loader image

2026/09/01

BCPの停電対策とは?介護施設の初動手順から備蓄量まで解説

ifny運営スタッフ

ifny運営スタッフ

BCPの停電対策とは?介護施設の初動手順から備蓄量まで解説

自然災害BCPは策定したものの、停電の欄が非常用電源や懐中電灯といった設備名の羅列で止まっていませんか?近隣の停電や台風の報道をきっかけに、自施設の備えを見直そうとする担当者の方もいます。

BCPの停電対策で決めるのは、停電した瞬間に誰が何をするか、限られた電源をどの機器へ回すか、水と食料を何日分置くかの3つです。この記事では、自然災害BCPに書く項目と設置義務を整理したうえで、初動手順・電源の優先順位・備蓄量まで解説します。

この記事を読めば、自施設の停電対策に足りない部分がわかり、BCP様式の停電欄を手順と数字で埋められるようになるでしょう。

※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。

介護業界向けの防災・BCPコンサルティングはこちら

BCPの停電対策とは

BCPの停電対策とは、電気が止まった状況でも利用者の生命と生活を守り続けるために、平時から準備と手順を決めておく取り組みです。介護施設では照明や空調だけでなく、たんの吸引器や人工呼吸器といった医療機器も電気で動いています。停電は施設の設備が壊れていなくても、広域の送電トラブルで突然起こります。

自然災害BCPのどこに何を書くのか、設置義務がどこまで及ぶのかを順に整理していきましょう。

自然災害BCPに書く停電時の項目

停電の対策は、自然災害BCPの様式にある「電気が止まった場合の対策」の欄に書き込みます。厚生労働省のガイドラインによると、この欄は自家発電機の有無で書き分ける形式です。

自家発電機がない施設は、電気なしでも使える代替品の準備と業務の進め方を記載します。自家発電機がある施設は、設置場所と稼働方法を確認したうえで、カバーできる時間と範囲に応じた設備の優先順位を書きます。

あわせて埋めたいのが、被災想定の欄です。記入例では、当日から9日目までの日ごとに、電力・エレベーター・飲料水・生活用水・ガス・携帯電話などの状態を書き込みます。

特養や老健などでは2025年度末から、発電容量や稼働時間、燃料の備蓄日数を国の災害時情報共有システムへ報告する運用も始まりました。

関連記事:介護施設における自然災害BCPの重要性と作成のポイントを解説

参考1:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省

参考2:介護施設・事業所等における災害時情報共有システムに係る平時における物資の備蓄状況等報告機能の追加について|厚生労働省

非常用電源の設置義務

介護保険法に基づく運営基準には、非常用電源の設置や稼働時間を定めた義務規定はありません。施設の照明や医療機器を動かし続けるための自家発電設備は、国が一律に設置を求める対象には含まれていません。

ただし、別の法律による義務は存在します。消防法はスプリンクラーや自動火災報知設備といった消防用設備に非常電源を求め、建築基準法は建築設備の予備電源を求めています。特養や老健、グループホームは、デイサービスより広い範囲で消防用設備の設置が必須です。

注意したいのは、義務がどこまで及ぶかです。消防や避難のための設備には非常電源が必要ですが、施設の機能を保つ電源は自主的な備えの領域に入ります。電気事業法に基づく保安規程と点検の対象は、高圧で受電する施設なら構内全体、低圧受電なら出力10kW以上の発電設備です。

参考:消防法による消防設備の設置義務|福岡県

停電対策の初動手順

停電が起きた直後の数分で何をどの順に確かめるかが決まっていると、現場の動きは大きく変わります。介護施設の停電で並行して進めたいのは、暗くなった館内の安全確認・止まった設備の把握・復旧見込みの確認の3つです。夜勤帯なら、少ない人数で回せる順番に組み替える必要もあるでしょう。

ここでは、停電の発生直後から数日後までの動きを時系列で追っていきます。

暗くなった館内の安全を確認する

停電の直後にまず確かめたいのは、暗くなった館内で利用者が危険な状態に置かれていないかです。特にエレベーターは、停電すると途中で止まり、かごの中に人が閉じ込められる場合があります。利用者や職員が乗っていないかを、早い段階で確認しましょう。

