
特定処遇改善加算は、介護職の待遇改善と介護職員の人材不足を解消する目的で創設されました。しかし、どのような加算なのか、加算を取得する条件などがわからないという方もいるでしょう。
この記事では、特定処遇改善加算とは何か、算定要件や分配方法について詳しく解説します。
この記事を読むと、加算取得に向けて事業所で行うべき準備や流れを理解できるでしょう。
処遇改善加算とは
処遇改善加算は、2011年度まで実施されていた「介護職員処遇改善交付金」を引き継ぐ形で2012年度に創設されました。
ここでは、加算の概要や制度が導入された詳しい理由について解説します。
処遇改善加算の概要
利用者に直接サービスを提供している介護職員に対して、職場環境や給与面の改善を目的とした加算です。
事業所は、研修の機会を設けることや、職場環境の改善の取り組みを実施することなど、さまざまな条件をクリアすることで取得が可能となります。
処遇改善加算が導入された理由
介護職は他の職種に比べて給与が低い傾向にあり、その結果離職に繋がってしまうケースがあります。この加算は、今後予想される高齢化社会に向けて人材を確保するために、環境面の整備や給与面の改善を目的として導入されました。
また、近年ではコロナウイルスにより、施設の介護職員が感染者の対応をすることも少なくありません。このようなリスクの高い仕事が増加していることに対し、給与面で還元していくという意味でも、必要な加算といえます。
処遇改善加算を取得するための条件
介護サービスを提供している全ての事業所が、加算を取得できるというわけではありません。
ここからは、加算を取得するために必要な条件について解説します。
処遇改善加算の算定要件
Ⅰ~Ⅲの区分に分かれており、算定するには3つのキャリアパス要件や、職場環境等要件をそれぞれ満たす必要があります。
キャリアパス要件と職場環境等要件については、以下の通りです。
【キャリアパス要件】
- Ⅰ…職位・職責・職務内容に応じた任用要件と賃金体系の整備をすること。
- Ⅱ…資質向上のための計画を策定して、研修の実施または研修の機会を設けること。
- Ⅲ…経験もしくは資格等に応じて昇給する仕組み又は一定の基準に基づき定期的に昇給を 判定する仕組みを設けること。
キャリアパス要件Ⅲは、勤続年数や経験年数に応じて昇給する仕組みや、介護福祉士などの資格取得により昇給する仕組みなどを設けることとされています。
【職場環境等要件】
賃金改善以外の処遇改善(職場環境の改善など)の取り組みを実施すること。
これらの要件をどれくらい満たしているかで、どの加算が取得できるのかが決まります。
処遇改善加算Ⅰ | すべてのキャリアパス要件と職場環境等要件を満たす(平成27年4月以降実施する取組) |
処遇改善加算Ⅱ | キャリアパス要件Ⅰ及びⅡと職場環境等要件を満たす(平成27年4月以降実施する取組) |
処遇改善加算Ⅲ | キャリアパス要件ⅠまたはⅡと職場環境等要件を満たす |
加算Ⅰ~Ⅲそれぞれの区分によって、介護職員一人当たりが受け取れる金額が変わります。
参考:厚生労働省『介護職員処遇改善加算のご案内』『処遇改善に関わる加算全体のイメージ(令和4年度改定後)』
サービス事業所別の加算率
加算算定対象のサービスでも、サービス種別ごとに加算率が変わります。それぞれの加算率は以下の通りです。
サービス種別 | 加算Ⅰ | 加算Ⅱ | 加算Ⅲ |
訪問介護夜間対応型訪問介護定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 13.7% | 10.0% | 5.5% |
(介護予防)訪問入浴介護 | 5.8% | 4.2% | 2.3% |
通所介護地域密着型通所介護 | 5.9% | 4.3% | 2.3% |
(介護予防)通所リハビリテーション | 4.7% | 3.4% | 1.9% |
(介護予防)特定施設入居者生活介護地域密着型特定施設入居者生活介護 | 8.2% | 6.0% | 3.3% |
(介護予防)認知症対応型通所介護 | 10.4% | 7.6% | 4.2% |
(介護予防)小規模多機能型居住介護看護小規模多機能型居宅介護 | 10.2% | 7.4% | 4.1% |
(介護予防)認知症対応型共同生活介護 | 11.1% | 8.1% | 4.5% |
介護福祉施設サービス地域密着型介護老人福祉施設(介護予防)短期入所生活介護 | 8.3% | 6.0% | 3.3% |
介護保険施設サービス(介護予防)短期入所療養介護(老健) | 3.9% | 2.9% | 1.6% |
介護療養施設サービス(介護予防)短期入所療養介護(病院や医療院など)介護医療院サービス | 2.6% | 1.9% | 1.0% |
また、次の7つの介護サービスは加算の算定ができないため、注意が必要です。
- (介護予防)訪問看護
- (介護予防)訪問リハビリテーション
- (介護予防)福祉用具貸与
