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2025/11/19

超音波式加湿器は意味ないって本当?介護施設でのリスクと安全な運用方法を解説

西條 徹

西條 徹

超音波式加湿器は意味ないって本当?介護施設でのリスクと安全な運用方法を解説

介護施設で導入した超音波式加湿器について「カビや雑菌が心配」「床が濡れて転倒リスクにならないか」といった不安をお持ちではないでしょうか。「超音波式は意味ない」という情報もあり、利用者の健康を守るために使い続けてよいか悩んでいるかもしれません。

本記事では、超音波式加湿器が意味ないといわれる理由から、介護施設で安全に使うための具体的な清掃・運用方法までを解説していきます。スチーム式や気化式など他の加湿器との違いや、加湿器病のリスクについても説明します。

本記事を読めば、超音波式のリスク管理が明確になり、施設で安全な湿度環境を整えるための具体的な対策がわかるでしょう。

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本当に超音波式加湿器は意味がない?

超音波式加湿器が「意味ない」といわれることがありますが、実際はどうでしょうか。

低コストで手軽に湿度を上げられる点は魅力的です。ただし、安全に使うには知っておくべき注意点もあります。

ここでは、超音波式の役割と介護施設での注意点を解説していきます。

結論:加湿器としての意味はあるが運用に注意

結論として、超音波式加湿器は加湿器としての意味(役割)を十分に果たします。運用コストや導入のしやすさにおいて、他の方式より優れている点があるためです。

具体的には、以下のような利点があります。

  • 消費電力が少なく電気代が安い
  • 本体価格が安価なモデルが多い
  • デザインが豊富に選べる
  • 本体が熱くならず安全性が高い

ただし、運用には注意が必要です。超音波式は水を振動させて霧(ミスト)にするため、周囲の床が濡れやすい欠点があります。

最大の注意点は衛生面といえるでしょう。水を加熱殺菌しないため、手入れを怠ると雑菌を放出する可能性があります。衛生面のリスクについては、のちほど詳しく取り上げていきます。

介護施設で使用するときの注意点

介護施設で超音波式加湿器を使う際には、厳格な衛生管理が欠かせません。免疫機能が低下した高齢者が多く、感染症のリスクが通常より高いからです。

特に警戒すべきはレジオネラ症といえるでしょう。過去には、手入れ不足の超音波式加湿器が原因で菌が繁殖し、老人ホームで死亡事故が起きた事例も報告されています。

超音波式には殺菌機能がないため、日々の手入れが重要です。具体的には、毎日水を交換してタンクを洗浄する、消毒効果のある水道水を使うといった対応が求められます。

安全を最優先に考える場合、水を沸騰させるスチーム式など、菌を放出しにくい方式を検討するのもよいでしょう。

参考:厚生労働省『加湿器を原因とした老人福祉施設でのレジオネラ症集団発生事例

超音波式加湿器が意味ないといわれる理由

超音波式加湿器は、価格や電気代が安いという利点をもっています。その一方で、加湿の方式が原因となる明確なデメリットもあるのが実情です。

衛生面や安全面でのリスクが「意味ない」といわれる理由といえるでしょう。具体的にどのような問題点があるのか解説していきます。

カビや雑菌が繁殖しやすいから

超音波式が敬遠される最大の理由は、衛生面のリスクといえるでしょう。水を加熱殺菌せず、そのまま霧(ミスト)にして空気中に放出するしくみだからです。

手入れを怠ったタンク内では、カビや雑菌が繁殖しやすくなります。もし、レジオネラ菌などが繁殖した場合、菌を含んだミストを吸い込むことで、加湿器肺炎やレジオネラ症を引き起こす恐れがあります。特に免疫力の低い高齢者が多い介護施設では、深刻な健康被害につながる危険性も高まるでしょう。

安全に使うには、水を沸騰させるスチーム式などと比べて、毎日の水交換や洗浄といった厳格な手入れが欠かせません。

床が濡れて転倒リスクが高まるから

加湿器の周辺が濡れやすく、安全面で問題になることがあります。超音波式が放出する水の粒子は、気化式など他の方式と比べて大きいからです。

大きな水の粒子は遠くまで飛ばず、加湿器のすぐ近くの床や壁に落ちてしまいます。介護施設において、濡れた床は利用者の転倒事故につながる重大なリスクといえるでしょう。壁紙やカーテンが湿気で傷んだり、カビの発生原因になったりする点も見逃せません。

過度な加湿は結露も招きます。設置場所を工夫するだけでなく、水滴によるリスクをしっかり理解しておく必要があります。

白い粉が発生し備品に影響するから

部屋の備品に「白い粉」が付着するのも、超音波式のデメリットといえるでしょう。粉の正体は、水道水に含まれるミネラル分(カルキ)です。

超音波式は、水に溶けている成分をそのまま空気中に放出するしくみになっています。水分が蒸発すると、ミネラル分だけが白い粉として家具や床に残ります。テレビやパソコンなどの電化製品、特に精密機器に付着した場合、見た目が悪いだけでなく、故障の原因になることもあるでしょう。