続いて、医療機器を使っている利用者から順に安否を確認します。居室を回るときは、両手が空くヘッドライトやランタンを使うと介助しながら動けます。懐中電灯だけでは片手がふさがり、転倒しかけた利用者を支えられません。

夜勤帯は、この動きを1〜2人でこなす場面が出てきます。北海道が2012年の停電後にまとめた調査では、回答した45施設のうち20施設が非番の職員を呼び出し、平常時より多い人数で対応しました。誰がどの段階で応援を呼ぶかまで、BCPに記載しておきましょう。

関連記事:コンチプランとは?BCPとの違いや介護事業者の初動対応を解説

参考:停電時に備えた社会福祉施設等の対応について|北海道

止まった設備を洗い出す

停電で止まるのは照明だけではありません。同じ北海道の調査では、暖房が43施設、照明が42施設、電話が34施設で使えなくなっています。

停電の直後に館内を回り、使えなくなった設備を書き出しましょう。見落としが多いのは、次の設備です。

  • ナースコールと館内放送
  • エレベーター
  • 電動ベッドとエアマット
  • 電磁調理器と厨房機器
  • 貯水槽へ水をくみ上げるポンプ

水道は、貯水槽へ電動ポンプでくみ上げている建物だと蛇口から水が出なくなります。夏場はエアコンが止まると熱中症の危険が高まるため、冷却と水分補給の手順も決めておきましょう。

止まった設備は、手動やバッテリーでの代替手段とセットで記録します。ナースコールが鳴らない間は、呼び鈴や携帯電話など呼び出しの代わりを決めたうえで、見回りの回数と担当を人員に応じて組み直しましょう。

関連記事:特別養護老人ホーム(特養)のBCP作成に必要なポイントとは?

参考:今夏の災害発生時における熱中症対策について(周知依頼)|厚生労働省

復旧の見込みを問い合わせる

復旧の見込みは、契約している小売電力会社ではなく、地域の送配電事業者に問い合わせます。エリアごとに事業者が分かれており、各社のサイトで停電範囲と復旧状況が公開されています。連絡先は、BCPの緊急連絡先欄に電話番号まで記載しておきましょう。

ただし、見通しはすぐには出てきません。2019年の台風15号では、停電のピークから4日半が過ぎて地域別の復旧見通しが出ました。復旧の時期が読めない前提で、当面の人員体制を組む必要があります。

復旧までの時間がわかれば、次の判断に進めます。数時間で戻るなら手元の電源でしのぎ、数日かかるなら職員のローテーションと物資の追加調達に切り替えましょう。長引く場合は、近隣の施設や医療機関への避難も選択肢に入るでしょう。

参考1:大規模災害時における停電対策について|経済産業省

参考2:各エリアの停電情報・電力需給関連情報|電気事業連合会

停電対策で決める電源の優先順位

非常用電源を備えていても、施設のすべての電力はまかなえません。限られた出力をどの設備に回すかを平時に決めておかないと、停電の最中に判断を迫られます。発電機がカバーできる時間と範囲を確かめ、そのうえで順位を付けておく必要があります。

ここでは、生命に直結する機器から順に、電源の配分を決める手順を見ていきましょう。

最優先で守る医療機器

電源を最初に回すのは、止まると生命に関わる機器です。厚生労働省のガイドラインも、電気が必要な機器の筆頭にたんの吸引器と人工呼吸器を挙げています。誰がどの機器を使っているかは、利用者台帳に印を付けて夜勤者にも見えるようにしましょう。

確かめたいのは、機器が電池だけで何時間もつかです。酸素濃縮器はバッテリーを備えていれば、酸素ボンベへ切り替えるまで30〜60分の余裕があります。排たん補助装置のバッテリーは45〜60分が目安で、人工呼吸器は内部バッテリーと外部バッテリーの合計で計算します。

