
台風への備えは、利用者の安全確保はもちろん、事業継続の観点からも重要です。本記事では、台風が来た時の対策について、初期対応から緊急時の行動まで、介護事業所が取るべき具体的な対策を解説します。
施設の構造点検や備品の確保、避難計画の策定など、事前の準備が重要となります。また、利用者の特性に応じた個別の対応策や、職員の役割分担についても詳しく説明します。
さらに、地域や行政との連携方法や、事業継続計画(BCP)への取り組み方についても触れます。
この記事を通して、台風に対する理解を深め、利用者の安全を守るための具体的な行動計画を立てていきましょう。
台風が来た時の対策:初期対応
台風が接近する際、介護事業所にとって適切な初期対応は利用者の安全確保と施設の被害を最小限に抑えるために不可欠です。
ここでは、台風接近時の基本知識、建物の確認・補強、非常用品の準備について解説します。これらの対策を事前に行うことで、緊急時にも冷静に対応できるよう備えましょう。
台風接近時の基本知識
台風接近時には、正確な情報収集と適切な判断が重要です。まず、気象庁が発表する「台風情報」や「警報・注意報」に常に注意を払いましょう。これらの情報は、テレビやラジオ、気象庁のウェブサイトから入手できます。
特に注意すべきは、暴風や大雨、高潮に関する警報です。これらの警報が発令された場合、速やかに対策を講じる必要があります。例えば、暴風警報が発令されたら、外出を控え、窓や戸締まりの再確認を行います。
また、避難情報にも注意が必要です。市町村から避難指示や高齢者等避難指示が発令された場合、迅速に行動できるよう、あらかじめ避難場所や避難経路を確認しておきましょう。
参考:気象庁『台風への備え』
建物の外と内の確認・補強
台風による被害を最小限に抑えるためには、建物の外と内の安全対策が欠かせません。まず、建物の外部では、強風で飛ばされそうな物を固定するか屋内に格納します。例えば、プランターや看板、自転車などが該当します。
また、排水設備の点検も欠かせません。側溝や排水口を清掃し、大雨時にスムーズに排水できるようにしておきます。屋根や外壁にも目を配り、損傷箇所があれば補修しておくと安心です。
建物内部では、窓ガラスの補強が重要です。飛散防止フィルムを貼ったり、カーテンやブラインドを下ろしたりして、万が一の破損に備えます。また、浸水のおそれがある地域では、重要書類や電子機器は高い場所に移動させ、浸水対策を行いましょう。
非常用品の準備と保管
台風時には停電や断水の可能性も考慮し、十分な非常用品を準備しておくことが大切です。まず、飲料水は1人1日3リットルを目安に、最低3日分を確保します。食料品は、缶詰やレトルト食品など、調理不要で長期保存可能なものを選びましょう。
また、懐中電灯や携帯ラジオ、予備の乾電池も必須です。特に介護事業所では、利用者の医療機器用の電源確保も忘れずに行いましょう。
衛生用品として、マスクや消毒液、ウェットティッシュなども準備します。さらに、利用者ごとの服薬情報や緊急連絡先リストなど、重要な情報をまとめたファイルも用意しておくと良いでしょう。
これらの非常用品は、定期的に内容を確認し、使用期限が切れていないか、数量は足りているかをチェックする習慣をつけましょう。
参考:東京消防庁『備えよう!いざという時の非常物品』
台風が来た時の対策:事前準備
台風の接近に備えて、適切な事前準備を行うことは非常に重要です。ここでは、台風対策の事前準備として以下の3つのポイントについて詳しく解説します。
- ニュースや天気予報のチェック
- 窓や床の補強
- 避難ルートと集合場所の確認
それぞれの対策について、具体的な方法と注意点を見ていきましょう。
ニュースや天気予報のチェック
台風接近時には、最新の気象情報を常に把握することが極めて重要です。テレビやラジオ、インターネットなどを通じて、定期的に気象庁や地元自治体が発表する情報をチェックしましょう。
特に注目すべきは、台風の進路予想と強度、予想される雨量や風速です。例えば、時間雨量が50mmを超えると、道路が冠水したり、がけ崩れの危険性が高まったりします。また、風速が20m/sを超えると、歩行が困難になり、飛来物による被害のリスクも増大します。
さらに、自治体から発令される避難情報にも注意が必要です。「警戒レベル3:高齢者等避難」や「警戒レベル4:避難指示」などの情報を見逃さないようにしましょう。スマートフォンの防災アプリを活用すれば、プッシュ通知で最新情報を受け取ることができます。
定期的な情報チェックを習慣化し、状況の変化に応じて迅速に行動できるよう備えましょう。
参考:気象庁『防災気象情報と警戒レベルとの対応について』
