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2026/04/03

【訪問介護】クレーム事例5選と正しい対応手順を解説

西條 徹

西條 徹

【訪問介護】クレーム事例5選と正しい対応手順を解説

「ヘルパーの対応が雑だ」とご家族からクレームが入り、どう対応すればよいか迷った経験はありませんか?訪問介護の現場では利用者やご家族からさまざまな不満が寄せられますが、正しい対応手順を知らないまま対処すると問題がさらに長引いてしまいます。

この記事では、訪問介護のクレーム事例で特に多い5つのパターンを紹介し、クレームを受けたときの正しい対応手順をステップごとに解説します。

記事を読み終える頃には代表的なクレームへの対応策がわかり、クレームを受けた際も慌てずに対処できる自信がつくでしょう。

訪問介護のクレームに関する基礎知識

利用者やご家族からのクレームに正しく向き合うには「クレーム」と「苦情」の違いや、事業所として整備すべき体制を理解しておく必要があります。

ここでは、訪問介護のクレーム対応の土台となる基礎知識を解説します。

訪問介護で知っておきたいクレームと苦情の違い

「クレーム」とは、提供されたサービスが期待を下回ったときに返金や損害賠償といった実質的な補償を求める訴えです。契約内容との差異が根拠となるため、事実確認と記録にもとづく対応が求められます。

「苦情」は、職員の言葉遣いや態度に対して抱く心理的な不満がきっかけです。「もっと丁寧に接してほしい」のように、サービスの質向上を求める建設的な要求が多い傾向にあります。

どちらも利用者の満たされていない欲求を訴えている点では変わりません。相手が求めているのは補償なのか気持ちの埋め合わせなのかを見極めて対応しましょう。

介護事業所に求められる苦情相談窓口の設置義務

運営基準省令により、訪問介護事業所には苦情相談窓口の設置と迅速な対応体制の整備が義務づけられています。利用開始時には苦情処理の体制や手順の概要のほか、市区町村や国保連の窓口も重要事項説明書で説明しなければなりません。

事業所内では施設長などを「苦情解決責任者」として配置し、組織的な苦情解決体制を築く対応も求められます。外部の「第三者委員」を選任して客観性を確保する取り組みも推奨されているため、導入を検討してみましょう。

窓口の情報が利用者やご家族に伝わっていないと、不満が外部機関へ直接寄せられる場合もあります。掲示やパンフレットを活用して、日頃から周知を徹底しましょう。

参考:社会福祉事業の経営者による福祉サービスに関する苦情解決の仕組みの指針について|厚生労働省

訪問介護の現場で多いクレーム事例5選

訪問介護の現場ではサービスの質に関する不満や接遇マナーへの苦情、制度の理解不足による要求トラブルなど、さまざまなクレームが寄せられます。対応を誤ると利用者やご家族との信頼関係に影響するため、よくある事例を事前に把握しておきましょう。

ここからは、現場で特に発生頻度の高い5つのクレーム事例を見ていきます。

ヘルパーの介護技術やサービスの質への不満

訪問介護へのクレームで最も多いのが、介護技術やサービスの質に対する不満です。生活援助では家事の仕上がり、身体介護では介助の丁寧さが問われる場面が多く、以下のような声が寄せられます。

  • 掃除が行き届いていない
  • 料理の味つけや仕上がりへの不満
  • オムツ交換や入浴介助が雑
  • 服を着せるときの痛みや不快感
  • ゴミや汚れ物を放置したまま帰宅

これらは個人の力量や経験不足が原因となる場合が多く、放置するとサービス全体への不信感につながります。ヘルパーごとの課題を把握したうえで、個別の技術指導や同行訪問、定期的な研修で介護技術の底上げを図りましょう。

関連記事:訪問介護におけるサービス提供時間の考え方|2時間ルールや提供時間の効率化も解説

ヘルパーの言葉遣いや接し方への苦情・不満

ヘルパーの接遇マナーや態度に対するクレームは、利用者の尊厳に関わる問題です。乱暴な言葉遣いや見下した態度、無視されていると感じる冷たい対応などが代表的な原因として挙げられます。

親しみを込めたつもりの言葉が「馴れ馴れしい」と不快に受け取られたり、忙しさから無愛想に見えたりする場合もあるでしょう。服装やネイルなど介護職にふさわしくない身だしなみへの指摘がクレームにつながるケースもあります。

利用者の自宅はプライベートな空間であるため、ヘルパーの振る舞いは信頼関係に直結します。態度や言葉遣いの改善には、接遇研修やロールプレイングを定期的に取り入れましょう。

契約範囲を超えたサービスの要求や無理な依頼

介護保険制度のルールを十分に理解していない利用者やご家族から、制度外のサービスを求められる場面は少なくありません。対応を断った結果クレームに発展するケースもあります。

実際に寄せられる要望は、以下のとおりです。

  • エアコンの分解掃除
  • 庭の草むしり
  • 同居家族分の食事作り
  • 嗜好品の買い物代行
  • 預貯金の引き出し代行

これらは介護保険の対象外であるため、ヘルパーの判断で引き受けるのは認められていません。断る際は契約時の説明を振り返りながら、自費サービスやほかの制度の利用を代替案として提案しましょう。

訪問中に発生する物品の紛失・破損トラブル

利用者の自宅でサービスを提供する訪問介護では、家財や物品に関するトラブルが発生する場面が多い傾向にあります。陶器の置物を落として割ってしまったり、洗濯物を縮ませてしまったりといった破損のクレームが代表的です。

「日用品がなくなった」「現金が盗まれた」のように紛失や窃盗を疑われるケースもあるでしょう。実際にヘルパーによる窃盗事件もあるため事実確認は慎重に進める必要がありますが、認知症の「物盗られ妄想」が原因の場合も少なくありません。