ただし、カタログの数値どおりに動くとは限りません。バッテリーは2年ほどで劣化し、公称の稼働時間を下回ります。平時にコンセントを抜いて実際に動かし、残り時間の見方とアラームの止め方まで職員が確認しておきましょう。

参考1:医療機器が必要な子どものための災害対策マニュアル~電源確保を中心に~|国立成育医療研究センター

参考2:在宅難病人工呼吸器等使用患者さん(ご家族)のための平時から備える災害対策の手引き|埼玉県難病医療連絡協議会

非常用電源で動かせる設備の範囲

自家発電機の能力は、出力と稼働時間で測ります。BCP様式の記入例も、出力400kWで8時間使用可能といった書き方で容量と時間を並べます。この数字を、動かしたい設備の消費電力と突き合わせましょう。

医療機器の消費電力には、利用者1人あたりの目安があります。

  • 人工呼吸器:100W程度
  • たんの吸引器:50W程度
  • 回路の加湿器:160W程度
  • エアマット:20W程度

1人あたり、生命を保つ範囲なら300W、必需品まで動かすなら600Wが目安です。該当する利用者の人数分を積み上げ、発電機の出力と比べましょう。

起動時に表示の数倍の電力が要る機器もあり、実際の消費電力は2,000円前後の簡易チェッカーで測れます。消防用設備向けの自家発電は、稼働時間の基準を満たせる範囲なら照明に転用できますが、消防署への確認が必要です。

自家発電機がない場合の代替品

自家発電機がなくても、進められる対策はあります。ガイドラインが最初に示すのは、乾電池や手動で動く代替品の準備です。足踏み式の吸引器や手回しのライト、カセットコンロは電源がなくても使えます。

次に検討したいのが、移動して使える電源です。自動車のバッテリーや電気自動車からの給電、太陽光発電の活用も、ガイドラインが手段に挙げています。ただし、0.9kVA程度のポータブル発電機で動かせるのは吸引器やラジオまでで、天井据付のエアコンには届きません。

6日間の停電を経験したグループホームでは、天井のエアコンが動かせず、相談室のコンセント式エアコンを発電機につないで対応しました。懐中電灯も各階2個では足りず、5個を買い足しています。発電機を屋内で使うと一酸化炭素中毒を招くため、設置は必ず屋外にしましょう。

参考:高齢者施設・事業所が災害時の停電・断水に備えるために|日本総合研究所

停電対策に必要な備蓄量

停電対策に必要な備蓄量

停電対策の備蓄で決めるのは、何日分を、1人あたりどれだけ置くかの2点です。日数を短く見積もると、復旧を待つ間に水も食料も尽きてしまいます。日数だけ長くしても、1人あたりの数量が決まっていなければ発注量が出てきません。

ここでは、想定する停電日数と1人1日あたりの目安を順に確認していきます。

想定する停電日数の目安

備蓄の目安は3日分です。厚生労働省のガイドラインは、行政の支援が始まる被災後3日目までを自力でしのぐ想定を示しています。ただし、3日で必ず電気が戻るとは限りません。

2019年の台風15号では、関東で最大93万戸が停電しました。発災から3日が過ぎても34万戸が復旧しておらず、千葉県内ではほぼ全戸が停電した自治体もあります。

停電件数が1万戸を切ったのは、発災から12日後の9月21日でした。停電の規模が小さい災害でも、復旧までの時間が長引く場合があります。

そのため、3日分を最低ラインとし、可能なら7日分まで積み増す考え方をおすすめします。ハザードマップで自施設の想定震度や浸水を確かめ、孤立するおそれがある立地なら日数を長めにとりましょう。備蓄量の根拠も、BCPに記載しておきます。

関連記事:災害備蓄品は何日分備蓄しておくべきですか?

