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2023/12/08

介護事業者のBCP策定シリーズ【第4章】 介護施設におけるBCPを策定しよう!

山口 泰信

山口 泰信

令和3年度の法改訂において、介護業におけるBCP(事業継続計画)の策定が義務づけられました。BCPとは、自分たちの組織や施設が、その目的や重要な役目を継続するため、事業や作業・サービスを提供し続けるための事前計画のことです。

よく勘違いされるのですが、BCPの策定は書類を完成させることが目的なのではなく、人や施設を災害や事象から守ることが目的です。また、その災害や事象は火災や感染病など多岐に渡りますし、地域・地形や施設の建物構造によっても変わってきます。

私が実際にさまざまな施設を指導している中で、最も多いのが「各施設にひとつずつ作るんですか?」とか「同じ施設の中に別々の事業所が入っているのですが、どうしたらいいですか?」といった質問です。

お先にお伝えしておくと、災害や事象に対しての「リスク対応」はまとめてしまってもいいでしょう。施設で一丸となって作成するメリットとして、連携がスムーズに取れることが挙げられます。しかし、施設ごとにあまりにも規模が異なったり、事業所の内容が異なる場合は別で作りましょう。

介護BCPの場合、初年度はひとまず「策定する」ことが重要です。最初から完璧を目指すのではなく、ひとまず策定し、その上で見直し・点検を繰り返しアップデートしていけばいいのです。次年度では、訓練が確実に行われていることが重要です。スタッフの防災意識を高めることが求められます。

BCO策定の具体的な流れ

まずは、厚生労働省の「介護施設・事業所における業務継続計画(BCP)作成支援に関する研修」から「ひな形」「様式ツール集」「ガイドライン」をダウンロードするところから始めましょう。このウェブサイトでは、説明動画も充実しており分かりやすいため、おすすめです。(しかし、2023年10月現在、残念ながら厚生労働省では、まだ認証や登録などはありません)

BCPは重要な事業を中断させない、または中断しても可能な限り短い時間で事業継続させるための方針と手順、準備、改善更新を定めておくものです。特に介護施設の場合、事業の中断は利用者さんの生命にも関わります。

介護BCP(静岡県モデル)
https://www.pref.shizuoka.jp/kenkofukushi/koreifukushi/1040734/1040733/1023358.html

策定メンバーについて

BCP事業継続計画書の進め方には、いくつかの方法があります。

  1. 本社総括部門が作成し、各施設に配布し各施設の独自項目を追記するトップダウン形式(全施設の関係性と位置図、法人としての重要業務・重要施設などが記載される)
  2. まずは各施設で、自施設の部分を作り、本社総括部が最終的にそれらを取りまとめるボトムアップ形式(防災計画のようなものが先に作成される)
  3. 一施設をパイロット施設として本社総括と一緒に作成し、他施設はそれを元に独自項目を変更追記するモデル形式(全体完成まで少し時間がかかります)

拠点が一つの場合、防災マニュアルの要素から作成して、備蓄品の整備と防災訓練、安否確認訓練などの最低ラインの完成を目指しましょう。その後、地域連携や利用者様のご自宅などの防災対策支援、お風呂サービスの解放など社会貢献の部分を広げていけば問題ありません。

施設の建物構造について把握しておこう

建物の築年数を理解することはとても重要で、建築確認日が昭和56年6月1日(1981年)以降であれば新耐震基準を満たしていることになります。これ以前に建てられている場合は、耐震基準が以前のものなので、厳しくチェックする必要があります。

地震発生からの圧死は、まず避けるべき事態です。例えば、古い家屋で倒壊の可能性がある住宅の場合。寝室に頑丈な家具をおいてそれらを完全に固定してその部屋を堅牢にする方法もあり、その他、ベッドそのものに頑丈な柱と屋根がついているシェルターのような耐震ベッドを用意するなどの対策が必要です。

