
「監査で原本が必要と言われたらどうしよう」と不安になり、何年も前の記録を捨てられずに抱え込んでいませんか?
本記事では、複雑な法令基準を整理して「本当に残すべき書類」を明らかにし、限られたスペースでも実践できる大量の書類の保管方法を解説します。
この記事を読めば、法的に「捨てていいもの」と「残すべきもの」が明確になり、安心して片付けを進められますので、ぜひご覧ください。
大量の書類が溜まる原因と保管ルール
介護や福祉の現場では、どうしても紙の記録が増え続け、オフィスのスペースを圧迫してしまいます。これは単に片付けが苦手なわけではなく、複雑な法令や監査への対応といった構造的な問題が原因です。
ここでは、書類が溜まってしまう理由について解説します。
法令のズレと紙への固執が招く物理的な限界
書類が減らない主な原因は「国と自治体のルールの違い」と「監査への不安」にあります。
国はデジタル化を進めていますが、実際の現場では「紙がないと監査で指摘されるのではないか」と心配になり、データと紙の両方を保管する「二重管理」が起きがちです。また、自治体によっては独自の指導方針で紙の保管を求めるケースもあり、現場の判断だけで減らすのが難しい現状があります。
電子データがあるにもかかわらず、ハンコのためだけに紙に出力して保管しているケースも多いようです。
こうした紙への依存が、限られた事務室や倉庫のスペースを限界まで圧迫してしまいます。
2年?5年?保存期間の確認が必要な理由
書類を減らすためには「2年」と「5年」の保存期間の違いと、基準を正しく理解しなければなりません。
国の法律で「記録は2年」とされていても、金銭に関わる請求書は「5年」と決まっているからです。さらに、自治体の条例で記録も「5年保存」と定められている場合が多く、国の基準だけで判断するのは危険です。
たとえば、介護分野の記録は原則2年、請求書類や障がい福祉分野の書類は5年保管といったように、書類の種類やサービスで期間が異なります。
誤って必要な原本を廃棄しないよう、必ず自治体の最新情報を確認して判断しましょう。
参考2:e-GOV法令検索『地方自治法』
参考3:京都市『「京都市介護保険法に基づく事業及び施設の人員、設備及び運営の基準等に関する条例」について』
廃棄予定日の明記と施錠・記録管理の方法
安全に保管して期限が来たら迷わず捨てるためには、書類を作った時点で「いつ捨てるか」を決めておくべきです。
出口戦略がないまま保管を始めると、判断に迷ったスタッフが「念のため」と書類を残してしまい、結果的に整理がつかなくなります。ルールを明確にすれば、誰でも迷わず管理できるようになります。
実際には、以下のポイントを押さえて運用すると効果的です。
- ファイルの背表紙に廃棄予定日を書く
- 個人情報は鍵付きの書庫で管理する
- 廃棄時は溶解証明書などで記録を残す
これらの手順をマニュアル化して全員で共有すれば、年末の大掃除もスムーズに終わらせられるでしょう。
大量の書類を頻度別に整理する保管方法
書類整理を成功させるためには、すべての書類を同じように扱うのではなく、使う頻度に合わせて場所と保管方法を変える工夫が効果的です。
ここでは、日々の業務効率を上げながら、監査にもスムーズに対応できる大量の書類の保管方法について、4つのステップで解説します。
【準備】現状把握とダンボール・保留ボックスの用意
いきなり片付け始めるのではなく、まずは現状を知り、作業しやすい環境を整えるところからスタートしましょう。
オフィスのどこに、どんな書類がどれくらいあるのかを確認し「明らかに捨てるもの」「保管するもの」に分けられるよう準備します。その際、判断に迷う書類を一時的に入れる「保留ボックス」を用意しておくと、作業の手が止まらずスムーズに進められます。
また、仕分けの基準となるルールを事前に決めておくべきです。
特に介護・福祉の現場では、書類によって保存期間が異なります。これらをまとめた一覧表を作り「いつ捨てるか」というゴールを明確にしてから作業に入りましょう。
【常用・月次書類】デスク・キャビネットへ配置
毎日使う書類や、毎月の業務で確認する書類は、すぐに取り出せる場所に置くのが鉄則です。
進行中のケアプランや当月の記録などは、デスク周りや共有のキャビネットなど、手が届く範囲に収納しましょう。これにより、探し物の時間を減らし、本来の業務に集中できる環境が作れます。
収納時は、以下のポイントを意識して整理すると効果的です。
- ファイルの背表紙に年度と期限を書く
- 利用者別やサービス別に色分けする
- 機密書類は鍵のかかる棚に入れる
ルールを統一して誰が見てもわかる状態にすれば、誤って捨てるミスや紛失も防げます。
【過去分・監査用】年度別箱詰めと縦置き収納
普段はあまり使わないけれど、監査のために保管が必要な書類は「検索しやすさ」と「省スペース」を両立させる方法で管理しましょう。
過去の書類は「2024年度」のように年度ごとにまとめてダンボールに入れ、中身がわかるように大きく明記します。こうすれば、監査で「○年の書類を出してください」と言われても、箱ごと提示できるので慌てる必要がありません。
また、箱の中や棚に並べるときは、ファイルを「縦置き」にするのが基本です。積み重ねると下の書類が取り出しにくくなりますが、縦置きなら必要なファイルをすぐに引き抜けます。
保存期間が過ぎたら箱ごと廃棄できるようにしておくと、管理の手間も大幅に省けます。
デッドスペース活用と外部倉庫サービス利用
オフィス内の収納場所には限りがあるため、どうしても収まりきらない場合は、場所の工夫や外部サービスの利用を検討しましょう。
