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2025/02/26

フィジカルロックとは|具体例から対策まで解説

西條 徹

西條 徹

フィジカルロックとは|具体例から対策まで解説

介護の仕事では、利用者の動きをどう安全に守るかを常に考える必要があります。状況によっては身体拘束が必要だと感じることもあるでしょう。

しかし、身体拘束には慎重にならなければなりません。

この記事では、フィジカルロックとはなにか、具体例や影響を解説します。さらに、なぜ禁止されているのか、特別に認められることがあるのかも紹介します。

この記事を読めば、身体拘束についての理解が深まり、介護の現場で正しい判断ができるようになります。ぜひ最後までご覧ください。

フィジカルロックとは

フィジカルロックとは、身体拘束のひとつで、介護の現場で利用者の体をしばり、自由に動けなくする行為です。利用者の安全を確保するために、やむを得ず使われることもありますが、体や心に悪い影響があるため、原則として禁止されています。

身体拘束は、利用者の生活を大きく変えてしまうリスクがあります。スリーロックと呼ばれる三つの拘束には特に注意が必要です。

ここでは、フィジカルロックの意味やスリーロックについて詳しく説明します。

フィジカルロックの定義

フィジカルロックとは、道具や設備を使って利用者の体をしばり、動きを制限することです。

ベッドに柵をつけて立ち上がれないようにする、車椅子にベルトをつけて動けなくする、といった行為が当てはまります。身体拘束は、安全のために行われることもありますが、体や心に負担をかけることが問題になっています。

体を自由に動かせなくなると、筋力が弱くなり、歩くのがむずかしくなる可能性があります。また「自分の思うように動けない」と感じることで、不安やイライラが大きくなり、気持ちが落ち込んでしまうこともあります。

そのため、介護の現場では、できるだけ拘束しない方法を考えることが大切です。

三大ロック(スリーロック)とは

スリーロックとは、介護の現場で利用者の動きを制限する三つの方法です。この三つには、フィジカルロック、ドラッグロック、スピーチロックがあります。どれも利用者の自由をうばい、体や心に悪い影響を与えるため、原則として禁止されています。

フィジカルロックは、車椅子のY字ベルトやミトン型手袋などを使って体をしばる行為です。ベッド柵で囲んでしまう行為もこれにあたります。

ドラッグロックは、薬を使って無理に動きをおさえることです。例えば、睡眠薬や向精神薬などを使って意識をぼんやりさせ、行動を止める行為がこれにあたります。

スピーチロックは「動かないでください」などの言葉を使って行動を制限する行為です。

これらの方法は、安全のためにやむを得ず使われることがありますが、利用者の体や心に悪い影響を与えることが多いため、できるだけ使わないようにしなければなりません。

フィジカルロックの影響

フィジカルロックは、利用者の安全を守る目的で使われる場合がありますが、体や心に悪い影響を与える可能性があります。

長期間続くと、体の動きが悪くなったり、気持ちが不安定になったりする恐れがあります。さらに、介護施設や社会全体にも悪影響が出るため、できる限り避けるべきです。

からだへの影響

フィジカルロックをされると、体を自由に動かせないため、筋肉が弱くなったり、関節がかたくなったりすることがあります。

また、ベッド上で長時間同じ姿勢でいると、床ずれができやすくなり、ひどくなると強い痛みを伴います。

高齢者にとって、体を動かさない時間が長いのはよくありません。歩く力がどんどん弱くなるからです。その結果、介助なしでは動けなくなり、寝たきりになってしまうリスクもあります。

さらに、無理やり拘束から逃れようと転倒したり、うつ伏せのまま窒息したりといった危険な事故につながることもあります。

こころへの影響

フィジカルロックをされると、自分の意思が無視されたと感じてしまいます。自由に動けないと、不安や恐怖を感じてしまう人もいるでしょう。また、拘束が続くと、何をする気にもなれず、意欲がなくなってしまうこともあります。

