
BCPは義務化に合わせて用意したものの、防災研修で耳にしたLCP(生活継続計画)が何を指すのか、BCPと何が違うのか戸惑っていませんか?介護施設を災害から守るうえで、両者の関係を押さえておくと備えの抜けを防げます。
この記事では、LCPの意味とBCPとの違い、介護施設にLCPが必要な理由、そして策定の3ステップまでをまとめました。
読み進めれば、自分の施設でLCPをどう位置づけ、何から備えればよいかまで見通せるでしょう。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。
LCP(生活継続計画)とは
LCP(生活継続計画)は、地震や台風などの災害や感染症の広がりに備え、個人や家庭が普段の暮らしを続けられるようにする計画です。企業の事業を守るBCP(業務継続計画)を、個人や家庭の生活に当てはめた考え方です。
介護の現場でも耳にする場面が増えています。まずはLCPの意味と、注目される背景から見ていきます。
生活継続計画の考え方
LCPは、災害が起きても命と健康を守り、生活を止めないための備えを平常時から決めておく計画です。避難場所や避難経路、家族との連絡方法、水や食料の備蓄などを、前もって取り決めておきます。
大きな地震で電気や水道が止まっても、数日分の水や食料、簡易トイレがあれば在宅で過ごせるのが、この計画の強みです。連絡手段を家族と共有しておくと、離れていてもお互いの安否を確かめられます。
こうした個人や家庭単位の備えがLCPであり、もともとは企業のBCPを家庭に応用した考え方です。介護施設で働く職員にとっては、自分と家族の暮らしを守る計画が、そのまま職場を支える力になります。
LCPが広がった背景
LCPが注目される背景には、大きな地震や台風、感染症の広がりといったリスクの増加があります。行政の避難所には限りがあり、被災者全員を受け入れるのは難しいのが実情です。
そこで、自宅で安全に過ごす在宅避難の考え方が広がりました。避難所の混雑や感染のリスクを避けられる利点があり、行政も自宅の安全が確認できる場合に在宅避難を呼びかけています。在宅避難を成り立たせるには、各家庭が日ごろから水や食料を蓄えておく必要があります。
企業がBCPで事業を守るように、個人や家庭も暮らしを守る計画をもつ動きが、LCPとして定着してきました。災害時も働き続ける介護職員ほど、家庭の備えが出勤を支える土台になります。
LCPとBCPの違い
LCPとBCPは、どちらも災害に備える計画ですが、守る対象と作る人が違います。主な違いは、次のとおりです。
| 項目 | BCP | LCP |
|---|---|---|
| 守る対象 | 事業・サービス | 個人・家庭の生活 |
| 作る主体 | 施設・企業 | 個人・家庭 |
| おもな目的 | 事業の継続 | 暮らしの継続 |
両者は対立せず、お互いに支え合う関係にあります。ここでは、それぞれの計画が守る対象と、計画に取り組む主体の2つに分けて違いを整理します。
計画が守る対象
BCPが守るのは、企業や施設が続ける事業です。介護施設のBCPは、災害が起きても入所者への介護サービスを続けられる状態を目指します。食事や排せつ、服薬の介助など、命に直結する業務を止めない体制づくりが中心です。
一方でLCPが守るのは、個人や家庭の生活そのものです。命と健康を保ち、住まいや食事といった暮らしの土台を、災害後も維持できるように備えます。
同じ災害への備えでも、守る対象が事業か暮らしかで中身は別物です。介護施設では、事業を守るBCPと、職員や家族の生活を守るLCPの両方が必要になります。どちらか一方だけでは、災害時に守り切れない部分が残ります。
計画に取り組む主体
BCPを作る主体は、施設や企業などの組織です。介護施設なら、経営者や防災担当者が中心となり、施設全体の計画としてまとめます。
これに対してLCPを作る主体は、個人や家庭です。介護職員なら、自分の家庭に合わせて避難場所や備蓄、家族との連絡手段を整えます。家庭ごとに事情が異なるため、内容は世帯によって変わります。
組織は人員や拠点を分散させてリスクに備えられますが、個人や家庭では分散できる手段が限られるのが弱点です。だからこそ家庭のLCPは、自分たちで避難先や連絡方法まで決めておく必要があります。施設まかせにせず、各家庭が主体的に取り組む点がLCPの特徴です。
