
年5日の有給取得義務を達成させたいけれど、会社の休日と有給休暇の扱いで「これって法律違反…?」とお悩みではないですか?
本記事では、まず有給を公休にあてる行為がなぜ違法になるのか、理由をわかりやすく解説します。さらに、会社主導で合法的に有給取得を進める「計画的付与」の導入手順から、従業員とのトラブルを防ぐ具体的な運用方法まで、幅広く解説します。
この記事を読めば、自社の休暇運用に自信が持てるようになり、法令遵守と働きやすい職場環境づくりを両立できるでしょう。ぜひ最後までご覧ください。
有給を公休にあてるのはなぜ違法?
会社の休日である「公休」に、労働者の権利である「有給休暇」をあてることは、原則として法律違反になる可能性があります。両者は似ているようで、性質が全く異なるためです。
公休と有給の基本的な違いから、具体的なNG例、2019年から始まった年5日の取得義務との関係まで、詳しく見ていきましょう。
会社の休日「公休」と労働者の権利「有給」
公休と有給休暇は、根本的に異なる性質を持っています。公休は会社が定めた休日であり、もともと労働する義務がない日です。
一方、有給休暇は労働義務がある日に、賃金を受け取りながら休むことができる労働者の権利になります。たとえば、会社の創立記念日のような公休は、全従業員が一斉に休みとなる日です。
対して有給休暇は、従業員が「この日に休みたい」と自ら希望して取得するものです。休日の決定主体と目的が全く違うため、この2つを混同して運用することはできません。
参考:厚生労働省『労働時間、休憩、休日及び年次有給休暇』
事業者が見落とす違法な具体例
会社が一方的に休日を有給休暇として扱うことは、原則として違法とされています。有給休暇は、労働者が自分の意思で取得時期を指定できる大切な権利です。
会社の都合でこの権利を勝手に使うことは認められていません。たとえば、従業員が体調不良で欠勤した日を、本人の申請なしに有給休暇として処理する行為はNGです。
また、会社の閑散期に従業員を休ませ、その日を一方的に有給休暇扱いにするような運用も、労働基準法に抵触する可能性があります。
年5日取得の「時季指定義務」との関係
年5日の有給休暇取得義務を果たすために会社が時季指定を行う場合でも、公休日に有給休暇をあてることはできません。時季指定とは、労働義務のある日の中から、会社が従業員の意見を聞きながら取得日を決める制度です。
もともと休日である公休は労働義務がないため、時季指定の対象外となります。たとえば、会社が取得義務を達成するために、会社のカレンダーで休日となっている土曜日に有給休暇を指定することは違法です。
つまり、「年5日取得」という会社の義務を果たすためであっても「有給休暇は労働義務のある日に取得する」という大原則が覆ることはない、と覚えておきましょう。
参考:厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
「違法」といわれない有給消化の進め方
会社主導で有給休暇の取得を進めたいものの、法律違反にならないか不安に感じている方も多いのではないでしょうか。実は、法律で認められた「計画的付与」という制度を活用すれば、合法的に有給取得を促進できます。
この制度は、会社が計画的に従業員の休みを設定できる仕組みです。ここでは、詳しい仕組みと導入手順、運用する上で守るべき鉄則について、わかりやすく解説していきます。
「計画的付与」の仕組みと活用法
「計画的付与」とは、従業員が持つ有給休暇のうち、年5日分を除いた残りの日数について、会社が計画的に取得日を割り振ることができる制度です。この仕組みを活用することで、会社は業務の見通しを立てやすくなり、従業員も安心して休暇を取得できるようになります。
たとえば、工場の稼働が落ち着く時期に会社全体で一斉に休業したり、部署ごとに交代で休みを設定したりすることが可能です。
閑散期に計画的付与日を設けることで、業務への支障を最小限に抑えながら、有給取得率の向上が期待できるでしょう。
参考:厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
【手順1】導入の根拠となる就業規則の改定
計画的付与の制度を導入するためには、まず就業規則に根拠となる規定を設けることが必要です。法律で認められた制度であっても、会社の正式なルールとして運用するには、土台となる規定が就業規則に明記されていなければなりません。
具体的には「労働者の代表と協定を結んだ場合、その協定で定める時季に計画的に有給休暇を取得させることがある」といった内容の一文を追加します。
この改定が、制度を適正に導入するための第一歩となり、従業員への周知の基礎ともなります。
【手順2】詳細ルールを定める労使協定の締結
就業規則を改定したら、次に従業員の代表者と書面で「労使協定」を結び、詳細な運用ルールを決めます。誰が、いつ、何日間の有給休暇を計画的に取得するのかといった具体的な内容を、労使双方で合意しておくことで後のトラブルを未然に防げるでしょう。
協定書には、対象となる従業員の範囲、計画付与の対象とする有給日数、具体的な付与方法などを明確に記載します。
新入社員など有給日数が少ない従業員への配慮も定めておきましょう。
運用で外せない3つの鉄則
合法的な有給消化を進めるうえで、守るべき3つの鉄則が存在します。
- 公休日にはあてず、労働日にのみ適用する
- 有給取得を理由に不利益な扱いをしない
- 管理簿を作成し、年5日の取得義務を果たす
有給休暇は労働義務のある日にのみ適用できます。会社の公休日にあてることはできません。