特に、認知症のある人は、なぜ動けないのかわからないため、大きなストレスを感じます。その結果、混乱したり、大声を出したりしてしまいます。

利用者の気持ちを大切にし、安心できる環境をつくりましょう。

社会的な影響

フィジカルロックが頻繁に行われている施設では、利用者や家族の信頼が下がります。「この施設に大切な家族を任せてよいのか」と不安に思われるからです。その結果、施設の評判が悪くなり、利用者も減ってしまうでしょう。

また、介護職員の気持ちにも影響を与えます。身体拘束が当たり前のように行われる環境では、職員がやる気をなくしたり、仕事に対する誇りを持てなくなったりします。こうした理由で、仕事を辞めてしまう職員も少なくありません。

介護の仕事をよりよいものにするためにも、利用者だけでなく、職員や家族にとっても安心できる環境をつくることが大切です。

フィジカルロックの具体例

フィジカルロックには、さまざまなケースがあります。

転倒やケガを防ぐ目的で使われますが、自由を奪い、体や心に悪い影響を与えるおそれがあります。たとえ短時間でも、身体拘束は原則として避けるべきです。

ここからは、介護現場でよく見られるフィジカルロックの例を紹介します。

ベッドや車椅子での拘束

ベッドや車椅子を使った拘束は、最もよく見られるフィジカルロックのひとつです。転落や立ち上がりによる事故を防ぐ目的で行われますが、利用者の動きを強く制限するため、筋力低下やストレスの原因になります。

ベッドの拘束では、柵で四方を囲んでしまい、自分で降りられなくするケースが多く見られます。車椅子では、腰ベルトやY字型の拘束帯をつけ、自分では立ち上がれないようにする拘束が多いです。

転倒や転落から利用者を守る目的があっても、利用者の意思を無視しているため問題視されています。

長時間の椅子への固定

長時間同じ椅子に座らせることも、フィジカルロックにあたります。一日中動かずに長時間座り続けると、体への負担が大きくなります。

食堂やリビングなどで、職員の目が届く場所にとどめるため、椅子に座らせたままにするケースが多いです。特に、立ち上がると転倒するおそれがある利用者は、動きを制限されやすくなります。

しかし、長時間同じ姿勢でいると、血の流れが悪くなったり、足の力が衰えたりする原因になります。無理に座らせるのではなく、適度に体を動かせる環境を整えられないか検討してみましょう。

ミトン型手袋の使用

ミトン型手袋は、利用者が自分の手を自由に使えないようにする道具です。手の感覚が奪われるため、不安を感じやすくなります。

医療現場では、点滴や経管栄養をしている利用者が無意識にチューブを抜かないよう、ミトン型手袋をつける場合があります。介護現場では、自傷行為や掻きこわし防止の目的で使用するケースが多いです。

利用者の手の自由を奪うため、強いストレスを与える原因になります。できるだけ別の方法で対応し、利用者の安心感を守る工夫が必要です。

つなぎ服の使用

つなぎ服は、利用者が自分で服を脱ぐのを防ぐために使われる衣類です。着脱の自由を奪うため、身体拘束とみなされる場合があります。鍵がついていなくても、本人が自分で脱げない場合は、身体拘束とみなされます。

認知症の利用者が頻繁におむつを外して、排泄物を触ってしまう行為を防ぐためにつなぎ服を着せることが多いです。

しかし、服の中で体がこわばったり、不快感を覚えたりすることがあり、本人にとって大きな負担になることがあります。

つなぎ服を使う前に、排泄介助の時間を見直すなど別の対応ができないか考えてみましょう。

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フィジカルロックへの対策と取り組み

フィジカルロックへの対策と取り組み

フィジカルロックをなくすためには、利用者の安全を守りながら、自由を奪わない介護を目指すことが大切です。そのためには、代替ケアの導入、職員の教育、施設全体での協力が必要になります。

すぐに解決できる問題ではありませんが、少しずつ改善を重ねることで、利用者にとっても介護職員にとってもよい環境をつくれます。

ここでは、フィジカルロックを減らすための具体的な取り組みについて説明します。

代替ケアの選択肢を増やす

身体拘束を避けるためには、ほかの方法がないか多職種で話し合って選択肢を増やす必要があります。利用者の安全を守りながら自由を確保するには、一人ひとりに合ったケアを考えなければなりません。

