
処遇改善加算の基本給への組み込みでお悩みではないですか?新加算で制度が変わり事務負担を減らしたい一方、法的に問題ないか、職員から不満が出ないか不安ですよね。
本記事では、処遇改善加算を基本給に含むことは違法か、導入する7つの手順、労務トラブルを防ぐ正しい運用ルールまで解説します。
この記事を読めば、監査やトラブルのリスクを理解し、職員も納得する形で安心して給与体系を整備する方法がわかりますので、ぜひご覧ください。
処遇改善加算を基本給に含むのは違法?
処遇改善加算を基本給に含めること自体は違法ではありませんが、運用には細心の注意が必要です。制度の要件を守り、適切な手続きを踏まなくてはなりません。
まず法的な結論と、具体的な運用の要件を見ていきましょう。
結論:違法ではないが注意が必要
処遇改善加算を基本給に組み込む運用は、違法ではありません。むしろ、新加算の要件では将来的に基本給等での改善が求められており、職員の処遇を長期的に安定させる観点からも望ましい方法とされています。
ただし、運用には厳格なルールを守る必要があります。たとえば、就業規則や給与規定の改定が不可欠です。手当から基本給へ移行(付け替え)する際は、職員の収入が低下しないよう配慮しましょう。
適切に運用すれば、職員の賞与や退職金の算定基礎が増えるメリットもあります。求人時に給与水準を魅力的に見せやすくなり、人材確保にも役立つでしょう。
法的に問題はありませんが、要件と手続きを正確に理解したうえで計画的に進める必要があります。
基本給に含む運用の要件とは
基本給に加算を含める際は、法的なトラブルを防ぐ「適切な手続き」が必須です。職員の合意が不可欠であり、具体的には以下の要件を守る必要があります。
- 就業規則や内規などを書面で整備する
- 整備した内容は全職員へ周知する
- 付け替え時は賃金水準の低下に配慮する
- 労使間で適切に合意を得る
なお「加算額の半分以上を基本給等に充てる」要件は令和6年度中は猶予されていました。まずは事業所の就業規則や内規を確認し、必要に応じて書面を整備したうえで職員へ説明する準備を進めましょう。
参考:厚生労働省『介護職員等処遇改善加算に関するQ&A(第2版)』
基本給への組み込み手順【7ステップ】
処遇改善加算を基本給に配分するには、以下で解説する7つのステップが必要です。制度の要件を守り、職員へ適切に賃金改善を実施するための計画的な手順となります。
まず加算区分の確認から始め、最後は実績報告書の提出で完了します。具体的な流れをステップごとに解説しましょう。
ステップ1:加算区分を確認する
まず、事業所が算定する処遇改善加算の区分(Ⅰ〜Ⅴ)を確認します。算定する区分によって、満たすべき「キャリアパス要件」や「職場環境等要件」などが異なるためです。
どの要件をクリアする必要があるか把握することが、計画の第一歩となります。加算率もサービスの種類ごとに設定されており、制度は見直される可能性があるため常に行政の公式情報で最新の加算率と要件を確認しなくてはなりません。
どの区分を算定しているか(あるいはこれから算定するか)を正確に把握することから始めましょう。
ステップ2:対象となる職員を整理する
次に、賃金改善の対象となる職員を整理しリストアップします。新加算では介護職員への配分を基本としながらも、事業所の判断で他の職種にも柔軟に配分できるようになったためです。
誰にいくら配分するかの計画を立てるために、対象者を明確にしましょう。対象には介護職員だけでなく、同じ事業所で働く医師、看護師、事務職なども含められます。
ただし、算定対象事業所の業務を行っていない役員や関連のない法人本部の職員などは対象外となります。事業所の業務に携わる職員を対象として整理しましょう。
ステップ3:加算取得額を計算する
事業所が1か月あたりに受け取る処遇改善加算の総額を計算します。職員へ配分する原資がいくらになるのかを正確に把握する必要があるためです。
計算は3段階で行います。まず、基本報酬や他の加算を合算し事業所全体の介護報酬の総単位数を算出しましょう。
次に、総単位数にステップ1で確認した処遇改善加算の加算率を掛けます。最後に、算出された加算単位数に地域区分ごとの単位数単価を掛けて円単位の取得額を確定させます。
総単位数、加算率、地域単価を用いて配分すべき加算の取得額を正確に計算しましょう。
ステップ4:処遇改善計画書を作成し周知する