施設の備品を管理するうえで、清掃の手間が増える要因にもなります。水道水を使用する以上、白い粉の発生を避けることは難しいため、対策が求められます。

広いスペースの加湿に対応しにくいから

超音波式は、介護施設の広い共用スペースやデイルーム全体の加湿には向いていません。水の粒子が大きく重いため、水分が遠くまで届きにくいからです。

加湿器の周りだけが過度に加湿されて床が濡れる一方で、部屋の隅々までは湿気が行き渡らない「加湿ムラ」が起きやすくなります。湿度センサーがない機種では、部屋が十分な湿度になっても加湿を続けるでしょう。結露やカビの発生につながることもあるため注意が必要です。

広い空間の湿度を適切に管理したい場合には、加湿能力の高い他の方式が適しているといえるでしょう。

超音波式加湿器を安全に使う運用方法

超音波式加湿器を安全に使う運用方法

超音波式加湿器は衛生面での注意が必要ですが、運用方法を工夫すれば安全に使えます。

介護施設で安全に運用するための具体的な4つの方法を解説していきます。清掃の基本から、メリットのいかし方まで見ていきましょう。

清掃と水の管理を徹底する

超音波式を安全に使うために最も重要なのは、清掃と水の管理を徹底することです。水を加熱殺菌しないためタンク内で雑菌が繁殖しやすいのが、超音波式の特徴だからです。

水道水に含まれる消毒用の塩素も、時間が経つと効果が薄れてしまいます。対策として、タンクの水は毎日必ず交換しましょう。水を替えるときには、タンク内を振り洗いするのも有効な方法です。

使用する水は、殺菌効果のある水道水を選びます。ミネラルウォーターや浄水器の水は、菌が繁殖しやすいため使用を避けてください。毎日の手入れが、レジオネラ症などの感染リスクを防ぐ基本といえるでしょう。

クエン酸で定期清掃を実行する

定期的な手入れとして、クエン酸を使った清掃を実行しましょう。水道水に含まれるミネラル分が固まった水アカ(スケール)は、日々の水洗いだけでは落ちにくいからです。

水アカを放置すると、悪臭が発生したり、加湿能力が低下したりする原因になります。対策としては、クエン酸を溶かしたぬるま湯に、フィルターやトレイなどの部品を浸け置き洗いするのが有効です。洗浄後は、ニオイが残らないように水道水で念入りにすすぎます。

月に1回程度のクエン酸清掃で、加湿器を清潔に保ち、性能の低下を防げるでしょう。

床濡れや白い粉を防ぐ場所に設置する

床濡れや白い粉を防ぐためには、加湿器を置く場所の工夫が重要です。超音波式は水の粒子が大きく、床が濡れやすいため、利用者の転倒リスクにつながります。

床が濡れると危険なため、設置は人通りが少なく、濡れてもよい場所を選びましょう。湿度計を見て、部屋の湿度を適切な範囲(40%~60%)に保つのも大切な対策です。過加湿による結露も防げるでしょう。

また、水道水のミネラル分が「白い粉」として放出されます。白い粉は電化製品の故障原因になるため、テレビやパソコンからは離して置いてください。

設置場所を見直すだけで、多くのデメリットに対策できます。

静音性やコストメリットをいかす

超音波式ならではの長所をいかした運用も考えましょう。衛生面での手入れは必要ですが、他の方式にはない優れた点も多くあります。

特に優れているのは、運転音の静かさとコストの安さです。

  • 運転音が静かで睡眠を妨げない
  • ヒーターを使わず電気代が安い
  • 本体が熱くならず火傷の心配がない

利用者の居室や静かに過ごすデイルームなどで、これらの利点を役立てられるでしょう。導入費用や電気代を抑えつつ、安全に湿度を保ちたい場合に適しているといえます。

清掃の手間はかかりますが、静音性や経済性をいかした活用ができます。

加湿器の種類とそれぞれの特徴

加湿器には主に4つのタイプがあり、超音波式以外にも「スチーム式」「気化式」「ハイブリッド式」が存在します。それぞれ衛生面、電気代、安全性に違いがあります。

介護施設で使う場合、どの方式が適しているかを知るために、それぞれの特徴を見ていきましょう。

スチーム式の特徴

スチーム式は、水を沸騰させて蒸気(湯気)で加湿する方式です。最大の利点は衛生面といえるでしょう。

水を加熱殺菌するため、菌が繁殖する心配がありません。レジオネラ菌も死滅させるため、菌を放出するリスクが低いのが特徴です。加湿能力も高く、寒い時季には室温を少し上げる効果も期待できます。

ただし、水を沸騰させるため、電気代が高くなる点には注意が必要です。高温の蒸気が出るため、火傷のリスクにも注意しましょう。吹き出し口に水道水のミネラル分が白く固まりやすい点も、手入れの際に考慮すべきポイントといえます。

施設で使う場合は、電気代や安全面(火傷リスク)の管理を比較して検討しましょう。

気化式の特徴

気化式は、水を含んだフィルターにファンで風を当て、水分を気化させて加湿する方式です。濡れタオルに扇風機を当てるイメージといえるでしょう。

ヒーターを使わないため、電気代が最も安価な点が大きな利点となります。本体が熱くならず、安全性が高いのも施設向きです。水が気化しすぎないため、過加湿を防ぐ効果も期待できます。