窓や床の補強
台風による建物への被害を最小限に抑えるためには、窓や床の補強が欠かせません。まず、窓ガラスの破損を防ぐため、飛散防止フィルムを貼ったり、段ボールや板で覆ったりすることが効果的です。
特に、強風にさらされやすい大きな窓や、ベランダに面した窓には注意が必要です。例えば、台風15号(2019年)では、千葉県を中心に多くの建物で窓ガラスが割れる被害が発生しました。
床の補強も重要です。浸水の危険性がある場合、家具や電化製品を高い場所に移動させましょう。また、玄関や窓の下に土のうを置くことで、水の浸入を防ぐことができます。自作の土のうとして、ビニール袋に新聞紙を詰めたものも有効です。
これらの対策を事前に行うことで、台風による被害を大幅に軽減できる可能性があります。定期的に点検し、必要な補強を行う習慣をつけましょう。
参考:国立研究開発法人 建築研究所『令和元年(2019年)台風第15号による建築物の被害調査報告』
避難ルートと集合場所の確認
万が一の事態に備え、避難ルートと集合場所を事前に確認しておくことは非常に重要です。まず、自治体が公表しているハザードマップを確認し、自宅周辺の危険箇所や避難所の位置を把握しましょう。
例えば、河川近くに住んでいる場合は、洪水ハザードマップで浸水の可能性がある区域を確認し、安全な避難経路を複数設定しておくことが大切です。また、避難所までの道のりに危険な箇所(がけ崩れの可能性がある場所など)がないかも確認しておきましょう。
さらに、家族や近隣住民と話し合い、集合場所を決めておくことも重要です。携帯電話が使えない状況も想定し、複数の連絡手段(災害用伝言ダイヤル「171」の使用など)を確認しておきましょう。
これらの情報を家族全員で共有し、定期的に避難訓練を行うことで、いざという時に冷静に行動できるよう備えましょう。
緊急時の行動

台風などの災害時、介護事業所にとって利用者の安全確保は最優先事項です。適切なタイミングでの避難と、避難所生活への備えは、事業継続と利用者の生命を守る上で極めて重要です。ここでは、緊急時の行動について以下の2点を詳しく解説します。
- 安全な避難のタイミングと注意点
- 避難所での生活準備と心得
これらの点を理解し、実践することで、災害時の適切な対応が可能となります。それぞれの内容について見ていきましょう。
安全な避難のタイミングと注意点
避難のタイミングを見極めることは、利用者の安全を確保する上で非常に重要です。まず、地域のハザードマップを確認し、施設や利用者宅の危険度を把握しておきましょう。
警戒レベル3「高齢者等避難」が発令されたら、要介護者の避難を開始します。避難の際は、利用者の状態に応じた移動手段を確保し、複数の職員で対応することが大切です。例えば、車いす利用者には介助者が付き添い、認知症の方には不安を和らげる声かけをしながら避難します。
また、避難経路の安全確認も忘れずに行いましょう。道路の冠水や倒木など、想定外の障害物に注意が必要です。日ごろから避難訓練を実施し、職員全員が適切な行動をとれるよう備えましょう。
避難所での生活準備と心得
避難所生活は、特に要介護者にとって大きなストレスとなる可能性があります。事前の準備と適切な心構えが重要です。
まず、非常持ち出し袋を用意しましょう。飲料水、非常食、衣類、タオル、マスク、消毒液、常備薬などの基本的な物に加え、介護用品や医療機器も忘れずに準備します。避難所ではプライバシーの確保が難しい場合もあるため、大きめのタオルなど、必要なものを準備しておきましょう。
共同生活では他の避難者への配慮も必要です。夜間のトイレ介助時には静かに行動する、他の避難者のスペースを侵害しないなど、基本的なマナーを職員間で共有し実践しましょう。
感染症対策として、手洗い、マスク着用、換気の徹底も重要です。長期化の可能性も考慮し、他の介護事業所や行政との連携体制を構築しておくことをお勧めします。
まとめ
台風対策は介護事業所の安全管理と事業継続にとって不可欠です。
初期対応では、正確な情報収集と建物の補強、非常用品の準備が重要となります。事前準備では、最新の気象情報の確認、窓や床の補強、避難ルートの確認が必要です。緊急時には、適切なタイミングでの避難と避難所生活への備えが求められます。これらの対策を事前に準備し、定期的に見直すことで、台風時の適切な対応が可能となります。
また、利用者一人ひとりの特性に配慮した個別の対応計画を立てることも大切です。日ごろから職員間で情報を共有し、避難訓練を実施することで、実際の緊急時にも冷静に対応できるよう備えましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。