介護施設にLCPが必要な理由
介護施設では、災害が起きても入所者の生活を支え続ける役割を担います。その体制が成り立つのは、職員が出勤できてこそです。職員とその家族の生活を守るLCPは、施設の運営を支える土台になります。
ここでは、介護施設にLCPが必要な理由を3つの視点から見ていきます。
職員が出勤できず人手が不足するから
災害が起きると、介護施設では人手が足りなくなります。厚生労働省のガイドラインでは、人手不足を招く要因として次を挙げています。
- 建物や設備の損壊
- 社会インフラの停止
- 災害対応業務の増加
これらが重なると、普段の人員では介護が回らなくなります。とくに送迎や記録を後回しにしても、食事や排せつの介助は止められません。さらに職員自身が被災すれば、残った職員に負担が集中します。
夜間や休日など、もともと人数が少ない時間帯ほど影響は深刻です。職員が自分の身を守り、いち早く動ける備えがあれば、施設は最低限の人手を保てます。
職員それぞれのLCPは、災害時の人手を確保する支えになるでしょう。
職員の家族の安全が前提になるから
職員が出勤できるかどうかは、家族の安全に大きく左右されます。小さな子どもや高齢の親がいる職員なら、家族の避難を優先するのは自然です。家族が被災すれば、職員は看病や避難の対応に追われ、施設に向かえません。
厚生労働省のガイドラインでも、職員の安否確認では自分自身だけでなく、家族の安否と出勤の可否を報告するよう求めています。つまり家族の無事が、職員が働ける前提です。
家庭でLCPを整え、家族の避難先や連絡方法を決めておけば、職員は早く状況を把握できます。家族の備えは、職員の出勤を後押しする土台です。家族と職場の両方を備えると、災害時の初動が早まります。
利用者の生活継続に直結するから
介護施設の入所者は、自分の力だけで避難や生活の維持が難しい人が多くを占めています。だからこそ、災害時にも入所者の暮らしを止めない備えが必要です。
厚生労働省は、被災時でも入所者の生命と健康を守るため、食事や排せつ、服薬の介助を止められない重要業務と位置づけています。これらは、災害を理由に後回しにできません。
職員や家族のLCPで施設の人手を保つ取り組みが、入所者の生活を支える前提です。とくに医療的なケアが必要な入所者が多い施設では、この備えが暮らしを左右します。人手さえ確保できれば、食事や服薬など、命にかかわる介助を続けられます。
参考:介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン|厚生労働省
介護施設のLCPの作り方

介護施設のLCPは、ゼロから新しい書類を作る必要はありません。既存のBCPに、職員と家族の生活継続の視点を加える形で進めます。
想定する災害の整理から、備えの準備、BCPとの連携まで3つのステップに分けて見ていきます。
想定する災害と影響を整理する
最初のステップは、自分の施設で起こりうる災害と、その影響を整理する作業です。地域のハザードマップを使えば、地震や水害、土砂災害のうち、どのリスクが高いかを地図の上で確かめられます。
電気や水道、通信が止まったとき、施設の運営がどこまで続くかの見積もりも必要です。自家発電機や備蓄の量から、継続できる日数を割り出します。厚生労働省のガイドラインは、災害発生時の初動を次の順序で示しています。
- 利用者と職員の安全確保
- 建物や設備の被害点検
- 職員の参集
この初動を職員全員で共有しておくと、災害時に迷わず動けます。想定と影響を書き出す作業が、実効性のあるLCPの出発点です。優先して守る業務も、この段階で見えてきます。
関連記事:介護施設における自然災害BCPの重要性と作成のポイントを解説
職員と家族の備えを固める
2つ目のステップは、職員と家族が自分の身を守る備えを固める作業です。まず家庭に、最低3日分、できれば1週間分の水や食料を蓄えておきましょう。
家庭でそろえておきたい備えは、次のとおりです。
- 飲料水と非常食(3日分)
- 簡易トイレ
- 懐中電灯とラジオ
- 携帯電話の予備電源
また、災害時に施設へ安否を伝える手段も決めておきます。災害用伝言ダイヤルやSNS、施設の安否確認システムなど、通信が混み合っても連絡がつく方法を複数もっておくと安心です。
