介護老人保健施設でBCPを策定するメリットと作成の流れを解説

介護老人保健施設などの介護施設では、BCPの策定が義務付けられています。

しかし、BCPとは何なのか、BCPを策定するときに何に気をつければ良いかわからない方も多いでしょう。

この記事では、介護老人保健施設におけるBCP策定のメリットと、作成の流れについて解説します。

この記事を読むことで、感染症や災害時に日頃から行うべき対策がわかり、いざという時に職員全体でスムーズな対応ができるでしょう。

ここでは【福祉用具貸与事業所向け】BCP義務化の背景や策定のポイントを解説しております。

介護老人保健施設とは？

介護老人保健施設とは、在宅復帰を目指す要介護者の方が入所できる介護保険施設です。

ここでは、詳しい介護老人保健施設の概要について解説します。

介護保険が適用される介護保険施設

介護老人保健施設とは、要介護者が心身の機能の維持回復を図り、居宅における生活を営めるように、介護や看護、機能訓練などの日常生活上の支援を行うことを目的とする施設です。

介護老人保健施設は介護保険が適応されるため、有料老人ホームなどの民間施設と比べると、比較的費用を安く抑えられます。

参考：厚生労働省『介護老人保健施設』

リハビリを行い在宅復帰を目指す施設

介護老人保健施設は、入所後にリハビリに取り組んで在宅復帰を目指すことが前提の施設です。

そのため、介護職員や看護師などに加えて、理学療法士や作業療法士、言語聴覚士などのリハビリ専門職も必ず１名以上が常駐しています。

入居期間が限られている

介護老人保健施設の入居期間は、基本的に3ヶ月と定められています。

3ヶ月ごとに評価を行い、在宅復帰が可能かどうかの審査をします。在宅復帰に必要な状態まで回復していると判断された場合は退所となり、今後もリハビリの必要がある場合にはさらに3ヶ月施設でリハビリを行います。

介護老人保健施設におけるBCP策定とは？

近年、災害の増加や感染症の流行により、介護施設でもBCPの策定が重要視されています。

ここでは、BCPの概要と義務化された背景について解説します。

そもそもBCP（事業継続計画）って何？

BCPとは、事業継続計画のことで、災害時や感染症蔓延時などの緊急時に事業を継続できるように、あらかじめ立てておく計画のことです。

大規模な地震やコロナウイルスのような感染症がいつどんな時に起きるかわかりません。

この計画を立てることで、入居者の安全を守りながら適切な運営を継続できるでしょう。

参考：厚生労働省『介護施設・事業所における業務継続計画（BCP）作成支援に関する研修』

令和3年度の介護報酬改定により義務化

介護施設におけるBCP策定は、令和3年度の介護報酬改定により義務化されました。

義務化された背景には、高齢化社会の進行による社会的責任、災害の増加などが挙げられます。BCPを策定しなかった場合、介護報酬の減算や安全配慮義務違反となる可能性があります。

今後は、介護施設でのBCP策定も適切な運営の基準となるでしょう。

BCMとの違い

BCMは、BCPで策定した計画を運用、マネジメントすることをいいます。

非常時に備えて計画を立てることは重要ですが、実際に起きてしまった時に活かせなければ意味がありません。

そのため、立てた計画を実行できるように、訓練や研修を行い職員全体で共有することが大切です。

BCMにより定期的に計画を見直すことで、より安全でスムーズな対応が可能となります。

介護老人保健施設でBCPを策定するメリット

介護施設でBCPを策定することで、さまざまな優遇を受けられる場合があります。

介護老人保健施設でBCP策定をするメリットについて解説します。

補助金・助成金が受給できる

BCP策定の内容を国に提出し、その内容が認定された場合、補助金等の支援を受けることができます。

具体的な内容は、大規模災害時等の停電に備え、中小企業・小規模事業者の事業の中断を未然に阻止するために、石油製品等を用いる自家発電設備等の設置に要する経費の一部を補助する、とされています。

また、自治体でも独自の補助金・助成金を受給できる可能性があります。

このような補助金や助成金の活用により、コストを抑えながら最適な計画の作成・実行ができるでしょう。

税制優遇・支援が受けられる

中小企業強靭化法により、事業継続力強化計画の認定を受けた中小企業・小規模事業者は、設備投資に対する特別償却20％の税制措置を受けることができます。

また、BCPを策定することで信用保険の保証枠を別枠で追加したり、津波や水害・土砂災害に係る要対策地域に所在する者の土地に係る設備資金について貸付金利を引き下げたりと、金融支援も行われています。

