
2024年度から義務化されたBCP策定について「介護現場の優先業務をどうやって決めればいいのだろう…」と悩んでいませんか?日々のケアはどれも大切で、優先順位をつけるのは本当に難しいものです。
本記事では、BCPで業務の優先順位付けが必要な理由や具体的な判断基準、さらに優先業務の決め方を3ステップでわかりやすく解説します。
この記事を最後までお読みいただくことで、自施設に合った優先業務を特定し、いざというときに職員と利用者を守る実用的なBCPを作成できるようになります。
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なぜBCPで業務の優先順位付けが必要なのか
BCP(事業継続計画)の策定において、業務の優先順位付けは非常に重要です。災害などの緊急時には、すべての業務を平常時と同じように続けるのは不可能です。
利用者の命と安全を守り、事業を継続させるために、あらかじめどの業務を優先するべきか決めておく必要があります。
ここでは、BCPで業務の優先順位付けがなぜ必要なのか、3つの理由を解説します。
災害時は全業務の継続が不可能になるから
災害のような緊急時には、普段通りすべての業務を続けることはできなくなります。地震や感染症の流行が発生すると、利用できる人員や物資が大幅に限られてしまうためです。
たとえば、建物が被害にあったり、多くの職員が出勤できなくなったりする事態が考えられます。
災害時には多くの業務が削減や休止になることが予想されるため、事前に業務を絞り込むことが不可欠です。
利用者の生命を最優先で守る必要があるから
介護サービスの最も大切な役割は、利用者の命を守ることです。BCPにおける優先業務は、利用者の生命や健康の維持を最優先に選定しましょう。
介護の仕事には、日常生活のお手伝いだけでなく、命に関わる重要な業務も多く含まれます。
特に、痰の吸引や点滴など医療的なケアが必要な方がいる施設では、これらの業務が最優先となります。
職員の疲弊を防ぎ事業を継続させるため
災害が発生したときに事業を続けるためには、職員の負担を減らすことがとても大切です。出勤できる職員が少なくなると、普段と同じ業務を続けるのは現場にとって大きな負担になるからです。
あらかじめ業務の優先順位を決めておくことで、少ない人数でも対応できる体制を整えられます。
職員の健康を守り、安心して働き続けられる環境を保つことが、最終的には事業を継続することにつながります。
介護事業所のBCPにおける優先業務の判断基準
いざ優先業務を決めようとしても、どれも重要に思えて、なかなか順位をつけるのは難しいものです。しかし、明確な判断基準を持つことで、冷静に業務を選別できるようになります。
ここでは、優先業務を判断するための3つの基準について、わかりやすく解説します。
【基準1】利用者の生命や健康への影響度
最も優先すべきは、利用者の生命や健康に直接影響する業務です。介護サービスの根本は、利用者の命と安全な生活を守ることだからです。
緊急時には、この基本に立ち返って判断することが求められます。たとえば、食事や水分補給の介助、与薬、排泄のケア、痰の吸引といった医療的ケアは、決して中断できない最優先業務です。
災害時には感染症のリスクも高まるため、感染防止策も同様に重要です。利用者の命に直結する業務かどうかを第一の基準としましょう。
【基準2】業務停止が許容される時間
次に、業務が「どれくらいの時間なら停止しても問題ないか」を基準に考えます。災害発生直後は、どうしても一時的に停止せざるを得ない業務が出てきます。
業務の重要度に応じて、復旧までの目標時間を設定しておくことが大切です。たとえば、人命に直結する業務は、災害発生直後から継続する必要があります。
利用者の心身の安定に関わる業務は当日中に、生活に直接関わる業務は3日目までに再開するなど、段階を設けましょう。
業務がどの程度停止できるかを基準に優先度を判断することで、現実的な復旧計画を立てられます。
【基準3】代替する手段やサービスの有無
最後に、業務をほかの方法で代替できるかどうかを考えます。もし代替手段があれば、業務の優先度は少し下げられるかもしれません。災害時には人や物が不足するため、工夫してサービスを継続する必要があります。
