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2025/10/16

介護施設の大雪対策|BCP策定の手順と取り組みを解説

西條 徹

西條 徹

介護施設の大雪対策|BCP策定の手順と取り組みを解説

大雪の際に職員の出勤もままならず、利用者の安全確保に奔走された経験はないでしょうか。今年も迫る冬を前に「施設として、大雪対策の取り組みをどう進めればよいのか」とお悩みではありませんか。

本記事では、大雪対策が必要な理由から、BCP策定の3ステップや具体的な取り組み、現場でよくある質問までを解説します。

この記事を読めば、職員にすぐ共有できるレベルの行動計画が立てられます。冬に向けて、利用者と職員の命を守る万全の備えを整えたい方は、ぜひ最後までお読みください。

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なぜ介護施設で大雪対策が重要なのか

介護施設にとって大雪対策は、利用者の安全確保と事業継続に直結する課題です。災害時に起こりうる危険は多岐にわたり、事前の準備が施設の明暗を分けます。

利用者の命を脅かすリスクと、地域社会で果たすべき責任という2つの観点から、大雪対策の重要性を解説します。

利用者の生命を直接脅かすリスクがあるから

大雪は、利用者の命に直接関わる危険を引き起こすため、万全の対策が必要です。停電や交通網の麻痺は、サービスの提供を困難にし、利用者の安全を脅かす事態につながります。

実際に、停電で医療機器が使えなくなったり、暖房が止まったりといった事例もあります。職員が出勤できず、必要な介護が届かなくなる事態も考えられるでしょう。

雪道での送迎や訪問は、利用者と職員の双方に危険が伴うものです。利用者の安全を確実に守るための備えは、介護施設の重大な責務といえます。

地域を支える社会的インフラとしての責任があるから

介護施設は、地域に不可欠な社会基盤であり、災害時も機能を維持しなければなりません。そのため、すべての介護事業者には、BCP(事業継続計画)の策定が義務付けられています。

災害時に施設が担う役割には、以下のようなものがあります。

  • ほかの事業所の機能を補完する
  • 地域の福祉避難所として機能する
  • 近隣住民と物資や人員を融通する

ほかの施設が機能停止に陥った場合、あなたの施設がこれらの役割を補う必要が出てくるかもしれません。施設を守るための取り組みは、結果として地域社会全体を守ることにつながります。

参考:介護労働安定センター『介護事業所における自然災害経験を活かしたBCP(業務継続計画)の策定

大雪対策のBCP策定【3ステップ】

大雪のような自然災害が発生してもサービスを継続するため、BCP(事業継続計画)の策定が不可欠です。いざというときに機能するBCPは、どのように作ればよいのでしょうか。

ここでは、大雪対策に特化したBCPを策定するための具体的な3つのステップを解説します。

ステップ1:リスクの洗い出しと目標設定

最初に、大雪でどのような危険が予測されるかを洗い出し、何を守るべきか方針を定めます。起こりうる問題を具体的に想定しないと、有効な対策は立てられません。

たとえば、職員の出勤困難による人手不足や、停電による医療機器の停止などが考えられるでしょう。そうしたリスクを踏まえ「利用者と職員の命を最優先する」という基本方針を明確にします。

限られた状況でどの業務を優先するのか、あらかじめ順位を決めておくことも大切です。リスクの特定と目標設定が、実用的なBCP作りの土台となります。

ステップ2:緊急時の行動計画と代替案の準備

次に、洗い出したリスクに対応するため、具体的な行動手順と代替案を準備します。いざというときに誰が何をするか決まっていないと、現場が混乱してしまうためです。

災害時の指揮系統や安否確認の方法を明確にし、職員全員がいつでも確認できるよう備えます。物資が届かない事態を想定して、備蓄品や設備の準備も進めましょう。

具体的には、以下のような準備が考えられます。

  • 3日分以上の食料や水の備蓄
  • 医療機器用のポータブル電源の確保
  • 利用者情報を紙媒体で印刷しておく

具体的な行動計画と物資の準備が、緊急時の対応力を高めます。

ステップ3:計画の周知と定期的な訓練の実施

最後に、完成した計画を全職員に伝え、定期的に訓練を繰り返します。計画がただの書類で終わらないよう、全員が内容を理解し、いつでも動ける状態にしておかなければなりません。

策定の段階から職員を巻き込み、当事者意識をもってもらう工夫も有効です。安否確認訓練や備蓄品の試食など、テーマを絞った短時間の訓練を頻繁に行うと、防災意識が定着しやすくなるでしょう。

訓練で見つかった課題は計画の見直しに反映させ、常に改善を続けます。周知と訓練のサイクルが、BCPを本当に役立つものに育てます。

大雪から利用者と職員を守る4つの取り組み

大雪から利用者と職員を守る4つの取り組み

策定したBCPを絵に描いた餅にしないためには、具体的な行動が伴わなければなりません。机上の計画を現場で実践できるレベルに落とし込む必要があります。

ここでは、利用者と職員の安全を確保するための、4つの具体的な取り組みを解説します。

備蓄品を確保しインフラを点検する

物流の停止や停電に備え、必要な物品の備蓄とライフライン設備の点検を行います。インフラが止まると、暖房が使えなくなったり医療機器が停止したりと、利用者の命に直結する危険があるためです。

