具体的にBCPを策定しよう
今回も、前回に引き続き、具体的なBCP策定の内容についてご紹介していきます。前回は平常時に行っておく対策について触れましたが、今回はいよいよ緊急時の対応についてご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。もっと詳しく知りたい!という方はぜひ、山口さんの著書『スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」』をご一読くださいませ!
緊急時の対応について、策定しよう
BCP発動基準
BCPの発動基準は、予測できる災害と予測できない災害に分けて考えると良いでしょう。例えば地震や火事は予測できませんが、津波や洪水などの水害については、ある程度の予測が可能です。それぞれによって対応も変わってきますので、2種類の発動基準を決めておきましょう。またBCPを発動する権限を持つ人間や、その人が不在の場合の代替者まできちんと決定しておくことが大事です。
予測できない災害
予測できない災害、例えば地震などの場合。まずは震度5弱以上の揺れを感じた場合や、停電が発生した場合など、安否確認を実施します。安否確認発令担当者が揺れを感じた場合や、明らかな大規模地震が起きた場合には、BCPが発動する、などの基準を決めておきましょう。
予測できる災害
一方、予測できる災害、例えば水害の場合。大雨警報や洪水警戒が発表されたり、台風による高潮注意報が発表された場合など、BCPが発動するなど。さらに、交通機関が運休した場合や、気象庁から警報が出た時点での対応など、具体的な行動基準を決めておくと良いでしょう。
行動基準・対応体制
つづいて、スタッフの行動基準や対応体制についても、しっかり策定して明記しておきましょう。
まずはスタッフ自身の安全確保と、利用者様の安全確保を同時に行います。特に避難が必要な場合には迷わず第一優先に避難する様にしましょう。そして介護事業者の場合は生命の維持に必要なサービスを提供し、支援と受援の両方を迅速に行える体制を作りましょう(受援とは支援してもらう・助けてもらうことを指します)。施設が安全な場合はできる限り地域に開放し、地域貢献に努めるなどの基準も決めておけると良いでしょう。
対応体制については、いくつかのフェーズに分けて記載しておきましょう。
①状況把握
・施設の状況、災害の全容、インフラ情報、交通情報などを把握する
・スタッフ自身の家族の安否確認と自宅の安全を確保し続ける
・利用者様の家族への安否確認
・グループ法人・公共機関との情報連携
②応急対処
・初期消火や近隣住民の倒壊・火災などへの対応
・応急手当や119番通報
・水害の場合は浸水対応(電気情報関連を机の上・上階へ移動)、ブレーカーのOFF、太陽光パネルのモニター確認・自家発電作動確認・UPS稼働確認 など
③安否確認・被害状況の確認
・施設内での点呼や報告に加え、外部連絡手段(メールやSNSライン)を用いた安否確認を行います。
・ガラス破損時のセキュリティーの維持(ブルーシートとロープで侵入防止・電池ランタン点灯)
・施設の被災状況確認、生命維持装置の動作確認
・医療ガス配管・水道管・防火用水菅・スプリンクラー菅・ガス配管・ボイラーの確認、漏れがある場合は元バルブの停止
・車両の燃料残量の確認 など
④情報連携・代替拠点について
・グループ法人や公共機関との情報共有
・災害時の本部や拠点を決定し、インターネットの利用可能性などを考慮して代替拠点の確保と判断
その他、備蓄品の管理や食料の調達、車両搬送など細かく考えられる動きを網羅して挙げていきましょう。人数に限りがあるため、ほとんどの役割を全員で行うことになりますが、担当者として迅速に対応するために、リーダー、副リーダー、メンバーを決めておくと良いです。
二次災害の防止
災害発生において、安否確認や状況把握が済んだら、二次災害防止に努めましょう。二次災害で命を落とされる方も少なくありません。緊急時はパニックになりますから、事前に対応をしっかりと策定しておき、訓練を重ねることで緊急時でも動ける様にしておきましょう。
地震の場合などは余震に備え、建物内での安全確保と率先した避難の指示を行いましょう。安全な場所に避難し、倒壊や転倒などから身を守ります。水害や台風などは、増水や暴風雨による被害を最小限に抑えるため、避難所や高台への避難を促します。事前に避難場所を必ず決めておき、迅速な避難を心がけましょう。
BCP 災害対策本部の立ち上げ
本社の場合は、BCP災害対策本部を立ち上げ、今後の対応について相談・共有しながら進めていくことが大事です。
次に通信手段や電源の確保です。ソーラーパネルやUPS(無停電電源装置)、非常用発電機、ポータブル蓄電池、カーインバーターなどで対応できます。特に、生命維持装置への電源供給は介護事業者においてマストの対応です。ナースコールや生命維持装置の動作確認、貯水槽の残量確認なども必要になります。
災害対策本部が立ち上がったら、災害の実態を正確に把握し、必要な対応を適切に行いましょう。被害の範囲や程度、影響を受けた人数などを調査します。そこから各部署や関連組織との連携を図り、必要なスタッフや設備、材料の稼働状況や在庫、調達状況を把握しましょう。
スタッフや利用者の家族への連絡や、体調・意向の確認なども必須になります。一時帰宅の可能性や、重傷者がいる場合は病院への転院なども考えられます。施設の破損箇所への応急処置や保険会社への連絡、福祉避難所として開くかなど、やることは山積みです。しっかり順序立てて、冷静に漏れがなく動けるように、平常時に対応をしっかりと決めていきましょう。
また、本社以外の場合は、安全性が高く、機能性のある場所を事前にリサーチしておき、緊急時対応体制の拠点となる候補場所も記載しておきましょう。
施設な以外での避難場所・避難方法
施設内の場合
