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2025/07/02

豪雨災害対策でできること|命と事業を守る3ステップを解説

西條 徹

西條 徹

豪雨災害対策でできること

年々、被害が大きくなっている豪雨災害を前に「私たちの介護施設で行っている防災対策は、本当に十分だろうか」とお悩みではありませんか?

本記事では、事前準備から実践的な防災訓練、被災後の具体的な応急処置や事業継続計画(BCP)の実行までを3ステップにわけて詳しく解説します。

この記事を読めば、漠然とした不安が「やるべきこと」へと変わり、利用者と職員の命を守り抜くための確かな一歩を踏み出せます。

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豪雨災害対策として事前にできること【事前準備編】

近年の豪雨災害は、私たちの想定をはるかに超える被害をもたらすことがあります。大切な利用者と職員の命を守るためには、何よりも事前の備えが重要です。

ここでは、豪雨災害対策として事前に準備しておくべきことを5つのステップに分けて解説します。

ハザードマップでリスクを確認・共有する

施設の安全を守るためには、ハザードマップで災害リスクを正確に把握することが不可欠です。なぜなら、どのような危険がどこに潜んでいるかを知らなければ、効果的な対策を立てられないからです。

職員全員でリスクを共有することで、いざというときの行動に迷いがなくなります。たとえば、国土交通省の「重ねるハザードマップ」や自治体のウェブサイトを確認してみましょう。

施設が洪水でどれくらい浸水するのか、あるいは土砂災害の危険性はないかなどを地図上で視覚的に理解できます。浸水の深さがわかれば、施設のどの階へ避難すべきかの判断材料にもなります。

このように、ハザードマップから得た客観的な情報を基に計画を具体化させることが、利用者と職員の安全確保につながるのです。

参考:国土交通省『重ねるハザードマップ

避難計画を作成する(判断基準・手順・役割)

実効性のある避難計画の作成が、迅速な安全確保に直結します。災害時に誰が、いつ、何をするかが明確でないと、現場が混乱して避難が遅れる危険があるからです。

特に夜間など職員が少ない状況を想定した計画は極めて重要です。たとえば、自治体から警戒レベル3「高齢者等避難」が発令されたら避難準備を開始するなど、具体的な行動開始の基準を決めましょう。

情報収集、避難誘導、安否確認といった役割分担を明確にしておくことも大切です。静岡県が提供する「わたしの避難計画」のようなツールも、計画を作成するうえで参考になるでしょう。

事前に具体的な判断基準と手順、そして役割を決めておくことで、施設全体で一体となったスムーズな避難行動が可能になります。

参考1:国土技術研究センター『企業等における事業継続のための水害対応版BCPについて

参考2:静岡県『一人ひとりの避難計画「わたしの避難計画」

参考3:気象庁『防災気象情報と警戒レベルとの対応について

ライフラインを確保する(備蓄品・電源・トイレ)

災害発生後も利用者の生活の質を守るため、ライフラインの確保は極めて重要です。電気や水道が止まると、食事の提供や衛生管理が困難になり、利用者の健康に直接影響を与えかねません。事業を継続するうえでも不可欠な備えといえるでしょう。

飲料水や非常食は最低3日分、可能であれば1週間分を備蓄することが推奨されます。特に、災害時はトイレが大きな問題となるため、携帯トイレや簡易トイレを十分に準備しておくことが大切です。

また、非常用発電機があれば、停電時でも医療機器や照明など最低限の電力を確保でき、現場の安心感が大きく変わります。

水・食料・トイレ・電源という生命線を事前に確保しておくことが、有事の際の事業継続と利用者の尊厳を守ることに直結します。

事業を続けるためのリスクを管理する

地域のセーフティネットとしての役割を果たし続けるため、事業継続計画(BCP)の策定が求められます。災害は施設の運営そのものを脅かすからです。

事前にリスクを洗い出し、対応策を決めておかなければ、事業の早期復旧が難しくなってしまいます。まずは自施設のリスクを再確認し、どの業務を優先して継続するかを決めましょう。