食料や防寒具だけでなく、除雪用品や医療機器用の電源も準備しましょう。備蓄品は1か所にまとめず、複数箇所に分散させると、万が一のときに安心です。

具体的には、以下の準備を進めます。

  • 最低3日分の食料、水、カイロ
  • 除雪用のスコップや融雪剤
  • 医療機器を動かすための発電機

事前の備蓄と定期的な点検が、いざというときの安心を生み出します。

緊急時の人員配置と参集ルールを定める

緊急時は限られた職員で施設を運営するため、人員配置ルールをあらかじめ決めておきましょう。大雪で多くの職員が出勤できない場合に、誰が何をするか決まっていないと現場が混乱します。

また、災害対策本部をすぐに立ち上げられるよう、指揮命令系統を明確にしておきましょう。出勤可能な人数に応じて、どの業務を優先し、どの業務を縮小するのかを決めておく必要もあります。

部署を超えて応援に入れる体制を整えておくのも有効な手段といえるでしょう。事前のルール作りが、緊急時のスムーズな業務継続を支えます。

職員の安全な通勤手段を確保する

大雪の際は、何よりも職員の安全を最優先に行動する方針を明確にしましょう。無理な出勤は、職員を事故の危険にさらし、心身ともに疲弊させてしまいます。

車の運転は原則控えるよう注意喚起し、やむを得ない場合は冬用タイヤの装着を促します。状況に応じて、タクシーの手配や送迎バスの用意といった、安全な移動手段の確保も必要です。

また、除雪作業は事故が多いため、複数人で行うなどの安全対策が不可欠です。職員の安全確保が、利用者を守ることにつながります。

安否確認の方法を決める

通信障害が起きても確実に連絡が取れるよう、安否確認の方法を複数決めておきましょう。職員や利用者の状況を迅速に把握できないと、次の対応が遅れてしまうためです。

一斉配信メールやグループLINEなど、複数の連絡手段を用意しておきます。緊急連絡先などを記載した「防災カード」を職員に携帯してもらうのもよい方法です。

また、電子カルテが使えなくなる事態に備え、利用者情報を紙で印刷して保管しておくことをおすすめします。複数の連絡手段の確保が、災害時の迅速な情報共有を可能にするのです。

介護施設の大雪対策でよくある質問

大雪への備えを進める中で、判断に迷う場面も出てくるでしょう。「もしも」のときにどう動くべきか、疑問が生じるのは当然のことです。

ここでは、介護施設の大雪対策に関して特に多く寄せられる3つの質問に、Q&A形式でお答えします。

職員が出勤できない場合の人員基準は?

大雪のような災害時には、人員基準を満たせなくても柔軟な対応が認められる場合があります。職員の安全確保が最優先であり、無理な出勤を強いるべきではないからです。

実際に、人員基準を満たせないことによる介護報酬の減算が適用されなかったケースもあります。

出勤できた職員の数で、できる業務に絞り、何を優先し何をやめるかを判断しましょう。法人内で応援体制を組むといった工夫も有効です。

参考:厚生労働省老健局『令和6年12月28日からの大雪に伴う災害にかかる介護報酬等の柔軟な取扱い(基準緩和等)について

停電や断水が長期化したらどう対応する?

長期にわたるインフラ停止に備え、事前の備蓄品と代替手段を最大限活用しましょう。特に電力と水は、利用者の生命維持に直結します。

発電機の燃料確保や、どの設備にどれだけ電力が必要かをリスト化しておくと、いざというときに安心です。断水への対策として、水の備蓄に加えて、節水につながる衛生管理の工夫も有効です。

たとえば、以下のような備えをしておきましょう。

  • 発電機と燃料を定期的に点検する
  • 食器にラップを巻いて節水する
  • 貯水槽から直接水をくむ手順を確認する

日ごろからの備えと少しの工夫が、長期のインフラ停止を乗り切る力になります。

利用者の家族へ連絡するタイミングは?

災害発生直後と、サービスの停止や再開が決まった時点での連絡が基本です。家族の不安を和らげ、施設の状況を正確に伝えることは、信頼関係を維持するために不可欠です。

通信が混乱する中、誰に優先して連絡するか順位を決めておくとスムーズに進みます。サービスの停止が決まった場合は、早めに連絡を入れることで家族も次の準備ができます。

サービス再開の連絡は、家族を安心させるだけではありません。介護を施設に任せられることで、家族が自宅の片付けや仕事への復帰といった生活再建に集中できるようになります。結果として、地域全体の復旧を後押しすることにもつながります。

まとめ

本記事では、介護施設における大雪対策の重要性と、具体的な取り組みについて解説しました。BCPの策定、備蓄品の確保、人員配置のルール作りは、利用者と職員の命を守るために不可欠です。

これらの対策を実践することは、利用者と家族からの「この施設なら安心だ」という絶対的な信頼につながります。職員も使命感をもって働ける職場環境が築かれるでしょう。

この記事を参考に、次回の職員会議で「大雪で起こりうるリスク」を話し合うことから始めてみませんか。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。