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2026/01/23

冬の入浴介助の注意点|事故を防ぐ事前準備から緊急時の対応まで解説

西條 徹

西條 徹

本格的な冬を迎え「利用者に寒い思いをさせないか」「ヒートショックが起きたらどうしよう」と不安を感じていませんか?ニュースで事故の話題を目にするたびに、明日は我が身と緊張してしまいますよね。

本記事では、ヒートショックが起きる仕組みや脱衣所を暖める準備や適切なお湯の温度、万が一の緊急対応など、冬の入浴介助の注意点をわかりやすく解説します。

この記事を読めば、事故のリスクを最小限に抑えるポイントがわかり、自信をもって安全で快適な入浴ケアを提供できるようになりますので、ぜひご覧ください。

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冬の入浴介助で注意すべき「ヒートショック」

冬場の入浴介助の注意点として、もっとも警戒しなければならないのがヒートショックです。急激な温度変化が体に与える影響は大きく、命にかかわる事故につながる恐れがあります。

ここでは、ヒートショックが起きる仕組みや、とくにリスクが高い人の特徴について詳しくみていきましょう。

急激な温度差が招く血圧変動のメカニズム

ヒートショックは、急激な温度の変化によって血圧が上下に大きく変動し、心臓や脳に過度な負担がかかる現象です。暖かい部屋から寒い脱衣所へ移動すると血管が縮んで血圧が上がり、反対に熱いお湯につかると血管が広がって血圧が急激に下がります。

この乱高下が原因で脳への血液が不足して失神したり、湯船から立ち上がるときにめまいを起こしたりしてしまいます。

意識を失って浴槽で溺れる最悪の事態を避けるためにも、体の中で起きている危険な変化を正しく理解しておきましょう。

参考:政府広報オンライン『交通事故死の約3倍?!冬の入浴中の事故に要注意!

事故リスクが高い利用者の特徴

血管の調整機能が低下している高齢者や、生活習慣病などの持病をもつ人はリスクが高いため最大限の警戒が必要です。加齢により血管が硬くなっていたり、体温調節がうまくいかなかったりすると、血圧の激しい変化に体が耐えられない場合があります。

入浴中の事故死者の多くを高齢者が占めており、以下のような人はとくに配慮しなければなりません。

  • 65歳以上の高齢者
  • 高血圧や糖尿病などの持病がある人
  • 過去に入浴中に気絶した経験がある人

担当する利用者がこれらに該当する場合は、入浴前の体調確認を徹底し、片時も目を離さないように心がけましょう。

ヒートショックが発生しやすい場所

ヒートショックは、浴室や脱衣所、トイレなど、暖房が行き届かずに寒暖差が激しくなりやすい場所で多発します。日本の家屋は北側に水回りが配置されているケースが多く、冬場は暖かい居室と比べて極端に室温が低くなりやすい環境です。

ポカポカした部屋から寒い廊下を通って移動したり、冷え切った脱衣所で肌を露出したりした瞬間に血圧が急上昇してしまいます。

事故の約半数は冬場に集中しているため、場所ごとの温度差をなくす対応が利用者の安全を守るポイントです。

入浴事故を防ぐための事前準備のポイント

事故を防ぐには、お風呂場での対応だけでなく、入る前の準備を入念にする必要があります。とくに冬場の入浴介助では、環境作りや体調確認がおろそかになると、重大なトラブルにつながりかねません。

ここでは、安全に入浴してもらうために必ずやっておくべき3つの準備について解説します。

脱衣所と浴室を暖めて温度差を解消する

まず、脱衣所と浴室をあらかじめ暖めておき、居室との温度差をなくす「温度のバリアフリー化」を徹底しましょう。暖かい部屋から寒い場所へ移動する際の急激な温度変化こそが、ヒートショックを引き起こす最大の原因となります。

脱衣所には暖房器具を置いて室温を20度以上に保ち、浴室はシャワーでお湯をためて蒸気を充満させておくと効果的です。

窓を閉めて冷気を遮断したり、床にマットを敷いたりして、寒さを感じさせない環境を整えることが安全な入浴につながります。

バイタルサインを確認して入浴可否を判断する

入浴前には必ず血圧や体温などのバイタルサインを測定し、その日の入浴が可能かどうかを慎重に判断してください。高齢者は体温調節機能や感覚が鈍くなっており、本人が「大丈夫」と言っても数値に異常が出ているケースがあります。

