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2024/07/18

第11章 「能登半島の現状:被災後の避難生活のフェーズから、住まいや生活を再建するために必要な支援制度を紹介」

山口 泰信

山口 泰信

今回は、被災後の避難生活のフェーズから、住まいや生活を再建するために必要な支援制度の紹介をしていきます。介護事業者としても、どのような支援を利用者様に案内できるのか、という点でも大事になってくるので、ぜひ把握をしておいてください。

被災後の避難生活について

大きな災害が起こると、自宅や施設が壊滅し、避難生活を余儀なくされることがほとんどです。しかし避難生活といっても、一概に言えるものではなく、発災からの経過により、一時避難や在宅避難、仮設住宅の入居などとフェーズが移り変わります。

皆さんが想像されるのは、体育館などの広域避難所での避難生活かもしれません。しかしそれから、家屋が無事の場合は在宅避難に切り替わる人もいれば、親戚の家に移る方もいらっしゃいます。

そこから住宅を修理して、再度住めるようにしたり、公営住宅に引っ越すなど「住まいの再建」のフェーズがやってきます。介護事業所の場合、介護施設に入居するという利用者の方も増えるでしょう。しかしその中でも断水が続いており、水は給水車に頼らないといけない状況だったりと様々なケースが考えられます。

仮設住宅や公営住宅に一時入居することもありますが、こちらは数ヶ月から最長で2年程度と期間が決められていますが、もちろん災害の被害規模によってはそれに止まりません。実際に東日本大震災の場合は、今もなお仮設住宅・公営住宅などで多くの方が生活されています。

予測できない災害

ライフラインについては、災害の大きさによって復旧までの時間が違います。以下に、大きな災害のライフライン復旧までの時間をまとめてみました。

阪神淡路大震災新潟県中越地震熊本地震能登半島自身
発生日平成7年 1月17日平成16年 10月23日平成24年 4月16日令和6年 1月1日
電気約1週間約1週間約1週間約2ヶ月半
ガス約3ヶ月約1ヶ月約2週間約2週間
水道約3ヶ月約3ヶ月約3ヶ月半約6320戸
(未だ断水中)

災害規模やどのような場所が被害を受けたのかにもよりますが、電気の場合は最長で2ヶ月、特に水道の場合は数ヶ月の断水が予想されます。年始の能登半島地震においては、未だに断水が続いている地域も。過去の災害から被害想定をしっかりと把握しておき、復旧までにかかる時間をどのように対処するか?なども事業所内で話し合っておきましょう。

活用すべき大切な9つの支援制度

被災後、さまざまな被害を受けた状態で自分たちの力だけで復旧・復興を目指すのには正直無理があると言えます。そのために、自治体ではさまざまな支援制度が用意されています。しかしこれらは、知らないと活用できません。少しでも日常への復帰を早めるため、使える支援制度は活用するよう、調べたり覚えたりしておきましょう。

▶️災害直後

1.応急修理制度
2.応急仮設住宅
3.災害援護資金貸し付け

▶️少しあと

4.基礎支援金
5.公費解体制度
6.被災ローン減免制度

▶️その後

7.加算支援金
8.災害復興住宅融資
9.雑損控除

また、これらの支援や制度を活用するためには保証対象や基準なども存在するため、罹災証明を受ける必要があったりと、それなりの手間も発生することも事実です。忘れずに必ず罹災証明を取得し、さまざまな保証を活用しながら復旧・復興、生活の再建を目指しましょう。

応急危険度判定と罹災証明について

「応急危険度判定」とは、二次災害を防ぐため建築士などが「緑」「黄」「赤」に分けて危険度を判定するもので、あくまで「応急的」な判定です。これによって危険な「赤」と判定されても、自治体が調査する実際の被害判定とは異なることがあります。また、自治体が発行する「り災証明書」とは異なるので注意が必要です。

https://www3.nhk.or.jp/news/special/saigai/basic-knowledge/20201214_01.html より引用)

