
企業や組織が災害や緊急事態に対処するための計画や手引きとして、BCP(事業継続計画)や災害対策マニュアルを作成することは非常に重要です。しかし、これらの違いについて正確に理解している人は少ないかもしれません。
この記事では、BCPと災害対策マニュアルの基礎知識から、BCPの具体的な策定手順までを徹底的に解説しています。
この記事を読むことで、両者の違いを明確に理解し、最適な災害対策を実施するためのノウハウを得ることができるでしょう。
BCPと災害対策マニュアルの基礎知識
BCPと災害対策マニュアルの基礎知識を理解する際には、以下の点を押さえておきましょう。
- BCP(事業継続計画)とは?
- 災害対策マニュアルとは?
- BCPと災害対策マニュアルの違い
それぞれ解説します。
BCP(事業継続計画)とは?
BCP(事業継続計画)とは、企業が災害や緊急事態に備えて事業を継続するための計画です。
例えば、台風や地震などの自然災害が発生した場合を考えてみましょう。これらの災害によって設備が破損したり、従業員が出勤できなくなったりすることが考えられます。BCPがしっかり策定されていれば、代替の業務拠点で業務を再開したり、リモートワークを活用したりといった対応が可能です。
BCPは企業の危機管理の根幹をなす計画であり、万が一の事態に備えるためには欠かせない要素です。事業の継続性を確保するために、しっかりとしたBCPの策定が求められます。
参考:中小企業庁『BCP(事業継続計画)とは』
災害対策マニュアルとは?
災害対策マニュアルとは、企業や組織が災害時に迅速かつ適切に対応するための手引きです。
例えば、火災が発生した場合の避難経路や集団避難の指示、応急処置の手順などがマニュアルに記載されていると、速やかに行動に移せます。また、連絡網や緊急時の連絡先リストも重要です。これにより、関係者全員が迅速に情報を共有できます。
マニュアルがあれば全員が同じ指示に従うため、混乱が少なくなります。そして、災害時の対応が統一されるため、被害を最小限に抑えることが可能となります。災害対策マニュアルは組織の生命線といえるでしょう。
BCPと災害対策マニュアルの違い
BCP(事業継続計画)と災害対策マニュアルにはそれぞれ独自の役割があります。まず、BCPは事業を中断せずに継続するための計画です。緊急時でも業務が続けられるようにするためのガイドラインを提供します。
一方、災害対策マニュアルは災害時の具体的な対応手順を示します。避難方法や初期対応、被災後の復旧手順などが含まれます。
例えば、地震が発生した場合を考えてみましょう。BCPは地震後に重要な業務をどのように続けるかを計画し、復旧までのスケジュールを設定します。一方、災害対策マニュアルは、地震発生時に従業員がどのように避難し、安全を確保するかの手順を示します。
BCPが長期的な事業の継続を目指す一方で、災害対策マニュアルは即応性を重視します。両者を適切に使い分けることで、緊急時に迅速かつ効果的に対応ができます。BCPと災害対策マニュアルの併用は、総合的なリスク管理の鍵となるでしょう。
BCPと災害対策マニュアルを作成する理由
ここでは、事業所がBCPを作成すべき理由と災害対策マニュアルが必要な理由について解説していきます。
事業所がBCPを作成すべき理由
事業所がBCP(事業継続計画)を作成すべき理由は、事業の安定性と継続性を確保するためです。BCPを策定することで、予期せぬ災害やトラブルに対応できます。これにより、事業の中断を最小限に抑えることができます。
例えば、大地震や台風などの自然災害が発生した場合、事業活動が一時的に停止することがあります。そんな時、BCPがあれば、どの業務を優先して復旧すべきかが明確になります。また、限られたリソースを効率よく配分することができます。
さらに、BCPは企業の信頼性を高める要素でもあります。顧客や取引先に対して、事業継続のための具体的な計画があることを示せます。これにより、リスクマネジメントの能力をアピールでき、取引先との信頼関係の維持につながるでしょう。
したがって、事業所がBCPを作成しておくことで、予測不可能な事態にも柔軟に対応し、事業の継続を確保できるのです。事前の準備が、将来のリスク管理につながります。
災害対策マニュアルが必要な理由
災害対策マニュアルが必要な理由は、多くのビジネスにとって危機管理の基本だからです。具体的には、以下の理由が挙げられます。
