
訪問介護の現場で、コンセントのほこりによる火事対策や、ヘルパーへの指導方法にお悩みではないですか?
本記事では、ほこりが火事を招くしくみから、高齢者宅で注意すべき危険箇所、ヘルパーが実践できる安全な掃除方法までを解説します。
この記事を読めば、事業所としての火災予防マニュアル作成に必要な知識が整理できますので、ぜひご覧ください。
コンセントのほこりが火事を招くしくみ
コンセントのほこりは、火災の原因となります。「トラッキング現象」と呼ばれ、プラグが刺さっているだけで発生する危険性があります。
利用者の安全を守るため、ヘルパーもしくみを理解しておくことが重要です。ほこりが火事を起こす理由と、危険な時季について解説しましょう。
なぜ「ほこり」で火事が起きるのか?
コンセントとプラグのすき間に溜まったほこりが、湿気を吸うと火事を引き起こしやすくなります。ほこりと湿気が結びつく現象を「トラッキング現象」と呼びます。
空気中の水分を吸収したほこりは、電気を通しやすい状態です。プラグの刃と刃のあいだで微小な放電が繰り返されるようになり、放電の熱でほこりが炭化し、電気を通す「トラック」と呼ばれる道が形成されます。トラックが原因となり、最終的にショート(短絡)して発火に至るしくみです。
家電製品の電源がオフでも、プラグが刺さっていれば発生する可能性があります。特に家具や冷蔵庫の裏など、ほこりが溜まりやすい場所は注意が必要です。
火災が多発する危険な時季
トラッキング火災は、特に「梅雨の時季」と「冬場」に多発する傾向があります。どちらの時季も「湿気」が原因で、ほこりが電気を通しやすい状態になるためです。
梅雨の時季は、空気全体の湿度が高くなります。ほこりが空気中の水分を直接吸収しやすくなるため、危険が高まるのです。
冬場は、室内外の温度差で「結露」が発生しやすくなります。結露の水滴がほこりを濡らし、トラッキング現象を引き起こすのです。
湿気が多い時季は、訪問介護の現場でもコンセント周りの点検を強化しましょう。
電気火災の発生状況
電気コードなどを出火原因とする住宅火災は、増加傾向にあります。令和5年(2023年)には377件発生し、過去10年で最多の件数でした。
火災の詳しい原因をみてみると「電線が短絡する」が最も多くなっています。次に「金属の接触部が過熱する」が続き、そして「トラッキング」の順で多く発生しました。
このデータが示すとおり、トラッキング現象は電気火災を引き起こす主要な原因のひとつといえます。訪問介護の現場でも、利用者の安全を守るために、電気火災のリスクを認識しておきましょう。
参考:東京消防庁『6.コンセントの掃除を心掛けましょう。』
高齢者宅で注意したい危険箇所
高齢者宅にも火災の危険が潜んでいます。特に、ほこりや湿気が溜まりやすい場所は要注意です。
訪問時に確認すべき場所や、ほこり以外の原因、点検項目について解説します。
訪問先で特に注意したい場所
トラッキング現象は「湿気が多い場所」と「目の届きにくい場所」で特に発生しやすい傾向があります。ほこりと湿気の条件がそろうためです。
台所や洗面所などの水回り、加湿器の近くに注意しましょう。冷蔵庫やテレビ、家具の裏側も、ほこりが溜まりやすく、長期間プラグが差さったままになりがちです。冬場は窓際や北側の壁際が結露し、コンセントが濡れるリスクが高まります。
訪問時は上記のような場所を意識して点検しましょう。
ほこり以外の火災原因(タコ足配線など)
ほこり以外にも、配線器具の不適切な使用や劣化が火災の原因となることがあります。
「タコ足配線」は、電源タップの容量を超えてしまい、発熱・発火する危険性を伴います。電子レンジなど消費電力が大きい家電は、可能な限り壁のコンセントに直接差し込みましょう。
コードが家具の下敷きになっていたり、折れ曲がっていたり、束ねて使っていたりする状態も危険です。
電源タップは消耗品です。変色や変形、プラグの緩みがあれば、事業所の責任者に報告しましょう。
訪問時に使えるチェックリスト
ヘルパーが訪問時に確認すべき、安全点検のチェックリストを紹介します。
利用者の安全を守るため、掃除の際は以下の点を確認しましょう。
- 冷蔵庫や家具裏のほこり掃除
- プラグの刃の根元が焦げていないか
- コードが家具の下敷きになっていないか
- タコ足配線が容量オーバーでないか
- 使わないプラグは抜かれているか
定期的に確認し、異常があればすぐに事業所の責任者や家族へ報告する体制を整えましょう。
コンセントのほこり火事を防ぐ掃除方法