数値の異常に加えて、以下のような状態が見られる場合は事故のリスクが高まるため入浴を中止しましょう。

  • 食後すぐや飲酒をしている
  • 睡眠薬などの薬を服用した後である
  • 顔色が悪く食欲がない

無理をせず、清拭(せいしき)や足浴に切り替える柔軟な対応が利用者の安全を守ります。

排泄と水分補給を済ませてから誘導する

浴室へ誘導する前に、必ずトイレでの排泄とコップ1杯の水分補給を済ませるようにしましょう。入浴中はたくさんの汗をかいて脱水状態になりやすく、血液がドロドロになって脳梗塞などを起こすリスクが高まります。

また、お湯につかってリラックスすると失禁してしまうことがあり、それが利用者の心に深い傷を残して入浴拒否につながります。

入浴に誘導する際は、浴室内での事故防止のため、必要な物品をすべて準備してから声かけをしましょう。

冬の入浴介助の注意点は5つ

冬の入浴介助では、寒さや乾燥から利用者を守るために、いつも以上に細やかな気配りが求められます。お湯の温度管理から入浴後のケアまで、ほんの少しの油断が大きな事故につながりかねません。

安全で快適なお風呂の時間にするために、とくに意識してほしい「冬の入浴介助の注意点」を5つ紹介します。

お湯の温度は38度から40度を目安にする

お湯の温度は38度から40度を目安にし、41度以上の熱いお湯は避けるように設定しましょう。42度以上のお湯に長くつかると体温が上がりすぎたり、血圧が急激に下がったりして、浴槽内で意識を失う原因になります。

高齢者は温度を感じる感覚が鈍くなっているため、利用者に聞くだけでなく、必ずあなたの手で触れて適温か確かめてください。

熱すぎるお湯は命にかかわる事故のもとになると理解し、温度計や給湯パネルでの確認を徹底して、ぬるめのお湯で体への負担を減らしましょう。

心臓に遠い場所から十分なかけ湯をする

浴槽に入る前は、必ず心臓から遠い足先や手先から順番に、時間をかけて十分なかけ湯をしましょう。冷え切った体にいきなりお湯をかけたり、ドボンと湯船に入ったりすると、心臓に強いショックを与えて負担をかけてしまいます。

また、冷たい椅子や床に直接肌が触れると体がびっくりして血圧が上がるため、座る場所や足元にもシャワーでお湯をかけて温めておきます。

かけ湯は体をお湯の温度にゆっくり慣らすための準備運動だと考え、焦らず丁寧に進めることが安全な入浴への近道です。

「皮膚剥離」と「乾燥」に注意して洗う

体を洗うときは、皮膚が剥がれる「皮膚剥離」や乾燥を防ぐため、ゴシゴシこすらず優しく洗うことを意識してください。高齢者の肌は加齢によりとても薄く弱くなっているため、少しの摩擦でも傷ついたり、洗い残しがひどい肌荒れを招いたりします。

硬いタオルは避け、肌触りの良い柔らかいスポンジやたっぷりの泡を使い、手のひらで包み込むように洗ってあげましょう。

汚れがたまりやすい脇や指の間もしっかりと泡で流すことで、入浴後も肌トラブルを起こさない清潔な状態を保てます。

長湯は禁物!入浴時間は短めに管理する

冬のお風呂は気持ちが良いものですが、長湯は避けて、入浴全体で10分から15分以内に済ませるよう時間を管理しましょう。

長くつかりすぎると体力を激しく消耗するうえ、気づかないうちに脱水症状になったり、のぼせて意識がもうろうとしたりする危険があります。

利用者の安全を守るために、以下のリスクを常に頭に入れておいてください。

  • 10分で800mlもの水分が失われる
  • のぼせによる意識障がいで溺れる
  • 浴室での死亡事故は交通事故の約3倍

「もう少し温まりたい」と言われても、湯船につかる時間は5分程度で切り上げることが、事故を防いで命を守るポイントです。

参考:大塚製薬株式会社『イオン飲料を用いた研究成果「入浴時の脱水に対する有用性」を臨床研究により日本で初めて確認

手早い拭き取り・保湿ケアをする

お風呂から上がったら、湯冷めして風邪を引く前に手早く水分を拭き取り、すぐに保湿剤などでケアを済ませましょう。体が濡れたままでいると気化熱で体温が奪われるうえ、濡れた足は滑りやすく転倒事故の大きな原因になります。

まずは脱衣所での転倒を防ぐために足の裏を拭き、そのあと吸水性の高い大きめのバスタオルで全身を包むように拭いてください。着替えが終わったら必ずコップ1杯の水を飲んでもらい、失われた水分を補給して一連のケアを完了させましょう。

入浴中の異変に備える緊急時の対応手順

入浴中の異変に備える緊急時の対応手順

冬の入浴介助では、どんなに注意していても事故が起きるリスクをゼロにはできません。万が一の事態に直面したとき、パニックにならず冷静に動けるかどうかが、利用者の命を左右します。

