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2024/06/03

訪問看護におけるBCPとは?|策定のポイントから流れまで解説

西條 徹

西條 徹

訪問看護におけるBCP

訪問看護において、BCP(業務継続計画)の策定は非常に重要な課題となっています。しかし、BCPが具体的に何を意味するのか、なぜ訪問看護事業で義務化されたのか疑問に感じている方も多いでしょう。

この記事では、訪問看護におけるBCPの基本概念から策定のポイント、さらに具体的な策定の流れまでを詳しく解説しています。

読み進めることで、訪問看護事業におけるBCPの重要性とその具体的な運用方法について理解を深めることができるでしょう。

訪問看護におけるBCPの重要性

ここでは、訪問看護におけるBCPの重要性について、次の項目に分けて説明します。

  • BCP(業務継続計画)とは?
  • 訪問看護事業でもBCPが義務化された理由

BCP(業務継続計画)とは?

BCP(業務継続計画)とは、企業や事業所が災害や事故などの非常事態でも業務を継続するための計画です。

訪問看護のように人命に直結する事業では特に重要です。事業の中断は利用者の健康に直接影響を与えるからです。

例えば、地震や台風などの自然災害が発生した場合、道路が寸断されてしまい通常の訪問が困難になることがあります。BCPがあれば、代替ルートや避難所での医療提供などの対策が事前に準備できます。

BCPを策定しておくことで、非常事態でも混乱せずに対処できます。そして、利用者の安全と健康を確保するために、訪問看護事業では必須と言えるでしょう。

訪問看護事業でもBCPが義務化された理由

訪問看護事業所におけるBCP(業務継続計画)の策定が2024年4月から義務化されました。

BCPが義務化された主な理由は、近年、大規模自然災害や感染症の世界的な流行が頻発しているためです。例えば、台風や地震などの自然災害は、ライフラインを断絶させたり、建物を倒壊させたりするなど、訪問看護サービスの提供に深刻な影響を及ぼす可能性があります。また、新型コロナウイルス感染症のような感染症の流行も、訪問看護師の活動や利用者の生活に大きな支障をきたす可能性があるでしょう。

このような状況を踏まえ、令和3年度の介護報酬改定において、訪問看護事業所におけるBCPの策定が義務付けられました。この義務化を機に、BCPの策定に取り組み、非常時にも安心して利用できる体制を整えましょう。

参考:厚生労働省『令和3年度介護報酬改定の主な事項について

訪問看護におけるBCP策定のポイント

訪問看護におけるBCP策定は、効率的かつ効果的な業務継続のために非常に重要です。特に以下の3つのポイントを押さえておくことが大切です。

  • BCP策定の目的と重要性
  • 自然災害BCPと感染症BCPの違い
  • 訪問看護事業に必要な3つのBCP

それぞれ解説します。

BCP策定の目的と重要性

BCPの主な目的は、緊急事態が発生した場合でも事業の継続性を確保することです。これには、訪問看護サービスを途切れさせずに提供することが含まれます。

例えば、地震や台風などの自然災害が発生した際、多くの地域で交通や通信が遮断されることがあります。このような状況でも訪問看護を行えるように準備しておくことが重要です。備えがないと、利用者の命や健康に重大な影響が出る可能性が高くなります。

BCPを策定することで、緊急時にどのように対応すれば良いか明確になり、スタッフが一体となって迅速かつ的確に行動できます。

訪問看護におけるBCP策定は、緊急事態でもサービスを継続し、利用者の安全と健康を守るために非常に重要です。事前に計画を立てることで、どんな状況でも冷静に対応できるでしょう。

自然災害BCPと感染症BCPの違い

自然災害BCPと感染症BCPには大きな違いがあります。BCPはその性質により準備と対応が異なるため、それぞれの特性を理解することが重要です。

まず、自然災害BCPは地震や台風など、外部からの物理的な影響に対応します。これらの災害は、施設の建物やインフラに直接的なダメージを与える可能性があります。

例えば、地震が発生した場合、建物の耐震性や避難経路の確保が重要です。台風の場合には、停電や断水への備えが不可欠です。こうした非常事態では、迅速な避難や物資の確保が求められます。

