ーー前回は、ご家族全員が防災士資格を取得されている出水さんの活動やきっかけについてお伺いしてきました。今回は、出水さんの活動にもある、家族や身の回りの人に防災の意識を広めていくための方法やポイントについて、お聞かせ願えればと思います。
まず、相手の熱量に合わせた形で伝えていくことがベストだと思います。
例えば、災害を経験していない方もたくさんいるんです。そんな人たちに、災害を経験している人が一方的な熱量で伝えようとしても、そこにはどうしても差が生まれてしまいますよね。経験していないから興味がない、というわけでなく、関わり方は人それぞれです。「報道で見るのも、申し訳ないけど心がしんどくなってしまうので見れなかったんです」という方もいらっしゃいますから。
ーー関わり方を否定せず、相手に合わせた形で少しずつ意識を伝えていく。
防災意識を広める上で、一番よく使われるのが「脅しの防災」と呼ばれるスタイルです。
「危険ですよ」「このままじゃ命を落としますよ」といった恐怖で人を動かすもの。それは手っ取り早いですし、人を動かしやすいのですが、お子さんのいらっしゃる家庭にはなかなか受け入れられないんじゃないかな、と個人的に感じています。
私自身の取り決めとしては、災害時の写真や映像を見せないようにしているんです。もちろん、その「悲惨さ」を伝えて防災意識を高めよう!というのも一つ大事な方法かもしれませんが、それよりも「安心のための防災」といった切り口で伝える。
「やってないと怖いでしょ」「これがないと危険ですよ」といった語り口ではなく「これがあると安心ですよね」といった「安心・安全」ベースで話を進めていくようにしています。あくまで一つの切り口ですが、それぞれに合わせた切り口、語り口があると思います。
ーーコミュニケーションと同じですね。安心・安全という切り口は非常に大切だなと思います。
この切り口の良いところは、自分の頭で考えることができる。「そのままじゃ危険ですよ!」って言われたら「どうしたらいいの?」って答えをすぐに求めたくなりますよね。そうではなく「私たちはどうすれば安心だろう?」と自分なりの答えを考えていくことにも繋がります。
そもそも、防災には答えがありません。防災訓練には答えがあるから、勘違いされがちなんですよね。給湯室が火事になりました、どうしましょう?といった具合に。でも実際は、どこがどうなるか、どんな災害が起きてどんな状況になるかは誰もわかりません。そのなかで自分の頭で考え、判断し、命を守っていく。それこそが防災の本質なので、自分の頭でしっかり考えることを、みんなでやっていけたらと思っています。

ーー自分の頭で考えることは大事ですね。出水さんは他にも、介護施設やペットサロン、児童保育の現場などにおいて、BCPの策定をはじめとした防災に関する取り組みをされているとお聞きしました。そのあたりのポイントについてもお聞かせ願えますでしょうか。
「就労支援」の要素を持った施設のBCPを策定させてもらった経験があるんですが、なかなか防災が難しいジャンルだとは感じています。守らなければいけない命があって、かつ利用者さまひとりひとりの状態が違う。社員自分たちの手だけでBCPを策定するのは困難ですよね。
実際にその施設にお邪魔して、移動の時間を測ったり、シミュレーションを細かく行うことが必須になります。ライフラインが止まった場合は、施設に人が集中している場合は、誰がどう指揮を取り、どんな対応を行うのか、細かくチェックして、細かく対応を決めていく。「事前にやっておけばよかった…」と思うことを減らしていく作業ですね。
ペットサロンではちょうど昨年、防災講座を開催したんですが、ペットサロンで働いている人や、ペットを飼っている人にとっては「誰かの命を守る」の中に「動物」の命も含まれます。そして、どんな状況で災害が起きるのが一番怖いか?と質問していくと、「その場にひとりの状態で、ペットを預かっている」が不安だと。
では、その不安な状態をできるだけ安心に近付けるには、どんなことを確認していったり、どんな備品が必要だろう?と考えていくんですね。当直は一人で、人数が変えられないのなら、当直室の安全はどうなっているのか、灯りとなるものはあるのか、誰にどう連絡すべきなのか。まず自分の安全を確保した上で、次は安心を確保していく。それを、実際にそこで働いている人たちと一緒に考えていきます。
BCPは策定することが目的になってしまいがちですが、本当に大切なのは現実的にそれが使えるかどうか、そして当事者が扱えるかどうかです。形式から入るのではなく、自分の体感から考えていく。それは等身大で身近な防災になると思います。ただ「何が困るか分からない人」に対しては、少しずつリードしていきながら疑問を生んでいく形で防災講座を行なっています。答えのない防災において、「答えをつくる力」よりも「この場合はどうしたらいいんだろう?」と「問いを生む力」のほうが大事です。私は防災のプロですが、その施設や業界については、働いている人の方が知っている。テンプレートに当てはめた防災ではなく、実際に働いている人の体感や知識をもとに、BCPを策定していくことが大切だと感じています。
ーーたしかに、テンプレートのマニュアルほど怖いものはないですね。施設や人によって対応が変わっていくのは言われてみれば当然のことです。では最後に、記事を読まれている方に伝えたいことはありますか?
「いつ、どこで、誰といるときに、どんな災害が起こるか全く分からない」というのは、究極の難題ですよね。
ただそれを解く鍵は、自分の経験や知識でしかないんです。それが「防災を学ぶ」ことだと思います。自分が助かるからこそ、誰かを助けられる。まず自分の身を守ることで、誰かを守ることができる。どんな苦境も、その叡智と行動で跳ね返してきたのが人間の歴史だと思うので、先人の知恵や体験を活かしながら、できることをする。ひとりで学ぶのは難しくて、共に力を合わせてできることは多いはず。ぜひ一緒に、防災を学んでいけたらと思います!
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就労・自立支援施設、障害児支援施設、発達障害・不登校児支援施設等での防災教育活動及び職員向け防災研修、BCP策定などの経験が多数ございます。