利用者様を守るためにできることは?
災害時、その場所に留まるか、避難するかの判断
地震や水害などの災害時、生き残るために瞬間的な決断を迫られます。スマホで調べている時間はない場合がほとんどですし、また大抵の場合は「正解のない決断」をしなければならないのです。
施設にいるときに地震が起こった場合は、そこに留まるのが一番良い方法だと思います。しかし津波が来るエリアであれば上の階へ、または屋上・別の建物・高台に避難するなど、いろいろな避難方法が考えられます。事態は刻一刻を争いますから、あらかじめリスクを丁寧に調べて予測を立てておかなければなりません。
水害の場合も津波が発生した時と同じで、雨が降り続いている状態での避難はとても難しく危険を伴います。早めの避難に越したことはないですが、その判断がとても難しいです。水没の懸念のある施設では、別の場所への移動が必要です。
まず、利用者様とスタッフ全員の避難に何分かかるかの計測が必要です。例えばエレベーターが稼働している時の時間と、停電時の時間を予測しておきましょう、10名程度を避難させて、その時間×人数でおよそのかかる時間を計測し、その時間を基準に考えましょう。
また、避難先は、バリアフリーとトイレの位置、広さが重要になります。一般の避難者とのエリア分けも検討しておきましょう。ひとつではなく、複数の避難先を検討し、避難訓練を行うことを薦めます。
老人ホームの場合は、送迎バスなどが無いため、近くのバス会社やタクシー会社、福祉タクシー会社と災害協定を結んでおき、訓練も実施しましょう。施設から避難先までの道路をバスが通行できるかの確認も必要です。デイサービスでは、宿泊対応の非常用毛布と断熱銀マット・エアーマットを準備しておきましょう。寒さや冷えは床からやってきます。
利用者様を巻き込んだ訓練でどこまで、避難対応をスムーズにできるかが大事になってくるので、ただマニュアルを策定しただけで終わらず、訓練を繰り返し行いましょう。
1番難しいのは、トイレ問題
災害の初動対応が一段落ついたら、必ず問題に上がるのが「トイレ」です。 まず、水が出ないから流すことができません。かといって我慢できるものでもありませんから、ゴミ袋(45リットルと70~90リットルのもの)で対応しましょう。
洋式トイレに溜まっている水はそのままで、白や透明のビニール袋をかぶせて、ずれないようにテープで止めます。その上に、排泄用の黒や青のビニール袋をかぶせて二重にして用を足します。その袋の中に、高分子吸収体の粉、シュレッダーのゴミ、ちぎった新聞紙、洗濯石鹸などを入れるとなお良いです。ちなみに、男性用の小便器は、配管が破損している場合、下水処理場が止まっている場合は使えません。
用を済ませたら、汚物の入った上のビニール袋だけを大きなゴミ袋(70〜90リットルの厚みのある袋)に入れて、ある程度溜まったら、一時外に置いておきます。排泄ゴミは匂いがしますから一時仮置き場も風向きや近隣などを気にしなければなりません。廃棄する場合は、自治体の指示に従って廃棄してください。



つまり排泄用のゴミ袋は、数が多ければ多いほど良いわけです。1日で一人5枚とすると、3日で15枚、三十名分で450枚かかります。必要な数を用意しておきましょう。また、すでに使用しているポータブルトイレを積極的に活用することをも視野に入れておきましょう。
二次災害の防止処置
地震により、調理中のてんぷら油がひっくり返り、火災になるなどの二次災害は多く見られます。地震により津波が起こる、土砂災害が起こるなどはもちろんですが、危険物倉庫や薬品が流出して「薬品やけど」や「中毒症状」になるケースもあります。
施設内で薬品や危険物、燃料や潤滑油の流出に対する安全対策を事前に講じておけば、急がず安全にバルブを閉めたり、専用吸収パット、砂などをかけて処理できるようになります。薬品や危険物を施設内で取り扱っている場合は、必ず安全対策を講じておきましょう。私が行う研修では、新入社員が入ってきた時に一番先に教えるのは、避難口、避難経路、消火器、消火栓、スプリンクラー、消火ポンプ、通報装置、危険物対応など、生命に関することから指導していくことを薦めています。
この建物は使えるかどうかの判断
よく聞かれるのが、地震の際に「この建物は使用できるのか?」という判断についてです。
地震で壁に亀裂が入っている、天井板が落下したくらいなら使用しても問題ありません。中止すべきは建築構造物を支える骨組みとなる柱です。この柱が曲がっている、ねじれている、折れている、潰れているなど、次の余震で倒壊する可能性があれば使用できません。建物の中と外から懐中電灯で照らして確認し、ガラスが割れていたらビニールシートで修復、雨漏りの可能性がある部分に関しては修理業者の人に応急補修を頼むなどして対応しましょう。
