
南海トラフ地震は、介護施設にとって深刻な脅威となる可能性があります。この巨大地震に対する十分な備えは、施設の存続と利用者の安全を守るために不可欠です。しかし、多くの施設では具体的な対策が不十分であり、早急な対応が求められています。
本記事では、南海トラフ地震の概要と介護施設への影響を解説します。さらに、BCPの策定、事前対策と備蓄、連絡・情報収集方法の確立、そして防災訓練の実施など、具体的な対策についても詳しく説明します。
これらの知識を活用することで、南海トラフ地震に対する施設の防災力を高め、利用者とスタッフの安全を確保するための実践的な準備を進めることができるでしょう。
南海トラフ地震とは
南海トラフ地震は、日本の太平洋沿岸に大きな影響を及ぼす可能性がある巨大地震です。ここでは、南海トラフ地震について以下のポイントを解説します。
- 南海トラフ地震の基本
- 想定される地震の規模と被害
- 津波が想定される地域
それぞれ解説します。
南海トラフ地震とは
南海トラフ地震は、日本の太平洋沿岸部に位置する南海トラフ沿いで発生する巨大地震を指します。この地震は、日本の防災対策において最も警戒されている自然災害の一つです。
南海トラフは、駿河湾から宮崎県沖の日向灘にかけて続く海底の溝状の地形で、フィリピン海プレートが日本列島側のユーラシアプレートの下に沈み込んでいます。この沈み込みによって蓄積されたエネルギーが解放されることで、大規模な地震が引き起こされるのです。
過去の記録を見ると、南海トラフ地震は約100〜150年の間隔で繰り返し発生しており、前回の発生から70年以上が経過した現在、次の地震の発生が危惧されています。例えば、1944年の昭和東南海地震や1946年の昭和南海地震が南海トラフに属する大地震として知られています。
南海トラフ地震への備えは、介護事業所の経営者や管理職にとって非常に重要です。利用者の安全確保や事業継続計画(BCP)の策定など、具体的な対策を講じていきましょう。
参考:気象庁『南海トラフ地震とは』
想定される地震の規模と被害
南海トラフ地震の潜在的な破壊力は、想像を超えるものがあります。想定されている最悪のシナリオでは、その影響は広範囲に及ぶと予測されています。
最も強い揺れが予想されるのは、静岡県から宮崎県にかけての太平洋沿岸部です。ここでは、震度7という激しい揺れが襲う可能性があります。さらに、その周辺地域でも震度6強から6弱の強い揺れが予想されているのです。
このような激しい揺れは、街の風景を一変させる力を持っています。建物の倒壊、道路の寸断、火災の発生など、その被害は多岐にわたります。また、電気、水道、ガスなどのライフラインも長期間にわたって使用できなくなるでしょう。
ただし、これらの予測は最悪の事態を想定したものです。実際の地震がこの通りになるとは限りません。しかし、この想定をもとに備えることで、被害を最小限に抑えることができるのです。
介護事業所では、建物の耐震性強化や非常用電源の確保、十分な量の食料や医薬品の備蓄など、具体的な対策を講じることが不可欠です。利用者の安全確保と事業継続のため、今できる準備を着実に進めていきましょう。
参考:気象庁『南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ』
津波が想定される地域
南海トラフ地震の脅威は、地震の揺れだけではありません。巨大な津波の発生も大きな懸念事項です。関東地方から九州地方にかけての太平洋沿岸地域では、10メートルを超える巨大津波が押し寄せる可能性があるといわれています。
津波の恐ろしさは、その到達速度にあります。地震発生からわずか数分で第一波が到達する可能性もあります。
この事実は、沿岸部にある介護施設にとって重大な意味を持ちます。迅速な避難行動が、文字通り生死を分けることになるでしょう。そのため、日ごろからの避難訓練や避難経路の確認が極めて重要になります。