まずは、数年前の古い記録など、めったに見ない書類を倉庫の奥や棚の上段といったデッドスペースへ移動させます。よく使う場所を空けることで、日々の業務効率を落とさずに保管場所を確保できます。
それでも限界な場合は、外部の書類保管サービスを使うのも一つの手です。専門の倉庫なら、温度や湿度の管理、セキュリティ対策も万全なので、自社で保管するより安全です。
期限が来たら箱ごと溶解処理してくれるサービスを選べば、情報漏洩のリスクもなく確実に処分できます。
大量の書類の劣化・紛失を防ぐ保管方法

大量の書類が劣化したり紛失したりするのを防ぐには、ただ置いておくだけでは不十分です。湿気や害虫から守り、情報漏洩のリスクを減らす対策が必要です。
ここでは、安全に管理して将来のトラブルを防ぐための保管方法について解説します。
湿気・害虫対策と個人情報を守る施錠管理
書類の劣化と情報漏洩を防ぐには、環境整備と厳重なセキュリティ対策をしなければなりません。
紙は湿気や虫に弱く、不適切な場所ではすぐに傷んでしまうからです。加えて、介護記録には利用者の極めてプライベートな情報が含まれており、万が一の流出は許されません。
湿気の多い地下や倉庫には除湿機を置き、書類は床に直置きせず棚の上に収納します。鍵のかかる書庫に入れ、誰がいつ持ち出したか記録を残す運用も効果的です。
物理的な環境と管理体制の両面から、リスクを徹底的に排除しましょう。
定位置管理(住所決め)とラベリングの統一
すべての書類に戻すべき場所を決め、統一されたルールでラベルを貼りましょう。
住所が決まっていないと、使ったあとにデスクへ置きっぱなしになり、紛失の原因になります。中身や期限がわからないファイルは、探す時間を無駄にするだけでなく、捨て時もわかりません。
「経理_請求書_2024年」のように名前の付け方を揃え、背表紙には保管開始日と廃棄予定日を大きく書きます。色を変えて年度を区別する工夫も役立ちます。
誰が見ても一目でわかる状態にして、管理の属人化を防ぎましょう。
文書管理台帳で年1回の棚卸しと廃棄
保管している書類をリスト化し、年に1回は実際に確認して不要なものを廃棄するサイクルを作ります。
何をもっているか把握していないと、紛失しても気づけません。期限切れの書類が残り続け、スペースを圧迫する原因にもなります。
文書管理台帳を作成して保存期間を管理し、期限が来たら溶解処理などで復元できないように処分しましょう。処理を依頼した場合は、業者の証明書を保管すれば、適切に処理した証拠になります。
廃棄の記録まで残して管理を完結させることが、トラブル防止につながります。
大量の書類保管に関するよくある質問
現場で管理を進めていると、判断に迷う細かいケースがいくつも出てきます。
ここでは、特に質問が多い退職者や利用者の記録の扱いや、期間が違う書類の混ぜ方など、大量の書類の保管方法に関する疑問に回答します。
退職した職員や利用者の記録はどう扱えばよい?
サービスが終了した利用者や退職した職員の記録も、すぐに捨てずに法令で決められた期間は保管し続けなければなりません。
利用者の記録は、死亡や解約などの「完結の日」から数え始めます。国のルールでは2年ですが、多くの自治体が条例で5年と定めているため、確認せずに捨てると違反になる恐れがあります。
また、職員のタイムカードなども労働基準法により5年間(当面は3年間)の保管義務があるため取り扱いに注意しましょう。
保存期間の異なる書類が混在するときの整理法は?
期間が違う書類が混ざってしまうときは、書類の種類ではなく「いつ捨てるか」という廃棄年で箱を分けるのが正解です。
「記録は2年」「請求書は5年」と期間が異なる場合、中身で分類すると捨てる際に手間がかかってしまいます。廃棄予定日を基準にすれば、その年が来たら箱ごと処分できます。
たとえば、ラベルに「2029年廃棄」と大きく書き、同じ年に捨てる書類だけをまとめましょう。最初から出口を見据えて分類すれば、管理の負担を劇的に減らせます。
保管中の書類が紛失・破損したときの対応は?
万が一、紛失や破損に気づいたときは「隠蔽せずに状況を正確に把握する」のが鉄則です。
なぜなら、書類を出せないとまずは運営基準違反として指導の対象になるからです。さらに、実態が確認できず「サービスを提供していない」と判断されると、報酬の返還や業務改善命令などの処分を受ける恐れもあります。焦って事実を隠そうとすると、さらに重い信用失墜につながりかねません。
問題が起きた際は、以下の手順で冷静に対処しましょう。
- 「何が」「いつ」なくなったか正確に調べる
- 監査員に正直に状況を説明する
- 行政への報告や改善策の提示に備える
紙の書類は一度失うと取り返しがつきません。こうしたリスクを根本からなくすためには、電子化を進めてバックアップをとるのが確実な対策になります。
まとめ
本記事では、介護現場の悩みの種である大量の書類の保管方法について解説しました。
まず取り組むべきは、自治体の条例を確認し、記録類の保存期間が「2年」なのか「5年」なのかを正確に把握することです。そのうえで、ファイルに廃棄予定日を書き込み、使用頻度に応じて置き場所を分けるルールを作りましょう。
もし年内にすべての片付けが間に合わなくても、今のうちに「捨てる基準」を決めておくだけで、年度末の繁忙期や来年の監査対応が劇的にラクになります。
無理に一度で終わらせようとせず、まずは手近なファイル一冊のラベリングから始めてみましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。
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