具体的にBCPを策定しよう
今回も、前回に引き続き、具体的なBCP策定の内容についてご紹介していきます。前回は基本的な方針や総論について触れましたが、今回は平常時の対応・対策・準備についてご紹介しますので、ぜひ参考にしてみてください。もっと詳しく知りたい!という方はぜひ、山口さんの著書『スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」』をご一読くださいませ!
平常時の対応
非常時はほとんどの機関やインフラなどがストップ・または遅延などのケースがほとんどです。非常時になって動き出したり準備をしても遅いので、平常時にどれだけ備蓄や対策などの準備ができているかで、生存率はもちろん変わります。言わずもがな介護事業者の場合は、それが利用者さんの生命にも繋がるわけですから、必ず細かくシミュレーション・点検や確認を繰り返し、対策を検討しておきましょう。
建物・設備の安全対策
耐震措置
建物の築年数や耐震補強工事について、自家発電設備・貯水槽など、BCPの策定を機に改めて確認し直しましょう。
建物の築年数については、1981年(昭和56年6月)より古い建物は新耐震基準以前の建物なので、耐震診断と耐震工事が必要になります。また「2000年基準」に関しても併せて確認しておきましょう。これらの耐震基準によってリスクの度合いや、対応についても変化が生じます。耐震補強工事が必要な場合については、実施予定時期なども含めて記載しておきましょう。
https://www.nikkei.com/article/DGXMZO02757460V20C16A5000000/
貯水槽については、紫外線で劣化したFRPは地震で損壊の恐れがあるため、ステンレス製への変更を薦めています。貯水量を確認し、何人分がどの程度の時間まで生活ができるかも併せて計算しておきましょう。
エレベータは閉じ込めの可能性があるので、閉じ込めセットを購入しておきましょう。また地震時、停電時、自動で最寄り階で停止しドアが開くタイプに交換しておくと安心です。各種ガラス部分に関しては、飛散防止フィルムを貼っておくようにしましょう。怪我を防げることはもちろんですし、避難経路としても機能できるようになります。消火スプレーは電気火災・普通火災・天ぷら火災・ストーブ火災の4種類に対応できるものを利用者様居室のドア付近の壁に設置しておきましょう。
設備の点検
設備等に関しては、定期的な日常点検を実施しておきましょう、
▶️年1回は確認した方がいいもの
・エレベーターの動作確認
・非常灯、誘導灯
・火災報知器、スプリンクラー
・消火器、消火スプレー(強化液消火器に変更し、かがまなくても取れる高さにフックで固定。または、壁収納式のドアつきに変更。錆びていないかや使用期限も確認)
・消火ポンプ、消火水槽(貯水量や位置)
・AED
・各種ポンプ(湧水槽・汚水槽など)
・ブレーカー、ナースコール など
・酸素濃縮器、人工呼吸器
▶️月1回は確認した方がいいもの
・通路(負傷者を搬送できる幅があるか。最低でも120cm以上、両側に居室がある場合は160cm以上。こちら法律で決まっているので、しっかりと幅を取っておくようにしましょう。また備品や荷物などを置いて、幅を狭めないよう注意しましょう)
・防火ドア
・電子レンジ(電子レンジの中の上面も横面も下面も清掃されているか。内部火災の危険があります) など
その他、排水溝が詰まっていて浸水するケースや、屋上洪水などのケースもしばしば見られますので、排水溝などの点検も忘れずに。稀にあるのですが、電気湯沸かしポッドは、ポッドの上に布巾などを乗せていないか確認しましょう。蒸気が逃げられず、火災の原因になります。消防の設備点検をきちんと行なっていなかった事業所が、火災報知器が鳴らず利用者やスタッフが亡くなられた例はいくつかみられます。必ず点検を怠らないようにしましょう。
風水害対策
風水害対策については、電気・ガス・水道の3パターンが止まった場合について記載しておくと安心です。被災時に稼動させるべき設備と自家発電機などによる代替策を記載しておきましょう。
・電気が止まった場合の対策

・ガスが止まった場合の対策

・水道が止まった場合の対策
電気・水道・ガスの中でも大変なのが、水道が止まった場合です。
まずは被災時に必要となる飲料水および生活用水の確保方法について、記載しておきましょう。例えば飲料水の場合は貯水槽または高架水槽の飲料水で対応、貯水槽(〇〇トン)に災害用の蛇口を新設、蛇口から綺麗なホースをキッチンまで伸ばす(ホースの備蓄〇〇m)、地下の貯水槽の飲料水で対応、貯水槽に災害用の蛇口を設置
