災害時のセキュリティについて
災害において恐ろしいのは、実は直接的な被害だけではないのです。インフラの停止や、セキュリティが機能しないことによる関連被害が、これまでも多く観測されています。
避難先から、やっと自宅に戻れたときに「空き巣」の被害に遭っていたというケースが実は多く見られます。その他にも、避難訓練時の留守を狙った「避難訓練泥棒」も存在するそうです。災害直後はあらゆるセキュリティが機能しませんから、自分で対策を施すしかありません。
対策として、家や施設から避難する時は、灯りをつけたままにしておきましょう。そもそも停電の場合は、家の外からほんのり分かるように、LEDランタンを灯しておけば、数日は明かりがある状態を保てます。ラジオをつけっぱなしにしておくこともオススメです。人の気配を出しておくことで、窃盗犯の侵入を防ぐことができます。悲しい対策ではありますが、災害時に自宅を空けるときは、そういった対策も必要です。
しかし、この方法は避難の「逃げ遅れ」と誤解され、警察や消防関係の人が心配して声かけする可能性もあります。そのため「避難完了」と書いた紙や布(最近のマンションでは避難完了マグネット)を貼っておきましょう。それでも、中に灯りがあれば窃盗犯は入ることを躊躇します。
また、ガラスが割れても、最低限のセキュリティ維持をしておきましょう。対策としては、破損部分をビニールシートやダンボールで塞いでおけば十分です。窃盗犯はもちろん、雨風の侵入も防ぐことができます。
災害関連死について
また、被害に直結して亡くなる場合だけでなく、「災害関連死」と呼ばれるケースが多く存在します。避難には成功したものの、その後の生活の中でストレスがかかることでお亡くなりになられるケースです。
避難生活により、リハビリが受けられない、コミュニケーションが少なくなる、楽しみがなくなる、環境が急変した、足腰が伸ばせない、避難所の配給物資は高齢者に不向き、大切な人が先に逝った心労など、原因は多岐に渡ります。当たり前ですが、避難所での生活は身体にも心にもストレスがかかってしまうのです。
他にも、本来なら救急車がすぐに来てくれるところ、災害でインフラが停止してしまい、駆けつけるのが遅れてしまう。災害で怪我をしたわけじゃないけれど、その被害によって救急対応が遅れて亡くなられてしまうなど、インフラが復旧しないことによる医療や対応の遅れが原因になってしまうことも。
熊本地震(2016年)の場合は、圧死など地震による「直接死」が50人なのに対し、避難生活を通じた心身不調などで亡くなった「災害関連死」は215人と、全体の8割の方がお亡くなりになっています。大きく話題になった「エコノミー症候群」や、心労、避難所でのストレスなど災害による環境変化が大きく影響しています。こうした、直接的な被害だけでなく、災害によって影響を受けた関連死も無視できないほど多いんですね。

https://www.bousai.go.jp/taisaku/kyuujo/pdf/r01kaigi/siryo8.pdf
そのため、仮設住宅の建設などの対応はもちろんのこと、福祉事業所の早期復旧、介護事業の継続は、災害関連死を減らすためにもとても重要な役割を果たします。だからこそ、厚生労働省もBCP策定に力を入れているのです。
各災害のケース
地震
地震が発生すると停電しますが、停電しなかった場合でも、エレベーターは震度5の揺れで停止します。大阪北部地震(2018年)で関西2府4県は、次のようにインフラが停止しました。
・13万台のうち、63,000台が停止
・278人がエレベーター内に閉じ込められた
(参考資料:エレベーターの地震対策の取組みについて報告 国土交通省 住宅局 建築指導課 令和2年7月14日)
また、大規模な地震などの災害では下水道が使えなくなる場合があります。例えば大阪市の場合、市域の90%がポンプ排水に頼っている状態です。
(参考資料:https://www.city.osaka.lg.jp/shiseikaikakushitsu/cmsfiles/contents/0000010/10312/c-34.pdf )
エレベーターが止まって、下水が使えなくなる。地震の場合は、少なくともこのような被害が出ることはすでに目に見えていることなのです。その場合の対策を、しっかりと考えておきましょう。
また、都市ガスもLPガスも震度5以上で自動停止機能がついており、ガスが出なくなります。しかし、復旧ボタンを押せば使用できる場合があります。今のうちに自分の家や施設のガスメーターを確認してみましょう。復旧ボタンを押すと、ガス漏れがないかを確認し、停電中でも復旧する可能性があります。ガスだけでも動くと、できることの幅が広がりますね。
ガスの復帰の仕方参照: https://strawberry-branch.net/3506.html
仕事先にいるときに地震が起きて、停電になったけどネットがつながっていたり、機械だけは動いている状態になったとしましょう。このとき、そこで危険を感じて業務を中止することができるでしょうか。例えば印刷会社に勤めているとして、ぐらっと揺れた後、ネットは切れているが印刷機は回っている。そんなときに、業務を中止して避難する対応をとれるかどうか、です。「やめる勇気」を持つこと、そして「続ける準備」を事前にしておくことが大事になってきます。経営者、役員の皆さんは、そのためにも必ずBCPの策定をしっかりと事前にしておきましょう。
津波
津波の高さは3種類あります。
1つは、海岸線近くの潮位計の波の高さによる「津波高」。
2つめは、陸地をさかのぼり遡上する最中や、引き潮時に建物などに痕跡が残る「津波痕」。
3つめは、海から山のほうに目掛けて遡上し、最高到達点に達する「遡上高」です。

