
リスクアセスメントが必要だと聞いたけれど「具体的に何をすればいいのかわからない…」「リスクマネジメントとの違いが曖昧…」とお悩みではないですか?
本記事では、リスクアセスメントとはなにかを簡単に解説し、さらに具体的な進め方、介護現場での実践例までをわかりやすく解説します。
この記事を読めば、リスクアセスメントの基礎が理解でき、職場の安全対策をスムーズに進められるようになりますので、ぜひご覧ください。
リスクアセスメントとは?簡単に解説
介護の現場では、利用者や職員が安全に過ごせることがとても大切です。しかし、転倒や誤えん、感染症など、さまざまな危険が潜んでいます。こうしたリスクを減らすために行うのが「リスクアセスメント」です。
リスクアセスメントを正しく行えば、事故やトラブルを防ぎ、安心して介護できる環境を作れます。
では、リスクアセスメントとは具体的にどのようなものなのでしょうか?まずは、その基本的な考え方を見ていきましょう。
リスクアセスメントとは「リスクから利用者と職員を守るしくみ」
リスクアセスメントとは、介護現場で起こるかもしれない事故やトラブルを事前に見つけ、それを防ぐための方法を考えることです。
リスクが事前にわかれば、対策を考えられます。たとえば、転びやすい場所には手すりをつけたり、食事の形態を工夫したり、事故や病気のリスクを減らす方法が見えてきます。
リスクアセスメントを行うと、利用者が安心して過ごせるだけでなく、職員も安全に働ける環境になります。
リスクアセスメントとリスクマネジメントの違い
リスクアセスメントとリスクマネジメントは、どちらもリスクに関係する言葉ですが、意味が少し違います。
リスクアセスメントは「どんな危険があるかを見つけること」リスクマネジメントは「その危険に対して実際に対策を取ること」です。
たとえば、施設の浴室で「床が滑りやすく、転びそう」というリスクに気づいたとします。この「気づき」がリスクアセスメントです。
しかし、気づいただけではまだ転倒の危険はなくなりません。そこで、「滑り止めマットを敷く」「職員が付き添って介助する」などの対策を実施します。これがリスクマネジメントです。
リスクアセスメントは、リスクマネジメントの第一歩です。まずは「どんな危険があるのか」を知ることが、安全な介護環境を作るためにとても重要になります。
リスクアセスメントの進め方
リスクアセスメントは、ただリスクを見つけるだけではなく、優先順位を決めなければなりません。
特に介護の現場では、利用者の安全を守るために、細かい部分までしっかりと確認する必要があります。
では、リスクアセスメントはどのような手順で進めるのでしょうか?まずは、最初のステップとなる「リスクの特定」から見ていきましょう。
リスクの特定:危険な場所や作業を見つける
まず、施設内にどんな危険があるのかを見つけましょう。リスクを特定できなければ、適切な対策は取れません。
たとえば、利用者がよく歩く廊下に小さな段差がある場合、転倒のリスクが考えられます。また、薬の管理が適切に行われていないと、誤薬のリスクが高まるでしょう。
リスクを特定するためには、日々の業務の中で「ここで事故が起こるかもしれない」と意識することが大切です。
実際に職員が歩いてみたり、利用者の動きを観察したりすると、見落としていたリスクが見つかります。
リスクの分析:発生率や影響度を評価する
リスクを特定したら、どれくらいの頻度で発生するのか、発生した場合にどのような影響があるのかを分析します。
たとえば、転倒のリスクを考えたとき「この廊下では、週に1回ヒヤリが起こっている」「この段差で、つまずく利用者が多い」といった記録やデータをもとに、危険度を判断しましょう。
また、影響についても考えます。段差が高いと、骨折するリスクも高いと判断できるため、対策の優先度が変わります。
リスクの評価:リスクの優先順位を決定する
リスクを分析した後は、どのリスクから対策を講じるべきか優先順位を決めましょう。すべてのリスクに対して一度に対策を講じるのは難しいためです。
たとえば「床が濡れている場所があるが、あまり人が通らない」場合と「利用者が誤薬をしてしまう可能性がある」場合では、後者の方が緊急性が高く、優先的に対策を取るべきです。
影響が大きく、発生しやすいリスクから順番に対応すると、効率よくリスクを減らせます。
介護現場でのリスクアセスメント例

介護施設では、利用者の安全を守るために、さまざまなリスクを事前に把握し、適切な対策を講じる必要があります。
その中でも特に注意すべきなのが、転倒や誤えん、感染症のリスクです。これらは、利用者の健康や命に関わる重大な事故につながる可能性があります。
では、介護現場でどのようにリスクアセスメントを行い、具体的にどのような対策を取るべきなのでしょうか?まずは、転倒・転落のリスクを防ぐ方法から見ていきましょう。
転倒・転落リスクを防ぐ
介護施設では、利用者が移動中に転倒したり、ベッドや車椅子から落ちてしまったりといった事故が多く発生します。