安全確保や安否確認の手順、連絡先は、携帯用カードにまとめて職員にもたせると効果的です。備えが整うほど、職員は落ち着いて出勤の可否を判断できます。停電に備えて非常用電源を確保すれば、施設の照明や医療機器も動かせます。
施設のBCPと連携させる
3つ目のステップは、家庭のLCPを施設のBCPと連携させる作業です。職員それぞれの出勤の見込みは、BCPの人員計画を作る土台です。だれが早く駆けつけられるかを把握すれば、初動の役割分担も組み立てられます。
厚生労働省のガイドラインでは、災害時に優先する業務を選び、最低限必要な人数も検討しておくよう勧めています。食事や排せつといった、命にかかわる業務は限られた人手でも止められません。
家庭のLCPで職員の出勤率が上がれば、この重要業務にも人を割けます。年に複数回の訓練で、職員の参集からサービス継続までを通して確かめておきましょう。訓練で見つかった弱点は、その都度BCPに反映します。
関連記事:介護事業所のBCP策定|優先業務の決め方3ステップを解説
介護施設のLCPでよくある質問
介護施設でLCPに取り組むとき、義務なのか、規模による違いはあるのかなど、疑問が出てきます。
最後に、担当者からよく寄せられる質問にお答えします。
LCPの策定は義務ですか?
LCP(生活継続計画)そのものは、法律で義務づけられた計画ではありません。一方で、業務継続計画にあたるBCPは、2024年4月からすべての介護サービス事業者で策定が義務づけられています。
BCPには、職員や利用者の安全確保、家族との連絡、優先業務の選定などが含まれます。厚生労働省がひな形も公開しているため、それを土台に自施設向けへ整えられます。ここに職員や家族の生活継続の視点を加えた備えが、介護施設のLCPです。
つまりLCPは、義務であるBCPをより実効的にするための取り組みです。まずは義務であるBCPを土台に、生活継続の備えを重ねていきましょう。
関連記事:義務化される介護施設でのBCP対策とは?罰則や策定のメリットを解説
小規模な事業所でも必要ですか?
小規模な事業所でも、BCPの策定が必要です。BCPの義務化は、事業所の規模を問わず、すべての介護サービス事業者が対象です。
むしろ職員数が少ない事業所ほど、災害時に受ける影響は大きくなります。訪問介護のように職員が個々に動くサービスでは、1人の欠員がそのまま利用者への支援の穴になります。夜勤者が1人の施設では、その職員が出られないと業務が回りません。
だからこそ、小規模な事業所でも職員と家族のLCPが大きな支えです。少ない人数を確実に確保する備えが、事業所を守る力になります。職員が安心して働ける環境は、利用者への支援を止めない基盤にもなるでしょう。
BCPと別に作る必要はある?
いいえ、BCPとは別に、独立した書類を新たに作る必要はありません。BCPの策定が義務である一方、LCPの別文書の作成までは求められていません。介護施設のLCPは、既存のBCPに職員と家族の生活継続の視点を組み込む形で十分です。
厚生労働省のBCPには、もともと職員の安否確認や家族の状況、出勤可否の把握が含まれています。この部分を丁寧に整えると、LCPの役割をBCPの中で果たせます。あらためて別の計画書を作る負担もかかりません。
別々に管理する方法は、更新の手間が二重になり非効率です。BCPと一体で運用し、職員と家族の備えを書き加える方法が現実的でしょう。
まとめ
LCP(生活継続計画)は、災害時にも個人や家庭が暮らしを続けるための計画です。企業や施設の事業を守るBCPとは、守る対象も作る主体も異なりますが、両者は支え合う関係にあります。介護施設では、職員と家族、そして利用者の生活継続が、BCPによる事業継続を支えます。
まずは、すでにあるBCPを開いて、職員の安否確認や家族の状況、出勤可否の項目を確かめましょう。そのうえで、家庭の備蓄や連絡手段、非常用電源といったLCPの視点を書き加えていきます。
災害時に介護を止めないのは、特別な設備よりも、働く人とその家族が無事でいられる備えです。BCPと一体でLCPを整え、職員全員で災害に強い体制を作っていきましょう。
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2022年に防災士の資格を取得、企業に対してBCP対策の支援。
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