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2025/12/05

震度5弱と5強の違いは?5と6だけ弱・強がある理由から備えまで解説

西條 徹

西條 徹

震度5弱と5強の違いは?5と6だけ弱・強がある理由から備えまで解説

業務中に地震が起きたとき、営業を続けるか、従業員を帰宅させるか、判断に迷う場面があるのではないでしょうか。

震度5弱と5強は数値が似ていますが、実際に発生する被害や、とるべき行動は大きく異なります。本記事では、これら2つの震度について、揺れの体感やオフィスでの被害リスクの違いを解説します。

本記事を読むことで、地震発生時にも落ち着いて従業員へ指示を出せるようになり、事業継続につながるはずです。

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震度5弱と5強の3つの違い

震度5弱と5強は、気象庁の震度階級で区別されています。事業所の安全管理体制を見直す際、境界線を正しく知っておくと役立つでしょう。

ここからは数値的な定義、人の行動、建物への被害という3つの視点で、震度5弱と5強の違いについて詳細を見ていきます。

揺れの定義(計測震度)の違い

震度は、人の感覚ではなく「計測震度」という厳密な数値で区別されています。気象庁が各地に設置した地震計の観測データをもとに算出する仕組みです。

計測震度が4.5以上5.0未満であれば「5弱」、5.0以上5.5未満であれば「5強」と判定されます。数値上ではわずか0.5程度の差ですが、定義でははっきりと線引きがなされています。

体感による判断は個人差が出やすいため、BCPの発動基準などを決める際は、客観的な数値を指標にしましょう。

参考:気象庁『計測震度の算出方法』

人の体感と行動の違い

行動面での決定的な違いは、何かにすがらずに自力で歩行できるかどうかです。5強レベルに達すると揺れが激しくなり、歩行の自由が奪われてしまいます。

まず、震度5弱の主な特徴を挙げます。

  • 恐怖を感じて何かにつかまりたくなる
  • 棚から本や食器が落ちることがある
  • 不安定な家具がずれたり倒れたりする

一方で、震度5強になると状況はさらに悪化します。

  • 支えがないと歩行が困難になる
  • 固定されていない大型家具が倒れることがある
  • 不安定なブロック塀が倒れることがある

5弱では「つかまりたい」で済みますが、5強では「つかまらないと歩くことが難しい」状態になります。無理な帰宅や移動は避けるべきだという認識をもちましょう。

参考:気象庁『震度について』

被害の程度の違い

建物やインフラ設備への物理的なダメージは、震度5強から深刻化する傾向にあります。揺れの衝撃が家具だけでなく、構造体や屋外設備にまで及ぶようになるからです。

5弱では窓ガラスが割れて落下するリスクが生じますが、5強になると屋外のブロック塀が崩れたり、固定の甘い自動販売機が倒れたりします。さらに、耐震性が低い事業所では、壁や柱に亀裂が入るケースもあるでしょう。

自社ビルや工場の耐震性を把握し、ハード面の修繕計画を立てる目安にしましょう。

震度5と6だけに「弱・強」がある理由

震度階級を見ると、1から7までの数字の中で「5」と「6」だけが「弱」と「強」に分かれています。

ここからは、なぜこのような変則的な分類になったのか、その理由と背景を3つのポイントで解説します。

「弱」と「強」による被害に差があるから

同じ震度5や6の範囲内でも、揺れの強さによって被害の深刻度が大きく変化するという事情があります。

震度4までは被害の差が小さいですが、5以上になるとわずかな違いが建物への重大なダメージにつながるのが特徴です。

たとえば、震度5弱では家具が動く程度で済むことが多い一方、5強では建物の壁にひびが入るなど構造自体に影響が出始めます。同様に、6弱と6強でも歩行が可能かどうかの大きな差が生じます。

被害の実態に合わせてきめ細かく情報を伝えるため、区分けしているのです。

計測震度計の導入で階級が変更されたため

震度判定が人の体感から機械計測へ移行し、より厳密な数値管理が可能になったのが大きな要因です。

かつては体感で判定していましたが、平成8年(1996年)以降は「計測震度計」による自動観測に変わりました。

この変更に伴い、同年10月の改定で震度階級は現在の10段階になっています。その際、被害の幅が広い震度5と6にそれぞれ「弱」と「強」が設定されました。

客観的なデータにもとづくことで、より正確な震度情報が速報されるようになっています。

参考:気象庁『震度について』

なぜ震度7には弱・強の区分がないのか

震度7クラスになると、すでに被害が最大級に達しており、それ以上細分化する必要がないとされています。

計測震度6.5以上はすべて震度7となり、どのレベルでも壊滅的な被害は避けられません。

ほとんどの建物が損傷し、インフラも停止する状況下では「弱か強か」を気にするよりも、直ちに命を守る行動をとる必要があります。

防災対応上の区分の必要性が低いため、上限として設定されています。

震度5弱・5強への備えと対策

震度5弱・5強への備えと対策

震度5弱や5強クラスの地震は、いつ起きてもおかしくありません。事業へのダメージを最小限に抑えるには、ハードとソフトの両面から準備を整えておく必要があります。

ここからは、オフィス環境の整備、必要な備蓄品、発災時の行動判断という3つのポイントに絞って、企業がとるべき対策を解説します。

【環境対策】オフィス什器の転倒防止とハザードマップ確認

まずは、オフィス内の什器レイアウトを見直し、ハザードマップを確認しましょう。地震による負傷者の3割から5割は、家具類の転倒や落下が原因とも言われています。

震度5強になると重いタンスが倒れたり、キャビネットが移動して避難経路をふさいだりするリスクが高まります。L字金具での固定や、高層階でのOA機器のキャスターロックを徹底しましょう。

