それでは前回に引き続き、それぞれの災害についての紹介、対策などについて見ていきましょう。今回説明するのは「火災」「噴火」「感染症」の3つです。
火災
消防白書によると、令和3年の火災件数は、35,222 件もあるのです。換算すると、1日あたり96件の火災が発生したことになるのです。死者数を見ると、1日当たりの火災による死者数は 4 人近い数字にのぼります。

https://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/r01kaigi/siryo8.pdf
電気機器・配線器具などの電気関連だけで5000件を超えます。放火の疑いの件数も驚くほど多いですが、電気関連でまとめてみると、原因としては最も数が多いのです。
また、たばこによる火災発生の数も3000件を超えます。たばこの場合は、火を消したと思い込んでいたり、寝たばこによって発生するケースがほとんどです。
例えば、たばこを布団の上に置いたとします。たばこ自体は10分もすれば消えるんです。しかし、火がつくのは2時間ほど経った後なんですね。くすぶって、火がつくまでに時間がかかる。だから消えたと思って寝てしまっても、寝ている間に火がついて気が付かず…といったことになってしまう。
電子レンジは中の汚れ、天井の汚れがスパークして火災になるケースがほとんどです。重曹・クエン酸・セスキ炭酸ソーダなどで、コンセントを抜いた状態で洗浄しておきましょう。
適切な消火器を選び、適切な場所に設置しておくこと
もし火災が起きてしまった場合、大切なのは早く消火することです。火はあっという間に燃え広がりますから、どれだけ早く消火できるか。消防法の通りに消火器を置くのではなく、それよりも多い本数を、適切な場所に設置して、いつでも誰でも初期消火できるように訓練しましょう。
また、消火器にはいくつかの種類があります。適切な消火器を使うと、消火作業が早くなります。


それぞれの消火器の特徴を見ていきましょう。(A:普通火災 B:油火災 C:電気火災)
- 粉末消火器(ABC)粉末なので後処理が大変で、高所への噴霧が不向き
- 強化液消火器(ABC)冷却機能に優れ、飛距離があり消火能力が高い
- 中性強化液消火器(ABC)お酢と食品材料から作られ、能力を維持し衛生面に優れている
- 水消火器(ABC)潤滑剤入り。消火後の汚損が少なくて復旧が早く済む
- 二酸化炭素(BC)クリーンで電気設備の消火向き
- 自動車用粉末消火器(ABC)送迎バスにも積んでおきましょう
- エアゾール式消火具(スプレー缶の消火器)(AB)
介護施設におすすめの消火器は、「中性強化液消火器」と「消火スプレー」です。また、意外に優秀なのは「投げつけ式」ですね。投げるだけでなく、部屋にぶらさげておくと、火災になったときに勝手に弾けて消化してくれることも。投げつけなくても置いておくだけで済むのでおすすめです。ほとんどの消火スプレーは電気火災に対応していませんが、電気火災に対応した製品もありますのでしっかり探して用意しておきましょう。
消火栓を活用できるようにしておこう
地震などの災害で火事が発生した場合、停電の状況下で起こることも考えられます。消火栓やスプリンクラーがあるから大丈夫なのでは?と思いがちですが、施設についている設備は、停電時でも作動するかどうかを把握できているでしょうか。分からないで済ませるのではなく、今すぐに確認しておきましょう。

