
介護施設でBCPの感染症対策に関する研修を任されたものの、何を話し、どこまで実施すれば義務を満たせるのかわからず戸惑っていませんか?自力で避難できない利用者が多い施設では、有事への備えが大きな課題です。
この記事では、感染症BCP研修で扱う4つの項目と机上訓練の進め方を中心に、研修と訓練の違いや、実施の頻度・記録・減算のルールまでを解説します。
読み進めれば、自施設に合った研修プログラムの組み立て方や、机上訓練の準備までの見通しが立つでしょう。
※本記事は2026年7月時点の情報をもとに作成しています。
感染症BCP研修とは
感染症BCP研修は、介護施設で作成した感染症編のBCP(業務継続計画)を職員に周知し、有事にすぐ動けるようにするための研修です。計画を作っただけでは、実際に感染症が広がったときにうまく動けません。
まずは研修と訓練の違い、感染症BCPと自然災害BCPの違いから整理していきます。
研修と訓練の違い
研修と訓練は、目的も進め方も異なります。研修は、BCPに書かれた内容を職員間で共有し、平常時の備えや緊急時の動きを理解してもらう場です。
一方の訓練は、BCPに沿って実際に頭や体を動かし、役割分担やケアの手順を確かめる実践です。訓練には、会議室などで手順を確認する机上訓練と、実際に動いてみる実地訓練があります。
感染疑い者が出た場面を想定し、誰が第一報を上げ、誰が居室を分けるのかを声に出して確認するのが机上訓練です。研修で知識を入れ、訓練で動きを身につけると、有事の初動が早くなります。研修と訓練はどちらもBCPの義務に含まれるため、片方だけでは要件を満たせません。
感染症BCPと自然災害BCPの違い
感染症BCPと自然災害BCPは、備える危機の種類が違います。感染症BCPは新型コロナウイルスやインフルエンザなど、目に見えない病原体の広がりに備えます。
自然災害BCPは地震や台風、水害など、建物や設備への被害を想定した計画です。どちらも介護サービスを止めないための計画ですが、備えるリスクが違うため、中身も分けて作ります。
厚生労働省のひな形でも、感染症編は総則から感染拡大防止までの流れ、自然災害編は被災からの復旧を軸にした流れと、章立てが分かれています。感染症と自然災害はどちらもBCPの策定が義務のため、片方だけでなく両方を用意しておきましょう。
関連記事:介護施設における感染症BCP策定のポイントと対策を解説
感染症BCP研修で扱う4つの項目
感染症BCP研修では、感染症編のBCPに書かれた内容を項目ごとに確認します。特別養護老人ホームや老健などの入所系施設では、ひな形が大きく4つの項目に分かれています。デイサービスなどの通所系・訪問系の場合は、これに休業の検討が加わり5項目です。
ここからは、入所系を基準に、総則から感染拡大防止体制の確立までの4項目を順に見ていきましょう。
①総則(基本方針と体制)
総則は、BCP全体の土台となる項目です。ここでは、計画の目的や基本方針、進行体制を定め、どんな方針で感染症に備えるのかを研修で職員と共有します。
厚生労働省のひな形の基本方針は、次の3点です。
- 利用者の安全確保
- サービスの継続
- 職員の安全確保
計画の主管部門は、多くの施設で感染症対策委員会が担います。総則は、後に続く平常時や初動の対応が何のためにあるのかを示す、計画の出発点です。研修の冒頭で自施設の方針を共有しておけば、その後の各項目の説明も職員にすっと届きます。方針が定まっていれば、個々の対応にも一貫性が生まれます。
参考:業務継続計画(BCP)感染症編(介護サービス類型:入所系)|厚生労働省
業務継続計画(BCP)感染症編(介護サービス類型:通所系)|厚生労働省
関連記事:特別養護老人ホーム(特養)のBCP作成に必要なポイントとは?