一方、感染症BCPはウイルスや細菌などの目に見えない脅威に対応します。この場合、感染拡大防止策や医療体制の確立が中心となります。

例えば、過去に猛威をふるった新型コロナウイルスのようなパンデミックが発生した場合、感染防止のためのマスクや消毒液の準備、感染者の隔離措置が重要です。また、スタッフの健康管理や代替要員の確保も必要になるでしょう。

これらの違いを理解し、それぞれに合ったBCPを策定することで、訪問看護の業務継続が可能となります。自然災害と感染症という異なるリスクに対処するために、両方のBCPを用意しておくことが重要です。

訪問看護におけるBCP策定の流れ

訪問看護におけるBCP策定の流れ

訪問看護におけるBCP策定は、以下の5つのステップで進めることができます。

  • 基本方針の設定と組織体制の構築
  • リスクの特定と整理
  • 初動対応と緊急対応マニュアルの整備
  • 業務におよぶ影響を分析
  • 業務継続のための計画を策定

それぞれ解説します。

基本方針の設定と組織体制の構築

まず、BCP策定の目的や事業所が目指す姿を明確にし、基本方針を定めます。この際、事業所の理念、地域の地理的特性、過去の災害経験を考慮することが重要です。

次に、BCP運用を円滑に進めるための組織体制を構築します。責任者や担当者を明確にし、役割分担を明確にすることで、いざという時に迅速かつ的確な対応が可能になります。

リスクの特定と整理

起こりうる自然災害、人為的な災害、事故など、あらゆるリスクを洗い出し、それぞれのリスクの発生頻度や事業所運営への影響度を評価します。

また、各職員の勤務形態やスキル、家族構成なども考慮し、災害時における個々のリスクや強みを把握します。これらの情報を基に、災害ごとのシナリオを作成し、リスク値を算出することで、より具体的な対策を検討できます。

初動対応と緊急対応マニュアルの整備

リスク評価の結果を踏まえ、初期対応時や緊急対応時のマニュアルを整備します。既存の災害対策マニュアルを活用しつつ、BCP発動の判断基準や具体的な行動指針を明確にすることが重要です。

例えば、地震発生時のアクションカードを作成し、職員が迅速かつ適切に行動できるようサポートするのも有効な手段です。

業務におよぶ影響を分析(BIA)

災害発生時における業務への影響を分析し、優先的に復旧すべき業務を特定します。これを、BIA(Business Impact Analysis:業務影響分析)と呼びます。

日常業務を洗い出し、重要度に応じて優先順位をつけ、それぞれの業務継続における障壁や代替手段を検討します。この分析結果を元に、災害時の業務継続計画を策定しましょう。

業務継続のための計画を策定

BCPを効果的に運用するための戦略と計画を立案します。

戦略としては、災害レベルに応じた対応指針やBCP文書化などが挙げられます。計画としては、BCPに基づいた定期的な訓練や見直しなどが重要です。

これらのステップを踏むことで、災害時にも利用者の安全を確保し、質の高い訪問看護サービスを継続できる体制を構築できるでしょう。

まとめ

訪問看護におけるBCP(業務継続計画)は、非常事態でもサービスを継続するために欠かせない要素です。近年の自然災害や感染症の流行により、その必要性が高まり、訪問看護事業でもBCP策定が義務化されました。

BCPの策定により、非常時でも迅速かつ適切な対応が可能となり、利用者の安全と健康を守ることができます。自然災害BCPと感染症BCPの違いを理解し、両方に対応する計画を立てることが重要です。

訪問看護事業所は、BCPの策定と運用を通じて、非常時にも安心して利用できる体制を整えましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。