- 部屋をできるだけ静かに保つ
- 柔らかい光の照明にする
環境を整えると、ご本人が落ち着きを取り戻すきっかけになるでしょう。
避難所で高齢者に必要な配慮
避難所では、困りごとを抱えた高齢者に周りが気づき、早めに支える配慮が必要です。国の指針も、要配慮者がカードなどで支援してほしい内容を周りに伝えられるよう配慮し、相談窓口を設けるよう求めています。
ここでは、避難所で高齢者に必要な配慮を2つ紹介します。
こまめに声をかけて困りごとを聞く
困りごとは、ご本人が自ら口にするとは限りません。内閣府の指針では、支援の優先順位を決めるときに「声の出しやすさ」なども考えて「一番困っている人」から柔軟に対応するのが望ましいとしています。
声をかけるときは、水分や食事、トイレ、睡眠の様子を一つずつ確かめましょう。トイレの使用をためらって、水分や食事を控える人もいるためです。
日本老年看護学会のガイドでは、高齢者の健康をチェックする視点として次のような項目を挙げています。
- 声かけに返答があるか
- ぼんやりしていないか
- 手足のむくみや冷感はないか
- 歩くときにふらつかないか
言葉をかけるときは「がんばって」を「無理しないで」に置き換え、住まいの被害は深く聞きすぎないようにしましょう。体調の変化に気づいたら、保健師などの専門職や救護班につなぎましょう。
参考:避難生活における良好な生活環境の確保に向けた取組指針|内閣府
水分補給や体操を促す
脱水や生活不活発病を防ぐには、周りからの働きかけが効果的です。厚生労働省のガイドライン(2011年)は、高齢者には食事のほかに1リットルは水分補給が必要としています。持病のある人には、かかりつけ医や保健師などへ水分のとり方の相談を促しましょう。
のどが渇く前に、起床後や就寝前などにこまめに飲むよう声をかけましょう。体を動かす面では、横になっているよりなるべく座り、決まった時間に体操をする習慣づくりが筋力低下の予防になります。
かかとの上げ下ろしやふくらはぎをもむ運動は、エコノミークラス症候群の予防にも役立ちます。周りの人は必要以上に手を貸さず、身の回りの用事はできる限りご本人にしてもらいましょう。ただし、病気のある人には、どの程度動いてよいかを保健師などに相談するよう勧めましょう。
参考:避難所生活を過ごされる方々の健康管理に関するガイドライン|厚生労働省
参考:生活機能低下を防ごう!「生活不活発病」に注意しましょう|厚生労働省
介護職が平時にできる避難所への備え

多くの介護サービスの事業所で、令和6年4月から業務継続計画(BCP)の策定と研修・訓練の実施が義務となりました。避難所での利用者の生活まで想定しておくと、計画や訓練の中身を決める手がかりになります。
ここでは、介護職が平時から取り組める2つの備えを紹介します。
利用者の情報や薬を持ち出せるようにする
避難先でも利用者が必要なケアを受けられるよう、情報と薬を持ち出せる形にしておきましょう。利用者を避難先に預けるとき、担当の職員が同行できるとは限りません。
厚生労働省の介護施設・事業所向けの業務継続ガイドラインは、最低限必要な利用者情報を「利用者カード」などにまとめ、服薬管理が必要な利用者の薬の持ち出しも検討するよう示しています。
服用中の薬に加え、食事の形態や移動・排せつの介助方法も書き添えましょう。受け入れ先が普段に近いケアを続ける手がかりになります。
在宅の利用者には、薬の情報を避難先で確かめられるよう、おくすり手帳の持参を伝えましょう。災害対策基本法で市町村が作成に努める個別避難計画も、服用薬や通院先、担当ケアマネジャーなどが書かれていると、避難生活の支援に役立つと考えられています。
関連記事:第7章「従業員だけじゃない!?施設利用者を守るためにやるべきこと[後編]」
参考:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
避難所での生活を事前に体験する
