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2025/07/22

熱中症対策が義務化!作業中止基準を判断する3ステップと予防策を解説

西條 徹

西條 徹

熱中症対策が義務化

猛暑のなか「従業員の安全」と「会社の生産性」の板挟みで悩んでいませんか?ご自身の勘だけを頼りに「作業を中断すべきか……」と判断することに、重い責任を感じている管理者の方も多いはずです。

本記事では、2025年6月から義務化された熱中症対策の全体像を解説します。WBGT基準を用いた作業中止を判断する具体的な3ステップから、予防策と体制づくりまで、くわしく説明します。

この記事を読めば、もう一人で悩む必要はありません。法律という明確な基準で、自信を持って指示を出し、従業員と会社、そしてあなた自身を守れるようになります。

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【2025年法改正】事業者の熱中症対策が義務化

2025年から事業者の熱中症対策が「努力」から「法的義務」へと変わります。従業員の安全を守るためにも、熱中症対策をしっかり理解しておく必要があります。

なぜ義務化に至ったのか、守るべき基準や違反した場合のリスクはどうなるのでしょうか。それぞれ詳しく見ていきましょう。

なぜ対策が「努力」から「義務」になったのか

結論から言うと、職場での熱中症による死傷者が増え続けたため、国が企業の責任を明確にする必要があったからです。

近年の気温上昇に伴い、仕事中に熱中症で亡くなる方が毎年約30人という深刻な状況が続いています。これまでの「努力義務」という呼びかけだけでは、従業員の命を守るには不十分だと国が判断したのです。

今回の法改正では、WBGT値の測定・記録や、緊急時の対応手順の整備などが具体的に義務付けられました。

悲しい事故を防ぎ、誰もが安全に働ける環境を整えるために、対策の義務化は必然だったのです。

参考:厚生労働省『職場における熱中症対策の強化について

熱中症対策の指標「WBGT」とは?気温との違い

WBGT(暑さ指数)とは、熱中症リスクを判断するための国際的な指標のことです。気温だけでなく、湿度や日差しといった複数の要素から算出されます。なぜなら、人が感じる暑さは気温だけでは決まらないからです。

湿度が高いと汗が乾きにくく、体に熱がこもります。WBGTは、湿度・日差しや地面からの熱・風などを考慮するため、温度計の数字よりも実際の体感に近い危険度を示します。

WBGTが33に達すると熱中症警戒アラートを、35に達すると熱中症特別警戒アラートが発表されます。

現場の真の危険度を測るには、気温だけでなくWBGTを基準にすることが不可欠です。

参考:環境省『熱中症警戒情報とは

基準違反で問われる罰則と経営リスク

法改正で定められた基準を守らないと、罰則だけでなく、従業員から損害賠償を請求される経営上のリスクが格段に高まります。なぜなら、WBGT値といった具体的な対策基準が法律で明記されたからです。

これにより、企業が「何をすべきだったか」がはっきりしました。万が一、熱中症による労災事故が発生すると、対策を怠った事実を従業員側が証明しやすくなるのです。

たとえば、WBGTの測定を怠り、基準値を超えた環境で作業を続けさせた場合、企業の「過失」と見なされ、慰謝料などを請求される可能性があります。さらに、違反者には、6ヶ月以下の懲役または50万円以下の罰金も科される可能性があります。

もはや対策はコストではなく、企業の法的義務であり、怠るリスクは計り知れないといえるでしょう。

参考1:君津市『労働者への熱中症対策が義務化(罰則あり)されます

参考2:e-Gov法令検索『労働安全衛生法

熱中症の作業中止基準を判断する3ステップ

「いつ作業を中断するか」という判断は、管理者にとって重要な役割です。勘に頼らず客観的な基準で判断するために、ここで紹介する3つのステップで考えましょう。

この手順を踏めば、従業員の安全を守り、自信を持って指示を出せます。それぞれ解説します。

ステップ1:作業の身体的負荷(強度)を知る

まずは、従業員の作業が体にどれくらいの負担をかけるものかを正しく把握することが第一歩です。なぜなら、同じ環境でも作業の強度によって熱中症リスクは大きく変わるからです。

体内で発生する熱の量は、作業の負荷に比例して増えます。座って行う軽作業と、重いものを運ぶ作業では、危険度が全く異なります。

たとえば、建設現場での屋外作業や工場内での溶接、運送業務などは、身体的な負荷が大きい作業の代表例です。これらの作業は特にリスクが高いと認識しなければなりません。

現場の作業内容を負荷の大きさで分類し、危険度をあらかじめ評価しておくことが、適切な管理の基本となります。

ステップ2:作業者の「暑熱順化」を確認する

次に、作業員が暑さにどれだけ慣れているか、つまり「暑熱順化」しているかを確認することが重要です。

体が暑さに慣れていない状態では、汗をかいて体温を調節する機能がうまく働きません。そのため、同じ作業でも熱中症になるリスクが非常に高くなるのです。

暑熱順化には個人差があり、完了までに数日から2週間ほどかかるとされています。特に注意が必要なのは、体がまだ慣れていない5月の暑い日や、気温が急上昇する梅雨明けの時期です。また、お盆休み明けの従業員も順化の効果が元に戻っている可能性があります。

