
介護施設において、非常災害時の対応は非常に重要です。災害が発生した際、利用者の安全を守るためには、迅速かつ的確な行動が求められます。準備が整っていれば、混乱を最小限に抑え、利用者や職員の命を守ることができます。
この記事では、介護施設における非常災害時の対応について、情報収集・初期対応・避難誘導・安否確認・救護活動・情報共有の6つのポイントに分けて、詳しく解説します。
この記事を読んで、安全な環境を整えるための対策を一緒に考えていきましょう。
介護施設における非常災害時の対応
介護施設における非常災害時の対応は、以下の6つのポイントに分けられます。
- 情報収集:災害情報をこまめにチェック
- 初期対応:状況把握と通報
- 避難誘導:安全な場所への移動
- 安否確認:利用者と職員の状況把握
- 救護活動:負傷者の応急処置
- 情報共有:関係機関との連絡
それぞれ解説します。
情報収集:災害情報をこまめにチェック
災害発生時、迅速かつ的確な対応をするためには、正確な情報収集が欠かせません。テレビやラジオ、インターネット、防災無線など、さまざまな情報源を活用し、常に最新の災害情報を入手しましょう。
気象警報や注意報はもちろん、自治体からの避難情報にも注意を払う必要があります。なぜなら、これらの情報は、避難のタイミングや避難場所の選定に直結するからです。
例えば、大雨警報が発令された場合、河川の氾濫や土砂災害の危険性が高まります。そのため、施設周辺のハザードマップを確認し、危険な場所を把握しておくことが重要です。また、避難指示が出た場合は、速やかに指定された避難場所へ移動しましょう。
初期対応:状況把握と通報
災害発生直後は、混乱が生じやすい状況です。まずは落ち着いて、施設内外の状況を把握しましょう。利用者の安全を最優先とし、安否確認を迅速に実施します。
同時に、施設の被害状況も確認する必要があります。火災が発生している場合は、初期消火を試みつつ、119番通報しましょう。ガス漏れの場合は、元栓を閉め、換気を徹底しなければなりません。電気系統の異常も確認し、ブレーカーを落とすなど、二次災害の防止に努めましょう。
また地震発生時には、家具の転倒や落下によるケガの可能性が高くなります。負傷者の有無を確認し、必要に応じて救急車を要請しましょう。
避難誘導:安全な場所への移動
避難が必要な場合は、利用者を安全な場所へ誘導します。日ごろから避難経路を確認し、障害物がないか点検しておきましょう。誘導時は、車椅子利用者や歩行困難な利用者など、一人ひとりの状況に合わせた適切な介助が必要です。
例えば、階段を使用できない利用者のために、スロープやリフトを準備しておく、などの配慮が求められます。また、パニックを起こしやすい利用者には、落ち着いて行動するよう優しく声をかけ、寄り添いながら避難しましょう。
安全な避難のためには、避難訓練を定期的に実施し、職員の対応能力を高めておくことも重要です。
安否確認:利用者と職員の状況把握
避難完了後は、改めて利用者と職員全員の安否確認を実施します。名簿を活用し、一人も漏れがないように確認しましょう。
安否確認が完了したら、利用者の家族へ状況を報告します。家族は、利用者の無事を心配しています。安否情報だけでなく、避難場所や今後の対応についても伝え、安心してもらえるように努めましょう。
連絡手段が限られている場合は、優先順位をつけて情報を伝達します。デジタル技術を活用した安否確認システムの導入も、迅速な情報共有に役立ちます。
救護活動:負傷者の応急処置
負傷者が発生した場合、職員は応急処置を行う必要があります。基本的な救護スキルを持つ職員が、負傷者の状態を評価し、必要に応じて応急手当を施しましょう。
職員は基本的な救命救急の技術を習得しておく必要があります。止血、心肺蘇生、骨折の応急処置など、具体的なスキルを身につけることで、緊急時に適切な対応ができます。定期的な救急救命講習の受講も重要です。
また救護活動を行う場合は、二次災害の恐れのない安全な場所に移動させましょう。重症者がいる場合は、速やかに医療機関への搬送を手配すべきです。
情報共有:関係機関との連絡
災害時には、関係機関との情報共有が不可欠です。地域の消防署や警察、医療機関と連携し、必要な支援を受けるための連絡をしましょう。また施設内でも職員間での情報共有を徹底し、全員が同じ情報を持つことが重要です。
管理者は被害状況チェックリストに基づき、法人本部や事業部長に状況を報告しましょう。災害時情報共有システムを活用し、行政機関と情報を共有することで、迅速かつ効果的な対応が実現します。情報共有は、災害時の対応を円滑に進めるための重要なポイントです。
参考:厚生労働省老健局高齢者支援課『介護施設・事業所等における災害時情報共有システムについて』
非常災害に備える準備のポイント
非常災害に備えるための具体的なポイントは、主に以下の4つがあります。
- 利用者の状態に合わせた防災マニュアルの作成
- 備蓄品の準備と定期的な管理
- 設備の点検と整備
- 避難訓練の実施と評価
では、それぞれ見ていきましょう。