津波高は20mでも、潮位計を超えて陸地をのぼってくる遡上高は40mにものぼります。つまり、現実の津波の高さは「遡上高」だと思ってください。だいたい遡上高は、津波高の2倍ほどの高さになります。また、津波の速度は、時速800kmものスピードが出るのです。そこから障害物(地面)によってどんどん遅くなります。陸地にあがると時速40kmまで遅くなりますが、それでも走って逃げれるようなスピードではありません。
津波を飲みこむと肺炎を引き起こして、緑色の膿のようなものを吐き続ける、といった症状も見られています。津波で死亡した場合には、「溺死」ではなく上のような「津波肺」になるのです。
地震が起きたらすぐに海岸から離れ、浸水予想地域の外まで避難することが大原則です。まちがっても津波が来るかどうか確認しに行く、といった行動はとらないようにしましょう。
台風
台風には、「風が強い台風」と「雨が強い台風」があります。もちろん、両方とも強い台風も。そして「移動の早い台風」と「移動が遅い台風」があり、台風そのものの移動が遅いと被害が増えます。豪雨との違いは風です。風速で表されますが、1秒に進む距離をメートルで表示しています。
風速30mと聞いても、いまいちイメージが湧きませんよね。しかし、時速換算すると、108kmものスピードになるのです。先日の台風7号でも、瞬間最大風速が45mと言われていました。つまり、時速160kmに近い風が吹いているわけです。過去最大の風速は80mが記録されています。こちらも、時速300km近い風が吹き荒れていたことになります。
時速108kmになると、停電が起こります。電気が止まる時には「瞬停」という1分以内の停止もあり、1秒や瞬きくらいの停止もあります。この瞬停で、電子制御の装置はリセットされる可能性があります。一番困るのは、酸素吸入などの装置です。基本的にはリセットされないように、バッテリーが内蔵されているはずですが、再開の手順が必要なのかどうか、事前に確認しておきましょう。
豪雨による土砂災害・洪水
豪雨により河川の氾濫が起こり、上流からの濁流が街や田畑を沈める。また、山林から流れ落ちてくる大きな流木や岩が橋に挟まり洪水を助長し、溢れて流れてきた流木はさらに家々を破壊します。土砂災害では前後が土砂で塞がれ、孤立してしまうケースも見られます。
土砂災害の種類は3つです。
・土石流
・がけ崩れ
・地すべり
※下記リンク参考
(出典:日本気象協会 https://tenki.jp/lite/bousai/knowledge/785d2f5.html)
崖には「水が浸透しやすい層」が表面にあるので、雨によって水が浸透し、滑り落ちてくるわけです。崖崩れだけの場合は、家が壁になって止まったりするのですが、土石”流”になると、止まらずにそのまま家を破壊して流れていくほどです。

また、洪水には主に、「越水氾濫」「侵食氾濫」「浸透決壊」「パイピング現象」の4つのパターンがあります。

また、最近では、上の4種類に加えて「逆越水氾濫」というパターンがあることも分かりました。
洪水のメカニズムは分析が進み、地質に合わせた堤防が築かれるようになってきました。そのため、新しく作られたものほど信頼があります。かといって、避難のタイミングが遅れることのないよう注意しておきましょう。気候変動の影響で、豪雨による被害は年々大きなものとなっています。記録的な豪雨が予測される場合は、とにかく雨が降る前に避難をしておくことをオススメします。
ハザードマップを確認しておこう!
最後に、国土交通省の「ハザードマップ」を見ておきましょう。自分の住んでいる・または職場の地域の住所番地を入れて、確認してみてください。

「洪水」「高潮」「津波」などをクリックして、それぞれの災害が起きたときに、どこまで浸水するのかなどの情報を、地図上で一度確認しておきましょう。それができたら、次はぜひ「地形分類」を見てみてください。一見、家が建っている地域でも、地盤の下に川が流れている場所なども分かります。

自分の住居や職場は大丈夫なのか、どこまで被害が予測されるのか、どこに避難すれば安全なのか。災害時はそのようなことをいちいち調べたりする余裕はありません。事前の対策がすべてです。ご家族や社員、また利用者さんの命を守るために、ぜひBCPはもちろんのこと、災害についての勉強や訓練を欠かさず行っていきましょう。
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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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