▶️罹災照明があると、活用できる支援の一例

  • 被災者生活再建支援金、義援金などの給付
  • 応急仮設住宅への入居
  • 所得税や固定資産税などの免除や支払い猶予
  • ガスや電気などの公共料金の免除や、支払い猶予
  • 民間の保険金の受取り など


被害の大きさに応じて受けられる支援が変わります。被災した場所を片付ける前に、必ず被害状況を撮影し記録に残しておくようにしましょう。こうした写真はスマートフォンなどの携帯電話で撮影したもので問題ありません。その後の「り災証明書」の申請などに役立ちます。(いずれも無理をせず安全に配慮を)

  • 被害状況を必ず写真などで記録に残す
  • 自宅の外観を4方向(東西南北)から撮影する
  • 水害では「どこまで浸水したか」がわかるように人を立たせて撮影する
  • 室内や屋外の設備の被害状況も撮影する


「何日に撮影したものか」が重要になるため、余震が続いている場合は安全を確保してから再度撮影しておきましょう。例えば、余震が発生してさらに家屋の損害がひどくなる可能性などもあるからです。そうすることで、罹災証明のもらい直しも可能です。「震災がつなぐ全国ネットワーク」では、罹災証明書の申請の際に役に立つ写真の撮り方についてホームページで公開していますので、参考にしてみてください。
【震災がつなぐ全国ネットワーク】 https://shintsuna.org/

罹災証明があると活用できる支援の一例

罹災照明があると、どのような支援が活用できるのか?その一例をご紹介していきます。

被災者生活再建支援金(基礎支援金)

自宅が大きな被害を受けた世帯には「被災者生活再建支援金(基礎支援金)」が支給されます。過去の災害では申請漏れが多数確認されているので、忘れずに申請するようにしましょう。方法は「罹災証明」を持って自治体の窓口に申請。支援金額は以下の通りです。

「全壊」・・100万円
「大規模半壊」・・50万円
「大規模半壊や半壊で自宅解体」・・100万円
「地割れなど敷地被害で自宅を解体」・・100万円
「危険で住めない状態が長期間続く」・・100万円

またこれらは、一旦決められている金額ですので、自治体によっては支援金を増額する場合もあります。

被災ローン減免制度

自宅が被災して壊れても「ローン」は残ります。「被災ローン減免制度」は災害前のローンの減額や免除ができる制度です。自治体が支給する支援金などに加え、預貯金を500万円まで手元に残すこともできます。方法は「罹災証明書」を持って地元の弁護士会に相談。弁護士費用は原則かかりません。また、保証人に返済の請求が行くことはありません。

修理・再建したい時は応急修理制度

自宅の屋根や壁、床などの生活に欠かせない部分を修理する場合に活用できるのが「応急修理制度」です。こちらを活用すると、修理費用の一部を自治体が負担してくれます。方法は「罹災証明書」を持って自治体の窓口に相談してください。詳細は以下の通りです。

  • 2023年5月現在で「全壊」「大規模半壊」「中規模半壊」「半壊」の世帯は上限70万6,000円、「準半壊」は上限34万3,000円の支援を受けることができます。
  • 借家の人も制度を活用可能
  • 対象の修理は屋根、壁、柱、床など「生活に欠かせない部分」
  • 自治体に紹介された業者が利用条件の場合も
  • 以前は制度を使うと仮設住宅(みなし仮設含む)に入れなかったが、2020年7月の豪雨災害を受けて運用が見直され、修理が終わるまでの間は一時的に仮設住宅に入居できるようになりました。

※しかし制度を利用すると、修理期間後の仮設住宅の入居資格や公費解体制度の利用資格を失う場合があるので注意してください。それらも含めて窓口で相談してみましょう。

被災者生活再建支援金(加算支援金)