「処遇改善計画書」(別紙様式2)を作成し、全職員へ周知します。計画書は賃金改善の方法や算定要件への取り組みを明記する重要な書類であり、行政への提出と職員への周知が義務付けられているためです。
計画書には、加算を基本給、手当、賞与のどれで配分するかを具体的に定めましょう。基本給に組み込む場合、就業規則や給与規定の改定または整備が必要です。
既存の規定を変更する場合は「改定」し、常時雇用10人未満の事業所で新規に定める場合は「整備」でも認められます。作成した計画書や整備した規定は、必ず書面で全職員に周知しなくてはなりません。
もし既存の手当を基本給へ付け替えるなど不利益変更にあたる可能性がある場合は、合理的な理由を示し労使で適切に合意を得る必要があります。計画書を作成し、必要な規定の改定や整備を行い全職員への周知・合意形成を進めましょう。
参考:厚生労働省『福祉・介護職員の処遇改善』
ステップ5:処遇改善計画書を自治体へ提出する
作成した処遇改善計画書と体制届などの関連書類を、指定権者(自治体)へ提出します。加算を算定するためには事前に自治体へ計画を届け出ることが必要なためです。
期限までに提出しなければ、加算の算定が開始できません。提出が必要なのはステップ4で作成した処遇改善計画書となります。
あわせて、算定区分を変更する場合は「介護給付費算定に係る体制等に関する届出書」や「体制等状況一覧表」(体制届)も提出しましょう。計画書は原則として加算を算定する月の前々月の末日が提出期限となります。
体制届の期限はサービス類型で異なるため、自治体の情報を確認してください。計画書と体制届を準備し、定められた期限までに必ず自治体へ提出を完了させましょう。
ステップ6:計画を実行し基本給へ配分する
自治体への届出後、計画書どおりに加算額を職員の基本給などへ配分します。計画の実行は加算算定の核となる部分であり、配分する賃金改善額は加算の取得額以上でなくてはなりません。
時給や日給の職員は、単価を引き上げることが基本給の改善として認められます。支給時期は必ずしもサービス提供月と合わせる必要はありません。
令和6年度は、翌年度との2年間で加算総額を上回る賃金改善がされていればよく、繰り越しや前倒しも可能です。計画に基づき、加算取得額以上の賃金改善を実行しましょう。付け替え時は職員の不利益にならないよう注意が必要です。
ステップ7:実績報告書を提出する
年度の賃金改善が完了したら「実績報告書」(別紙様式3)を作成し、自治体へ提出します。計画どおりに賃金改善が実行されたか、加算額を上回る配分が行われたかを報告するためです。
報告がないと加算の算定が確定しません。報告書には実際に行った賃金改善の総額や各算定要件の実施状況を記載しましょう。
提出期限は、年度ごとに最終の加算の支払いがあった月の翌々月の末日となります。もし報告時点で賃金改善額が加算取得額を下回っていた場合、原則として差額は返還対象です。
ただし、不足分を一時金などで追加配分すれば返還を求められない運用も可能となります。計画期間終了後、賃金改善の実績を正確に集計し期限までに実績報告書を提出して一連の手続きは完了です。
参考:厚生労働省『介護職員の処遇改善:加算の申請方法・申請様式』
労務トラブルを防ぐ正しい運用ルール

処遇改善加算を基本給に含む際、運用ルールを誤ると大きなトラブルになり得ます。職員の定着を目指す制度の趣旨に沿い、厳密な手続きが求められます。
特に注意すべき「不適切事例」や「就業規則」、賞与や社会保険料の扱いについて解説しましょう。
返還リスクのある不適切事例
加算の返還を求められる不適切な運用事例があります。制度の目的はあくまで職員の賃金改善であり、それ以外の利用や不公平な配分は認められていないためです。
特に注意すべきなのは以下の3つのケースとなります。
- 賃金改善額が加算額未満
- 賃金改善以外の目的(健康診断費用など)に利用
- 対象外の職員(役員など)への不適切な分配
加算額未満でも、不足分を一時金で追加配分すれば返還を求められない場合もあります。しかし「研修費や設備投資、法定福利費以外の福利厚生費に充てる」「業務を行っていない役員へ配分する」などは明確な違反です。
制度の目的を正しく理解し、賃金改善のみに充てることが返還リスクを避ける大前提となります。
就業規則・給与規定の改定
基本給への組み込みを実行する前に、就業規則や給与規定の改定または整備が必要です。基本給の変更は職員にとって重要な労働条件の変更にあたるためであり、ルールを明文化しないとトラブルの原因になります。