参考:台風15号に伴う停電復旧プロセス等に係る検証について|経済産業省

1人1日あたりの水と食料

備蓄量の計算は、1人1日あたりの数量に人数と日数を掛けて出します。ガイドラインが示す参考値は、次のとおりです。

  • 水:1人1日3リットル
  • 食料:1人1日3食
  • 毛布:1人1枚

利用者50人の施設が3日分をそろえるなら、水は450リットル、食料は450食です。北海道が道内の施設を対象にまとめた調査では、備蓄日数が食料2.9日・飲料水2.8日にとどまり、目安の3日に届いていません。

3リットルは、成人が1日に必要な1.5〜3.0リットルの上限にあたります。調理や手洗いに使う生活用水は別に要るため、浴槽の水をためておく対応もあわせて決めましょう。

嚥下や咀嚼に配慮が必要な利用者がいる施設では、中身の選び方も変わります。流動食やおかゆの缶詰を混ぜ、紙皿や使い捨てスプーンも献立から逆算してそろえましょう。

参考:災害が起きる前にできること|首相官邸

BCPの停電対策でよくある質問

停電対策を進めていると、72時間の扱いや費用の工面で手が止まる場面が出てきます。どちらも情報が断片的に出回っており、義務と推奨の線引きが見えにくい論点です。根拠のある線引きを把握しておくと、設備の投資判断にも迷いが減ります。

ここでは、施設の担当者から質問の多い2点について回答します。

非常用電源は72時間分が必要?

介護施設に72時間分の非常用電源を義務づける規定はありません。もともとは、人命救助の観点から重要とされる時間として語られてきた数字です。3日=72時間の区切りが出てくるのは、次の3つの場面です。

1つ目は、内閣府が地方公共団体の庁舎向けに示した手引きで、72時間は外部からの供給なしで非常用電源を動かせる状態が望ましいとしています。2つ目は災害拠点病院の指定要件で、通常時の6割程度の発電容量と3日分程度の備蓄燃料が求められます。3つ目は介護施設向けの補助金で、国の実施要綱が求めるのは発災後72時間以上の事業継続です。

いずれも介護施設への一律の義務ではありませんが、備蓄も補助金も3日を基準に設計されています。自主的な目標として72時間を置き、燃料の量と機器の絞り込みを考えるとよいでしょう。

参考1:大規模災害発生時における地方公共団体の業務継続の手引き|内閣府

参考2:災害拠点病院指定要件の一部改正について|厚生労働省

停電対策の費用に使える補助金はある?

非常用自家発電設備の整備には、国の交付金を活用できます。地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金には、高齢者施設等の非常用自家発電設備が対象として含まれており、2026年度も継続しています。

対象になるのは、発災後72時間以上の事業継続ができ、施設に付帯する工事を伴う設備です。BCPや非常災害対策計画の策定、耐震性の確保を上乗せの条件とする自治体もあります。たとえば、福岡県では対象が定員30人以上の特養や老健などです。

補助率は国が2分の1、県と事業者が4分の1ずつでした。総事業費500万円以上(燃料タンクを除く)が下限です。

ただし、補助率も募集期間も自治体ごとに異なります。当初協議の締切が年度初めの自治体もあるため、施設が所在する都道府県や市の募集要項を早めに確認しましょう。

関連記事:介護施設を守るBCP|補助金の活用方法を解説

参考1:地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金実施要綱|厚生労働省

参考2:【受付は終了しました】令和8年度「地域介護・福祉空間整備等施設整備交付金」における一次協議の実施について|福岡県

まとめ

BCPの停電対策とは、停電した瞬間からの動きと、電源や備蓄の配分を数字で決めておく備えです。介護保険法の運営基準に非常用電源の義務規定はありませんが、消防法や建築基準法による義務は別に存在します。初動では暗い館内の安全確認から入り、止まった設備を洗い出して復旧の見込みを確かめます。

電源は医療機器を最上位に置き、発電機の出力と起動電力を突き合わせて配分を決めましょう。備蓄は1人1日あたり水3リットル・食料3食を基準に、3日分を最低ラインに、可能なら7日分までそろえます。

まずは自施設のBCPを開き、停電の欄に手順と数量が記載されているかを確かめましょう。空欄が残っていれば、機器の消費電力を測るところから着手できます。

防災⼠の詳細はこちら

2022年に防災士の資格を取得、企業に対してBCP対策の支援。