
2025年12月、内閣府が12年ぶりに首都直下地震の被害想定を見直しました。死者は最大約1万8,000人で、うち約3分の2を火災が占めます。報道を見て、自施設のある地域が危険地域に当たるのか気になった方もいるでしょう。
首都直下型地震の危険地域を調べる入口は、都県ごとに異なります。東京都は町丁目単位のランク、ほかの3県は県の被害想定調査と市町村のハザードマップが出発点です。この記事では、判定の基準と1都3県それぞれの調べ方、結果をBCPへ反映する手順、移転できない施設が取れる対策を解説します。
この記事を読めば、自施設の立地リスクを公的データで確認し、BCPの見直しへつなげられるでしょう。
※本記事は2026年9月時点の情報をもとに作成しています。
首都直下型地震の危険地域とは
「危険地域」は報道や検索でよく使われる言葉ですが、国や自治体がその名称で地域を線引きした制度はありません。公表されているのは、地域ごとの危険性を相対的に比較した評価の結果です。判定の基準を知ると、自施設の結果を職員や利用者のご家族へ説明できます。
ここでは、公的な指定との違いと、危険度を判定する指標の読み方を確認しましょう。
公的な指定との違い
「危険地域」は、東京都などが公表する地域危険度の評価結果を指す通称であり、公的な指定の名称ではありません。東京都の「地震に関する地域危険度測定調査」は東京都震災対策条例に基づき、都内市街化区域の5,192町丁目(◯◯区△△一丁目のような単位)を5段階で相対評価しています。
法律上の指定は、首都直下地震対策特別措置法に基づく首都直下地震緊急対策区域です。内閣総理大臣が指定する区域で、1都3県はいずれも含まれます。ほかに国土交通省が調査・公表する「地震時等に著しく危険な密集市街地」もあります。
どちらも危険地域と呼ばれる区分ではなく、地域ごとの危険度の高さを示すものでもありません。職員や利用者のご家族へ説明するときは、どの調査のどの指標でどのランクに当たるのかを示しましょう。
参考1:地震に関する地域危険度測定調査(第9回)|東京都都市整備局
危険度を測る3つの指標
東京都の「地震に関する地域危険度測定調査」が測る危険度は、次の3つです。
- 建物倒壊危険度
- 火災危険度
- 総合危険度
建物倒壊危険度は、揺れで建物が壊れる危険性を地盤の特性と建物の種類・構造・建築年次から測定した指標です。火災危険度は、揺れで起きた火災の延焼で広い範囲が被害を受ける危険性を示し、東京消防庁が測る出火の危険性と、建物の構造や間隔に基づく延焼の危険性を組み合わせて算出されます。
総合危険度は、この2つの危険量を合算し、災害時活動困難係数を乗じて1つにまとめた指標です。危険度が高いのは、沖積低地や谷底低地のような揺れやすい地盤に古い木造建物が集まる地域や、耐火性能の低い木造住宅が密集する地域です。
5段階ランクの読み方
東京都の地域危険度のランクは1から5の5段階で、数字が大きいほど危険性が高い評価になります。第9回調査では、都内5,192町丁目がランク1から順に2,344・1,653・822・288・85町丁目に分かれました。割合はランク1が45.2%、ランク5が1.6%です。
注意したいのは、各ランクの構成比率をあらかじめ定めたうえで、危険量の順位に応じて割り当てている点です。ランクは町丁目どうしを比較した相対的な位置であり、絶対的な安全性を保証する数字ではありません。
総合危険度に乗じる災害時活動困難係数は、道路や公園など災害時に有効な活動空間の不足率と、避難等に有効な道路ネットワークの不足率から評価されます。総合危険度は建物の新しさだけでは決まらず、同じ危険量でも消防車や救急車が入りにくい場所ほど高く評価されます。
関連記事:首都直下型地震で助かるには|基礎知識やBCPのポイントを徹底解説
参考:「地震に関する地域危険度測定調査(第9回)」の公表について|東京都
首都直下型地震の危険地域を調べる方法
自施設の所在地の危険度は、都県ごとに見る資料が異なります。東京都は町丁目単位のランクを公表していますが、ほかの3県は県の被害想定調査と市町村のハザードマップを組み合わせて確認します。開くべき資料がわかれば、調べる作業自体は長くかかりません。
ここでは、1都3県それぞれの入口と手順を解説します。
東京都の施設は町丁目のランクを見る
東京都内の施設は、都市整備局の「地域危険度一覧表」から確認します。区市町村別に町丁目ごとの危険量・順位・ランクが載っており、全5,192町丁目のデータはExcelやCSVでも配布されています。
自施設の住所の町丁目を探し、3つの指標のランクと順位を控えましょう。ただし、このランクだけでは首都直下地震で自施設が何震度になるかまではわかりません。
