訪問介護の注意点を整理しよう
利用者の立地・建物のリスク診断
これまで施設内や社内でのBCP策定をはじめとした、防災対策をご紹介してきましたが、介護事業者は施設や社員の防災対策と同じように、やらなければいけないことがあります。それは、利用者様に対しての防災対策です。
利用者様とそのご家族様が、災害に対して理解が深いとは限りません。訪問先の利用者様のご自宅では、転倒防止対策や、災害の備えがどれだけできているでしょうか?要介護者に対する防災と対策に対して、訪問して家の中に入れる介護訪問スタッフに期待が高まっています。また、平時の動きはもちろんのこと、非常事態の動きまで気にかけてくれるスタッフや施設は、利用者様から信頼されやすいでしょう。普段からコミュニケーションをとりながら関係性を構築し、有事の際の対策まで、ぜひ一緒に考えてあげてください。
利用者様の地域のリスクを調べる
水害(津波・洪水・土砂など)に対する避難
最低でも、土砂災害と洪水・内水氾濫のリスクを一緒に確認しましょう。2階に上がれば助かるのか、津波避難ビル、避難専用の建物、学校・公民館など、ハザードマップを確認しながらどこに避難するかを一緒に考えましょう。利用者様のみならず、ご家族とも話し合えればベストです。
過去、洪水などの水害で命を失う要因は3つのパターンがあります。
①避難しないで家に留まり、家が浸水または流され犠牲になるパターン
②避難している最中に犠牲になるケース
③自分で避難が出来ないケース(災害時要援護者)
③においては、耳が不自由で防災放送が聞こえず亡くなった例もあります。また、避難せず自宅の2階にいれば助かっていた事例も多数あるのです。災害に応じて避難が必要かどうか事前に話し合う必要があります。
土砂災害の可能性がある場合は、山側ではなく、谷側(平地側)の2階を寝室にすることで、土砂に飲み込まれるリスクを軽減できることを憶えておきましょう。気象庁から土砂災害警報が出た場合、または、地域から高齢者等避難(要援護者避難情報)が出されたら、防災リュックを持っての早めの避難が必要です。

地震の場合の避難
寝室では、家具が倒れてこないよう対策を講じておきましょう。また、タンスや家具が倒れて空気清浄機やストーブの上に覆いかぶさるのも危険です。寝室に家具を置く場合、ベッドとの位置関係の他、出入り口との位置関係も考えておきましょう(出入りできなくなるのを防ぐため)。一番良い方法は、寝室に家具を置かないことです。
さらに、寝室から玄関までの家具の転倒防止対策も必須です。ただこのような寝室や台所・リビングの転倒防止を行うのは、介護士の仕事の範疇外になります。新サービスとして別途費用で行うことも検討して良いかもしれません。専門会社と契約して、利用者様にご紹介するのもひとつの方法です。

自治体によっては、転倒防止や耐震工事に補助金が出る場合もあります。「転倒防止 補助金」「耐震診断 補助金」「耐震工事 補助金」などで検索してみましょう。以下は吹田市の事例です、自身の自治体での対応を確認してみてください。
https://www.city.suita.osaka.jp/kenko/1018656/1018665/1014555.html
利用者様の備蓄や、防災リュックの中身について
介護訪問先の利用者様の非常持ち出し品(防災リュックに入れる備蓄品)
・お薬手帳・現在服用中の処方箋のコピー(避難先にも持っていく)
・名札(痴呆などで迷子になった時用)
・服用中のお薬
・保険証・年金手帳・介護保険証
・身体障がい者手帳・医療書・高齢受給者証・負担割合証・国民健康保険減額認定書
・オムツ・トレーニングパンツ
・スリッパ
・ライト
・ペットボトル500mlを2本
・お菓子・飴
・栄養ゼリー飲料 3袋
・栄養飲料 3本
・毛布(フリース)1枚
その他、杖や入れ歯の容器(避難所用としていつも使っているものと同じ新品のケース)など、必要に応じて防災リュックに入れておきましょう。リュックには「椅子になるリュック(リュックにワンタッチ折り畳み椅子がくっついている)」も最近は販売されており、防災リュックにうってつけの製品も多数あります。どこに置いたかを忘れてしまうことが多いので、玄関先、または出たところに置いておくと外に出る際に気付きやすく便利です。
利用者様の自宅の備蓄(リュックではなく、非常用の備蓄品)
こちらは、避難所へ持って行かない、家庭用の備蓄です。
・飲み水(2Lを4本、500mlを4本の合計10L)。お年寄りには2Lは重すぎるので、飲む時は500mlを使う
・アルファ化米(お湯で15分、水で60分)または、フリーズドライ米(お湯で3分、水で5分)10パック
・加熱パック(使い捨てカイロと同じ仕組みで水をお湯にするプラスティック袋)10回分
・給水タンク(蛇口コック付き8~12Lタンク)
・ゴムベルト(給水タンクをシルバーカーに乗せて運ぶ時のベルト)
・トイレ用ビニール袋 非常時用排便収納袋(洋式トイレにつけて使う:マイレット) https://mylet.jp
他にもたくさんあるのですが、一旦ここまでにしておきます。自宅の備蓄に関しては、第5回で紹介した「ローリングストック」を参考にしておきましょう。
最低限の備蓄品を用意して、重要物はポーチに入れておき、水食料はリュックに入れて配置します。配置する場合は、分散保管がいいでしょう。それぞれメリットデメリットが考えられるので、分散保管する場所は以下を参考にしてみてください。
・玄関(素早く取れますが、出入りに邪魔になります)
・廊下(目立つので場所を忘れませんが、歩行の邪魔になります)
・1階に置いておく(浸水の場合は取りにいけなくなります)
・2階の階段付近(場所によっては浸水の可能性が低くなります)
・押し入れの中(入れたことを忘れてしまわないようにしましょう)
また、災害時要援護者登録制度への登録も済ませておきましょう。自治体へ申請する場合と、自治体が自動登録する場合があります。大阪市の場合は自動登録となっております。各自治体での対応を調べて最新情報を確認してください。
https://www.bousai.go.jp/taisaku/youengo/060328/pdf/hinanguide.pdf
従業員へのお見舞金、ボランティア派遣の独自助成金制度とは?
災害で従業員の方が亡くなられて、お見舞金を出す場合も考えられます。従業員へのお見舞金は、
・法人から出す場合
・経営者個人から出す場合
・スタッフ全員からお気持ちを集金する場合
がありますが、法人からのお見舞いは、1親等なのか2親等までの死傷者に出すかを決めておき、金額は災害の状況によるのでその時点で決めるようにすれば大丈夫です。
スタッフが休日を使って、他地域の災害ボランティアに参加する場合、法人からの助成金対応を決めておくのも良いでしょう。サポートの仕方としては、以下の3つが考えられます。
・旅費宿泊費の助成
・ボランティア保険の助成
・休日出勤扱いにする(これは社を代表して参加する形なので報告書が必要)
全額ではなく半額助成でもいいと思いますが、何か規定があると参加しやすくなり、災害時の社会貢献ができます。また、その経験は自分たちが被災した場合の経験値にも繋がります。参加する際は、該当地区の自治体のホームページなどで募集について確認してから参加するようにしてください。
防災⼠の詳細はこちら
著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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