避難先での生活に慣れるには、平時に避難先へ行って過ごしてみる体験が役立ちます。国の指針も、避難先への経路をたどる訓練はその場の雰囲気に慣れる助けになるとし、訓練の例に「避難先(の候補)での避難生活の体験」を挙げています。
車いすに職員を乗せて経路をたどると、段差や階段の場所を確かめられるでしょう。こうした体験は、BCPの訓練にも組み込めます。
避難所へ実際に行ってみる場として、ifnyでは介護施設向けの防災キャンプ「あそぼうさい」を開催しています。防災学習ゲームをしたり体を動かしたりしながら、介護士から介護対象者の方まで楽しく防災を学べる体験型の訓練です。
申し込みの流れや料金は「あそぼうさい」のページで確かめられます。利用者と職員で避難所へ行っておけば、いざというときも落ち着いて動けるでしょう。
関連記事:地震が起きたらどこに逃げる?状況別の行動から高齢者の避難まで解説
参考:避難行動要支援者の避難行動支援に関する取組指針|内閣府
高齢者の避難所生活でよくある質問
災害時の避難先は、高齢の利用者やご家族と平時から話し合っておきたいテーマです。なかでも福祉避難所の対象と在宅避難の考え方は、あらかじめ確かめておきましょう。
ここでは、よくある2つの質問にお答えします。
福祉避難所には誰が避難できる?
福祉避難所は、避難所での生活に特別な配慮が必要な人を受け入れる避難所で、国のガイドラインはそのご家族まで受入対象に含めて差し支えないとしています。受入対象の例には、高齢者(一人暮らし、高齢者のみ世帯等)や医療的ケアを必要とする者などが含まれています。
ただし、特別養護老人ホームや老人短期入所施設などの入所対象者は、その施設で対応するため原則として対象外です。令和3年(2021年)の改正では、受け入れる人を特定する場合はその旨を公示する制度も整いました。
個別避難計画などで事前に調整しておけば、最寄りの避難所ではなく指定福祉避難所へ直接避難できます。直接避難できない場合は、一般の避難所の要配慮者スペースに避難してから移る方法もあります。地域の指定福祉避難所と利用者の避難先は、市町村の公示や個別避難計画で確かめておきましょう。
避難所に行かず自宅で過ごしてもいい?
自宅が安全であれば、自宅で過ごす在宅避難も選択肢の一つです。国のガイドラインでは、避難とは「難」を「避」ける行動であり、小中学校や公民館などの指定緊急避難場所に行くだけが避難ではないとしています。
ただし、土砂災害と津波は、自宅が外からの力で倒壊するおそれがあるため、立退き避難が原則です。洪水や高潮で自宅にとどまる場合も、浸水が続いて水や食料、薬が手に入りにくくなっても過ごせるかなど、住んでいる人が自ら確かめるべき条件が少なくとも3つあります。
在宅で過ごす人も、支援の対象から外れるわけではありません。災害対策基本法は、やむを得ない理由で避難所に滞在できない被災者にも、生活関連物資の配布や保健医療サービス・福祉サービスの提供などに努めるよう定めています。
国の指針も、避難所を在宅避難者が物資を受け取りに来る地域の支援拠点と位置付けています。
関連記事:避難所に行かない方がいい場合・行った方がいい場合の判断基準を解説
まとめ
避難所で高齢者が困るのは、トイレや床での就寝、薬や食事の管理、情報の受け取りです。避難所での生活が続くと、脱水やエコノミークラス症候群、生活不活発病、認知症の症状の悪化といった健康リスクにもつながります。
避難所では、こまめな声かけで困りごとを聞き取り、水分補給や体操を促す配慮が必要です。介護職は平時から利用者カードや薬の持ち出し方法を整え、避難先での生活を利用者と一緒に体験しておくと安心です。
まずは担当する利用者の服薬や避難先を確かめ、ご家族とも共有しておきましょう。
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2022年に防災士の資格を取得、企業に対してBCP対策の支援。
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