こうしたタイミングを把握し、暑さに慣れていない人には休憩を多めに取るなどの配慮が事故防止に繋がります。

ステップ3:WBGT基準値と照らし合わせて判断する

最後に、測定したWBGT値と国の基準値を照らし合わせ、作業の中断や休憩を具体的に判断します。2025年6月からはWBGT値の測定と記録が義務となりました。

暑さ指数(WBGT)が28℃以上、または気温31℃以上の環境で、連続1時間超または1日4時間超の作業は、対策を怠ると罰則の対象です。

この客観的な指標で、勘に頼らない根拠ある判断が可能になります。これらを参考に自社のルールを明確にしましょう。

参考:厚生労働省『職場における熱中症対策の強化について

熱中症の予防策と体制づくり

熱中症の予防策と体制づくり

作業中止という事態を避けるには、日ごろの予防と体制づくりが何より重要です。法律の基準を守ることは従業員の命を守ることに直結します。

ここでは予防の三本柱、緊急時マニュアルの作り方、現場で役立つ情報まで具体的に解説します。

予防の三本柱(作業環境・作業・健康の管理)

熱中症予防の基本は「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」という三つの柱を実践することです。

環境を整え、作業のやり方を工夫し、従業員自身の健康状態にも目を配る。この3つの視点が現場の安全を大きく向上させます。

WBGT指数計で環境を数値化し(環境管理)、その値に応じて休憩を調整し(作業管理)、朝礼で従業員の顔色を確認する(健康管理)。

このように3つの柱は互いに関連しあっています。これらを日常業務に組み込むことが、安心して働ける職場づくりの基礎です。

義務化に対応する緊急時マニュアルの作り方

法改正に対応するため、熱中症発生時の行動を定めた「緊急時対応マニュアル」の作成と周知が不可欠です。万が一の際に、誰が何をすべきか明確でなければ、対応が遅れて重症化する恐れがあるからです。

2025年からの法律では、この手順書の整備と周知が義務付けられました。マニュアルには「誰に報告するか」「体を冷やす方法」「救急車を呼ぶ基準」「緊急連絡網と搬送先病院」などを明記します。

意識がない場合は迷わず119番、判断に迷う場合は#7119へ相談するといった具体的な行動も記載すると、現場の混乱を防げます。

熱中症対策に使える助成金

対策設備の導入費用は、国や自治体の助成金を賢く活用することで、負担を大幅に軽減できます。

熱中症対策は必須の投資ですが、経営にとっては大きな負担です。国も事業者の取り組みを後押しするため、さまざまな支援制度を用意しています。

たとえば、厚生労働省の「エイジフレンドリー補助金」はファン付き作業服やWBGT指数計の購入に活用できます。ただし、60歳以上の労働者が対象です。

「業務改善助成金」は休憩所の冷房設置などに活用できる場合があります。ただし、申請前に購入した設備は対象外となるため、事前の情報収集と計画が重要です。

最新情報を自治体の窓口や専門家に確認し、計画的に申請して、コストを抑えながら効果的な安全対策を実現しましょう。

参考1:厚生労働省『「令和7年度エイジフレンドリー補助金」のご案内

参考2:厚生労働省『令和7年度業務改善助成金のご案内

よくある質問

熱中症対策を進めるうえで、管理者が抱きやすい疑問にQ&A形式でお答えします。特に気になる3つの質問を、わかりやすく解説します。

天気予報の気温を基準にしてはダメ?

天気予報の気温だけを基準にするのは、法律違反のリスクを伴います。必ず、現場で測定したWBGT(暑さ指数)を基準にしましょう。

2025年から、事業者は「気温」ではなく「WBGT」を測定し、その値に基づいて対策を行うことが法律で義務化されたからです。

そもそもWBGTは、危険度を左右する「湿度」や「日差し」を考慮した数値です。同じ気温30℃でも、蒸し暑い日では危険度が全く異なります。本当の危険度はWBGTでしか測れません。

従業員の命を守り、法的義務を果たすためにも「天気予報の気温」ではなく「現場のWBGT」を絶対的な基準としてください。

作業中止の場合、日給の補償はどうなる?

熱中症対策で会社の指示により作業を中止した場合、法律上の「休業手当」を支払う必要があると考えられます。

2025年から熱中症対策は会社の法的義務となります。安全を守るための作業中止は「会社都合」の休業と判断される可能性が極めて高いからです。

これは、台風で事業所が壊れるような「不可抗力」とは違います。会社の管理下における判断のため、労働基準法に基づき、従業員へ平均賃金の6割以上の手当を支払う義務が生じます。

安全のための正しい判断が、賃金未払という法律違反とならないよう、このルールを正しく理解しておきましょう。

参考:e-Gov法令検索『労働基準法

対策の必要性を経営層へ説明するには?

経営層には、熱中症対策をコストではなく「リスク回避と生産性向上のための経営投資」と説明するのが効果的です。

まず、2025年からの対策義務化を怠った場合の、罰則や高額な損害賠償といった法的リスクを明確に伝えます。これは企業の存続を直接脅かす重大な問題です。

その上で、国の助成金を使えば少ない負担で設備投資ができること、そして安全な職場が従業員の生産性を上げ、企業の利益に繋がることをアピールします。

このように「守り(リスク回避)」と「攻め(リターン)」の両面から必要性を訴えることで、経営層の理解を得やすくなるはずです。

まとめ

ここまで職場の熱中症対策と作業中止基準について解説しました。重要なのは、これからは「WBGT」が絶対的な基準になること、そして対策は法律で決まった会社の義務だということです。

「まだいけるか……?」「でも、もし倒れたら……」そんな勘と責任感に頼る判断はもう終わりです。「法律で決まっていますから」と誰もが納得する基準で自信を持って指示を出しましょう。

まずは国が出しているチェックリストを手に取り「うちの職場はどこが危ないか?」を具体的に洗い出すことから始めてみましょう。

一つずつ対策を進めれば、従業員は安心して働け、会社への信頼も厚くなります。安全で活気のある職場を実現しましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。