各自治体が作成しているハザードマップは、避難計画を立てる上で貴重な情報源です。これらを活用し、施設の立地に応じた最適な避難方法を検討しましょう。場合によっては、建物の上層階への垂直避難も選択肢の一つとなります。
利用者の安全と施設の存続のため、具体的な防災計画を立て、定期的な訓練を実施していきましょう。
参考:気象庁『南海トラフ地震で想定される震度や津波の高さ』
南海トラフ地震が介護施設に及ぼす影響
南海トラフ地震は、介護施設にとって深刻な脅威となる可能性があります。この大規模地震が発生した場合、介護施設は以下のような影響を受ける可能性があります。
- 施設・設備へのダメージ
- 職員と利用者の安全確保
- 地震発生後の施設運営
これらの課題について、詳しく見ていきましょう。
施設・設備へのダメージ
南海トラフ地震が発生した場合、介護施設の建物や設備に甚大な被害が及ぶ可能性があります。地震の揺れによって、壁や天井が崩落したり、家具が転倒したりする恐れがあるのです。
このような被害は、利用者の避難を困難にするだけでなく、二次災害のリスクも高めます。例えば、配管の破損による水漏れや電気系統の故障による火災の危険性が高まります。また、エレベーターの停止は、移動に介助が必要な方々の避難を著しく妨げることになるでしょう。
さらに、ライフラインの寸断も大きな問題です。電気、水道、ガスの供給が止まれば、利用者の日常生活に必要不可欠なサービスの提供が困難になります。医療機器の電源確保や、食事の提供、衛生管理など、多くの面で支障をきたすでしょう。
これらの被害を最小限に抑えるためには、建物の耐震化や家具の固定、非常用電源の確保など、事前の対策が不可欠です。施設の脆弱性を把握し、必要な改修や備品の整備を進めていきましょう。
職員と利用者の安全確保
南海トラフ地震発生時、介護施設における最優先事項は職員と利用者の安全確保です。しかし、これは非常に困難な課題となる可能性が高いのです。
多くの利用者は自力での避難が困難です。車椅子やベッドでの生活を送っている方も多く、迅速な避難誘導が必要となります。しかし、限られた数の職員で多数の利用者を安全に避難させるのは、極めて困難な作業です。特に夜間や早朝など、職員の数が少ない時間帯に地震が発生した場合、その難しさは倍増します。
また、認知症の方々への対応も大きな課題です。慣れない避難環境で混乱し、パニックに陥る可能性があります。このような方々を落ち着かせ、安全に誘導するには、特別な配慮と技術が必要となるでしょう。
これらの課題に対処するためには、日ごろからの避難訓練や、職員への教育が欠かせません。また、地域との連携を強化し、緊急時の協力体制を構築していくことも重要です。利用者一人ひとりの特性を理解し、個別の避難計画を立てていきましょう。
地震発生後の施設運営
地震発生後、介護施設は利用者の生活の場を確保し、介護サービスの提供を継続していかなければなりません。しかし、施設が被災した場合、利用者を他の施設に移送したり、仮設住宅での生活を余儀なくされたりする可能性があります。
また、食料や水、医薬品などの物資の不足や、職員の不足、ライフラインの断絶など、さまざまな困難な状況に直面することが予想されます。例えば、断水によりトイレが使えなくなった場合、利用者の衛生環境が悪化し、感染症のリスクが高まる可能性もあるでしょう。
これらの課題に対応するためには、事前の備えが不可欠です。十分な量の備蓄品の確保、地域や他の施設との協力体制の構築、そして事業継続計画(BCP)の策定などが重要です。また、災害時のサービス提供の優先順位や、代替サービスの可能性についても検討しておきましょう。
南海トラフ地震に備える介護施設の対策

南海トラフ地震は、介護施設にとって重大な脅威となる可能性があります。この巨大地震に備えるため、以下の重要な対策を講じる必要があります。
- BCPを策定する
- 事前対策と備蓄をすすめる
- 地震発生時の連絡・情報収集方法を決めておく
- 防災訓練を実施する
これらの対策について、詳しく見ていきましょう。
BCPを策定する
