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【介護施設のBCP 基礎編】防災計画とは異なる、本当のBCPについて解説

田中 実

田中 実

令和3年度介護報酬改定によって、介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)の策定が義務付けられました。令和6年3月31日までの経過措置期間が設けられていますが、策定に向けた取り組みは早期に進めなければなりません。そこで、防災やBCPに詳しい経営コンサルタントの田中実氏に話をうかがい、BCPの基礎知識から具体的な策定方法までを連載でご紹介します。

ーーそもそも、BCPとはなんですか?

企業や組織が何らかの災害で被害を受けても、重要業務を速やかに復旧させる、または中断が許されない業務においては中断させないようにするために立てる「事業継続計画」のことです。
ここで言う災害とは、地震や風水害、火事といった自然災害だけではなく、近年流行している感染症や戦争、食糧危機、IT事故など、あらゆるリスクを指しています。このような、いつ起こるか分からない災害に対して備えておくことで、収益の減少や資金繰りの悪化、倒産などの事態に陥ることを防ぎ、事業を継続させることができます。

ーー防災計画と同じようなものですか?

いいえ、二つを混同される方が多く、BCPの策定と言いながら防災計画と似たものを作ってしまう企業もありますが、防災計画とBCPは異なるものです。
まず防災計画は、災害時の初動の対応を取り決めた計画です。例えば火事が起こった時はどのように避難をして利用者や職員の安全を確保するか、どのような消火対応を行なって物的被害を縮小するか、備蓄品をどうするかといった、利用者や従業員の命、さらに建物や物を守るための方策です。一般的には総務部などが主体となって策定を担当しているため、10年ほど前は総務部が防災計画の延長としてBCP策定を担当するケースが多く見受けられました。

ーーBCPは、どのような点で違うのですか?

BCPは経営計画の一部であり、経営者の視点で策定するものです。災害時においても人、モノ、金を確保し、事業そのものの継続性や安定性、収益性を維持する確保が難しくなります。事業収入が不足する中で銀行からの融資をどういう形で受け、どのように事業継続するかという中長期的な視点も必要となります。経営者としてリスク管理を行う、という点が大きな違いですね。経営的な視点が必要なので、経営者をはじめ経営企画部門が主体となって策定します。
もちろん防災計画がしっかりと整っていないとBCPを作ることはできないので、防災計画があることが大前提。その上にBCPが策定されます。

ーー全ての災害に対してBCPを策定するのですか?

いいえ、防災計画では災害ごとに対策を行いますが、BCPは災害の種類ごとに策定するという性質のものではありません。例えば地震や台風や情報漏洩やコンプライアンス違反など、経営におけるリスクは挙げればキリがなく、その一つひとつにBCPを策定して管理するなど到底できません。オールハザードを想定したBCPを策定することが肝要です。ただ、日本のBCPはもともと地震への対策としてスタートしたので、いまだに災害ごとのBCP、つまり防災計画のようなものをBCPと認識して策定している企業はまだまだ多いでしょうね。

ーーでは、BCPでは何を取り決めれば良いのでしょうか?

重要事項は二点です。一つは、事業の優先順位を決めること。入所や通所、訪問などさまざまな事業を行なわれていますが、やはり人の命に関わることを最優先にすべきです。業務においても、食事と排泄は最重要ですが、それ以外のコミュニケーションや親睦といったものはストップさせるなど、事業と業務に優先順位をつけます。
二つ目は、万が一事業が中断しても、いつまでにどのレベルで復旧させるかを定めておくことです。そこには、人・モノ・金が不足する中でどのように工面するかという問題も含まれます。
この、事業と業務の優先順位と、復旧期間・復旧レベルの決定がBCP策定にあたって最も重要なポイントです。

ーーなぜ、介護施設にもBCPが重要なのでしょうか。

義務化されたからやらざるを得ない、という事情もありますが、介護施設や医療関係の場合、事業継続の危機がそのまま人の命の危機につながりますから、事業そのものを寸断させるわけにはいきません。ですから、介護施設のBCPは非常に重要です。社会的な企業評価も高まり、利用者に選ばれる施設・事業所へとつながりますから、ぜひ進めていただきたいと思います

ーー策定にあたって、何をすれば良いのでしょうか?

書籍やインターネットには正しい知識と間違った知識が混在していて、初めてBCPに関わる方が情報を正しく取捨選択するのは難しいでしょう。厚労省のホームページに、策定に関する方針やマニュアル、フォーマットなどが公開されています。フォーマットに従って策定すれば、介護報酬の改定に沿ったBCPを策定することはできるでしょう。ただ、策定して提出してはい終わり、にしてほしくはありません。
まずは、BC(事業継続)に関する取り組みを啓発しているBCAO(事業継続推進機構)でセミナーや会員同士の講習で情報収集をすることをお勧めします。ぜひBCAOで正しい知識を身につけて、策定に生かしていただきたいと思います。

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■福祉施設・医療施設・一般企業などのBCP策定及び教育訓練の実施。■行政教育庁・危機管理室委嘱防災教育講師、社会福祉協議会防災教育訓練講師、学校防災訓練訓練講師、地区防災計画・避難行動要支援者個別計画策定指導講師。■在籍企業でのBCP・防災業務責任者。