- 特定(介護予防)福祉用具販売
- (介護予防)居宅療養管理指導
- 居宅介護支援
- 介護予防支援
参考:厚生労働省『介護保険最新情報vol.935』
処遇改善加算の支給対象者
介護に従事する全ての介護職員を対象としています。正社員やパート・派遣社員など、雇用形態に関わらず支給され、介護職員として従事しているのであれば資格の有無は問いません。
また、看護師や生活相談員、管理者などの職種は対象外ですが、介護業務と兼務している場合は支給の対象となります。
新設された特定処遇改善加算とは
介護職員のさらなる処遇改善のため、2019年10月に特定処遇改善加算が新設されました。
従来の処遇改善加算とどのように違うのか、特定処遇改善加算の算定要件などについて解説します。
特定処遇改善加算の算定要件
特定処遇改善加算を取得するには、以下の条件を満たしていることが算定の要件となります。
- 処遇改善加算Ⅰ~Ⅲのいずれかを満たしていること。
- 職場環境等要件に関して複数の取り組みを行っていること。
- 処遇改善加算にもとづく取り組みについて見える化していること。
希望する職員に対してキャリアアップの支援や研修や、職員の健康管理等、複数の職場環境に関する取り組みを実施する必要があります。また、これらの取り組みを介護サービス情報公表制度や事業所のホームページで公表することも、算定要件の1つです。
特定処遇改善加算1と2の違い
特定処遇改善加算は、ⅠとⅡがあります。Ⅰを算定するには、サービス提供体制強化加算、特定事業所加算、日常生活継続支援加算、入居継続支援加算のいずれかの加算を取得していることが条件です。
しかし、サービス提供体制強化加算は最も高い区分、特定事業所加算は従業者要件のある区分に限られます。これらの加算を取得していない場合は、Ⅱのみ取得可能です。
また、サービス種別ごとの加算率も処遇改善加算とは異なります。
サービス種別 | 加算Ⅰ | 加算Ⅱ |
訪問介護夜間対応型訪問介護定期巡回・随時対応型訪問介護看護 | 6.3% | 4.2% |
訪問入浴介護 | 2.1% | 1.5% |
通所介護地域密着型通所介護 | 1.2% | 1.0% |
通所リハビリテーション | 2.0% | 1.7% |
認知症通所型通所介護 | 3.1% | 2.4% |
認知症対応型共同生活介護 | 3.1% | 2.3% |
特定施設入居者生活介護地域密着型特定施設入居者生活介護 | 1.8% | 1.2% |
小規模多機能型居宅介護複合型サービス | 1.5% | 1.2% |
介護福祉施設地域密着型介護老人福祉施設短期入所生活介護 | 2.7% | 2.3% |
介護療養施設短期入所療養介護(病院など)介護医療院短期入所療養施設 | 1.5% | 1.1% |
介護保険施設短期入所療養介護(老健) | 2.1% | 1.7% |
特定処遇改善加算がもらえない人は?
勤め先の事業所が加算を取得していない場合や、職種が介護職ではない場合は支給の対象外となります。
また、加算の配分時に事業所が選んだ配分対象ではない方も、手当をもらうことができません。
特定処遇改善加算の分配方法は?
特定処遇改善加算には、事業所内で3つのグループに分けて分配します。
グループごとの詳しい配分ルールについて解説します。
経験・技能のある介護職員
勤続10年以上で、介護福祉士や社会福祉士などの資格を保有する介護職員が対象です。
勤続10年の考え方は各事業所の判断となり、過去の勤務経歴を含める場合もあれば、事業所内で設けている評価により決定することもあります。
経験・技能のある介護職員の中で一人以上は月8万円以上、または年収440万円以上への賃金改善がルールとして定められています。
その他の介護職員
勤続10年未満の介護職員や、勤続10年だが介護福祉士や社会福祉士などの資格を保有していない介護職員が対象です。
改善平均額は、経験・技能のある介護職員よりも2分の1以下にする分配ルールがあります。
その他の職種
介護職員以外の看護師や栄養士、事務職員などの職種が対象です。
その他の職種は、その他の介護職員の処遇改善額の2分の1を上回ってはならないとされています。
まとめ
処遇改善加算は、介護職員の環境面や給与面等の待遇を改善し、人材不足を解消することを目的としています。
処遇改善加算や特定処遇改善加算を取得するには、さまざまな算定要件を満たすことや、分配方法にも基本ルールがあります。
勤務年数や保有している資格によっても金額が変わるため、職員の仕事に対する意欲の向上に繋がるでしょう。
現在、日本は4人に1人が65才以上という超高齢化社会を迎えており、今後も高齢者の人口が増加すると予想されています。
高齢者を支える人材を確保するためにも、加算を取得し働きやすい環境を整えましょう。
関連記事
防災⼠の詳細はこちら
証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。