消火栓が施設にある場合は、初期消火能力と延焼を阻止する力が格段に上がります。
消火栓にも「1号・2号」と呼ばれる2つの種類があります。
1号消火栓の場合は、蛇口をひねるだけで水が出ます。しかし、2号消火栓の場合は、ポンプ起動ボタンを押さなければ水が出ません。こういった知識も、ほとんどの人は知らないままですよね。いざ火災が起きたとき、消火栓を見つけても「水が出ない!」なんてことになりかねないわけです。実際に、過去の火災では起動ボタンを押せないばかりに、ホースを出してバルブを回したけれど水が出なかったことで、火災が大火事になり犠牲が出たケースもあります。必ず起動ボタンを確認してください。設備によっては若干仕様が異なるので、どのような仕様かを確認しましょう。また、必ず、消火栓を使った放水訓練も施設でやっておきましょう。
消火栓は呼水槽とポンプで動く仕組みになっています。放水訓練をせずにそのままにしておくと、錆びを含んだ水が出てくる場合があります。長い時間放置されていると錆びてしまいますので、業者の点検以外の定期的な放水訓練をおすすめします。
詳しくは、東京消防庁のサイトに、各号の消防戦の使い方が掲載されています。ぜひこちらを一読しておきましょう。
https://www.tfd.metro.tokyo.lg.jp/learning/contents/shobo-setsubi/fireplug/
噴火
噴火の被害として、溶岩流、噴石、火砕流などがありますが、一番怖いのが「見えない火山ガス」です。いつまでも発生し続けて、地元や島に戻れないことになります。2006年に噴火した三宅島には、今でも火山ガスが充満しており、入ってはいけないエリアがあります。
(参考:https://c-emg.yahoo.co.jp/notebook/contents/article/activevolcano190418.html:Yahoo!ニュースより引用)
高濃度の火山ガスは臭気を発していないので、気付かずに吸い込んでしまい、即死に至る事故も少なくありません。登山中にガスが充満している「ガス溜まり」に遭遇して、そこで窒息死してしまう事故もみられます。登山が趣味の方は、変な窪みにはできるだけ近寄らないようにしましょう。
もうひとつ怖いのが「火山灰」です。これも肺に悪影響ですし、重みで家を押しつぶす可能性もあります。火山活動は、いつまで続くかわからないことが一番の恐怖です。
感染病
昨今のコロナウイルスで身近な例となりましたが、感染病も大きな災害です。またいつどのような状況になるか分かりませんから、世間で感染病が蔓延した場合の対策もしっかり練っておきましょう。
施設の中で最初に感染者が発見された場合、既にその施設で蔓延している可能性が高いです。別の職場でも働いているダブルワーカーのスタッフも多いでしょうから、経路を捜索すること自体はあまり意味がありません。
例えばコロナウイルスの場合は、抗体検査とPCR検査を全員が受け、陽性者と陰性者、濃厚接触者を分け、ゾーニングをしていきます。ゾーニングの考え方としては「安全」「注意」「危険」の3つにわけることです。
迅速なゾーニングで、感染拡大を防ぐ

「レッドゾーン」(感染区域・濃厚接触者)、「イエローゾーン」(中間区域)、「グリーンゾーン」(安全区域)の3つにゾーン分けし、感染者の部屋割りを実施します。部屋割りの順番は、施設入り口からグリーン、イエロー、レッド、非常出口となるのが理想的です。階層で分けることができればより良いでしょう。しかしその場合、階段やエレベーターは「イエローゾーン」となりますから、利用者様の移動は制限されます。「イエローゾーン」は主に、レッドゾーンで使用する物資置き場、予防具の着脱場、レッドゾーンの職員の荷物置き場、通路、エレベーターなどが該当します。
このゾーニングを迅速に進めなければ、感染は収束しません。もちろんその中で、利用者様の居室を変更する場合があります。この部屋割りの変更をいかに早くできるかが、ゾーニングの決め手です。利用者さんには説明するけれども、そのご家族にまで説明して許可を取る時間を待てるか?という問題にも直面します。しかし、はっきり言いますと、それは待たなくてもいいです。その時間でさらに感染が拡大して被害が広がることを防ぐため、報告のみで対応することも考えましょう。
感染対策として、施設に最低限用意しておくべき備品としては、消毒用アルコール・次亜塩素酸水・熱水(80度)・石鹸・洗剤・MA−T(マッチング・トランスフォーメンソン=要時生成型亜塩素酸イオン水溶液)があげられます。こちらも、災害時の備蓄と合わせて用意しておきましょう。
陰圧と陽圧を知っておこう
感染症対策を考える上で、知っておいた方がいい知識として「陽圧」と「陰圧」の関係があります。この仕組みは、ゾーニングをする上でも役立つものなので、ぜひ頭に入れておきましょう。
「陰圧 = 屋外気圧 > 屋内気圧」
陰圧とは、屋外の気圧に対して室内気圧が、低い状態を表します。
「陽圧 = 屋外気圧 < 屋内気圧」
陽圧とは、屋外の気圧に対して室内気圧が、高い状態を表します。

大気中の気圧は等圧になろうと働く為、空気の流れは、気圧の高い方から低い方へ、空気が押し出されていきます。つまり陰圧の場合は「屋外→屋内」へ、反対に陽圧の場合は「屋内→屋外」へ空気が流れていくのです。この特性を利用し、室内の気圧を屋外よりも高くすることで、清浄な空気を保つ仕組みが「陽圧化」です。気圧によって見えないバリアを張るように、外気が入り込みにくい環境を形成します。
また、特殊なフィルターを通過させた清浄な空気を屋内に供給し続けて陽圧化すれば、もともと屋内に存在していたホコリやウイルスを含む空気は、清浄な空気に押し出される形で屋外へ移動していきます。気圧が高い室内には外気が入り込みにくく、内部も清浄な空気で満たされるため、クリーンルーム(防塵室)や、病院の手術室・ICUなどで「陽圧化」が活用されています。
上記のような状況を本格的に作るためには専用の設備が必要ですが、介護施設に常備しておいて損はありません。緊急時の対策として、ぜひ導入も考えましょう。
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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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