転倒や転落は、骨折などの大きなケガにつながる可能性があり、場合によっては寝たきりの原因にもなります。そのため、リスクアセスメントを行い、事前に対策を講じるべきです。
転倒のリスクが高まる原因はいくつかあります。利用者の足腰の筋力が低下していると、ちょっとした段差でもつまずいてしまいます。
また、トイレまでの動線上に物が置いてあると、転倒の可能性が高まります。特に夜間、暗い廊下を歩くときは、さらにリスクが高くなるでしょう。
具体的な対策としては、まず床の段差をなくし、滑りにくい素材にすることが挙げられます。
また、廊下やトイレなど、利用者がよく通る場所には物を置かず、手すりをつけて歩行をサポートできる環境を整えます。
夜間は足元を照らす照明を設置し、視界を確保する工夫も大切です。さらに、転倒のリスクが高い方には、歩行器や杖を使用してもらうのもいいでしょう。
転倒や転落のリスクを防ぐためには、利用者の身体の状態や施設の環境を細かくチェックし、適切な対策を取ることが大切です。
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誤えんリスクを防ぐ
誤えんとは、食べ物や飲み物が気管に入ってしまう状態を指します。むせ込みが多いと、肺炎を引き起こす原因にもなります。高齢者にとっては命に関わる問題です。
誤えんのリスクが高まる主な原因は、飲み込む力(嚥下機能)の低下です。また、姿勢が悪かったり、急いで食べたりすると、誤えんが起こりやすくなります。
誤えんを防ぐためには、まず利用者の嚥下機能をよく観察しましょう。飲み込みにくい方には、柔らかく食べやすい形状の食事を提供します。
また、食事の際には車椅子に深く腰掛けてもらい、良い姿勢になるよう介助しましょう。さらに、食事中は職員がしっかり見守ることも大切です。
感染症リスクを防ぐ
介護施設では、感染症が広がると多くの利用者に影響を及ぼすため、リスクアセスメントを行い、早めに対策を取らなければなりません。
特に、高齢者は免疫力が低く、風邪やインフルエンザにかかりやすく、重症化しやすい傾向があります。
感染症のリスクが高まる原因として、手洗いや消毒の不足、換気の不十分さが挙げられます。また、発熱やせきの症状がある人と健康な利用者が同じ空間で過ごすと、感染拡大のリスクが高まるでしょう。
感染症を防ぐには、まず手洗いや消毒といった基本の徹底が大切です。食事の前後やトイレの後など、こまめに手を洗い、アルコールで消毒して、ウイルスや細菌の拡散を防ぎましょう。また、施設内の換気も重要です。
さらに、感染症の疑いがある利用者がいる場合の「ゾーニング(区画分け)」もマニュアル化しておきましょう。
よくある質問
リスクアセスメントは、介護の現場でとても重要な考え方ですが、専門的な言葉が多く、わかりにくいと感じる方もいるかもしれません。特に「リスクアセスメントの三要素」や「KY活動との違い」について、疑問を持つ方が多いようです。
ここでは、それぞれの意味や違いについて、わかりやすく解説します。
リスクアセスメントの三要素とは?
リスクアセスメントの三要素とは、本記事でも解説した、リスクの「特定」「分析」「評価」の3つのプロセスを指します。
「リスクの特定」では、考えられる危険を洗い出します。次に「リスクの分析」で、それらの発生確率や影響の大きさを評価します。最後に「リスクの評価」で、優先順位を決め、最も重大なリスクから対策を講じましょう。
リスクアセスメントの三要素を正しく理解し、実践すれば、より安全な職場環境を作れます。
リスクアセスメントとKY活動の違いは?
リスクアセスメントとKY活動(危険予知活動)は、どちらも事故を防ぐための取り組みですが、目的や実施方法が異なります。
リスクアセスメントは、職場全体の危険を把握し、優先的に対策すべきリスクを決める活動です。管理者が主導し、施設の床の改修や設備の導入など、長期的な安全対策を計画します。
一方、KY活動は、作業前に職員がその場の危険を確認し、事故を防ぐ取り組みです。たとえば、利用者を移乗する際に足元の障害物や姿勢をチェックし、安全を確保します。
リスクアセスメントは施設全体の長期的な管理、KY活動は日々の現場での即時対応という違いがあります。
まとめ
リスクアセスメントは、介護現場の安全を守るために欠かせない取り組みです。この記事で解説したポイントを振り返ります。
- リスクアセスメントとは、事故やトラブルを未然に防ぐための仕組み
- リスクの特定・分析・評価の3つのステップが重要
- 継続的にリスクを見直し、改善を行う
リスクアセスメントを実施すると、利用者が安心して生活でき、職員も安全に働ける環境が整います。
まずは、施設内の危険な場所や作業をリストアップし、小さな改善から始めてみてください。日々の意識と行動が、事故を防ぎ、安全な介護を実現する第一歩となります。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。