施設内の場合は、以下の画像の様にどこにどう避難するのか、それぞれの施設の利用者様の状況も鑑みてまとめておきましょう。火災の場合はまず駐車場へ避難、戻れる場合は施設へ、戻れない場合は以下の施設へなど、細かく設定しておくことが大事です。

施設外の場合
施設外の場合においても、必ず事前に避難場所を複数決めておきましょう。そこまでのアクセスも鑑みて、避難方法も検討しておくことが大事です。

重要業務の継続について
BCPにおいて最も大事だとも言えるのが、優先業務の継続方法です。被災想定や従業員の出勤管理と合わせて、どの業務から優先して継続・対応していくのか?を事前に決めておきましょう。以下の例のようにまとめたり、被災後どれだけ経過したかなどの時系列でまとめると分かりやすく、安心です。
(例)
・生命維持(酸素療法・たん吸引・カテーテル・胃ろう・寝返り介助など)
→停電時は手動で対応し、発電機を作動させて継続。
・排泄・排泄介助
→紙おむつ交換や非常時トイレ対応をメンバーと実施。
・飲料・非常食介助・栄養補助食品
→通常給食を休止し、温めるだけの非常食と栄養剤で対応。
・薬の服用
→服用を中断できない利用者様にはできる限り継続、その他は一時休止。
・清拭・褥瘡のケア
→最低限の範囲で実施し、適宜対応。
・救急搬送
→可能な限り実施。 など
介護事業者以外の場合は、どの事業を継続して行うのか?グループ内、地域の多店舗連携で実施可能かどうかなどを鑑みて、策定しておきましょう。
緊急時の職員の管理や勤務シフトについて
緊急時は利用者だけでなく、施設で働く職員も同じ被災者であることを忘れずに、安全に対応してもらうことが必要です。職員が長期間帰宅できない状況も考えられるため、休憩や宿泊のできる候補場所を検討し、指定しておきましょう。
また勤務シフトに関しては、帰宅もままならない中での長時間勤務となる可能性があるため、参集した職員の人数により、なるべく職員の体調および負担の軽減に配慮して勤務体制を組むよう災害時の勤務シフト原則を検討しておきましょう。また、災害時はタイムカードが機能しなくなり、災害対応の時間外労働が増えるため、勤務時間のメモを残しておく様にしましょう。
▶️災害時の勤務シフト原則
・労働基準法を遵守
・施設内・法人内での人員確保、自治体・関係団体への応援職員の依頼を迅速に行う
・役所へ罹災証明提出、自宅の整理などにあてる平日の昼を休めるシフトへ変更
・ボランティアの要請と受け入れを実施する
・応援スタッフやボランテイアの食事対応、休憩室、宿泊場所を決める
労働基準法第33条(災害時の時間外労働等)について
災害、その他避けることのできない事由により臨時に時間外・休日労働をさせる必要がある場合においても、例外なく、36協定の締結・届出を条件とすることは実際的ではないことから、そのような場合には、36協定によるほか、労働基準法第33条第1項により、使用者は、労働基準監督署長の許可(事態が急迫している場合は事後の届出)により、必要な限度の範囲内に限り時間外・休日労働をさせることができるとされています。労働基準法第33条第1項は、災害、緊急、不可抗力その他客観的に避けることのできない場合の規定ですので、厳格に運用すべきものです。なお、労働基準法第33条第1項による場合であっても、時間外労働・休日労働や深夜労働についての割増賃金の支払は必要となります。
※過労や被災、長時間通勤のため、離職者が多数出ることを覚悟しておきましょう。それに伴い、新規雇用や、OBへの連絡など人数の確保の方法なども考えておくといいでしょう。
復旧対応
非常時では応急的な対応に加え、自施設に早く戻って業務が復旧できるよう努めることも必要になってきます。応急対応が落ち着き次第、施設や体制の復旧対応まで見越して動きましょう。
まずは施設の破損個所の確認からスタートします。復旧作業が円滑に進むように施設の破損個所確認シートを整備し、別紙としてBCPに添付しておきましょう。
<建物・設備の被害点検シート例>
対象 状況(いずれかに○) 対応事項/特記事項
建物・設備 | 躯体被害 |
エレベーター | 利用可能/利用不可 |
電気 | 通電 / 不通 |
水道 | 利用可能/利用不可 |
電話 | 通話可能/通話不可 |
インターネット | 利用可能/利用不可 |
バスルーム | 利用可能/利用不可 |
トイレ | 利用可能/利用不可 |
洗濯室 | 利用可能/利用不可 |
セキュリティキャビネット | 転倒あり/転倒なし |
階段 | 利用可能/利用不可 |
避難階段 | 利用可能/利用不可 |
自動ドア | 利用可能/利用不可 |
キッチン | 利用可能/利用不可 |
ガス | 利用可能/利用不可 |
ブレーカー | 利用可能/利用不可 |
貯水槽 | 利用可能/利用不可 |
ガラス(フロア単位) | 破損・飛散/破損なし |
キャビネット(フロア単位) | 転倒あり/転倒なし |
天井(フロア単位) | 転倒あり/転倒なし |
床面(フロア単位) | 落下あり/被害なし |
壁面(フロア単位) | 破損あり/被害なし |
照明(フロア単位) | 破損・落下あり/被害なし |
また、合わせて復旧工事が必要な場合に備え、業者連絡先一覧の整備もしておくと安心です。通常業務と復旧作業を依頼できるよう業者連絡先一覧を準備しておきましょう。
今回は、BCPの具体的な記載の中でも非常時に焦点を当ててご紹介しました。もちろんまとめ的に紹介しているので、もっと詳しく知りたい!という方はぜひ、山口さんの著書『スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」』をご一読ください。
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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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