物盗られ妄想が疑われるときは頭ごなしに否定せず、一緒に探す姿勢を見せましょう。ご本人の見える範囲でサービスを提供するなど、事前に対策しておくと安心です。

介護サービス中の転倒や事故による怪我のクレーム

サービス提供中の転倒による骨折や誤嚥・誤薬といった重大事故は、賠償問題にも発展する深刻なクレームです。高齢者は足腰や嚥下機能が衰えているため、小さな不注意が大きな事故に直結します。

事業所には危険を予見し回避する「安全配慮義務」があり、過失が認められれば賠償責任を免れません。治療費や慰謝料を請求される可能性も視野に入れておく必要があります。

事故発生時は救護措置を最優先としたうえで、ご家族・行政・ケアマネジャーへ速やかに報告しましょう。初期対応の遅れは不信感を招き裁判に発展するリスクを高めるため、誠意ある対応を心がけましょう。

訪問介護でクレームを受けたときの対応手順

訪問介護でクレームを受けたときの対応手順

クレーム発生時に場当たり的な対応をすると問題が長引き、利用者やご家族との信頼関係を損ねる恐れがあります。あらかじめ手順を頭に入れておけば、冷静に対処できるでしょう。

以下の5つのステップに沿って、正しい対応の流れを確認していきましょう。

利用者や家族の話を最後までしっかり傾聴する

クレームを受けたら、まず相手の話を途中で遮らず最後まで聴く「傾聴」の姿勢に徹しましょう。言い訳や反論はせず、相手が何に怒り何を求めているのかを正確に把握します。

「はい」「そうですよね」のように適度な相槌やクッション言葉を挟むと、相手の安心感につながります。背筋を伸ばし表情をやわらかく保つなど、聴く姿勢や態度にも気を配りましょう。

傾聴の場で意識したいのは、相手の感情に寄り添いながら事実を正確に受け取る姿勢です。ここで丁寧に耳を傾けられるかどうかが、そのあとの対応をスムーズに進められるかを左右します。

不快な思いをさせた点を丁寧に謝罪する

事実関係がまだはっきりしない段階であっても、相手に「不快な思いをさせた」点に対してまず謝罪しましょう。「ご不快な思いをさせてしまい申し訳ございません」のように感情に寄り添う言葉を伝えます。

この段階での謝罪はこちらの非を全面的に認めるものではなく、あくまで相手の怒りや不安を和らげるためのステップです。事実確認が済んでいない段階で責任を認める発言は、避けなければなりません。

逆に、その場しのぎで適当に謝る対応も、あとからトラブルを大きくする原因になります。感情への共感と事実の切り分けを意識しながら、誠実な姿勢で臨みましょう。

クレームの事実関係を記録し責任者へ速やかに報告する

相手の訴えをひととおり聴き終えたら、思い込みを排除して客観的な事実確認を進めます。以下の要素を「苦情受付票」などの所定のフォーマットに記録しましょう。

  • いつ発生したか(日時)
  • どこで発生したか(場所)
  • 誰が関わっていたか(人物)
  • 何が起きたか(内容)
  • どのような状況だったか(背景)

記録の作成は省令でも義務づけられており、担当ヘルパーからの聞き取りや介護記録の精査もあわせて調査します。受けた苦情は個人の判断で抱え込まず、サービス提供責任者や管理者へ速やかに報告して組織全体で対応する体制をとりましょう。

関連記事:訪問介護記録の正しい書き方は?例文と基本の記載ポイントを解説

原因を分析したうえで改善策を利用者に伝える

事実調査の結果、事業所側に非があった場合は責任者が利用者宅へ出向き、言い訳をせずに改めて謝罪しましょう。そのうえで問題が起きた原因を丁寧に説明し、再発を防ぐための改善策や代替案を提示します。

実現できない約束は信頼を損ねるため、誠実に対応できる範囲で最善策を提案するのが基本です。利用者やご家族が納得できるよう、十分な話し合いの場を設けましょう。

事業所側に非がない場合や誤解によるクレームでは、相手への共感を示しつつ介護記録や契約書をもとに事情を説明します。専門用語を避けたわかりやすい言葉で伝え、理解を得られるよう努めましょう。

対応結果を事業所内で記録・共有して再発を防ぐ

クレーム対応が終わったあとも、経過や結果を「苦情受付票」に客観的な事実のみで記録し、保存します。保存期間は国の基準省令では完結の日から2年間ですが、多くの自治体が条例で5年間に延長しているため、自治体の規定を確認しましょう。

解決した事例は個人の問題で終わらせず、職員会議やミーティングを通じて事業所全体で共有します。原因分析から導き出した再発防止策を全職員に周知し、日常業務に反映させるのが理想です。

クレームは利用者の声を直接受け取れる貴重なフィードバックです。日々の業務改善やリスクマネジメントに活かす姿勢を持つのが、サービスの質を高める近道になります。

参考:指定居宅サービス等の事業の人員、設備及び運営に関する基準|e-Gov法令検索

まとめ

訪問介護のクレーム事例として、サービスの質や接遇への不満から制度外の要求・物品トラブル・事故まで5つのパターンを紹介しました。いずれも正しい手順を踏めば、利用者やご家族との信頼関係を保ちながら解決できます。

まずはクレームの傾聴と初期謝罪を徹底し、事実関係を記録したうえで組織全体で原因を分析しましょう。改善策を利用者に伝えたあとは対応結果を事業所内で共有し、再発防止につなげましょう。

クレームはサービスの質を高めるための貴重な声です。一つずつ丁寧に対応を積み重ね、利用者やご家族が安心して利用できる事業所を目指しましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。