②平常時の対応
平常時の対応は、感染症が起きていない普段のうちに備えておく項目です。有事の動きは、日頃の準備でほぼ決まります。
この項目では、感染対策の体制づくりや、手洗い・手指消毒といった感染防止の取り組みを定めます。マスクや消毒液などの備蓄品の確保、職員への研修・訓練、計画の見直しも、この項目の一部です。
研修でこの項目を扱うときは、備蓄がどこに何日分あるか、体調不良者が出たら誰に報告するのかまで確認しておきましょう。書類を読み上げるだけでなく、実際の備蓄場所や連絡先を見ながら進めると、職員の記憶に残ります。普段の備えが整っているほど、実際に感染者が出たときの初動が早くなるでしょう。
③初動対応
初動対応は、感染が疑われる人が出た直後の動きを定める項目です。最初の対応が遅れると、施設内で感染が一気に広がるおそれがあります。
ここでは、発見した職員がまず誰に第一報を上げるのか、感染疑いのある利用者にどう対応するのか決めておきます。居室の分け方や消毒・清掃の手順、検査につなぐ流れも初動対応の中身です。
研修では、感染疑い者の発生から感染拡大の防止までを、情報の流れに沿って一つずつ追います。誰が第一報を上げ、どこで居室を分け、いつ検査につなぐのかを順に確認すると、職員が自分の役割を把握できます。夜勤帯など人手が少ない時間は動ける職員も限られるため、その時間帯を想定した動きもあわせて確認しておきましょう。
④感染拡大防止体制の確立
感染拡大防止体制の確立は、感染者が出たあとに被害を最小限へ抑えるための項目です。ひとりの感染で施設全体が止まらないよう、業務を続ける体制を整えます。
この段階では、保健所との連携や濃厚接触者への対応、出勤できない職員が増えたときの人員確保などを定めます。情報共有の方法や、職員の過重労働・メンタルヘルスへの配慮も、この項目の一部です。
デイサービスなどの通所系・訪問系では、この前に休業の検討が項目として加わります。サービスをいったん休むかどうかを判断する必要があるためで、入所系にこの項目はありません。研修では、自施設の類型に合わせて扱う項目を選びましょう。
感染症BCP研修の机上訓練のやり方
研修で内容を共有したら、机上訓練でその内容を実際に動かしてみます。机上訓練は、会議室などで感染発生の場面を想定し、BCPどおりに動けるかを話し合いながら確かめる方法です。
実際に体を動かす実地訓練と組み合わせると、より実践的な備えになります。ここでは、机上訓練を進める3つのステップを見ていきましょう。
シナリオを設定する
机上訓練は、まず想定するシナリオを決めるところから始めます。ポイントは、実際に起こりそうな場面を選ぶ点です。
たとえば、日勤帯にひとりの利用者が発熱し、感染が疑われた場面を設定します。発熱の程度や、検査結果が出るまでにかかる時間まで決めておくと効果的です。BCPに添付された対応フローチャートを手元に置くと、確認すべき手順の抜けを防げます。
季節性のインフルエンザやノロウイルス、新型コロナウイルスなど、自施設で発生しうる感染症を題材に選びましょう。夜勤帯や職員が手薄な状況をあえて想定すると、弱点が見つかります。まずは1つの場面にしぼり、動きを細かく追いましょう。
関連記事:火災訓練のシナリオ例と作り方の7ステップを解説【介護施設編】
時系列で対応を確認する
シナリオを決めたら、時間の流れに沿って対応を確認します。感染疑い者の発見から第一報、居室の分離、検査を経て、感染拡大防止までを順番にたどります。
各段階で、誰が何をするのかを声に出して確認するのがポイントです。第一報の場面では、発見した職員が管理者に連絡し、管理者が感染症対策委員会へ共有するといった役割を1つずつ確かめます。
この進め方だと、担当が決まっていない業務や、連絡が滞る箇所が浮かび上がります。BCPに書かれた手順と、実際に動けるかどうかのズレを見つけるのが机上訓練の狙いです。気づいた点は、その場でメモに残しておきましょう。
関連記事:介護事業におけるBCPの机上訓練|目的から進め方まで解説
課題を洗い出してBCPに反映する
机上訓練は、実施して終わりではありません。訓練で見つかった課題を整理し、BCP本体へ反映するところまでが1つの流れです。
たとえば、備蓄品の置き場所が職員に伝わっていない、夜勤帯の緊急連絡先が古いままといった気づきが出てきます。こうした課題を、ひな形の平常時の対応にある計画の見直しに沿ってBCP本体へ書き足す作業までが、机上訓練の一部です。
書き直した内容は、次の研修で職員へ共有すると現場に根づきます。ここまでを1年のサイクルとして回すのが、BCP運用の基本の形です。研修・訓練・見直しを毎年重ねるほど、有事に迷わず動ける体制へと近づいていくでしょう。
感染症BCP研修の実施ルール

感染症BCP研修は、実施すればよいだけでなく、回数や記録などのルールが決められています。ルールを外すと、義務を果たしたと認められない場合があります。特に2024年度からは、未実施が減算につながる点にも注意が必要です。
ここでは、研修と訓練の頻度、記録の残し方、減算のリスクを順に確認していきます。
研修と訓練の頻度
BCPに基づく研修と訓練は、どちらも定期的な実施が義務づけられています。回数はサービスの類型によって異なり、特別養護老人ホームや老健などの入所系は年2回以上、通所系や訪問系は年1回以上が必要です。
| 類型 | 研修 | 訓練 |
|---|---|---|
| 入所系 | 年2回以上 | 年2回以上 |