たとえば、入浴介助が難しい場合は、清拭で対応することが考えられます。調理のいらない非常食を備蓄しておけば、厨房が使えなくても食事を提供可能です。
代わりの方法があるかを考えることで、限られた資源を本当に必要な業務へ集中できます。
介護事業所の業務の優先順位付け【3ステップ】

判断基準が明確になったら、次はいよいよ実際の作業に入ります。ここでは、業務の優先順位を具体的に決定するための手順を、3つのステップに分けて解説します。
それぞれのステップを確認していきましょう。
【ステップ1】全業務の洗い出しとリスト化
まず、施設で日常的に行っているすべての業務を書き出す「業務の棚卸し」を行います。優先順位をつけるためには、全体像を把握する必要があるからです。
食事や入浴といった直接的なケアはもちろん、送迎や清掃、食材の調達といった間接的な業務もすべてリストアップしましょう。
通所や訪問など複数の事業を運営している場合は、事業ごとに分けてリストを作成すると、より整理しやすくなります。
【ステップ2】判断基準に沿った業務のスコアリング
次に、ステップ1で作成した業務リストを一つひとつ評価していきましょう。このステップの目的は、各業務の緊急時における重要度を客観的に判断することです。
評価には、前章で解説した3つの判断基準(生命への影響度、業務停止の許容時間、代替手段の有無)を用います。業務ごとに「生命への影響は大きいか」などを検討し、点数や評価を記録していきましょう。
スコアリングによって、感覚に頼りがちな優先度が、根拠のあるものとして可視化されます。
【ステップ3】4つの業務へ分類
最後に、スコアリングの結果をもとにして、すべての業務を分類します。このステップは、緊急時にどの業務に資源を集中させるかを決めるための、具体的な行動計画を立てる作業です。
業務は主に「継続業務」「追加業務」「削減業務」「休止業務」の4つに分けられます。
たとえば、食事介助や与薬は生命維持に不可欠な「継続業務」です。ご家族への安否確認の連絡は、災害時に新たに発生する「追加業務」にあたります。入浴介助を清拭で対応することは「削減業務」です。研修やレクリエーションは「休止業務」として一時的に中断します。
業務を分類することで、緊急時の行動が明確になります。
参考:厚生労働省『業務継続計画(BCP)自然災害編 (介護サービス類型:共通)』
介護事業所のBCPに関するよくある質問
BCPの策定を進めていく中で、実際の運用を考えると、さまざまな疑問が生じるものです。ここでは、よく寄せられるご質問を取り上げ、お答えします。
職員が少ない事業所では災害時に何を優先したらいい?
職員が少ない事業所ほど、限られた力で最大限の効果を出すための優先順位付けが重要です。基本として、利用者の生命と健康に直結する業務を優先しましょう。
そのうえで、入浴を清拭に切り替えるなど、ほかの業務の簡素化も検討すべきです。
最優先事項と簡素化する業務を事前に決めておくことが、緊急時の冷静な行動を可能にします。
一度決めた優先順位は、あとから見直してもいい?
定期的な見直しは、BCPの実効性を高めるために不可欠です。計画は一度作って終わりではありません。
施設の状況に合わせて継続的に更新することで、実際に役立つものになります。法律で定められた年1回の見直しはもちろん、職員の体制や設備が大きく変わった際も、計画を更新する良い機会です。訓練を行うことで初めて気付く課題もあります。
改善を積み重ねていくことが、BCPを「絵に描いた餅」で終わらせず、実際に使える「生きた計画」へと育てていきます。
まとめ
本記事では、介護施設のBCP(事業継続計画)における優先業務の決め方について説明しました。優先順位をつけることは、緊急時に利用者と職員の両方を守るためにとても大切です。
まずは、普段行っているすべての業務をリストアップすることから始めてみてください。
利用者の安全を守る体制を整えることで、ご家族や地域の方々からの信頼も得られるでしょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。