また、オフィスの立地が土砂災害などの被害想定区域にないか把握しておく必要もあります。逃げ遅れを防ぐため、安全な環境づくりを最優先に進めてください。

【備蓄対策】事業継続のための備蓄と非常用電源の確保

ライフラインの寸断を見越して、水や食料、電源を十分に確保しておきましょう。震度5弱以上では物流が止まり、ガスや電気が遮断される恐れがあります。

事業継続に役立つ備えとして、以下のリストを参考にしてください。

  • 飲料水や非常食を事業所用に備える
  • 簡易トイレや救急セットを用意する
  • 衛生用品やラジオを確保する
  • スマホなどの充電機器を準備する
  • ポータブル電源やパネルを導入する

特にポータブル電源があれば、停電時でも照明などを稼働できます。従業員の安心につなげましょう。

【発生時】従業員の安全確保と「帰宅困難」対応の判断

発災直後は身の安全を最優先し、揺れが収まるまで無理な帰宅はさせない判断が求められます。震度5強では屋外の危険が増し、交通機関も麻痺して移動自体が困難になってしまうためです。

外ではブロック塀の倒壊や窓ガラスの落下に加え、車の運転もままなりません。無理に動けば二次災害に巻き込まれる恐れがあります。エレベーターの使用は避け、安全なオフィス内に留まらせることも検討しましょう。

備蓄品を活用しつつ、交通機関の復旧まで待機できる体制を整えておくべきです。

震度5弱と5強のよくある質問

震度や耐震基準について、経営者の方からよく寄せられる疑問にお答えします。マグニチュードとの関係や高層ビル特有のリスクなど、知っておくべきポイントを整理しました。

ここからは、数値の換算、建物の揺れ方、耐震基準によるリスクの違いについて解説します。

震度5強をマグニチュードに換算すると?

結論からお伝えすると、震度をマグニチュードに換算することはできません。

震度は「ある特定の場所における揺れの強さ」を表し、マグニチュードは「地震そのもののエネルギーの大きさ」を示す全く別の指標だからです。

マグニチュードは1つの地震につき1つの値しかありませんが、震度は観測地点によって異なります。たとえば、同じ規模の地震でも、震源からの距離や地盤の固さによって、震度5強になる場所もあれば震度1で済む場所もあります。

これら2つは性質の異なる数値として捉えましょう。

高層ビル・オフィスでの揺れの特徴は?

高層ビルなどでは「長周期地震動」と呼ばれるゆっくりとした大きな揺れが長く続くのが特徴です。

建物の構造自体に被害がなくても、揺れ幅が大きくなることでオフィス内部が危険な状態になる傾向があります。

固定されていないコピー機などのOA機器が大きく移動したり、キャスター付きの家具が動き回ったりする危険性があります。また、人も固定された物につかまらないと立っていられません。

什器の固定やキャスターのロックは、高層階において欠かせない対策となります。

旧耐震基準の建物は震度5強で倒壊・事業停止リスクがある?

昭和56年以前の「旧耐震基準」の建物は、新耐震基準に比べて事業停止につながる被害リスクが高いといえます。

新耐震基準は、震度5強程度なら建物が傷つかないよう設計されています。対して旧耐震基準は「倒れないこと」を目的としており、壁や柱が壊れないことまでは求められていません。

たとえ倒壊は免れたとしても、壁や柱にひび割れや亀裂が入るなどして建物の継続使用が難しくなるケースがあるでしょう。その場合、修繕のために業務を止めざるを得なくなる可能性があります。

古い建物を使用している場合は、修繕期間中の代替拠点の確保や、耐震化の検討を進めましょう。

参考:国土交通省『住宅・建築物の耐震化について』

まとめ

本記事では、震度5弱と5強の違いや、企業がとるべき対策について解説しました。両者の違いは数値上のわずかな差だけでなく、自力で歩行できるか、大型家具が倒れるかなどの被害リスクの大きさにあります。

まずはオフィスのハザードマップを確認し、什器の固定状況のチェックから始めましょう。あわせて、震度5強を基準とした従業員の帰宅ルールや事業継続計画(BCP)の策定も進めてみてください。

あらかじめ基準を定めて対策を講じておけば、突発的な揺れに見舞われても従業員の安全を守れます。冷静な判断と行動ができれば、スムーズな事業再開が可能になるでしょう。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。