利用者の状態に合わせた防災マニュアルの作成
防災マニュアルは、利用者一人ひとりの特性を踏まえた、きめ細やかな内容が肝心です。
利用者の身体的状況や認知機能に応じた避難方法を明確に定めることが大切です。例えば、車いす利用者の避難経路や、歩行困難な方の移動支援方法を具体的に記載しなければなりません。
安否確認の手順も詳細に定めておくべきでしょう。職員間の連絡体制や、利用者の所在確認方法を事前に決めておくことで、緊急時の混乱を最小限に抑えられます。
多言語対応も視野に入れ、外国籍の利用者にも分かりやすいマニュアル作成を心がけましょう。
備蓄品の準備と定期的な管理
災害時に必要な備蓄品は、利用者の生活を支える命綱となります。
備蓄品には、以下のものを準備するとよいでしょう。
- 飲料水
- 非常食
- 医療品
- 介護用品
- 懐中電灯
- 携帯ラジオ
- 電池
- 毛布
これらの備蓄品は、定期的に点検し、期限切れや不足がないかを確認することが必要です。
特に、介護施設では、利用者一人ひとりに必要な医療品や食事を考慮した備蓄が求められます。例えば、アレルギー対応の食品や、食べやすい形態のものを用意するなどの配慮が必要です。
備蓄品の管理を徹底することで、災害時に安心して対応できる環境を整えることができます。
設備の点検と整備
非常災害時に使用する設備は、日ごろから適切に管理し、正常に機能する状態を保つ必要があります。消火器やスプリンクラー、非常用照明、発電機などは、定期的に点検し、必要に応じて修理や交換を行いましょう。
また、避難経路の安全確保も重要です。通路に障害物がないか、避難口はスムーズに開閉できるか、誘導灯は適切に設置されているかなどを確認し、安全な避難環境を整備しましょう。
避難経路に段差がある場合は、スロープを設置する、手すりを増設するなどの対策が必要です。地震や火災を想定した具体的な対策を講じ、設備の安全性を確保しましょう。
避難訓練の実施と評価
避難訓練は、防災マニュアルの内容を実際に確認し、職員の対応能力を高めるための重要な機会です。定期的に訓練を実施し、利用者の安全な避難を確保できるよう、実践的な訓練を行いましょう。
訓練後には、反省会を実施し、課題点や改善点を洗い出すことが大切です。例えば「車椅子利用者の避難に時間がかかった」「職員間の連携がスムーズでなかった」などの問題点が明らかになれば、マニュアルの見直しや追加訓練の実施につなげられます。
訓練を繰り返すことで、職員の防災意識を高め、緊急時にも落ち着いて行動できるようになりましょう。
以下の記事では、緊急時の対応で大切なことについて説明しております。
緊急時の対応で大切なこと5つ|介護施設での初動対応から職員教育まで完全解説
よくある質問
介護施設における非常災害時の対応に関するよくある質問として、以下の質問にお答えします。
- 介護施設での災害時の優先順位は?
- 防災マニュアルはどのくらいの頻度で見直すべき?
では、それぞれ詳しく見ていきましょう。
介護施設での災害時の優先順位は?
災害発生直後は、瞬時の判断と迅速な行動が求められます。介護施設における最優先事項は、利用者と職員の命を守ることです。
具体的な対応の優先順位は以下のとおりです。
- 利用者・職員の安否確認
- 医療機器使用者の状況確認
- 利用者の集合
- 避難経路の確認
- エレベーター内の確認
- 備蓄品の確保
災害時には迅速かつ的確な行動が求められます。上記の優先順位を職員全員が理解しておきましょう。
防災マニュアルはどのくらいの頻度で見直すべき?
防災マニュアルは、定期的な見直しが必要です。なぜなら、社会情勢や施設の状況は常に変化するからです。見直しの頻度は、半年に1回を目安としましょう。
半年ごとの見直しが難しい場合でも、年に1回は必ず見直しを行うべきです。マニュアルの内容が、最新の法令やガイドラインに適合しているか、施設の設備や利用者の状況に合致しているかなどを確認しましょう。
また、避難訓練の結果を踏まえ、改善すべき点がないか検討することも大切です。定期的な見直しと改善を繰り返すことで、実効性の高いマニュアルを維持できます。
まとめ
介護施設で非常災害が発生した場合、利用者の安全を確保するために、迅速かつ的確な対応が必要です。そのためには、日ごろからの備えが不可欠です。
災害発生時には、情報収集や初期対応、避難誘導、安否確認、救護活動、情報共有の6つのポイントを押さえる必要があります。これらの対応を迅速に行うことで、利用者と職員の命を守ることができます。
また、非常災害に備えるためには、利用者の状態に合わせた防災マニュアルの作成や、備蓄品の準備、設備の点検、避難訓練の実施が欠かせません。定期的な見直しを行い、常に最新の情報を反映させることが大切です。
これらの準備を通じて、介護施設は非常災害時においても安心して対応できる体制を整えられます。今から具体的な対策を検討し、実行に移していきましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。