具体的には、重要書類のデータ化や、被災した場合の代替生産の検討などが挙げられます。水害は地震と異なり、発生までにある程度の時間的な猶予があります。そのため、警戒レベルに応じた対応を時系列で整理しておくことがとても有効です。

起こりうる被害を想定して事前に対策を講じるBCPの策定が、地域の信頼に応え、事業を守る力になります。

法律で定められた「避難確保計画」を理解する

法律で義務付けられている「避難確保計画」を正しく理解し、作成・提出することは事業者としての責務です。要配慮者である利用者の命を守るための最低限の取り決めといえます。

行政への対応という側面はもちろん、実効性のある計画は施設の防災体制の根幹となります。この計画は、浸水想定区域などにある介護施設(要配慮者利用施設)に作成が義務付けられています。

計画には、防災体制、情報収集の方法、避難誘導の具体的な手順などを盛り込む必要があります。国土交通省のウェブサイトには、作成用の手引きや様式、記載例が公開されていますので、これらを参考に自施設の実情に合った計画を作成しましょう。

法的義務を果たすことは施設の信頼性を高めます。計画を形だけのものではなく、実際の災害時に本当に役立つものへと見直すことが重要です。

参考1:国土交通省『要配慮者利用施設の管理者等の避難確保計画の作成等の義務化について

参考2:国土交通省『要配慮者利用施設の浸水対策

実用的な豪雨対策としてできること【実行・訓練編】

避難計画や備蓄の準備を整えることは、災害対策の重要な第一歩です。しかし、それらの計画が本当に機能するかは、日々の実行と訓練にかかっています。

ここでは、計画を「生きた計画」に変えるための具体的な行動を5つのステップで解説します。

職員の役割分担を決め計画を周知する

災害時に迅速かつ的確に行動するため、職員一人ひとりの役割を明確にし、計画を全員で共有することが不可欠です。なぜなら、有事の際に誰が何をするか決まっていなければ、指示待ちや混乱が生じ、貴重な時間を失ってしまうからです。

情報収集を担当する班、避難誘導を担当する班、医薬品などを管理する班のように、業務の優先順位に沿って役割を決めましょう。作成した役割分担表や避難計画は、休憩室など目につきやすい場所に掲示し、いつでも確認できるようにしておくことが大切です。

役割分担を明確にして組織の共通認識とすることで、統率の取れた行動が可能になります。

実践的な防災研修と避難訓練を実施する

計画の実効性を高めるためには、現実に即した実践的な訓練を繰り返し行うことが最も重要です。

マニュアルを読むだけでは、想定外の事態に対応することはできません。訓練を通じて課題を発見し、改善を重ねることで、初めて計画が「生きたもの」になるのです。

たとえば、職員が最も少ない夜間や休日を想定した訓練を実施してみましょう。また、車椅子をご利用の方を2階へ垂直避難させるのに、実際にどれくらいの時間がかかるか計測することも大切です。

訓練のシナリオに停電や通信障害といった状況を加えることで、職員の対応力は格段に向上するでしょう。

利用者・家族と情報を共有し協力体制をつくる

安全な避難を実現するためには、日ごろから利用者や家族と情報を共有し、協力体制を築いておくことが欠かせません。災害時には、施設職員だけで対応できることには限界があるからです。

家族の協力を得ることで、より迅速で円滑な避難が可能になりますし、事前の情報共有は家族の不安を和らげることにもつながります。まずは、施設の災害リスクや避難計画について、説明会や広報誌などで丁寧に説明しましょう。

その際、災害発生時の連絡方法や安否確認の手順も明確に伝えておくことが重要です。特に、お一人での避難が難しい方については、家族と連携して「個別避難計画」を作成し、具体的な支援体制を整えておきましょう。

地域や近隣施設との協力体制を構築する

施設が孤立するのを防ぎ、地域全体で災害を乗り越えるため、近隣の施設や地域コミュニティとの連携体制を平時から築いておくことが重要です。

大規模な災害では、一つの施設だけでは対応しきれない事態も十分に起こり得ます。物資の融通や職員の応援など、相互に助け合える関係が事業継続の鍵となるのです。

まずは、近隣の介護施設や医療機関と連絡を取り合い、災害時の相互支援ができないか検討してみましょう。また、地域の自主防災組織が実施する訓練に積極的に参加し、顔の見える関係を築いておくことも大切です。