| 通所系・訪問系 | 年1回以上 | 年1回以上 |
いずれの類型でも、新しく採用した職員がいる場合は、その都度研修を実施します。この頻度はBCPに関する研修・訓練のもので、従来からある感染症の予防・まん延防止のための研修・訓練とは別に数えます。
感染症対策の研修・訓練を年2回やっていても、BCPの分は別に必要です。両方の年間計画を早めに立てておきましょう。
関連記事:介護施設の内部研修は義務?法定研修の必須項目から年間計画の立案まで解説
研修記録の残し方
研修や訓練は、実施した内容を記録に残すのも義務の1つです。記録がないと、運営指導のときに実施を証明できません。
残しておきたい項目は、次のとおりです。
- 実施した日時
- 研修・訓練の別
- テーマや内容
- 参加した職員名
感染症と自然災害の研修をまとめて開く場合は、どこが感染症でどこが災害の内容かを記録上で分けておきます。研修と訓練を続けて実施するときも、それぞれの時間を分けて書いておくと安心です。
作成した記録は、運営指導で提示できるよう決まった場所にまとめて保管します。書式は自由なので、自施設で無理なく続けられる様式を決めておきましょう。
未実施による減算リスク
BCPの策定や研修・訓練を実施していないと、介護報酬が減算される場合があります。この業務継続計画未策定減算は、2024年度の介護報酬改定で新しく設けられた仕組みです。
減算の割合は、施設・居住系のサービスで所定単位数の3%、その他のサービスで1%とされています。2025年4月には経過措置も終わり、対象となるほとんどのサービスに適用されています。
運営指導で未実施が見つかると、基準を満たさなくなった時点までさかのぼって減算される扱いです。減算だけでなく、感染症から職員や利用者を守れなかったときの責任も問われます。減算を避けるためではなく、現場を守るために研修と訓練を続けましょう。
関連記事:義務化される介護施設でのBCP対策とは?罰則や策定のメリットを解説
感染症BCP研修でよくある質問
感染症BCP研修を準備すると、ほかの研修との関係や実施方法で迷う場面が出てきます。制度に関わる部分は、思い込みで進めず1つずつ確認しておくと安心です。
最後に、研修の担当者から質問が多い2つの疑問にお答えします。
感染症対策研修と一体で実施できる?
感染症BCPに関する研修・訓練は、従来からある感染症の予防・まん延防止のための研修・訓練と一体で実施できます。テーマが近く、集まる職員も重なるため、まとめて開くと現場の負担を減らせます。
ただし、一体で開く場合は記録の残し方に注意が必要です。どこがBCPに関する内容で、どこが感染症対策の内容かを記録上で分けておきましょう。研修の部分と訓練の部分も、それぞれの時間を区切って記録します。
まとめて実施しても、両方の要件を満たしたと説明できる記録があれば問題ありません。1回の開催で複数の義務をこなせるため、年間計画を立てるときに組み合わせを検討しておきましょう。
オンライン研修でも義務を満たせる?
研修そのものは、オンラインやeラーニングを取り入れる形でも実施できます。厚生労働省も研修用の動画を公開しており、集合が難しい場合の学習手段として活用できます。
一方で訓練は、机上での確認と実際に動く実地の訓練を組み合わせるのが基本です。画面越しのやり取りだけでは、現場での動きまでは確かめきれません。オンラインは知識を学ぶ研修、実地は体で覚える訓練と、目的で使い分けると効果的です。
どの方法をとる場合も、実施した内容は記録に残しておきましょう。オンラインだけで義務を満たせるかは自治体の運用でも差があるため、迷うときは指定権者へ確認しておくと安心です。
まとめ
感染症BCP研修は、感染症編のBCPに書かれた4つの項目を職員と共有し、机上訓練でその動きを確かめる取り組みです。総則から感染拡大防止までの流れを押さえ、研修と訓練を必要な回数だけ実施して記録に残せば、義務を満たしながら現場の対応力を高められます。
まずは、厚生労働省が公開しているひな形と研修動画を用意し、自施設の類型に合った項目を確認しましょう。そのうえで、感染疑いのある利用者の発生を想定した机上訓練のシナリオを1つ作り、年間の研修計画に組み込むところから始めます。
研修と訓練は、減算を避けるためだけの作業ではありません。いざ感染症が起きたときに、職員が迷わず利用者を守れる体制づくりそのものです。毎年の研修と訓練、見直しを積み重ね、現場で本当に使えるBCPへ育てていきましょう。
防災⼠の詳細はこちら
2022年に防災士の資格を取得、企業に対してBCP対策の支援。
関連記事
-
介護BCP
2026/08/26
BCP訓練の事例5選|夜勤帯・少人数体制の進め方や記録の…
ifny運営スタッフ
-
介護施設
2026/08/12
看取りケアプランの書き方|手順・文例から加算要件まで解説
ifny運営スタッフ
-
介護施設
2026/08/03
介護のヒヤリハット事例集|状況別の実例から報告書・対策ま…
ifny運営スタッフ
-
介護施設
2026/07/22
介護施設の食中毒勉強会で使える資料|原因から予防・対応ま…
ifny運営スタッフ
-
介護BCP
2026/07/10
介護施設のLCP(生活継続計画)とは|BCPとの違いから…
ifny運営スタッフ
-
介護BCP
2026/07/01
感染症BCP研修は何をする?4つの項目と机上訓練のやり方…
ifny運営スタッフ