地域危険度は特定の地震を想定せず、すべての町丁目に同じ強さの地震動を与えて相対的な弱さを比較した調査です。想定震度は東京都の「首都直下地震等による東京の被害想定」(令和4年5月25日公表)で確認します。所在地の震度は、都が公開する「東京被害想定デジタルマップ」で地図から読み取れます。
参考2:首都直下地震等による東京の被害想定|東京都防災ホームページ
埼玉・千葉・神奈川の施設は被害想定を見る
3県の施設は、県の被害想定調査と市町村のハザードマップを見ます。県ごとに調査の新しさと公表の形が異なる点に注意しましょう。
埼玉県は平成24・25年度調査の被害分布図を公開し、想定地震ごとの震度や焼失棟数を地図で読めます。約12年前の調査のため、県内63市町村のハザードマップ一覧も見ましょう。
千葉県は令和6・7年度調査の概要を公表した段階で、詳細は後日公開予定です。現時点は前回調査の250メートルメッシュの揺れやすさマップを使います。
最も新しい報告書は、神奈川県の令和7年3月版です。市区町村別の想定値まで公表し、数値は「資料1市区町村別被害想定結果一覧」にまとまっています。48〜50ページには冬18時発災の想定で要介護認定者の被災想定人数が時期別に載り、自施設のある市区町村の数字を読めます。
参考2:液状化しやすさ・危険度マップ、揺れやすさマップ|千葉県
危険地域の判定結果をBCPに反映する手順
調べた結果は、BCPの「リスクの把握」へ書き込んで初めて実務に生きます。厚生労働省のBCPひな形では、リスクの把握は基本方針・推進体制に続く3番目の項目で、計画の冒頭に置かれています。書き込むのは、ハザードマップの添付と、自治体が公表する被災想定の整理の2つです。
ここでは、それぞれの欄に何を記載するかを順に紹介します。
ハザードマップを添付する
厚生労働省のBCPひな形では、施設の所在地のハザードマップを補足資料に貼り付け、読み取った震度や浸水深を書き込むよう指示されています。地震のマップだけでなく、津波や風水害のマップも一通り添付しておくと、立地に応じたリスクを職員が共有できます。
地図の入手先は、国土交通省のハザードマップポータルサイトです。地震の揺れやすさは「重ねるハザードマップ」に含まれないため、地震防災・危険度マップのある「わがまちハザードマップ」から市町村の公表物を開きます。
東京都内の施設は、ここへ地域危険度のランクと順位を書き添えると、地図だけでは伝わらない相対的な位置も把握できます。ハザードマップや危険度調査は見直されるため、定期的に確認し、変更があれば差し替えましょう。
関連記事:介護施設のBCP作成方法(前編)
参考1:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
被災想定を時系列で整理する
被災想定の欄は【自治体公表の被災想定】と【自施設・事業所で想定される影響】の2段構成です。前者には自治体が公表するインフラの被災想定を、後者には自施設の設備を踏まえた影響を時系列で記載します。
ひな形が例示する震度7の場合の復旧日数は、次のとおりです。
- 電気:1週間
- 上下水道:3週間
- 都市ガス:5週間
- 通信:1週間(津波被害なし)
震度6程度は震度7の半分の日数が目安で、電気は3日、上下水道は7日です。調べた想定震度がそのまま備蓄量や自家発電の稼働日数の根拠になります。
【自施設・事業所で想定される影響】の記入例は、当日から9日目までを1日単位で並べた様式です。まず発災当日・3日後・1週間後に区切って、その時点で止まる設備と続けられる介護を書き出すと、次の優先業務の選定にそのまま活用できるでしょう。
参考:業務継続計画(BCP)自然災害編(介護サービス類型:共通)|厚生労働省
危険地域にある介護施設の対策

移転できない施設でも、立地に起因するリスクを下げる手立てはあります。新しい被害想定では、1週間後に避難所にいる要介護認定者が最大約13万2,000人と見込まれています。自施設が機能を維持できるかどうかは、地域全体の受け入れ余力にもかかわる問題です。対策の優先順位は、被害が大きい原因から決めるのが基本です。
ここでは、火災・避難・人員の3つの観点から、具体的な対策を見ていきましょう。
延焼と通電火災を防ぐ
火災対策が最優先です。死者最大約1万8,000人のうち約1万2,000人が地震火災で、全体の約3分の2を占めます。木造や防火造の建物が密集し、広い道路や空地が少ない地域ほど延焼の危険は高まります。
出火原因で最も多いのは電気です。停電が復旧したときに倒れた器具や配線から発火するのが通電火災で、兵庫県南部地震では判明した出火原因の約61%を占めました。
出火を減らす基本の対策は感震ブレーカーです。冬の夕方・風速8メートルの想定では、現状の設置率20%で焼失棟数が約26万8,000棟、50%なら約19万3,000棟、100%で約7万4,000棟まで下がります。
