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2025/10/03

介護現場のプライバシー保護研修資料に使える!基本・原因・対策を解説

西條 徹

西條 徹

介護現場のプライバシー保護研修資料に使える!基本・原因・対策を解説

介護の新人研修でプライバシー保護を担当することになったものの、わかりやすい研修資料の作り方でお悩みではありませんか?日々の業務で忙しい中、研修資料をゼロから作成するのは大変ですよね。

本記事では、介護現場におけるプライバシー保護の基本から、侵害が起こる原因、具体的な対策まで、研修資料にそのまま使えるポイントを解説します。職員の理解度を確認できるチェックテストも用意しました。

この記事を読めば、職員にわかりやすく伝えるための要点が整理でき、自信をもって研修に臨めます。職員全体の意識を高め、利用者から信頼される施設をつくるために、ぜひ最後までご覧ください。

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介護におけるプライバシー保護の基本

介護の仕事では、利用者の方々の生活に深く関わります。そのため、プライバシー保護は利用者の尊厳を守るうえで、とても大切です。

介護現場で求められるプライバシーの考え方や、個人情報保護との違い、プライバシー保護が重要な理由を見ていきましょう。

利用者の尊厳に関わる「プライバシー」とは

プライバシーとは、他人に知られたくない個人的な情報や、私生活に関する自由・権利を指します。介護の仕事で知った情報は、すべてプライバシーに関わるものと考えるのが基本です。

利用者の尊厳を守るため、プライバシーの範囲を広く捉える意識が求められます。具体的には、趣味や交友関係のような私的な情報から、入浴や排せつといった他者に見られたくない身体的な行為まで含まれます。

自分に関する情報を誰にどこまで公開するかは、本人しか決められません。介護職員は、利用者の羞恥心に配慮し、精神的な苦痛を与えないように注意を払う必要があります。

「個人情報保護」との違い

「プライバシー」と「個人情報」は、似ているようで少し違います。個人情報はプライバシーの一部と考えるとわかりやすいでしょう。

個人情報が、氏名や住所のように法律で定義された「客観的な」情報であるのに対し、プライバシーの範囲は「主観的」で、法律上の明確な線引きがない、より広い概念です。

  • プライバシー:個人の秘密、私事・私生活全体
  • 個人情報:氏名、住所、顔写真などの識別情報

プライバシーを守るためには、当然その一部である個人情報の保護にも努めなくてはなりません。

参考:e-Gov法令検索『個人情報の保護に関する法律

なぜプライバシー保護が重要なのか

介護現場でのプライバシー保護は、利用者の尊厳を守り、信頼関係を築くうえで非常に重要です。介護サービスは、身体に触れたり自宅に上がったりと、プライバシーへの介入が前提となるため、特に配慮が求められます。

プライバシー保護が重要な理由は、主に以下の3点です。

  • 利用者の尊厳を守るため
  • 利用者との信頼関係を築くため
  • 法的・倫理的な義務を果たすため

これらの理由を職員全員が深く理解し、日々のケアに活かすことが、事業所全体のリスク管理につながります。

プライバシー侵害が起こる主な原因

介護現場でプライバシー侵害が起きてしまう背景には、大きく分けて2つの原因があります。それは「職員一人ひとりの意識の問題」と「施設全体の管理体制の問題」です。

どちらか一方だけでは、根本的な解決にはなりません。ここでは、それぞれの原因について具体的に掘り下げていきます。

職員の知識不足や意識の低さ

プライバシー侵害の多くは、職員の知識が足りなかったり、意識が低かったりする点に原因があります。業務で知り得た情報はすべてプライバシーに関わるという自覚が薄いと、悪意なく情報を漏らしてしまうケースにつながります。

たとえば、友人や家族との会話の中で、利用者の私的な情報を世間話のように話してしまうのはよくある例です。

また、メールの宛先を間違えるといったヒューマンエラーや、個人のSNSに安易に利用者の写真を載せてしまうようなITリテラシーの不足も、深刻な事態を招く可能性があります。

日ごろから高い意識を持ち、情報管理を徹底する姿勢が求められます。

施設の管理体制やルール不備

職員個人の意識だけでなく、施設全体の管理体制やルールが整っていないことも、プライバシー侵害の大きな原因になります。情報の取り扱いに関する明確な決まりがなければ、職員はどのように行動すべきか判断に迷い、結果として情報漏えいのリスクを高めてしまいます。

たとえば、施設側の管理体制やルールに、以下のような不備があると危険です。

  • 個人情報が入ったUSBメモリの保管場所に鍵がかかっていない
  • 施設のパソコンにウイルス対策が施されていない
  • 仕事で個人のスマートフォンを使う場合の明確なルールがない
  • 退職した職員への秘密保持に関する指導が十分ではない

