
自然災害による事業への影響は想像以上に大きいです。だからこそ、事業継続計画(BCP)が必要です。この記事では、BCPとは何か、防災計画との違い、自然災害BCP作成のポイントなど、あなたの介護事業を守るために知っておくべき情報をわかりやすく解説しています。
一つひとつの項目について具体的に解説するので「自分の介護施設にもBCPが必要だけど、何から始めればいいかわからない」と悩んでいる方は必見です。
この記事を読めば、自然災害に立ち向かうための事業継続計画(BCP)がどのようなものか、そして、あなたの事業にどのように役立つのかが明確になります。あなたの介護事業を守る第一歩を踏み出しましょう。
下記の記事では介護事業所のBCP策定期限や策定方法について詳しく説明しております。
介護施設におけるBCPとは?
BCPは業務継続計画を意味します。この計画は、予期せぬ事態が発生した場合に、事業を停滞させることなく継続するための方策を定めたものです。理由は明確で、新型コロナウイルスなどの感染症や大地震のような自然災害が、業務の正常な運行を阻害する可能性があるからです。
例えば、感染症が流行した場合、職員が出勤できなくなったり、利用者の安全を確保するための特別な対応が必要になったりする場合があります。このような状況に備え、あらかじめリスクを想定し、防止策や対処法を計画に盛り込むことが重要です。
介護施設においては日々の業務が優先であり、これまで問題なく運営できているため、BCPの必要性を感じられないかもしれません。しかし、実際に予期せぬ危機に遭遇した場合、迅速かつ効果的に対応するためには、事前の入念な準備が不可欠です。
参考:WAM NET『4.BCP(業務継続計画)』
防災計画と自然災害BCPの違い
防災計画と自然災害BCPは、その目的と要素において異なる点があります。防災計画と自然災害BCPの違いを理解し、それぞれの目的に応じた計画を立てることが重要です。
以下では、「それぞれの主な目的」「考慮すべき事項」「重要視される事象」「活動・対策の検討範囲」について解説します。
それぞれの主な目的
防災計画の主な目的は、生命の安全確保や物的被害の軽減にあります。一方、自然災害BCPでは、これに加えて、重要な業務の継続と復旧を重視しています。
防災計画と自然災害BCPの目指すところは違うと考えられがちですが、実際には互いに補完関係にあります。防災計画が人々の生命と安全を守る基盤を提供する一方で、自然災害BCPはその上に立って、社会の持続可能な機能を保証するための戦略を構築します。
防災計画と自然災害BCPは、災害対策の構造において、緊密なつながりを持ち、それぞれが異なる側面から重要な役割を果たしているといえるでしょう。
考慮すべき事項
防災計画で考慮すべき事項は、主に拠点がある地域で発生することが想定される災害そのものです。一方でBCPでは、自社の事業中断を引き起こす可能性がある、あらゆる事象が考慮されます。
具体的に言えば、防災計画では地震や洪水、台風など特定地域で頻発する自然災害への対応が主な焦点となります。一方BCPでは、これらの自然災害に加え、感染症の大流行やサイバー攻撃など、事業運営に影響を与えうるさまざまなリスクが考慮されます。
これらの理解に基づき、介護施設はより包括的なリスク管理と事業継続計画の策定に努めるべきです。
重要視される事象
防災計画で最も重要視される事象は、死傷者数や損害額の最小限化です。これは、被害を受けた際に従業員の安否を確認し、迅速に救助や支援を行うこと、そして被害を受けた拠点をできるだけ早く復旧させることを意味します。BCPではこれに加え、さらに多角的な視点が求められます。
例えば、BCPでは、重要業務の目標復旧期間や目標復旧レベルを定め、これらを達成することが重視されます。これにより重要な業務を速やかに再開でき、経営および利害関係者への影響を最小限に留めることが可能です。
このようにBCPでは、事業の継続性と復旧の速度、そして介護施設の生存を確かなものにするために必要な配慮が求められます。
活動・対策の検討範囲
防災計画での活動・対策の検討範囲は自社の拠点ごとであることが多いのに対し、BCPでは全体的に検討する必要があり、依存関係にある委託先、調達先、供給先も含みます。これは、災害発生時における事業継続の視点から、一つの拠点だけでなく、事業活動全体の連鎖を考慮するためです。
このような視点からBCPを策定することで、災害が発生した際にも事業を継続し、早期に通常の業務を再開できる体制を整えることができるのです。
参考:厚生労働省『自然災害発生時の業務継続ガイドライン』
自然災害BCP作成のポイント

