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2023/12/13

介護施設における感染症BCP策定のポイントと対策を解説

西條 徹

西條 徹

介護施設における感染症BCP策定のポイントと対策を解説

介護施設では、災害や感染症におけるBCPの策定が義務化されています。しかし、感染症BCPの策定方法や実際に感染症が起きた場合の対策に不安がある方も多いでしょう。

この記事では、介護施設での感染症BCP策定のポイントを解説します。

この記事を読むことで、実際に施設内で感染症が蔓延した場合でも冷静な対応ができるでしょう。

下記の記事では介護事業所のBCP策定期限や策定方法について詳しく説明しております。

介護事業所のBCP策定|期限はいつまで?策定方法は?

介護施設の感染症BCPの目的とは?

施設内で感染症が蔓延する前に、しっかりと計画を立てておくことは非常に重要です。

介護施設で感染症BCPを策定する目的を解説します。

サービスの継続

介護施設は、多くの入居者や利用者の健康や生命を守る重要な責任を担っています。

そのため、いかなる時でも必要なサービスの提供が止まることのないように、対策する必要があります。

利用者の安全確保

介護施設に入居している方は、高齢者や特定疾患のある方が多いため、抵抗力が弱く感染すると重症化するリスクがあります。

そのため、介護施設では事前にしっかりと感染防止策を検討し、利用者の安全を確保することが大切です。

職員の安全確保

感染拡大時に業務を継続することは、職員の感染症に罹ってしまう可能性もあり、労働環境も過酷になることが予想されます。

感染防止対策とともに、職員の精神的なケアも同時に行っていきましょう。

参考:厚生労働省『介護施設・事業所における新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン

介護施設の感染症BCP策定のポイント

感染症BCPを策定する際に、必ず計画に入れておくべき事項があります。

介護施設での感染症BCP策定時に重要なポイントを解説します。

関係者との情報共有や役割分担・判断ができる体制の構築

感染疑い者発生時の対応が、今後感染症が広まるかどうかを左右します。日頃から関係者と情報共有を行うことで、感染症に対する意識を高めることができます。

また、BCPを発動する場合、先頭に立って指揮をとる人が必要です。事前に意思決定者や業務の各担当者を決めておくと良いでしょう。

感染(疑い)者が発生した場合の対応

介護サービスは、入居者や利用者にとって生活を継続するために必要なものです。そのため、サービスを中断することがないように対応しなければなりません。

日頃から感染者が発生した場合を想定し、シミュレーションを重ねることが大切です。

職員の確保

職員が感染者や濃厚接触者となってしまった場合、職員が不足することが想定されます。

他の事業所から応援を呼ぶ等、職員を確保できる体制を整える必要があるでしょう。

業務の優先順位を整理

職員が不足した場合、通常行っている業務を全て行うことは難しくなる可能性があります。

そのため、どの業務を優先的に行っていくかの優先順位を整理しておくと良いでしょう。

BCPの周知、研修・訓練の実施

BCPを策定しただけでは、実際に感染症が蔓延した場合にスムーズな行動ができません。関係者にBCPの内容を周知し、研修や訓練を重ねることが大切です。

また、定期的にBCPの見直しも行い、どのような対応であれば安全に業務を継続できるのか考えていく必要があるでしょう。

介護施設の感染症BCP発動時の対策

風邪症状や発熱症状のある入居者が数名見られたら、BCPに沿って行動する必要があります。

感染疑い者が発生し、BCPを発動する際の流れと対策を解説します。

感染疑い者発生

息苦しさや強いだるさ、発熱、咳、頭痛等の比較的軽い風邪症状等が確認された場合、感染疑い者として対応します。

検温や状態の確認を継続し、体調の変化がないかどうかこまめに確認しましょう。

初動対応

感染を広めないために、職員は適切な行動をする必要があります。

感染疑い者が発生し、陽性者が確認された場合の初動対応について見ていきましょう。

第一報

感染疑い者が発生した場合は、まず管理者へ報告しましょう。医療機関を受診するのか、施設内に常備してある検査キットで検査を実施するのか、入居者の状態を確認しながら看護師等と検討します。