ここでは、緊急時の具体的な対処法と、異変をいち早く見抜くための観察ポイントを解説します。

浴槽内で意識を失った場合の応急処置

もし浴槽内で利用者の意識がないときは、一刻も早くお湯を抜いて救急車を呼び、救命処置を行ってください。ためらっている数秒の間にも酸素が脳に行き届かず、命を落とす危険性が高まってしまいます。

発見したらすぐに大声で人を呼び、以下の手順で落ち着いて行動しましょう。

  • すぐに浴槽の栓を抜いて水位を下げる
  • あごを持ち上げて顔を水面から出す
  • 119番通報をして心肺蘇生をする

まずお湯を抜くことで溺れるのを防げますし、体が重くて引き上げられない場合でも呼吸ができる状態を確保できます。救急隊が来るまでは胸骨圧迫(心臓マッサージ)を続け、諦めずに命をつなぐための処置を続けてください。

参考:新潟県『冬場、高齢者の入浴中の事故に御注意ください~ヒートショック防止のために~

異変を早期発見するための観察ポイント

入浴事故を防ぐには、入浴の前から終わったあとまで、利用者の様子をしっかりと観察しましょう。数値上のバイタルサインに異常がなくても、表情や声のトーンといった小さな変化に、体調不良のサインが隠れている場合があります。

たとえば、入浴中に「お湯加減はどうですか?」とこまめに声をかけ、返事が遅かったりろれつが回らなかったりしないかを確認しましょう。

また、服を脱いだときに皮膚にあざや傷がないかを見たり、入浴後にぐったりしていないかをチェックしたりすると、異変に気付ける場合があります。

「いつもと何かが違う」というあなたの違和感こそが、重大な事故を未然に防ぐための最強の武器になるでしょう。

関連記事:緊急時の対応で大切なこと5つ|介護施設での初動対応から職員教育まで完全解説

​​入浴介助の注意点についてよくある質問

冬の入浴介助の注意点を理解していても、実際の現場では設備や利用者の要望によって判断に迷う場面が出てくるでしょう。マニュアル通りにいかないときこそ、柔軟な対応力が求められます。

ここでは、現場の介護職員から寄せられることが多い3つの質問と、その具体的な解決策についてお答えします。

浴室暖房がない環境での効果的な寒さ対策は?

設備がなくても、シャワーの蒸気や暖房器具を活用して室温を上げる工夫をしましょう。浴室と脱衣所の温度差を少しでも埋めることが、ヒートショックを防ぐ確実な手段になります。

浴槽にお湯をためるときは高い位置からシャワーを出して蒸気を立てたり、入る前にふたを開けておいたりすると浴室全体が温まります。

また、脱衣所には小型のヒーターを置いて20度以上を保ち、冷たい床にはマットを敷いてヒヤッとする感覚を減らす対策が有効です。

利用者が「もっと熱いお湯がいい」と言ったときは?

基本的には41度以下を守り、どうしてもと言われる場合はぬるめから始めて少しずつ温度を調整する方法を提案します。42度以上のお湯に10分つかると意識障がいを起こすリスクが高まり、溺れる事故につながる恐れがあります。

熱すぎるお湯は血圧を急激に下げてしまうため、命を守るためには安易な要望への同意はできません。「最初はぬるめで体を慣らしましょう」と伝え、追い焚き機能などで徐々に満足できる温度へ近づける配慮が現実的な対応です。

シャワー浴のみの場合でも温まってもらう方法は?

お湯につからない場合は、肩に温かいタオルをかけたり、あらかじめ浴室を暖めておいたりして体を冷やさないようにします。シャワー浴は体力の消耗が少ない反面、お湯につかるよりも体が温まりにくく湯冷めしやすいため配慮が必要です。

体を洗っている間は寒さを感じやすいため、お湯で絞ったタオルを肩にかけて保温すると安心感が高まります。入る前に床や椅子にシャワーをかけて温めておき、心臓に遠い足元からゆっくりお湯をあてる手順を徹底しましょう。

まとめ

本記事では、ヒートショックのリスクから利用者の命を守るために欠かせない、冬の入浴介助の注意点について詳しく解説しました。

急激な温度変化や長湯は高齢者の体にとって大きな負担となりますが、事前に環境を整え丁寧に様子を観察していれば、事故の多くは未然に防げます。

まずは次回の入浴介助から、脱衣所を20度以上に暖めて温度差をなくし、お湯の温度を必ず温度計で確認することから始めてみてください。

安全で快適な入浴を提供できれば、利用者の笑顔や「気持ちよかった」という感謝の言葉がこれまで以上に増えていくはずです。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。