例えば、ベッドの柵を使わずに済むよう、床に近いベッドを使用したり、転倒を防ぐためにクッションを活用したりする方法があります。

車椅子からの立ち上がりを防ぐためには、まず「立ち上がりたい」と思う理由を探る必要があります。その理由に応じて、座り心地の良いクッションを使用するなど、一人ひとりに合った対策を検討しましょう。

職員の教育を促進する

フィジカルロックをなくすためには、職員全員が正しい知識を持つことが重要です。身体拘束のリスクや法的なルールを理解し、適切なケアを行う意識を高めましょう。

定期的に研修や勉強会を実施し、職員がフィジカルロックの問題点を学ぶ機会を増やすと、現場での意識も変わります。

例えば、拘束の代わりにどのような対応ができるのかを事例を交えて学ぶことで、実践につなげられます。一方的に教育するだけでなく、現場の意見を取り入れながら、よりよい方法を考える姿勢も大切です。

施設全体で取り組む

フィジカルロックを減らすためには、施設全体で協力しながら進めることが重要です。身体拘束の問題は職員一人の努力だけでは解決が難しく、施設の方針として身体拘束をなくす方向へ進める必要があるからです。

例えば、定期的な会議を開き、フィジカルロックの状況を確認したり、成功事例を共有したりする場をつくるとよいでしょう。また、家族とも連携し、利用者が安心して過ごせる環境を整えることも大切です。

施設全体で取り組んで初めて、利用者にとっても職員にとっても、よりよい介護が実現できます。

フィジカルロックの禁止と例外

介護の現場では、フィジカルロックは原則として禁止されています。利用者の自由を奪い、体や心に大きな負担を与えるからです。安全を守るために必要とされる場面もありますが、身体拘束は最後の手段とされています。

しかし、すべてのケースで絶対に禁止されているわけではありません。やむを得ない場合に限り、例外として認められることもあります。

ここでは、フィジカルロックが禁止されている理由と、例外的に認められるケースについて説明します。

フィジカルロックが原則禁止されている理由

フィジカルロックは、利用者の尊厳を損なうだけでなく、体や心にも悪影響を与えます。動きを制限されることで筋力が低下し、歩くことが難しくなるからです。また「思うように動けない」と感じることで、不安やストレスが強くなります。

介護の目的は、利用者が安心して過ごせる環境をつくることです。身体拘束をすれば、安全が守られるように見えるかもしれません。

しかし、長い目で見ると、利用者の健康を損なう原因になりかねません。そのため、日本ではフィジカルロックを避ける方向での介護が求められています。

フィジカルロックが例外的に認められるケース

フィジカルロックが特別に認められるのは、「切迫性」「非代替性」「一時性」の三つの条件をすべて満たす場合のみです。この三原則に当てはまらない拘束は、どのような理由があっても認められません。

「切迫性」とは、利用者や周囲の人の生命や身体に危険が迫っている状況を指します。例えば、利用者が突然暴れ出し、ほかの利用者を傷つけるおそれがある場合などがこれに当たります。

「非代替性」は、ほかに方法がない場合です。フィジカルロックを避けるための工夫がされているか、ほかの方法が試されたかどうかが重要になります。見守りの強化や声かけなどで安全が確保できるなら、身体拘束は認められません。

「一時性」は、拘束が必要な時間が最小限であることを意味します。身体拘束は、状況が改善したらすぐに解除しなければなりません。

ただし、これらの条件をすべて満たした場合でも、施設全体で慎重に検討する必要があります。

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まとめ

フィジカルロックは、利用者の体を拘束し、行動を制限する行為です。身体拘束は筋力の低下や精神的ストレスを引き起こし、生活の質を低下させるため、原則として禁止されています。

ただし「切迫性・非代替性・一時性」の三原則を満たす場合に限り、例外として認められることがあります。

身体拘束をなくすためには、まず現場の様子をよく見て、ほかの方法を考えることが大切です。職員全員が正しい知識を持ち、家族とも協力しながら改善に取り組み、利用者が安心して過ごせる環境を整えましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。