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BCP策定のポイントは業種によって違う?

山口 泰信

山口 泰信

株式会社BCPJAPAN 代表であり、防災士の山口さんにお話をお伺いしました。

ーー山口さんは、1995年の阪神淡路大震災より、防災に関する様々な取り組みをされているとお聞きしました。

そうですね、私の防災コンサルティング活動は1995年阪神淡路大震災直後、2300名以上の方が避難された神戸生田中学で、避難所運営代表を3カ月間行ったことから始まりました。その後、中越地震、奥尻島、雲仙普賢岳、2013年東日本大震災などに出向き支援活動・調査活動・研修会をしております。

ーーまさにプロフェッショナルですよね。支援活動のみならず、企業様や自治体などをしっかり巻き込んで活動をされている。現場の知識や体験も落とし込んだ上で、そういった活動をされている方は稀有だと思います。山口さんが代表を務める株式会社BCPJAPANでは、どのような事業をされているのでしょうか。

今だと、「BCPの策定・啓発」のコンサルティングと「3SK」の勉強会の実施(整理整頓清掃・危機管理)の2つの事業を行っています。
最近だと、香川県の介護事業者6社に集まっていただき、同時に勉強会から訓練まで開催しました。介護事業所のBCP策定に関する指導と訓練の実施ですね。また、大阪では介護施設20ヶ所を5年ほどかけて毎月順番に訪問してBCP策定支援、3SKの指導など、防災に関するお手伝いをさせていただきました。
企業様の職種、大小を問わずあらゆる企業様にご指導をさせていただいております。

ーーなるほど。本日は、介護事業者さまに向けたBCP策定について、お話をお伺いしていければと思います。まず、BCP策定において、介護事業の場合はどのような違いやポイントがあるのでしょう?

介護施設におけるBCP策定の場合、重要なのは「利用者さんの命を守らないといけない」ことです。
デパートや飲食店など、従業員だけでなくお客様がその場にいる職種でもそうなんですが、違いはお客様の「自力での脱出が不可能な場合がほとんど」という点です。そのため、救出・救護に対する重要度が変わってきます。しかもそれが事前に、利用者さんの個性まで把握できている状態です。つまり「関わっている人を知っている」ことが大前提としてあります。ここがポイントですね。

ーーデパートや飲食店だと知らないお客様がほとんどですが、介護施設の場合は利用者さんの状態や特徴を把握できている、ということですね。

BCPは「事業継続計画」なので、どの事業を継続させていきますか、と言う話になるんですが

そうすると「お風呂に入る」は「トイレに行く」よりも後回しになり、薬を飲む、寝返りをさせるなど、生命確保のためにやるべき優先度が決まっているんですね。
百貨店の場合だと「商品を売るか売らないか」「どのフロアを開けるか」など選択肢が多いんですが、介護施設の場合は選択肢がないと言ってもいいです。「生命の確保」がお仕事で、かつ利用者さんの個性も把握できている。
逆に言えば、利用者さんの個性などをBCPに書く必要はないんです。それは普段から分かりきっていることですから覚えていることをまとめるのではなく、しなくていいことを決めたり、やらなければいけないことを整理したりといった取り決めをしていきます。「BCPを策定する」というのはつまり、防災計画をしっかりして、優先する業務の訓練を実施するという意味です。ただただマニュアルにまとめろ、というわけではありません。

ーー「やること」と「やらないこと」、その整理ということですね。まず、どのようなことを決めていくのでしょう?

施設の立地によってどのような危険が、どの段階まで考えられるのか。耐震基準は、津波は、土砂災害は。ハザードマップの確認など、危険の洗い出しからスタートですね。

その後、エレベーターの地震対応はどうなっているのか、浄水槽はあるのか、スプリンクラーは動作するのかなど、施設の設備確認と点検。まずこの2つを行います。
例えば、洗濯機って施設に必ずあると思うんですが、地震の場合はどうなると思いますか?

ーー使えなくなる、とかですか?

倒れるんですよ、ほとんどの場合。で、倒れるとどうなりますか?

ーーあ、水が漏れますね。

水が出っ放しになりますよね。洗濯機の蛇口は基本開けっぱなしで使っている方が多いでしょうから。つまり、地震で倒れてホースがもげたら、水が漏れる。ただ、最近では「ストップ水栓」というのがあって、ホースが取れたら勝手に止まる水栓に変わってきているんです。
じゃあ、そちらの介護施設ではこの「ストップ水栓」が使われていますか?把握していますか?ということなんです。そうした細かいところまで確認していけば、緊急時でも洗濯機のことは一旦後回しでいいなと、「やらなくていいこと」が生まれるわけです。
他にも「ナースコール」がどんな仕様なのか。停電時でもナースコールは動きますか?と聞かれて、分からない、ではいけません。「問題なく動く」のか「動かない」のか「1時間程度なら動くのか」で、安否確認を人間が行う必要があるかなど、対応が変わってきますよね。
そういった、設備や保安部品がただ動くかどうかの点検ではなく、「停電時にどうなるか」というのを細かく調査して対応を決めないといけません。なぜかというと「やらなくていいこと」を増やすためです。緊急時では、どうしてもパニックになってしまったり、突然やらなくてはならないことが発生します。そのなかで「やらなくていいこと」を増やしておくのは、大切なことです。

ーー「停電時にどうなるか」まで含めて部品の確認や点検をしていかなければならない。やらなくていいことを増やす、という視点は初めて聞きましたが大事ですね。

設備の確認、点検だけでも、そこまで細かく行っていきます。そして「分からない」ことは確認して、対応を決めておく。それがBCPを策定することですから。それができたら、ようやく訓練に移っていきます。

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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数