キャリアパス要件Ⅰを満たすうえでも、賃金体系の根拠規定を書面で整備し全職員へ周知しなくてはなりません。常時10人未満の事業所なら内規での整備も認められます。
既存の手当から付け替える際は、職員の賃金水準が下がらないよう努めるなど労使でよく協議し合意を得たうえでルールを整備しましょう。
賞与の計算基礎の明確化
基本給に加算を組み込むと、賞与や退職金の算定基礎額が増えるメリットがあります。手当として支給するより毎月の給与が安定し、長期的な雇用条件の向上につながるためです。
職員の将来不安を解消し、就労意欲の向上も期待できます。ただし注意点もあります。
業績に連動して支払う賞与部分がある場合、加算による賃金改善部分とは明確に区分しなくてはなりません。基本給を上げてもその分賞与を下げて年収が下がるような運用は避けましょう。
あくまで職員の処遇を改善するという目的を忘れてはいけません。
社会保険料の調整と随時改定
基本給が上がると、社会保険料の調整(随時改定)への対応が重要になります。対応を怠ると職員との信頼関係を損ねるだけでなく、将来的な返還リスクにもつながるためです。
賃金改善額には、基本給上昇に伴って増加した社会保険料などの法定福利費(事業主負担分)を含められます。法定福利費は合理的な方法での概算計算が認められています。
給与計算システムへ正確に反映させ、標準報酬月額の随時改定などを漏れなく行いましょう。事務負担は増えますが、慎重な対応が求められます。
よくある質問
処遇改善加算の運用では、賞与での支給や非正規職員の扱いに悩むことがあります。適切な算定とトラブル防止のため、正確な理解が求められる内容です。
賞与での支給は可能なのか、パート職員の扱いはどうなるのか解説しましょう。
賞与や一時金として支給してもよい?
処遇改善加算は、賞与や一時金として支給しても問題ありません。賃金改善は基本給、手当、賞与など(退職手当は除く)で行う必要があるためです。
ただし「月額賃金改善要件Ⅰ」との兼ね合いを考える必要があります。要件は加算Ⅳ相当額の半分以上を月給(基本給か毎月支払う手当)の改善に充てるルールとなります。
令和6年度中はこの要件の適用が猶予されていました。しかし、令和7年度以降は、加算Ⅳ相当額の半分以上を月給の改善に充てる要件を満たす必要があります。そのため、令和7年度中は、原則として賞与のみでの支給は不可となります。
支給時期を決めて職員へ周知し、業績連動部分と明確に区分しましょう。もし基本給を上げて賞与を下げ、賃金全体として水準が下がった場合は「特別事情届出書」の提出が必要となります。
パートやアルバイトの扱いはどうなる?
パートやアルバイトといった非常勤職員も、賃金改善の対象に含めましょう。加算の配分は常勤・非常勤を問わず、介護業務を行う職員が対象となるためです。
時給や日給を引き上げることは、基本給の引き上げとして扱えます。キャリアパス要件Ⅲ(昇給のしくみ)の対象にも非常勤職員を含める必要があります。
時給への上乗せとして手当を支給する場合も「決まって毎月支払われる手当」と同じ扱いで差し支えありません。賃金改善額の計算は常勤換算が原則となります。
計算が難しい場合は、職員が実際に得ている収入額で判断することも認められています。非正規職員も対象に含め、適切に処遇改善を行いましょう。
まとめ
処遇改善加算を基本給に組み込むことは、違法ではありません。しかし、職員の不利益にならないよう就業規則や内規を書面で整備し、全職員へ周知・合意を得る適切な手続きが不可欠となります。
令和6年度中は月額賃金改善要件Ⅰが猶予されていましたが、令和7年度以降は原則としてこの要件を満たす必要があります。加算算定には、計画書作成から実績報告までの7つの手順を確実に実行し続けなくてはなりません。まずは事業所の就業規則を確認し、職員の賃金水準が低下しないかシミュレーションしてみましょう。
そのうえで計画書を作成し、職員へ丁寧に説明することが労務トラブルを防ぐために重要です。手続きを正しく行えば加算管理の事務負担が減るだけでなく、給与体系が明確になります。
職員の安心感と定着率向上にもつながり、将来的な採用力強化も期待できるでしょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。
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