水中ポンプで汲み上げ(水中ポンプの備蓄)などの方法について、細かく記載しておくと安心です。
生活用水(入浴・キッチン・洗濯)については、
・入浴については、シャワー入浴をやめ、清拭に切り替え清潔に保つ(ウェットタオル・飲料水使用・お湯)
・清拭は、災害時とはいえマッサージするように丁寧に行い血行を改善させ「エコノミークラス症候群」を防ぎます
・入浴車の手配を行う(事前にリストアップ)
・調理は、非常食・食事に飲料水を使用し、食器を洗わなくて良いように使い捨て紙皿や紙コップを使う また、ラップを食器に敷いて使いラップのみを交換する(ラップは多めの備蓄)箸やフォーク、スプーンは除菌ペーパーで拭いて使う
・介護給食弁当の手配を行う(事前にリストアップ)
・洗濯は一旦停止、外部クリーニング業社への依頼を検討(事前にリストアップ)
などの方法があります。また井戸使用についても検討しておくことも良いでしょう。阪神淡路大震災を被災した神戸市では井戸マップもあるので、近隣の井戸の場所を確認しておきましょう。貯水槽を活用する場合は、容量を、ポリタンクを準備する場合は容量と本数を記載することを忘れずに。
また被災時は、汚水・下水が流せなくなる可能性があるため、衛生面に配慮し、トイレ・汚物対策についても検討しましょう。
▶︎水が出ない場合
・災害用トイレ(排泄袋)を既存のトイレに設置して対応(1日に1人5回計算)
・水を抜かずに白いビニール袋をかぶせテープで固定し、その上に排泄用袋を設置して用を足す
・トイレットペーパーもその中に廃棄して、排泄袋を結び収納袋へ入れる
・紙おむつで済ませられる利用者様には紙おむつで対応 など
▶︎中水を用意できる場合
・河川からの汲み上げ 組立式ウォータータンク(1トン)へ汲み置きし、トイレに使用
・バケツで汚水を流す など
排泄袋に入れたものは屋外で匂いがしない袋に二重に詰めて保管し、自治体の指示に従い、平台トラックなどで輸送するなど、併せて排泄物や使用済みの紙おむつなどの汚物の処理方法も決めておきましょう。
必需品の備蓄
被災時に必要な備品はリストに整理し、計画的に備蓄しておきましょう。消費期限があるため、メンテナンス担当者を決め、定期的にリストの見直しを実施しておくことをお薦めします。以下の記載例のように細かく出しておくと安心です。
【備品記載例】
・発電機 エネポ(カセットガス発電)
・発電機 MGC2200(プロパンガス発電)
・ポータブル蓄電池 LB-400
・蓄電池 VOLTANK ML-720i
・防雨型コードリールSS-30
・LED作業灯三脚セット
・充電式LEDアップライト
・カセットガス
・4サイクルエンジンオイル
・白灯油 1L×8缶入(石油ストーブ用)
・背負い式工具セットB
・ヘルメット
・ヘッドライト
・二つ折担架
・トランスポートチェア(救助担架)
・アルミ製スタンダード車いす
・懐中電灯
・災害多人数用救急箱 20人用
・ゴムボート(空気入れポンプ)
・救命胴衣(ライフジャケット)
・アルミGIベット
・LEDランタン(蓄電式・電池式)
・簡易トイレ 100回分(抗菌凝固剤+排泄袋)
・組立式段ボールトイレ
・常備用カイロ
・エアーベッド 64761ダウニーシングル
・対流型石油ストーブ(丸型)
・カセットコンロ
・組立式ウォータータンク(1トン)
・ウェットタオルワイド など
資金手当てについて
災害に備えた資金手当て(火災保険など)も忘れずに記載しましょう。緊急時に備えた手元資金等(現金)なども併せて確認しておくと安心です。先立つものがなければ、経営も立ち行かなくなりますから、資金面での対策・対応についても必ず検討しておきましょう。
・自己資金の活用 (〇〇円)
・民間金融機関からの融資(銀行・信用金庫)
・政府系金融機関からの災害特別融資
・生命保険からの借入・解約返戻金の利用
・損害保険(想定している被災に対象外があるので保険の詳細を担当者に聞いて事前に認識する)
例:水害の地面からの高さの認識違い45cm以上の浸水でしか出ないなど
・災害特別法などによる政府からの助成金の活用
・従業員への雇用助成金の積極活用
・税理士・社労士・弁護士への相談
今回は、BCPの具体的な策定における、平常時の対応について確認していきました。次回は非常時の対応について、ご紹介していきますので併せてご確認ください!
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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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