まず、災害時には迅速で適切な対応が求められます。マニュアルがないと、混乱や被害が拡大する恐れがあります。
例えば、災害が発生した際にどのように従業員を避難させるかを記したマニュアルがあれば、安全を確保しやすくなります。従業員は何をすべきか一目で理解でき、適切な行動が取れます。
災害対策マニュアルは会社の安全と迅速な対応を支える不可欠なツールです。事前に準備しておくことで、災害時のリスクを最小限に抑えられるでしょう。
BCPと災害対策マニュアルの相乗効果
BCPと災害対策マニュアルは、相互作用することで組織の危機対応力を大幅に強化します。なぜなら、BCPが全体的な事業継続を目指す一方で、災害対策マニュアルは具体的な行動手順を提供するからです。
BCPだけでは具体的な対応方法が不明確になる場合がありますが、災害対策マニュアルがその具体性を補ってくれます。逆に、災害対策マニュアルだけでは全体の方針や優先順位が不明確になる危険がありますが、BCPがそのガイドラインを提供します。
BCPと災害対策マニュアルの相乗効果により、組織は危機的状況でも迅速かつ適切に対応できます。この両者を併用することで、リスク管理が一層万全なものとなるでしょう。
BCPを策定する手順

BCP策定は、企業の存続を左右する重要なプロセスです。ここでは、BCP策定のステップを次の5つに分け、それぞれのポイントを詳しく解説します。
- 想定されるリスクを洗い出す
- BCP発動の基準を明らかにする
- 復旧する事業の優先順位を決める
- RTO・RLOの設定
- 具体的な行動計画を策定する
想定されるリスクを洗い出す
BCP策定の最初のステップは、企業が直面する可能性のあるリスクを具体的に洗い出すことです。
例えば、自然災害であれば「台風」や「地震」、その他では「パンデミック」や「情報漏えい」など、事業継続を脅かす可能性のあるリスクを具体的に列挙します。
リスクを具体的に把握することで、適切な対策を検討できます。
BCP発動の基準を明らかにする
BCPを策定する上で、BCPを発動する基準を明確にすることは非常に重要です。
例えば、地震発生時のBCP発動基準を「事業所の震度が5強以上」と具体的に定めることで、従業員全員が状況を判断しやすくなります。
基準が明確であれば、従業員は迅速かつ適切に行動できるでしょう。
復旧する事業の優先順位を決める
全ての事業を同時に復旧させることは難しいため、中核事業を優先的に復旧させることが重要です。中核事業とは、企業の収益に大きく貢献する事業や、社会的に重要な役割を担う事業などを指します。
中核事業を早期に復旧させることで、企業の存続可能性を高め、社会への影響を最小限に抑えられます。例えば、収益性が高い事業や社会的に重要な事業を優先することで、企業の存続を図ることができます。
RTO・RLOの設定
優先的に復旧させる事業が決まったら、目標復旧時間(RTO)と目標復旧レベル(RLO)を設定します。
例えば、RTOを「24時間」、RLOを「40%」と設定した場合、1日以内に40%のサービスを提供できる状態まで復旧させることを意味します。
RTOとRLOを設定することで、復旧作業の目標を明確にし、効率的に進められるようになるでしょう。
具体的な行動計画を策定する
緊急事態発生時における従業員の行動指針を具体的に定めておくことは、混乱を防ぐために不可欠です。
例えば、状況に応じて「事業所に待機する」「避難する」「自宅に帰る」など、ケースに応じた行動を具体的に規定しておくことで、従業員は冷静かつ適切に行動できます。
これらのステップを踏むことで、実効性のあるBCPを策定し、企業の事業継続性を高められるでしょう。
まとめ
BCPと災害対策マニュアルは、企業が災害時に適切な対応を行うための重要なツールですが、それぞれ異なる役割を持っています。
BCP(事業継続計画)は、緊急時に事業を中断せず継続するための計画であり、長期的な事業の安定性を確保します。一方、災害対策マニュアルは災害発生時の具体的な対応手順を示し、即応性を重視します。これにより、災害時の混乱を最小限に抑えられるでしょう。
両者を適切に使い分け、併用することで、企業は災害時でも迅速かつ効果的に対応できる体制を整えられます。リスク管理の強化を目指して、BCPと災害対策マニュアルの整備を進めましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。