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2023/07/31

介護施設のBCP策定ポイント〜2024年義務化へ向けて

西條 徹

西條 徹

2024年4月より、介護施設でもBCP策定が完全に義務化されます。しかし「そもそもBCPが何かわからない」と感じている、施設長や管理職の方も多いのではないでしょうか?

BCPは事業継続計画とも呼ばれ、緊急事態でも中核事業を継続するための計画のことです。

本記事では介護施設におけるBCPの概要について、策定する際のポイントやメリット、活用できる補助金・助成金情報などと一緒にご紹介します。

この記事を読むとBCPのアウトラインを理解し、策定作業へスムーズに移れます。

BCPとは

冒頭でも述べたように、BCPとは事業継続計画のことです。以下で概要やBCMとの違い、策定の意義・必要性について見ていきましょう。

BCP(事業継続計画)の概要

BCP(事業継続計画)は、自然災害やテロ、感染症といった緊急事態が発生した際も、企業や組織が中核となる事業を継続・早期復旧するためのものです。特に中小企業は経営基盤が脆弱なため、状況によっては倒産・廃業に追い込まれるかもしれません。

あらかじめ緊急事態を想定した各種の方法・手段を考えておくことで、有効な手を打てます。

参考:中小企業庁『BCP(事業継続計画)とは

BCMとBCPの違いとは

よく似た名称にBCMがありますが、BCPとは似て非なるものです。BCMは『事業継続マネジメント』と呼ばれ、事業継続計画の策定・導入・運用・見直しなど、包括的・統合的な管理のことです。

つまり、事業継続の計画自体を指すBCPを活用し、企業内・組織内で戦略的に進めていくためのマネジメントといえるでしょう。

BCP策定の意義と必要性

BCPは企業や工場、医療機関など業種を問わないさまざまな場所で求められています。策定の意義・必要性として、以下のようなものが挙げられるでしょう。

  • できるだけ事業を継続し、倒産や廃業を防ぐ
  • 従業員や顧客、取引先を守る
  • 緊急対応のスピードと正確性を上げる

2019年に発生した新型コロナウイルスでは、世界中の人々や企業・組織が大きな被害を受けました。また日本では南海トラフ地震が、今後30年以内に7割~8割の確率で発生するといわれています。

いつ起きるかわからない緊急事態を乗り越えるために、BCP策定の意義と必要性があるといえるでしょう。

参考:国土交通省『巨大地震のリスク

BCP義務化の背景とその詳細

冒頭でも述べたように、2024年4月より介護施設にてBCP策定が完全に義務化されます。

義務化へ至った背景と、その詳細は次の通りです。

介護施設のBCP義務化のタイムライン

新型コロナウイルスや多くの自然災害を踏まえ、2021年の介護報酬改定で介護施設におけるBCPが義務化されました。介護施設で各種のサービス提供が遮断されると、サポートを必要とする利用者の身体・生命へ大きな影響を与えるためです。

2021年から3年間は経過措置期間ですが、2024年4月以降は策定が義務化されます。

参考:WAM NET『BCP(業務継続計画)

義務化による影響と対応策

BCP策定には現状確認や分析、検討といったやるべきことが多く、通常業務で忙しい介護施設にとっては大きな負担と感じるかもしれません。

まずは人的資源や施設の備蓄、必要なデータのバックアップなど、それぞれの現状を確認してみましょう。状況確認がBCP策定の第一歩です。そして、取り組みやすいものから取り組んでいきましょう。

また厚生労働省のほか、自治体によっては介護施設に特化したBCP作成ツールを公開しています。テンプレートに沿って項目を埋めていくと、上手に策定できるでしょう。

BCP未策定・未運用時のリスク

もしBCPを策定していなかったり、策定しても運用していなかったりすると、どのようなリスクが生じるのでしょうか?たとえば、以下のようなリスクが想定されます。

  • 介護報酬の減算
  • 賠償責任を負う可能性
  • 社会的責任を追及される可能性

2021年度の介護報酬改定では、0.7%の介護報酬アップが記されています。しかし、0.05%分は感染症対策への評価のため、その分の介護報酬が減算となってしまうでしょう。