また、従業員が有給を取得したことを理由に、賞与を減額するなど不利益な扱いをすることは法律で禁止されています。従業員ごとの有給休暇管理簿を作成し、年5日の取得義務を確実に果たすことも会社の責任です。
これらのポイントを守ることで、良好な労使関係を築けるでしょう。
参考:厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
労務トラブルを防ぐ!休暇制度の運用方法

有給休暇に関する従業員とのトラブルは、できる限り未然に防ぎたいものです。そのためには、制度を整えるだけでなく、日々の運用方法に気を配る必要があります。
従業員が安心して休暇を取得できる職場は、結果として生産性の向上にもつながるでしょう。
ここでは、トラブルを防ぎ、良好な関係を築くための具体的な運用方法について、3つのポイントから解説します。
休暇ルールを明文化し全従業員に周知する
休暇に関するトラブルを防ぐ第一歩は、ルールを就業規則で明確に定め、全従業員に周知することです。ルールが曖昧だと、解釈の違いから従業員との間で認識のずれが生じる可能性があります。
特にシフト制の職場では、公休と有給の区別をはっきりとさせておく必要があります。就業規則には、公休と有給の定義の違いや、有給の申請手続きなどを具体的に記載しましょう。
従業員がいつでも内容を確認できるよう、社内に掲示したりデータで共有したりすることが大切です。
「年次有給休暇管理簿」を今すぐ作成する
法律で義務付けられた「年次有給休暇管理簿」を、従業員ごとに作成し適切に管理する必要があります。
この管理簿は、会社が年5日の有給取得義務を果たしていることを証明するための重要な書類です。作成し、3年間保存することが法律で定められています。
管理簿には、従業員ごとにいつ、何日有給休暇を取得したかを記録します。紙だけでなく、必要なときにすぐ出力できるシステムで管理しても問題ありません。
義務を果たすだけでなく、正確な労務管理の基礎にもなるため、必ず整備しておきましょう。
参考:厚生労働省『年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説』
従業員が休暇の相談をしやすい環境を作る
制度を整えるだけでなく、従業員が休暇について気軽に相談や申請ができる職場環境を作ることが大切です。休みを取りにくい雰囲気があると、どんなに良い制度も活用されず、従業員の不満が溜まる原因になります。
たとえば、業務をチームで行う体制を整え、誰かが休んでもカバーできるようにしましょう。役職者が率先して有給取得を呼びかけることも効果的です。
風通しの良い職場づくりが、従業員の満足度を高め、定着率の向上にもつながっていきます。
よくある質問
休暇制度の運用では、日々の業務の中で「このケースはどう判断すれば?」と迷う場面も出てきます。ここでは、特に労務管理担当者から寄せられることが多い質問にお答えします。
休日出勤の扱いや、さまざまな雇用形態の従業員への対応など、具体的なケースを取り上げますので、ぜひ日々の判断にお役立てください。
休日出勤の「振替休日」を有給扱いできる?
休日出勤の「振替休日」を有給休暇として扱うことはできません。振替休日は、あらかじめ休日と労働日を入れ替える手続きであり、休みになった日は労働義務のない「休日」となるからです。
有給休暇は労働義務のある日にしか使えません。たとえば、事前に日曜出勤の代わりに水曜日を休みと決めた場合、その水曜日は休日扱いになります。したがって、有給休暇をあてることはできません。
休日出勤の後に休みを与える「代休」とは性質が異なるため、注意が必要です。
パート・アルバイトや派遣社員の扱いは?
パートやアルバイトの方も、法律の要件を満たせば正社員と同じように有給休暇を取得する権利があります。
有給休暇は、雇用形態にかかわらず、すべての労働者に与えられる権利です。年10日以上の有給が付与される方であれば、年5日の取得義務の対象にもなります。
派遣社員の方の場合、有給休暇を管理しているのは雇用主である派遣元の会社です。そのため、有給の申請や管理は派遣元に対して行われ、派遣先の会社が直接管理することはありません。
退職予定の従業員の有給はどうする?
退職を予定している従業員から残っている有給休暇の申請があれば、会社は原則として拒否できません。有給休暇は労働者の権利であり、退職が決まっているからといって消滅するものではないからです。
退職日までの残りの出勤日をすべて有給消化にあてたいという希望があった場合、会社はそれを認める必要があります。この場合、代わりの日がないため、会社が「別の日にしてほしい」と時季変更権を使うことも通常は認められません。
円満な退職のためにも、早めに残日数を確認し、計画的な取得を促すことが望ましいでしょう。
まとめ
今回は、有給を公休にあてる行為がなぜ違法と見なされるのか、理由と具体的なNG例を解説しました。また、会社が合法的に取得日を指定できる「計画的付与」の導入手順や、労務トラブルを防ぐための運用ルールもご紹介しました。
この記事を参考に自社の休暇制度を見直すことで、法令遵守はもちろん、従業員が安心して気持ちよく休める職場環境を実現できます。労使間の信頼が深まり、定着率や生産性の向上にもつながるでしょう。
まずは就業規則の休暇規定を確認し、年次有給休暇管理簿が正しく整備されているかをチェックすることから始めてみてください。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。