介護施設にとって、BCPの策定は地震対策の要となります。2024年4月までにこの計画を立てることは、単なる義務ではなく、施設の存続と利用者の安全を守るための重要な取り組みです。
BCPには、災害時の基本方針や推進体制、優先業務の特定など、さまざまな要素を盛り込む必要があります。電気・水道が止まった場合の対応策や、通信システムが停止した際の情報伝達方法などを具体的に定めておくことが大切です。
また、ハザードマップを確認し、自治体の被災想定を把握することで、より実効性の高い計画を立てることができます。例えば、施設が津波浸水域にある場合、垂直避難の方法や必要な設備についても検討が必要でしょう。
BCPは一度策定したら終わりではありません。定期的な見直しと更新を行い、常に最新の状況に適合した計画を維持しましょう。
事前対策と備蓄をすすめる
南海トラフ地震に備えるには、日ごろからの準備が欠かせません。施設の耐震性能の確認や、家具の固定、避難経路の確保など、事前に取り組むべき対策は多岐にわたります。
特に重要なのが備蓄品の確保です。通常の備蓄品に加え、介護に特化した物資も必要です。例えば、経管栄養剤やとろみ剤、おむつなどは欠かせません。また、発電機や簡易トイレなど、ライフラインが途絶えた際に役立つ設備も準備しておくべきでしょう。
備蓄品は定期的にチェックし、消費期限や使用可能かどうかを確認することが大切です。また、すぐに取り出せる場所に保管し、全スタッフがその場所を把握しているか確認しておきましょう。
地震発生時の連絡・情報収集方法を決めておく
大規模地震発生時、迅速かつ正確な情報収集と連絡は極めて重要です。そのため、事前に明確な連絡体制を構築しておく必要があります。
まず、利用者の緊急連絡先を常に最新の状態に保つことが大切です。キーパーソン以外の連絡先や、メール、LINEなど複数の連絡手段を確保しておくと良いでしょう。また、利用者の医療情報や介護ニーズをまとめたファイルを用意し、緊急時にすぐ持ち出せるようにしておくことも重要です。
スタッフ間の連絡方法も明確にしておく必要があります。災害時の役割分担や、出勤要請の基準なども事前に決めておくと良いでしょう。例えば、SNSのグループを作成し、一斉連絡ができるようにしておくのも効果的です。
地震発生時の情報収集手段として、ラジオや防災行政無線なども活用できるよう準備しておきましょう。
防災訓練を実施する
防災訓練は、実際の災害時に冷静かつ適切な行動をとるための重要な準備です。法律で義務付けられている年1回以上の訓練を、単なる形式的なものではなく、実践的な訓練として行うことが大切です。
訓練では、避難経路の確認や、利用者の状態に応じた避難方法の練習を行います。例えば、車椅子使用者や寝たきりの方の避難には特別な配慮が必要です。これらの方々を安全に避難させる方法を、実際に体験しておくことが重要です。
また、夜間や職員が少ない時間帯を想定した訓練も実施しましょう。限られた人員でどのように対応するか、具体的なシミュレーションを行うことで、実際の災害時に役立つ経験を積むことができます。
訓練後は必ず振り返りを行い、改善点を洗い出し、BCPや各種マニュアルに反映させましょう。継続的な改善を通じて、より効果的な防災体制を構築していきましょう。
まとめ
南海トラフ地震への対策は、介護施設の存続と利用者の安全を守るための最重要課題です。BCPの策定、事前対策と備蓄の推進、連絡・情報収集方法の確立、そして実践的な防災訓練の実施が、効果的な防災体制の構築に不可欠です。
これらの対策は一朝一夕には完成しませんが、着実に進めることで施設の防災力を高めることができます。また、これらの取り組みは、南海トラフ地震に限らず、あらゆる災害への備えとして機能するはずです。
今日から、自施設の現状を見直し、具体的な防災対策の実施に向けて一歩を踏み出しましょう。
関連記事
防災⼠の詳細はこちら
証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。