地震後の「応急危険度判定」では、「危険(赤紙)」、「要注意(黄紙)」、「調査済(緑紙)」の3種類の判定ステッカーのいずれかを、見やすい場所に表示します。「危険」の場合は立入禁止となります。判定についての責任は判定実施主体の地方自治体にあります。
地震や液状化などでは、施設の建物全体が傾くこともありますが、傾いた建物で生活すると健康被害が発生する可能性がありますから、自治体や関係先と相談して別の介護サービス提供場所を検討してください。福祉避難所の利用も視野に入れておきましょう。
災害本部について
災害などで施設の建物が使えない時、立ち入りできない時に、利用者様の安全確保活動以外の本部機能維持のため、情報収集や情報連携、情報公開、指揮命令などの対策本部の役割を行う災害対策本部を立ち上げる必要があります。
災害対策本部の例としては、以下のような場所を想定しましょう。
・自社グループ関連施設
・施設内の別棟の部屋、上階の部屋(スタッフ用の部屋を事前に確保)
・災害協定を結んでいる相手先の拠点
・自治体や民間の貸会議室・貸部屋
・施設内の駐車場にテントやプレハブを増設
・ホテルや旅館などの宿泊施設
施設が使える場合は他拠点を使用する必要はありませんが、大規模災害の場合、数日から数週間は立ち入りできません。リスクが高いところは、避難先での介護サービス継続の用意をしておきましょう。
本部機能維持のための準備物
災害対策本部の準備物として、以下を準備しておきましょう。
①電気系統
・発電機(ポータブル蓄電池への電源供給にも使用できる)
・発電機の燃料(保管方法は法律を遵守)
・ポータブル蓄電池
・デバイス用のモバイルバッテリー
・カーインバーター(車両から電源供給。実際につなげたい機器を車両のカーインバーターに接続し動作させてみる。シガーソケットからの電力が足りない場合、バッテリーにブースターケーブルで接続)
・コードリール(外に置いた発電機から電源使用場所まで伸ばす用。1台のコードリールの規格は普通15アンペア・1500ワットなので使用電力はそれ以下にする)
・電源ケーブルタップ(雷サージ付き)
②事務処理系統
・ホワイトボード・ボードマジック・ガムテープ
・模造紙・A4・A3用紙・油性マジック(黒赤)
・大学ノート(手書きで記録を残す用)
・インクジェットプリンター
・携帯電話・スマートフォン(テザリング機能付き)
・固定電話を転送サービスで本社や携帯電話に転送(事前契約)
・必要に応じて、メガホン・無線機・トランシーバー・衛星電話
・災害用ノートパソコン(利用者様・スタッフ・公的機関の情報をコピー済み)
③医療系統
・リカバリ用のNAS-HDD(ネットワークハードディスク)
・緊急参集メンバースタッフ用の水食料・寝具
・応急手当セット(布も切れるくらいのハサミ・老眼鏡1、2、3)
・LEDランタン(充電式と乾電池式)
・トラロープ・立ち入り禁止テープ(薬品庫や危険箇所への立入りを禁止)
・ゾーニング用の色テープ(赤・黄・緑)矢印用のテープ(青)
・衛生用品一式 防護服など
・たん吸引器(手動式・足踏み式・乾電池式)
・経腸栄養剤(粉末・ゼリー状、リキッドタイプ・バッグタイプ)
被災時の情報収集と連携について
被災時に大切になってくるのは、施設や利用者の状況などの情報連携です。
利用者様とスタッフの安否確認情報、社屋や施設の損壊情報を元に使用可能かどうかを判断。また、地域全体のインフラの稼働状況などを収集し、事業継続を判断します。
発電機を使って、ノートパソコンに電力を送り、テザリングしてインターネットに接続しホームページであらかじめ決めておいた「ブログ」「トピックス」「最新情報」の欄で情報公開を行います。手順書を作ってスマートフォンでもできるようにしておきましょう。
(例)
災害でされた皆様に心よりお見舞い申し上げます。
この度の緊急事態への弊社の対応をこのページを使って公開いたします。
・社屋の損壊情報
・インフラの停止状況
・事業継続への対応
・毎日12時、16時に更新しますなどの更新頻度
・現在の緊急連絡先とメールアドレス
・利用者様のご家族でスタッフと連絡のついてない方は早急にご連絡をください!
これらは、災害時の自治体への報告義務として厚生労働省から発表されています。国や自治体からの支援を受けるために返答することが必要なので、情報収集と連携ができる体制作りに努めましょう。

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著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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