ただし、加湿スピードは遅い傾向があります。気化熱が奪われるため、室内の温度が少し下がる場合もあるでしょう。フィルターが汚れやすいため、定期的な清掃や交換が求められます。

安全で低コストですが、加湿力や手入れの面も理解しておく必要があります。

ハイブリッド式(気化+温風)の特徴

ハイブリッド式(気化+温風)は、気化式にヒーター(温風)を組み合わせた方式です。気化式のフィルターに温風を当てることで、加湿スピードを速めているのが特徴といえるでしょう。

スチーム式に近いパワフルな加湿力をもちながら、加湿ムラが少ないという利点があります。湿度が安定するとヒーターが止まり、電気代の安い気化式に自動で切り替わる機種もあるでしょう。

吹出口が熱くならず、安全性も高いのが魅力です。ただし、ヒーターを搭載する分、気化式よりは電気代がかかります。本体価格も高めになる傾向があり、フィルターの手入れも定期的に求められるでしょう。

加湿スピードと安全性のバランスが良い方式といえます。

ハイブリッド式(超音波+加熱)の特徴

ハイブリッド式(超音波+加熱)は、超音波式にヒーターを組み合わせた方式です。水を加熱してから霧(ミスト)にするため、超音波式単体よりもパワフルに加湿できるのが特徴といえるでしょう。

加熱により、超音波式の弱点である雑菌の繁殖をある程度抑える効果も期待できます。

ただし、水を霧状にして噴霧する点は超音波式と同じです。水の粒子が大きく、床や壁が濡れやすいという欠点は残るでしょう。ヒーターを使う分、電気代もスチーム式と同じくらい高めになります。

本体が大きくなりがちな点も注意が必要です。超音波式の加湿力と衛生面を強化したタイプといえるでしょう。

よくある質問

加湿器の運用に関して、施設スタッフから寄せられる疑問は多くあります。特に「そもそも加湿は必要なのか」「どの水を使えば安全か」といった点は、利用者の健康に直結するでしょう。

加湿器の運用における基本的ながら重要な3つの質問にお答えしていきます。

そもそも施設に加湿は必要?

結論として、介護施設において加湿は非常に重要といえます。冬場など空気が乾燥すると、利用者の健康にさまざまな悪影響が出るためです。

たとえば、湿度が低いとのどや鼻の粘膜が乾燥し、風邪をひきやすくなります。ウイルスも乾燥した空気の中では活動が活発になるでしょう。ホコリが舞いやすくなり、感染リスクが高まるのも見逃せません。

適切な湿度を保つことは、感染症予防や肌の乾燥対策につながります。厚生労働省は、インフルエンザの予防のために50~60%の湿度を保つことを推奨しています。

施設には免疫機能が低下している方も多いため、適切な湿度管理は健康維持に不可欠といえるでしょう。

参考:厚生労働省『令和6年度インフルエンザQ&A

使う水は水道水と浄水どちらがいい?

加湿器に使う水は、水道水を選んでください。衛生管理の観点から、水道水が最も適しているからです。

水道水には、消毒のために微量の塩素が含まれています。塩素の効果により、ある程度の時間はカビや雑菌の繁殖を抑えられるでしょう。

一方で、浄水器を通した水やミネラルウォーター、井戸水は塩素殺菌されていません。水道水と比べて雑菌が繁殖しやすくなるため注意が必要です。

超音波式は白い粉が出てしまいますが、雑菌の繁殖を防ぐ安全面を優先して、必ず水道水を使いましょう。

加湿器病とはどんな病気?

加湿器病とは、加湿器の内部で繁殖したカビや菌を吸い込むことで起こる健康被害の総称です。手入れが不十分な加湿器から、汚染された霧(ミスト)が放出されることが原因といえます。

カビなどによるアレルギー反応(加湿器肺炎)のほか、特に注意が必要なのが「レジオネラ症」といえるでしょう。レジオネラ菌に汚染された霧を吸い込むことで感染し、重症の肺炎を引き起こす場合があります。高齢者や免疫機能が低下している方は、発症リスクが高いため警戒が必要です。

加湿器が感染源とならないよう、毎日の水交換や清掃を徹底しましょう。

まとめ

超音波式加湿器のリスクと介護施設での安全な使い方を解説しました。超音波式加湿器は、電気代が安く静かという利点がある一方で、衛生管理が重要といえるでしょう。

手入れを怠ると、レジオネラ症などの健康リスクが生じます。床濡れによる転倒や白い粉にも注意が必要です。

今すぐ取り組むべき対策は、毎日の水交換とタンク洗浄です。水は雑菌の繁殖を抑える水道水を選んでください。設置場所も床や電化製品から離し、安全を確保しましょう。

日々の管理負担と安全性を考慮し、もし運用が難しい場合は、スチーム式など他の方式への切り替えも検討してみてください。安全で快適な環境を整えましょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。