ただし、一括遮断のタイプは夜間の照明も落ちます。通電が必要な機器がある施設は、遮断範囲を選べる製品や非常用照明とあわせて検討しましょう。
参考1:都心南部直下地震の被害想定【定量的な被害量】|内閣府
利用者を動かさずに守る
多くの入所者が生活する施設では、全員を屋外へ避難させるだけでも大きな負担になります。厚生労働省のひな形も、被災時は順序正しく整列して避難できない前提で書かれており、車いすの方への対応を職員各自が理解しておくよう求めています。
現実的な選択肢は、屋外へ出さずに建物内の安全な場所へ移る方法です。ひな形では3階の多目的ホールや2階の談話室が避難場所として例示され、自力で避難できない利用者にはスロープを使う方法が挙げられています。
経路そのものを安全に保つ工夫も必要です。ガラス天井のように破損すると飛散する箇所や避難経路には飛散防止フィルムを貼っておくと、揺れの直後でも通路を確保できます。検討するときは、勤務者の少ない祝祭日や夜間、荒天の日を想定しましょう。
関連記事:地震が起きたらどこに逃げる?状況別の行動から高齢者の避難まで解説
職員が集まらない前提で体制を組む
平日の日中に発災して公共交通機関が止まった場合、東京都市圏では約840万人の帰宅困難者が想定されています。勤務中の職員は帰れず、休みの職員は施設へたどり着けません。
BCPは、出勤率に応じて優先業務を決める設計です。厚生労働省のひな形は、感染症BCPで作った業務分担を活用し、出勤できた人数ごとに続ける業務と休止する業務を分けるよう示しています。
職員が長時間勤務になる前提も必要です。ひな形は、職員が長期間帰宅できない状況に備えて休憩・宿泊場所の候補を決めておくよう促し、通所事業所を休止した場合はその場所も選択肢に挙げています。
勤務シフトの原則も先に決めましょう。最低週1日は休日とするなど、参集できた人数に応じて負担を配分する目安があると、現場は判断に迷わずに済むでしょう。
関連記事:介護事業所のBCP策定|優先業務の決め方3ステップを解説
首都直下型地震の危険地域でよくある質問
危険度のランクは、読み方を誤ると判断の前提までずれてしまいます。ランクが低いから安心だと受け取ったり、一度調べた結果がずっと有効だと考えたりするのは、よくある誤解です。
最後に、施設のBCP担当者から出やすい2つの疑問に回答します。
ランクが低い地域なら対策はしなくてよい?
ランクが低くても、対策を省ける根拠にはなりません。東京都の地域危険度は、町丁目どうしの危険量を順位で比較した相対評価にすぎないためです。
火災は自施設の敷地だけで完結しません。東京消防庁は、1件の建物火災が6時間後にどこまで燃え広がるかで延焼危険度を測っており、特別区で最も広い杉並区の平均延焼面積は約2万5,000平方メートルです。
神奈川県も地震防災マップの注意書きで、県内を同じ条件で相対評価しているためマップで示した以上の被害が出る可能性があると明記しています。ランクは優先順位をつける材料であり、対策の要否を決める線引きではないと理解しておきましょう。
参考1:地域の延焼危険度|東京消防庁
危険度のランクは見直される?
危険度のランクは、定期的に見直されます。東京都の調査はおおむね5年ごとに実施され、令和4年9月公表の第9回が現行版です。
第9回では、木造建物の全壊率に熊本地震の被害データを反映するなど、測定方法にも変更が入りました。中野区では、第8回で火災危険度ランク5だった4地区が、第9回ではいずれもランク5から外れました。
見落としやすいのは、相対評価ならではの動き方です。東京都は、安全性が向上していても、ほかの町丁目の改善がさらに大きければランクが危険な方向へ変わる場合があると注意を促しています。BCPの見直しは定期的に求められているため、調査の公表時期にあわせて結果を確認しましょう。
まとめ
首都直下型地震の危険地域は公的な指定ではなく、東京都が町丁目ごとに5段階で示す相対評価などを指します。東京都の施設は地域危険度一覧表と都の被害想定、埼玉・千葉・神奈川の施設は県の被害想定調査と市町村のハザードマップが調べる入口です。
調べた結果は、BCPの「リスクの把握」へ書き込んで実務につなげます。ハザードマップに震度を書き入れ、ライフラインの復旧日数から備蓄量を逆算すると、計画の前提が実際の数字に変わります。
まずは自施設の住所で危険度を確認し、火災対策から優先順位をつけて対策を進めましょう。
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2022年に防災士の資格を取得、企業に対してBCP対策の支援。
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