行政による「公助」には限界があります。日ごろから「共助」のネットワークを広げておくことが、自施設だけでなく地域全体の防災力を高めることにつながります。

参考:内閣府『防災基本計画

計画を定期的に見直し・改善する

防災計画は一度作ったら終わりではありません。状況の変化に対応し、より実効性を高めるために、定期的な見直しと改善を続けることが不可欠です。なぜなら、災害の様相は年々変化しており、施設の状況や職員の体制も変わっていくからです。

計画が現状に合っていなければ、いざというときに機能しないでしょう。少なくとも年に一度は計画を見直す機会を設け、避難訓練で明らかになった課題や、他の災害事例から得られた教訓を反映させることが重要です。

行政が更新するハザードマップを確認し、リスク想定が古くなっていないかチェックしましょう。改善を続けていく姿勢が、施設の防災レベルを常に高い水準に保ちます。

被災後にできる応急対策と事業復旧【災害発生後編】

被災後にできる応急対策と事業復旧

万が一、豪雨災害に見舞われてしまった場合、混乱した状況の中で冷静に行動することが極めて重要です。事前準備や訓練の成果が問われるのは、まさにこの時といえるでしょう。

ここでは、発災直後の人命救助から、事業を立て直すための手順まで、災害発生後に取り組むべきことを時系列で解説します。

まず利用者の安否と健康を確認する

災害発生直後、何よりも優先すべきは、利用者と職員の安否確認と健康状態の把握です。これがすべての応急対策の出発点であり、命を守るための最も重要な行動です。特に医療的ケアを必要とする方の状態は、一刻を争います。

あらかじめ定めた手順に従い、速やかに利用者と職員全員の安否を確認しましょう。体調に変化がないか一人ひとりに声をかけ、必要なケアを行ってください。

避難生活では脱水症状やエコノミークラス症候群などの健康リスクが高まります。水分補給を促し、定期的に軽い運動を取り入れるなどの配慮が不可欠です。

迅速な安否確認と継続的な健康管理が、被災状況下における利用者の命と尊厳を守ります。

建物の安全を確認し二次災害を防止する

利用者の安全を確保した後は、施設の安全点検を行い、二次災害の発生を防ぐことが重要です。なぜなら、建物や設備が損傷している場合、さらなる被害や事故につながる危険性があるからです。

まずは、目視で建物のひび割れや傾き、窓ガラスの破損などがないかを確認しましょう。大雨の後は地盤が緩んでいる可能性があるため、施設周辺の崖などにも注意が必要です。

ガス漏れや漏電の危険がないか、ライフラインの状態もチェックします。少しでも危険を感じる箇所があれば、立ち入り禁止の表示をして、専門家による詳細な点検を依頼しましょう。

慎重に安全確認を行い、危険箇所への対策を講じることが、二次災害から皆様を守ることにつながります。

施設の衛生環境を確保する(消毒・トイレ・ごみ)

被災後の施設では、感染症を防ぐために衛生環境を確保することが極めて重要になります。断水や停電により、普段どおりの清掃やごみ処理が困難になり、食中毒や感染症が広がりやすい状況になるからです。

特に抵抗力の弱い高齢者にとっては深刻な問題といえるでしょう。まずは、避難スペースの土足禁止を徹底し、こまめな換気と手指消毒を心がけます。

下水管の安全が確認できるまで水洗トイレの使用は控え、備蓄しておいた携帯トイレや簡易トイレを使用してください。ごみや排せつ物は、ルールを決めて適切に管理し、衛生的な環境を維持することが求められます。

トイレ、ごみ、消毒といった衛生管理を徹底することが、集団生活における感染症のリスクを低減させ、利用者の健康を守ります。

事業を立て直すための手順を実行する

人命の安全と衛生環境が確保できたら、事業を復旧させるための具体的な行動を開始します。サービスの再開を待つ利用者や家族、そして職員の生活のためにも、一日も早い事業の立て直しが求められるからです。