コンセントのほこり火事を防ぐためには、安全な方法で掃除する必要があります。誤った手順で掃除すると、感電の危険もあるためです。
ヘルパーが現場で実践できる掃除の手順、ほこりが溜まりやすい場所のコツ、適切な頻度を解説します。
感電しない安全な掃除手順
掃除の際は、感電やショートを防ぐため、安全な手順を守りましょう。プラグを刺したままほこりを取ろうとすると、感電する危険があります。
まず、掃除の前に必ずコンセントから電源プラグを抜いてください。プラグ本体をしっかりもち、コードを引っ張らないように注意しましょう。次に、乾いた布や雑巾で、プラグ本体やコンセント周りのほこりをきれいに拭き取ります。
湿気はトラッキング現象の原因になります。水気のある布は絶対に使わないようにしましょう。「プラグを抜く」「乾いた布で拭く」という2点を徹底することが大切です。
ほこりが溜まりやすい場所の掃除のコツ

トラッキング現象は「目の届きにくい場所」と「湿気が多い場所」で発生します。ほこりが溜まりやすく、湿気を帯びやすい環境では特に注意が必要です。
掃除の際は、特に以下の場所を意識して点検しましょう。
- 冷蔵庫やテレビ、家具の裏
- 台所や洗面所、加湿器の近く
- 冬場に結露しやすい窓際
これらの場所は、長期間プラグが刺さったままになりがちです。また、使っていないコンセントの差込口もほこりが溜まります。ほこりの侵入を防ぐ「コンセントキャップ」で塞ぐか、プラグを抜いておくよう利用者や家族に提案するのも有効な方法になります。
掃除の適切な頻度とタイミング
ほこりを溜めないために、定期的な掃除と点検を習慣化します。電源タップは消耗品であり、異常に早く気づく必要があります。
定期的にプラグを抜いて掃除しましょう。特に電源タップは、1年に1回は点検し、異常があれば交換するよう促します。プラグの刃の根元が焦げている、溶けている、またはプラグの抜き差しが緩くなっている場合は、火災の危険サインです。
すぐに事業所の責任者や家族へ報告し、安全な新品に交換してもらうよう促しましょう。
よくある質問
訪問介護の現場では、判断に迷う場面もあります。ここでは、焦げ跡を見つけたときの対応と、利用者の協力が得られにくい場合の対処法を解説します。
焦げ跡を発見したときの対応は?
プラグやコンセントの焦げ跡は、火災寸前の危険サインです。すぐに使用を中止し、正しい手順で対応してください。
焦げ跡は、すでに異常な発熱やショートが起きている証拠になります。使い続けると、発火する可能性が非常に高くなるため危険です。不用意に触ると感電する恐れもあるため、注意が必要になります。
まず、安全ブレーカーを落として電気を止めてください。次に、焦げたコンセントや家電は絶対に使わないようにします。ヘルパーが自分で修理しようとせず、必ず事業所の責任者へ報告し、電気店など専門家による点検・交換を依頼しましょう。
利用者が協力的でない場合の対処法は?
掃除や点検に協力を得られないときは、ヘルパーだけで抱え込まず、事業所の責任者や家族と連携します。利用者の安全確保を最優先に考えるためです。
高齢の利用者のなかには、危険性の理解が難しかったり「大丈夫」と掃除を断ったりする方もいます。協力が得られない場合は、以下の対応を試みてください。
- 危険性を責任者や家族へ正確に報告する
- 電源オフでも火災になるリスクを伝える
- 安全カバーなどの予防グッズを提案する
火災のリスクを利用者本人の判断に任せず、周囲が協力して安全な環境を整える必要があります。
まとめ
コンセントのほこりが湿気を吸うと「トラッキング現象」により火災が発生しやすくなります。特に高齢者宅では、冷蔵庫裏や水回り、家具の裏など、ほこりが溜まりやすい場所の点検が欠かせません。タコ足配線やコードの劣化も、ほこりと同様に危険なサインとなります。
まずはヘルパー向けの安全指導マニュアルを作成しましょう。記事で解説した「安全な掃除手順」や「危険箇所のチェックリスト」を参考に、事業所全体で標準的な予防策を徹底します。
焦げ跡などの異常を発見した際は、すぐに事業所へ報告する体制を整えることも大切です。ヘルパーの意識的な点検が、利用者の大切な命と財産を火災から守る確実な対策となります。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。
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