貯水槽と停電時の動作確認も忘れずに

施設に貯水槽がある場合、屋上にあるのか、1階部分か、地下にあるのか、場所を確認しておきましょう。地震が起きた場合、水道配管・消火水配管が破損するケースがほとんどですが、屋上や上層階の配管が破損すると、濡れるだけではなく、パソコンや電気配線システムを濡らして使えなくなる場合もあるのです。場所を確認した際、どの配管のバルブを閉めたら良いかも必ず一緒に確認して、表示をしておきましょう。

また、地震を感知して自動で停止する「緊急遮断弁」も後付けすることが可能です。貯水槽があるとその水が飲料水として使えます。そのためには、どのバルブなのかを確認しておく必要があるので、必ず確認するようにしておきましょう。

貯水槽からの給水において、都合のいいところに蛇口がない場合は、蛇口を新設してください。飲料水を汲み上げられない時は、水中ポンプ(電気式・充電式・乾電池式・手回し式)を準備しておくのも手です。(数千円~数万円)

保安関係設備の動作など

火災報知器・警備システム・入退室カードキー・防犯カメラ・ナースコール・スプリンクラー・館内放送・消火栓、119番通報システムなどの保安設備の確認も忘れずに。ただ場所や仕様を確認するだけではなく、停電時にどのように動作するか、どのように停止できるかを必ず確認しておくこと。事業所や施設によって異なりますので、確認を怠らないようにしましょう

緊急連絡網を作成しよう

双方向通信で、安否確認が何度もできる体制を

BCP作成の中で最初に着手すべき項目は「安否確認」です。すでに何らかのコミュニケーションツールで、勤怠管理などの仕事を円滑に進めているはずなので、それを文書化するだけです。そこから緊急時の対応を考えていきましょう。

地震の場合、揺れが何度も発生した後にも、津波や、火災など次々と災害が連鎖的に発生します。ですから、一度連絡がついたから安否が確認できたという訳にはいきません。何度も安否を確認しなければいけないケースがほとんどです。

災害による影響が大きい場所ほど連絡がつかないので、次の4つの安否確認を想定しておきましょう。

  • 一斉配信型(システムや本部から安否確認のメールが配信されスタッフが返信)
  • 情報集約型(スタッフや施設長から安否情報を本部へ送信 本部で集約)
  • 情報共有型(SNSやLINEのように一人が配信すると登録者全員が同じ情報を共有)
  • 訪問捜索型(連絡が付かない仲間や利用者様を探しに行く)

これらを、電話やSMSでの共有や、LINEなどのトークアプリを駆使し、連絡系統を作っておきましょう。リアルタイムで通知が届き、返信が容易なものほど安否確認がしやすくなります。

誰が何を使えるのかを確認し進めていきますが、もっぱら職場で使用しているツールを活用した方が迅速ですし、使いやすいでしょう。そのツールでは補えない部分を、別のシステムやアプリケーションの機能に求めることになります。

さらに重要なのが、連絡がつかない時の対応です。全く連絡がつかなくても「自動参集メンバー」が自動的に集合場所に集合し、到着した者から初動対応を行うように決めておくことが必要です。勤務時間外・非番の時・夜間を決めておく必要があります。

  • 時間に関係なく参集するメンバー(夜間休日でも)
  • 明るくなってから安全が確保できた上で参集するメンバー
  • 自宅待機するメンバー

この自動参集メンバーに関しては、マニュアルで理解するのではなくメンバーそれぞれが肝に銘じておくことで成り立ちます。予期せぬ災害では、連絡が必ず取れるとは限りません。そのため、連絡がなくても自動的に行動できる対応を決めておくことも大事になります。

安否確認の仕方

安否確認は迅速に、かつ伝えたい情報をきちんと送受信することが大事です。ただ「大丈夫?」などのやりとりではなく、以下のような点を意識して、安否確認を行うようにしましょう。