感染症蔓延時にワクチンの優先接種ができる

新型インフルエンザ対策特別措置法により、BCPを策定した介護事業者は優先的にワクチンの予防接種を受けることができます。

コロナウイルス感染症に関しても同様の措置が取られており、今後新たな感染症が発生した場合も、同じように優先接種が可能になると考えられます。

介護老人保健施設におけるBCP策定のポイント

介護老人保健施設などの介護施設では、一般的な企業でのBCP策定のポイントに加え、留意しておくべき事項があります。

BCPを策定する上でのポイントについて、見ていきましょう。

自然災害発生後の対策

自然災害が発生した場合、まずは入居者の安全の確保、安否確認を第一に行います。介護老人保健施設は多床型が多いため、誰がどの入居者を担当するのかを事前に決めておくことが大切です。

医療的な処置が必要な方は看護師が対応するなど、入居者の状態に合わせた配置を検討しましょう。

また、歩行が難しく車椅子を使用されている入居者も少なくありません。例えば、エレベーターが止まってしまった場合、車椅子の方を2階から1階に降ろすためには、どのような方法があるのかなども、細かく計画すると良いでしょう。

そして、介護サービスを中断させないために、資源をあらかじめ備えておくことも重要です。資源が途絶えてしまった場合も、速やかに復旧できるように対応しましょう。

感染症が蔓延した場合の対策

感染症が蔓延した場合、入居者や職員に感染が広がる可能性が考えられます。感染者が確認されたら、面会の禁止、施設内の消毒など、蔓延時の対応を決めておきましょう。

また、職員に感染が広がった場合、入居者の対応をする職員が不足する可能性があります。

そのような場合に、いかに優先順位をつけて業務を継続するのか、不足している職員の補充はどのようにするのかを考えて、職員全体に周知しておくことが大切です。

介護老人保健施設でBCPを作成する流れ

BCPの作成にあたり、BCPの全体像を把握した上での計画が重要です。

ここでは、介護老人保健施設におけるBCP作成の基本的な流れを解説します。

総論

総論では、BCPの基礎となる部分を作成します。

1. 体制の整備
2. 施設の特徴に合わせたリスクの把握
3. 閑散時や災害時の対応の周知
4. BCPの研修や訓練を行う

職員全体でBCPについて把握し訓練を重ねることで、不足している部分を見直して、より実効性のある計画を構築していきます。

平常時の対応

緊急時を想定して安全対策とライフラインなどの対策、備蓄品の確認など、平常時に行うべき対応について検討します。

非常用電源がない場合は、その代わりとなる手段や対処方法を検討しましょう。何に対してどのような対処をするかを考えておくことで、緊急時の心構えが備わっていきます。

緊急時の対応

緊急時の対応は、実際に緊急事態が起きた場合にどのような行動をするのかを、明確に検討します。具体的には、安否確認の方法や避難方法、業務を途絶えさせないための対策などです。

BCPがどのような状況で発動するのかを職員全体で共有しておくことも、スムーズな対応につながるでしょう。

他施設や地域との連携

自然災害時や感染症蔓延時は、人員の不足が考えられます。緊急時でも介護サービスを継続していくためには、近隣の施設と協力して安全の確保をするなどの対策も必要でしょう。

日頃から他施設や地域と連携し、ネットワークを構築することもBCPを作成する上で重要です。

こちらで特別養護老人ホーム（特養）のBCP作成に必要なポイントについて解説しております。

まとめ

介護老人保健施設におけるBCP策定は、緊急時でも継続して介護サービスを提供するために必要な計画です。

BCPの策定は、令和3年度の介護報酬改定により義務化されており、安全な施設運営のために必要不可欠な計画といえるでしょう。

また、緊急時に介護サービスを継続するには、平常時の備えや緊急時の対応方法を検討することが大切です。施設内で研修や訓練を重ねることで、より実効性の高い計画に近づいていきます。

もしもの時に入居者の安全を守れるように、日頃から職員全体で緊急時の意識を高めていきましょう。