このような状況は、組織として改善すべき点です。施設側は物理的・技術的な安全対策を講じるとともに、全職員に対する定期的な教育体制を整える責任があります。

関連記事:介護施設の内部研修は義務?法定研修の必須項目から年間計画の立案まで解説

利用者のプライバシーを守るための具体的対策

利用者のプライバシーを守るための具体的対策

プライバシー保護の重要性を理解したうえで、日々の業務の中で具体的に何をすべきかを知ることが大切です。介護現場では、意識ひとつで防げるリスクがたくさんあります。

ここでは、利用者のプライバシーを守るための具体的な行動を、3つの場面に分けて解説します。

身体介助でのプライバシーに配慮する

身体介助の場面では、利用者の羞恥心に配慮し、尊厳を守るための細やかな工夫が求められます。入浴や排せつ、更衣といった行為は、本人にとって非常にプライベートなものだからです。

たとえば、入浴の介助では肌の露出をできるだけ少なくしたり、おむつ交換のときにはカーテンをしっかり閉めたりする配慮が基本となります。排せつの介助では、トイレのドアを開けたままにせず、利用者が安心できるような声かけを意識しましょう。

利用者の身体に触れる際には必ず確認をとり、相手の気持ちに寄り添った丁寧な対応を心がける必要があります。

スタッフ間の会話内容と場所に注意する

スタッフ間の何気ない会話から、意図せずプライバシー情報が漏れてしまうのを防ぐ必要があります。仕事で知り得た利用者の情報は、すべて口外してはいけないという意識を常に持ってください。

事業所内だからといって、どこで話してもよいわけではありません。以下のルールを意識しましょう。

  • 他の利用者や来訪者がいる場所では、個人情報について話さない
  • 情報を共有する際は、利用者の名前をイニシャルなどで表現する
  • 介護に無関係な噂話はしない
  • 勤務時間外に偶然会った同僚と、利用者の話題を出さない

情報を話すときは、内容だけでなく場所にも気を配りましょう。声が漏れない独立した部屋で打ち合わせするなどの工夫が必要です。

SNSの私的利用に関するルールを設ける

スマートフォンやSNSの私的な利用が、情報漏えいの引き金になるケースが増えています。個人の機器やアカウントは事業所の管理が行き届かず、セキュリティ上のリスクが高まるからです。

たとえば、利用者の写った写真を無断で個人のSNSに投稿するのは、絶対にあってはならない行為です。事業所が許可していないUSBメモリを使ったり、管理者が見ていないグループチャットで利用者の情報をやりとりしたりするのも避けるべきでしょう。

事業所として、個人のスマートフォン利用に関する明確なルールを定め、全職員に周知徹底することが情報漏えいの防止につながります。

プライバシー保護の理解度チェックテスト

ここまで、介護現場におけるプライバシー保護の基本や原因、具体的な対策について見てきました。内容が身についているか、簡単なチェックテストで確認してみましょう。

日々の業務で判断に迷いやすい場面を想定して、3つの質問を用意しました。それぞれの質問に対して、ご自身の考えと照らし合わせながら読み進めてみてください。

【第1問】名前を伏せれば、利用者の失敗談を同僚と話してよいか?

答えは「いいえ」です。名前を伏せたとしても、プライバシー侵害にあたるリスクが高いため、話すべきではありません。

介護職員には法律で守秘義務が課せられており、仕事を通じて知り得た利用者の秘密を漏らしてはいけないと定められています。排せつの失敗談のような極めて私的な情報は、利用者の尊厳に深く関わるものです。

名前がなくても、他の情報と結びつくことで個人が特定されてしまう恐れがあります。介護に直接関係のない情報を噂話のように話す行為は、情報漏えいと見なされるので注意が必要です。

【第2問】利用者の部屋に入る際、いつでもノックせずに入ってよいか?

答えは「いいえ」です。必ずノックをしてから入室すべきです。利用者の居室はプライベートな空間であり、ノックをせずに部屋に入る行為は個人の私生活の自由を侵害します。

ノックは相手の尊厳を守るための基本的なマナーであり、利用者のプライドを傷つけないための大切な配慮といえるでしょう。このような小さな配慮の積み重ねが、利用者との信頼関係を築きます。

利用者の私的な領域に立ち入るという意識を常に持ち、ノックや声かけを徹底することが、安心感にもつながります。

【第3問】本人の許可なく、施設内の報告書に利用者の写真を使ってよいか?

答えは「いいえ」です。たとえ施設内部の報告書であっても、本人の許可なく写真を利用することは原則としてできません。

介護施設は、法律で個人情報を適切に管理する義務を負っています。顔写真は重要な個人情報にあたるためです。法律では、情報を得た際に伝えた「利用目的」の範囲を超えて使う場合は、改めて本人の同意を得なければならないと定められています。

「内部向けだから大丈夫」という自己判断はせず、必ず本人や家族に利用目的を説明し、同意を得ることを徹底しましょう。

参考:厚生労働省『介護情報の共有に係る同意取得及び個人情報保護について

まとめ

今回は、介護におけるプライバシー保護の基本から、研修資料に盛り込むべき具体的な対策まで解説しました。利用者の尊厳を守るには、職員の高い意識と、施設全体のルール作りが欠かせません。

この記事で紹介した対策やチェックテストを参考に、あなたの施設でも研修を実践してみてください。職員全員でプライバシー意識を高めることは、利用者や家族からの信頼を深め、より安全で安心なケアの提供につながるでしょう。

まずは、明日のミーティングで身体介助時の配慮について一つ共有することから始めてみませんか。

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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。