
「グループホームの特養化」という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
特養化とは、グループホームで生活する利用者の状態が悪化し、特養のような状況に変わることを指します。今回は、グループホームにおける特養化の現状と問題点、事業所に求められる対応についても紹介します。
この記事を読めば、特養化するグループホーム経営において、今後とるべき対応のヒントが見えてくるはずです。
グループホームの特養化とは?背景と現実
グループホームの特養化が起こる背景は、利用者の要介護度が上がること、医療的ケアが必要な利用者が増えることが挙げられます。
特養化の主な背景、理由から確認しておきましょう。また、グループホームが特養化している現実、課題についても説明します。
グループホームの特養化の背景
グループホーム特養化の背景として、主に3つの要因が挙げられます。
- 利用者の要介護度が上がる
- 一人ひとりのスペースが狭くなる
- 医療的ケアが必要になる
グループホームが特養化する最大の要因ともいえるのは、利用者の要介護度が上がることです。さらに医療的ケアの必要性が高まることも、グループホームが特養化する理由のひとつです。
また、グループホームの建物内は、もともと自分で歩行できる方が過ごしやすいように造られている点にも注意が必要です。要介護度が上がると車椅子利用者が増加します。
車椅子利用者が増えると余分なスペースがなくなり、自力で歩ける方の行動の妨げとなり、結果として歩行できる方のQOL低下につながるでしょう。
グループホームの現実と今後の課題
今後、グループホームの利用者の要介護度が上がり、車椅子利用者だけではなく寝たきりになる方が増える可能性があります。
また、グループホームには看護師を配置する義務がないため、現状多くの施設では医療的ケアに対応できていません。医療機関や訪問看護と連携して医療的ケアを提供できる体制が整っていれば良いですが、整えられない施設もあります。
医療ニーズの高まりにグループホームが対応できなければ、退去せざるを得ない現実があり、介護職員だけでなく利用者にとっても負担が大きいといえるでしょう。
グループホームと特養(特別養護老人ホーム)の違い
グループホームと特養では、サービス内容や対象者が異なります。特養化した場合、どのような点を変更しなければならないのかを理解するためにも、両社の違いを確認しておきましょう。
サービス内容の違い
グループホームと特養のサービス内容には共通点が多いですが、リハビリや医療的ケアの有無が異なります。
グループホーム
- 排せつ・入浴・食事などの基本的な介護
- 洗濯や料理など家事の共同作業
- 体操やレクリエーション
特養
- 要介護度が高い利用者にも対応できる高度な介護
- 終の棲家として生活していく場
- 看護師の医療的ケア
グループホームでは認知症ケアを重視しているため、利用者に家事を手伝ってもらいながら介護を提供していきます。一方、特養では専門職による介護が24時間提供され、医療的ケアも受けられます。
対象者の違い
グループホームは要支援2、要介護1から要介護5の方が対象です。また、認知症と診断されないと入居できません。
また、住民票に記載された地域のみで入居できることも特徴です。特養は、原則要介護3から要介護5の方を対象としており、認知症の方も入居できます。
費用の違い
特養は入居に必要な一時金は不要で、月額費用は要介護度によって変化しますが、ほとんどの場合、5〜15万円程度です。
一方、グループホームでは入居金がかからない施設もありますが、中には数百万円かかるケースもあり、幅があります。月額費用も15〜30万円程度と、グループホームの方が高い傾向があり、特養の約2倍になることもあります。
参考:厚生労働省『認知症対応型共同生活介護』
人員配置基準の違い
グループホームと特養では人員配置基準も異なります。特養では、従来型とユニット型でも人員配置基準が異なるため、詳しく確認しておきましょう。
グループホーム
- 日中:入所者の数が3またはその端数を増すごとに介護職1名以上
- 夜間:ユニットごとに介護職1名
特養
【従来型】
- 日中:入所者の数が3またはその端数を増すごとに介護職または看護師が1名以上
- 夜間:利用者25名以下の場合、介護職または看護師が1名以上
- 夜間:利用者26名以上60名以下の場合、介護職または看護師が2名以上
【ユニット型】
- 日中:1ユニットごとに介護職または看護師が1名以上
- 夜間:利用者25人に対して、夜勤を行う介護職または看護師が1名以上
グループホームや従来型の特養では、利用者の人数ごとに決められた介護職の配置が必要です。一方、ユニット型の特養ではユニットごとに人員配置基準が定められています。
参考:厚生労働省『厚生労働大臣が定める夜勤を行う職員の勤務条件に関する基準』
グループホームの特養化への対応
グループホームの特養化への対応として、現在の利用者へのケアを見直す必要があります。また、認知症ケアや寝たきりの利用者へのケアと、2つのケアの両立も考えなければなりません。
以下では、グループホームの特養化への主な対応を解説します。
利用者へのケアの見直し
グループホームでは、調理や洗濯などの作業は利用者と一緒に行い、残存機能の活性化・維持を図ります。
障害により身体機能が著しく低下した場合でも、身体に残された機能を活用することで、ある程度は日常生活の機能維持が可能です。
しかし、残存機能は使わなければ徐々に低下していくため、介助をする場合には、利用者の持つ残存機能を伸ばすことを考えることが重要です。利用者が自分でできることはしてもらい、できないことはサポートするという介護の基本を実践しましょう。
認知症ケアの実践
グループホームは、認知症ケアに特化した施設です。認知症ケアを専門とするスタッフが常駐し、利用者一人ひとりに配慮した小規模な生活空間で生活をサポートします。基本的な日常生活を自分で行うことで、認知症の進行を遅らせる効果が期待できます。
例えば、家事を手伝うといった社会参加や、園芸で手作業を取り入れるなどが挙げられます。「認知症だからできないはずだ」と職員側で判断せず、個人ができることや考えを尊重しましょう。
寝たきり利用者への対応と認知症ケアの両立
寝たきり利用者の介護は、認知症ケアとは内容が異なります。寝たきりの利用者には医療的ケアが必要であり、医療関係者との連携が不可欠です。また、急変の危険性もあるため、こまめな見回りやバイタルサインなど十分な観察が必要です。
一方、認知症ケアでは、職員が見守りながら本人ができることをやってもらう必要があります。寝たきり利用者への対応と認知症ケアを両立できるよう、人員配置や工夫が求められます。
他施設との連携
介護度が重度になると、医療機関との連携が必要になります。
また、グループホーム本来の役割である「認知症ケア」を実践するためには、重度の利用者が必要なケアを受けられる施設に移ることも検討すべきです。
まとめ
特養の場合、利用者は介護度の高い状態で入居するため、入居後に状態が大きく変化することは考えにくいでしょう。
一方、グループホームの場合は要支援2からの入居も可能であり、最初は自分でできることも多い状態です。しかし、年齢を重ねると身体の状態が悪くなり、介護の必要性も高まります。また、転倒による骨折や病気によりADLが急激に落ちるケースも少なくありません。
グループホームの特養化の背景、それぞれの違いを把握したうえで、実践すべき対応を検討しましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。