  • 「自身と家族の安否は?」 「安全」
  • 「出勤の可否は?」 「出勤可能」
  • 「どのような状況?」 「停電ですが家族皆無事」「自転車で通勤可能」など

これらを端的に質問し、答える練習をしておきましょう。どんな災害でも、一次被害を最小限に収めるためにはスピードが肝心です。ラインなどのSNSを使えば、グループ内での呼びかけが可能なので、ぜひ活用していきましょう。

おもしろいことに、BCPの策定を進めていくにつれて、日々の情報連携の精度が上がるんです。策定を進めていく上で、さまざまな支部・人へと報連相をする必要が出てきますから、自然と連絡のしやすいルートが生まれたり、グループができたりと情報連携が上がります。だからこそ、まずは策定することが大事なんですね。

その他、安否確認の詳細については、本書で紹介しておりますので、ぜひご参考ください。

ハザードマップの確認とBCPへの表記法

まずは、自治体のホームページに災害ハザードマップが必ずあるので、次の内容を調べてください。また、これらは、数年に一度更新されるため、必ず毎年確認するようにしましょう。

  • 自宅の標高 m
  • 職場拠点の標高 m
  • 地震震度〇〇弱・強
  • J-SHISカルテ
  • 洪水 0m~0m
  • 内水氾濫 0m~0m
  • 高潮 0m~0m
  • 津波 0m~0m
  • 土砂災害の危険(マップ)
  • ため池の危険(マップ)

ハザードマップを見ながら上の情報を記入し、BCPの中に表記します。これらが分かれば、どのような対応をとるべきか、少しずつ解像度が上がります。また、ハザードマップで調べた数字だけでなく「マップ」の画面で記憶することも大事なので、スクリーンショットをするなどして、画像も必ず添付しておきましょう。

「地震ハザードステーション」と「重ねるハザードマップの使い方」

国土交通省の「重ねるハザードマップ」は、住所番地を空欄に入れると、フラッグポイントが示されます。ピンポイントの標高なども分かり、かつ、津波や高潮、土砂災害の危険性も色分けで表示され、使いやすいのでオススメです。さらに、地形区分から見た災害リスクを調べることができます。しかし最大の難点は、洪水や高潮については国内全地点を網羅していないことです。こちらは地域のハザードマップで必ず確認しましょう。

https://www.j-shis.bosai.go.jp/(地震ハザードステーション/国立研究開発法人防災科学技術研究所作成)

また、弊社HPにはこれらのマップの使い方のレクチャー動画をまとめています。ぜひこちらも参考にしてください。https://www.bcpjapan.jp/blog/p=4213

各地のGISマップの使い方

県単位・自治単位と決まっている訳ではありませんが、多くの場合「地名 GIS」で検索すると、地理情報システムが検索結果に現れます。その中に、自分の地域と関係性のあるデータが表示されるので確認しましょう。

国土地理院のデータを元に、地形・地質・標高・土地利用・人口統計など、とてつもない量の情報が詰まっていますので、使い方次第です。また、これは地域によって表示される中身がかなり違うことを承知してください。また、データが多いので表示に時間やパケットをたくさん使います。ほとんどの場合、利用規約に承認することを求められます。役に立つ素晴らしい情報が満載です。

例えば、

「大阪 GIS」=「マップナビおおさか」大阪市の人口統計・都市計画・防災マップ・液状化マップ
「山口 GIS」=「山口県GIS」地形分類・地質分類・地すべりマップ・観光スポット
「北海道 GIS」=「GISで見る北海道の環境と資源」土地利用・防災マップ・農林水産業情報
「横浜 GIS」=「横浜市地図情報ポータルサイト」区ごとの医療福祉施設・防災設備・AED・避難場所

など、県単位だったり、市区町村単位だったりしますが、情報は市民の暮らしに役立つように綺麗にまとめられて表示されています。ぜひこれらのツールを活用して、BCPの策定を進めていきましょう。

防災⼠の詳細はこちら

著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数