感染疑い者への対応

基本的に、感染の疑いがある人は個室に移動します。個室が用意できない場合は、マスクを着用の上、ベッドの間隔を2m以上あける、カーテンで仕切る等の対応を実施します。

感染疑い者の対応をする職員と、その他の入居者の対応をする職員に分けて業務にあたることも重要です。

消毒・清掃等の実施

居室や共有スペースを消毒用エタノール、または次亜塩素酸ナトリウム液で消毒を行います。

また、時間を決めて窓を開け換気を行うことも有効でしょう。

参考:厚生労働省『新型コロナウイルスの消毒・除菌方法について

検査

施設内の検査キットで陽性が確認された場合、検査結果と既往歴、お薬の情報等を医療機関に伝えます。検査の結果が出るまでの間は、感染が拡大しないように対策を実施する必要があるでしょう。

また、検査結果が陰性であっても、後から陽性反応が出る可能性もあります。感染疑い者の体調の変化を常に確認した上で、対応を検討しましょう。

感染拡大防止体制の確立

感染症が拡大してしまわないように、感染防止対策を確立しておくことが大切です。

詳しい内容について見ていきましょう。

保健所との連携

介護施設で感染者が確認された場合、保健所に連絡をします。今後どのような感染対策を行っていけば良いか、という確認も同時に行いましょう。

通所系サービスの場合、保健所から休業の指示があればそれに従い、しばらくの間事業所の運営を停止します。

濃厚接触者への対応

濃厚接触者は、14日間は風邪症状や発熱がないか注意深く観察します。基本的には個室で対応し、個室が足りない場合は無症状の濃厚接触者と同室で対応します。

発熱や風邪症状の症状が見られたら、すぐに別室に移動し、検査を実施しましょう。生活空間や動線を分けること、ケアの実施内容や実施方法についても確認しておく必要があります。

職員の確保

職員が感染者や濃厚接触者となった場合、業務を継続するために職員を確保する必要があります。系列の施設がある場合は、他の施設から応援に来てもらうこともあるでしょう。

行ってほしい業務や説明すべき事柄についてまとめておくと、応援職員が迷うことなくスムーズに業務に入ることができます。

防護具や消毒液等の確保

想定している以上に感染が拡大してしまった場合、防護服や消毒液が不足してしまうことがあります。

在庫のチェックをし、今後どれくらいの量を必要とするのか把握した上で発注をしましょう。

足りなくなってしまった場合には、防護服等を入手できる業者を事前に調べておくと安心です。

情報共有

介護施設では、多くの職員が働いています。そのため、現在の施設の情報を正確に共有できるような体制作りが重要です。

感染者の情報や感染してから何日経過しているのか等、時系列にまとめておくと共有しやすいでしょう。情報をまとめた書類を職員に配る、職員全員が普段から目を通している申し送りのノートに情報を記載する等、共有する方法も検討する必要があります。

また、感染症が蔓延した場合の施設の方針について、入居者やその家族と共有することも大切です。

業務内容の調整

感染者が蔓延した場合、通常の業務を全て行うことは難しくなる可能性があります。業務内容に優先順位をつけ、今いる職員でできる仕事量に調整しましょう。

特に、感染症の場合は人と人との接触をなるべく最小限に抑えることが大切です。食事は各居室で取っていただく、日常的に行っているレクリエーションがあれば中止する等、最小限の介護業務のみ行うことを優先しましょう。

職員の過重労働・メンタルヘルス対応

普段の業務に加え感染症対策も行うと、職員にかかる負担は大きなものとなります。職員の不足が予想される場合は、早めに他の施設から応援を要請する等、職員が疲弊してしまわないように配慮する必要があるでしょう。

また、いつか私も感染してしまうのではないかと思いながら仕事を続けていくことは、精神的にも疲労してしまう可能性があります。

相談窓口を設置したり日頃から職員とコミュニケーションを取ったりと、心のケアも欠かさずに行っていきましょう。

【まとめ】

近年、新型コロナウイルス感染症の流行により、介護施設における感染症BCPがますます重要視されています。

BCPを策定したら、職員全体に周知するだけでなく、訓練を重ねることで実際に感染者が発生した場合にスムーズな行動が可能になります。

事前にしっかりと計画を立て、安全に業務を継続できるような体制を整えましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。