被災した住宅を再建すると、住宅の損害の割合に応じて「被災者生活再建支援金(加算支援金)」が支給されます。令和2年12月の法改正によって、これまで対象外だった「半壊」のうち、損壊割合が30%を超えていれば「中規模半壊」として新たに保証対象となりました。数十万〜200万円程度の支援金が支給されるので、ぜひ活用しましょう。

他にも、住宅に被害が出た場合に自治体からお金を借りれる「災害援護資金」制度など、さまざまな制度が活用できます。しかしそれらも「罹災証明書」が必要なものが多いので、必ず忘れずに申請するようにしましょう。

介護サービスにおいての支援について

自治体によっては、被災された方々の介護サービス事業所等での利用料の支払いが不要になる場合があります。令和6年の能登半島地震では、家屋の壊滅状況や、生計維持者の安否によっては介護サービスを保険証や現金がなくとも受けることが可能でした。

しかしこれらも、この支援について被支援者が知らなかったり、介護サービスの従業員が知らなければ案内することもできません。このような支援があることを頭に入れておき、困っている利用者さんがいればぜひ活用を促しましょう。

https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_37423.html

受援体制も整えなければいけない

こと能登半島地震の場合は、被害によって道路が寸断され、自分たちだけで受援体制も作れない状態が続きました。「自助」「共助」まではできても、「公助」を受け入れる体制ができていなかったのです。

「自助」「共助」ができる体制を作ることはもちろん大事ですが、大きな災害の場合、自分たちの力だけではどうしようもできない問題に直面するのも事実です。国や行政の支援を受け入れることのできる体制をつくる、「公助」の受援体制を即座に整えることも、BCPをはじめ被災後は大切になってきます。どのように被害状況を把握し、受援の体制をいかに整えることができるか?という点においても、ぜひBCP策定の参考にしておきましょう。

DMATの活躍

DMATとは、被災地で医療支援にあたる災害派遣医療チームのことです。1995年の阪神・淡路大震災で、通常の救急医療ができれば救えた「避けられた災害死」が多数発生したことから、初動の医療対応の重要性が認識され発足しました。

能登半島地震において、従来の福祉避難所の運営マニュアルは、地元の介護スタッフが被災者として避難する状況を想定できていなかったとの指摘がありました。つまり、休む場所や時間までが想定されていなかったということです。このため、被災地の外から応援に入ったボランティアは、情報の連携がないままで目の前の状況しか把握しきれず、被災者やボランティアにかかる負担が大きくなる。それらの情報の点と点を結ぶ役割などをDMATが担い、能登半島地震では活躍しました。

医師らはそれぞれ情報収集やDMAT全体の調整などを担当。半島の先にあり幹線道路が少ないなど、地理的性質が活動に影響したため、「初動の体制構築に遅れが見られた」などと指摘されています。このように、いかに「公助」支援を受ける体制、受援体制をつくるかも大事になってきますので、それらも念頭に置いた上でのBCP策定を行っていきましょう。

https://www.yomiuri.co.jp/national/20240119-OYT1T50107/


介護サービス施設付き仮設住宅の設置

能登半島地震で被災した高齢者が仮設住宅でも安心して暮らせるように、厚生労働省は、介護サービスなどを提供する施設を近隣に設置するための費用を予備費から支出する方針を固めました。石川県内の6つの市と町の公共のスペースなどに、介護サービスなどを提供する施設を設置する予定です。

https://www3.nhk.or.jp/news/html/20240420/k10014427801000.html

こうした支援の情報についても、逐一チェックできる体制を作っておくと良いでしょう。介護事業者として、利用者さんや従業員に案内できるよう、情報連携は欠かせません。利用者様には暗い情報を流さない。自分たちが取捨選択した情報だけをしっかりと流し、明るいニュースはできるだけ共有しましょう。施設側では暗いニュースもしっかりと共有し、役所や取引先との情報連携を密にとっておくことが大事です。


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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数