事前に作成した事業継続計画(BCP)に基づき、優先すべき重要業務から再開を目指しましょう。たとえば、ライフラインの復旧状況を確認しながら、厨房機能の再開などを検討します。

被災した設備や備品のリストを作成し、復旧に必要な資金や人員を把握することも重要です。職員の安全を確保したうえで、出勤可能な人員で復旧作業の計画を立て、着実に実行しましょう。

BCPに沿って冷静に、かつ計画的に復旧手順を実行することが、事業を立て直すための道筋となります。

行政など関係機関へ報告・連絡する

施設の状況を速やかに行政などの関係機関へ報告・連絡することが、円滑な支援を受けるために不可欠です。正確な被害情報が伝わらなければ、必要な支援物資の提供や、専門家の派遣といった公的なサポートを受けられない可能性があるからです。

まずは、施設の被害状況(建物の損傷、ライフラインの状況など)を整理し、市町村の担当窓口へ報告しましょう。被害がなかった場合でも「被害なし」の一報を入れることが重要です。行政が地域全体の被害状況を把握するうえで役立ちます。

また、近隣の協力施設や所属団体にも状況を共有し、必要な応援を要請してください。自ら積極的に情報を発信し、関係機関と密に連携を取ることが、孤立を防ぎ、迅速な復旧への道を切り拓く鍵となります。

豪雨対策に関するQ&A

「被災した場合、お金の面での支援はあるのか」「結局、どこへ避難するのが一番良いのか」といった点は、多くの方が気になるところでしょう。

ここでは、特に多くの方が疑問に思われるであろう、公的な支援制度と避難場所の考え方について、Q&A形式でわかりやすく解説します。

豪雨災害時に使える助成金や補助金はある?

国や自治体は、被災された方の生活や事業の再建を支えるため、さまざまな法律に基づいて具体的な制度を設けています。

たとえば、事業者向けには、施設の建物や設備の復旧工事費を補助する「社会福祉施設等災害復旧費国庫補助金」や、事業再建のための資金を低金利で借り入れできる「日本政策金融公庫の災害復旧貸付」などがあります。

また、職員の方が個人で利用できるものとして、住宅の被害状況に応じて支援金が支給される「被災者生活再建支援制度」があります。

これらの制度は申請が必要であり、自治体によって窓口や要件が異なりますので、まずは市区町村の担当課へ相談することが第一歩です。

参考1:厚生労働省『社会福祉施設等の災害復旧費国庫補助金

参考2:日本政策金融公庫『災害復旧貸付

参考3:石川県『被災者生活再建支援制度

豪雨災害時の避難場所はどこが最適?

最適な避難場所は、災害の状況と施設の立地条件によって異なります。必ずしも行政が指定した避難所だけが選択肢ではありません。

介護施設の場合、多くの利用者を安全に移動させる必要があり、一般の避難所ではかえって生活が困難になるケースも想定されるからです。そのため、状況に応じた複数の選択肢を検討しておく必要があります。

浸水の深さが比較的浅いと想定される場合は、施設内の上階へ移動する「垂直避難」が最も安全で現実的な選択肢となります。しかし、建物自体に倒壊などの危険がある場合は、安全な場所にある協力施設などへ移動する「水平避難」が必要です。

「垂直避難」を基本としつつ、最悪の事態に備えた「水平避難」の計画も立てておく視点が重要になります。

まとめ

今回は、介護施設における豪雨災害対策を「事前準備」「実行・訓練」「発災後の対応」の3つの段階に分けて解説しました。

重要なのは、避難計画をただ作るだけでなく、実践的な訓練を通じて常に見直し、職員全員で共有することです。

日ごろからの着実な備えが、有事の際に職員の迷いのない行動を支え、利用者の命と、地域からの信頼を築く礎となるはずです。

まずはその第一歩として、施設のハザードマップを作ることから始めてみましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。