自然災害BCP作成のポイントとしては、以下の5つが挙げられます。
- 総論
- 平常時の対応
- 緊急時の対応
- 他施設との連携
- 地域との連携
これらを理解することにより、包括的かつ有効な対応策が立案されます。以下で、それぞれ解説します。
総論
「総論」の中では、BCPの土台となる項目を決定します。これが重要である理由は、事前に体制や対応を整えることで、いざというときに迅速かつ的確な行動が取れるからです。
まず、基本方針と指揮命令系統を決定し、誰が、どのような場面で、何をすべきかを整理しておきます。続いて、自施設の現状や特徴、リスクを理解し、ハザードマップの確認を含む被害の想定をします。
さらに、インフラ停止や職員不足を想定した上での優先業務選定を行い、PDCAサイクルによるBCPの実効性を確認します。「総論」でBCPの基礎を形成することは、計画の成功に直結するといえるでしょう。
平常時の対応
BCP作成では「平常時の対応」の準備が重要です。事前の対策が被災時の被害を最小限に留めます。
具体的には、建物の安全確保、ライフラインの事前対策、必要備蓄品の確保が挙げられます。これらは災害が起きた際に迅速かつ効果的な対応を可能にします。ライフラインの事前対策には、非常用電源などの設備がない場合の対策も検討しましょう。
食料品や日用品の備蓄、さらに資金手当てにおいても事前準備することが大切です。もちろん、これらの準備は費用や手間がかかることもあるかもしれませんが、実際には災害発生時の混乱を避け、結果的に大きな損害を防ぐことにつながります。したがって、平常時からの丁寧な準備がBCP作成には不可欠といえるでしょう。
緊急時の対応
緊急時には、最適な対応策を事前に決めておくことが重要です。その理由は、突発的な災害に迅速に対応し、被害を最小限に抑えるためです。
まず、初動対応計画を作成し、人命安全の確保策を厳密に策定します。次に、事業継続のための重要業務を特定し、これらに対する対応策も事前に準備しておきます。
最後に、破損箇所の早期把握と対応業者の連絡先を整理して、復旧作業の円滑化を図りましょう。これにより、危機管理能力が高まり、事業の早期復旧も実現できます。結果的に、緊急時の適切な対応計画は、被害を最小限に抑え、迅速な復旧を可能にするため、非常に重要です。
他施設との連携
他施設との連携体制を構築しておくことは、自施設だけでは対応が難しい問題への有効な手段です。人員不足や特定の資材不足など、自施設のみで全てをまかなうには限界があるためです。
具体例として、近隣の法人や所属している団体を通じた協力関係の整備、自治体を通じた地域協力体制の構築が挙げられます。日ごろから他施設との関係を構築し、連携方法を確立しておくことが大切です。また、相互支援ネットワークへの参画や共同訓練の実施などを通じて、被災時の対応力を高めておきましょう。
他施設との連携には時間と手間がかかるものですが、このような事前の準備と協力体制が迅速な復興への鍵を握っています。したがって、他施設との連携体制の重要性を理解し、積極的に関係を構築しておくことが、被災時の効果的な対応のため不可欠です。
地域との連携
介護施設は、BCPにおいて地域との連携を設定するべきです。これは、社会福祉施設として地域貢献が期待されているためです。
例えば「災害派遣福祉チーム」や「災害福祉支援ネットワーク」への参加は、地域への貢献を考える上で重要です。また、福祉避難所としての運用に必要な物資の確保や施設整備も、重要な検討事項になります。
地域社会への支援は、長期的な視野で見た場合、施設自身の信頼性向上にも繋がります。介護施設は、被災時だけではなく平時から地域と緊密に連携し、BCPの一環としてその準備を進めていくべきです。
参考:厚生労働省『自然災害発生時の業務継続ガイドライン』
【まとめ】
では、今回のまとめです。
自然災害に対するBCPを作成することは、介護施設が直面するさまざまなリスクに備えるうえで非常に重要です。BCPと防災計画の違いを理解し、主な目的、考慮すべき事項、重要視される事象、活動・対策の検討範囲を明確にして、効果的なBCPを作成しましょう。
また、自然災害BCP作成の際には、総論から始め、平常時と緊急時の対応、他施設や地域との連携についても検討する必要があります。これらはすべて、事業継続性を確保しつつ、自然災害のリスクへの備えを強化するためのものです。
事業や組織が直面する可能性のある自然災害に対して、今一度、自らの備えを見直し、必要に応じて計画を更新しましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。