またBCP未策定・未運用時に、利用者やスタッフに身体・生命の危害が加わった場合は、賠償責任に問われるかもしれません。さらに社会的な責任を追及される可能性も考えられます。

参考:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定の主な事項について

介護施設のBCP策定ポイント

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これから介護施設でBCPを策定するときは、いくつか知っておきたいポイントがあります。以下で紹介する3つのポイントを理解しておくと、スムーズに策定作業に移れるでしょう。

他業種と介護施設のBCPの違い

BCP策定に関する他業種と介護施設との最も大きな違いが、介護施設では利用者の生命の危険へ直接的に影響することです。ライフラインが途絶え、また介護をするスタッフが不足すると、サポートが必要な利用者は最低限の生活さえ送れません。

利用者が生活するうえで欠かせないサービスであり、他業種と比べて事業継続の責任が重いといえます。

介護施設における自然災害・感染症対策

BCP策定では、大きく自然災害対策と感染症対策の2つの面を軸とします。

自然災害が発生した場合は、停電によって医療機器が使用できなくなるほか、スムーズに避難できない可能性があります。またインフルエンザや新型コロナウイルスといった感染症がまん延すると、高齢者や持病がある利用者は重症化のリスクが高まるでしょう。

自然災害対策と感染症対策のBCPにおいて、厚生労働省は以下の6つの内容を盛り込むように示しています。

自然災害対策

  • 平常時の対応(建物や設備の安全対策、ライフラインが停止した際の対策、必要品の備蓄など)
  • 緊急時の対応(BCP発動のタイミング、体制など)
  • 他施設や地域との連携

感染症対策

  • 平時からの備え(体制構築や整備、感染症防止に向けた取組、備蓄品の確保など)
  • 初動対応
  • 感染症拡大防止体制の確立(濃厚接触者への対応、関係者との情報共有、保健所との連携など)

自然災害対策と感染症対策は、一体的に策定しても構いません。

参考:厚生労働省『解釈通知

介護施設向けBCPひな形の活用方法

厚生労働省が公開しているBCPひな形を活用すると、スムーズに策定作業が進みます。

まずは総論に目を通して全体像をつかみましょう。その後に感染症ひな形(入所系)や感染症ひな形(通所系)といった必要な資料をダウンロードし、それぞれの状況に合わせて詳細を記入していきます。

参考:厚生労働省『介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修

BCP策定のメリットと補助金・助成金の活用

BCP策定にはメリットがあり、またいくつかの補助金・助成金を活用できます。

BCP策定がもたらすメリット

BCPの策定によって、次のようなメリットが生まれるでしょう。

  • 必要なサービスを早期に復旧できる
  • 利用者やその家族からの信頼が高まる

あらかじめ緊急事態を想定した対処法を計画しておくことで、利用者にとって必要なサービスが遮断されても、早期の復旧が期待できます。

また常に安定したサービス提供を通じて、利用者やその家族からの信頼が高まるのも大きなメリットです。

介護施設のBCP|補助金・助成金の種類と活用方法

介護施設のBCP対策では、内容によっては大きな出費が必要です。BCP実践においては、主に以下のような設備の整備や物品購入に関する補助金・助成金を活用できます。

  • BCP実践促進助成金(東京都)
  • 事業所における備蓄物資購入の費用助成(東京都千代田区)
  • 中小企業等BCP策定等支援補助金(静岡県焼津市)

これらの補助金・助成金は自治体によって内容や対象者が異なるため、活用を検討する際は事前に問い合わせましょう。

BCP策定による税制優遇の詳細

経済産業大臣が定める項目をBCPに盛り込んで認定を受けると、税制上の優遇措置を受けられます。

自家発電設備や排水ポンプ、防火シャッターなどの設備に、最大で20%の特別償却が適用されます。

参考:中小機構『税制活用により4,000万円の費用を上乗せ、導入初年度の納税額を大幅軽減!

介護施設のBCP策定ポイント【まとめ】

BCPとは企業や組織が災害や緊急事態に備え、事業を継続・早期復旧するための計画のことです。介護施設では、2024年4月より完全に義務化されます。

自然災害対策と感染症対策の2つの面を軸とし、利用者の身体・生命の保護を最優先とした計画が求められます。

今回紹介したポイントを参考にしながら、策定作業を進めていきましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。