
介護施設の書類管理、どこから手をつけていいかわからず、お困りではないですか?山積みの書類を前に「監査で指摘されたらどうしよう」「災害時に重要な書類をすぐに持ち出せるだろうか」と、不安に感じることも多いかもしれません。
本記事では、書類が片付かない3つの原因を明らかにし、誰でも実践できる上手なファイリングの方法を4つのステップで具体的に解説します。さらに、監査や防災に備えるためのポイントや、現場でよくある質問にもわかりやすくお答えします。
この記事を最後まで読めば、書類探しのストレスから解放され、職員が本来のケア業務に集中できる環境を整えられるでしょう。監査や災害にも自信を持って対応できる、安全で信頼される施設作りの第一歩になりますので、ぜひご覧ください。
書類が片付かない介護施設の3つの原因
介護施設で書類が山積みになってしまうのには、いくつかの理由があります。多くの施設で共通する原因を知ることで、自施設の課題が明確になるはずです。
放置してしまうと、業務効率の低下だけでなく、監査や災害時のリスクにもつながります。ここでは、書類が片付かない主な3つの原因について考えていきましょう。
書類の種類が多く保管期間もバラバラ
書類が片付かない原因の一つは、扱う書類の種類が非常に多く、それぞれ保管期間が異なることです。
介護施設では、介護給付費関連の書類や日々の介護記録など、さまざまな書類を扱います。これらの書類は法律で保管期間が定められていますが、その期間は書類の種類や自治体の条例によって異なります。
書類ごとに異なるルールがあるため、管理が複雑になり、整理が難しくなってしまうのです。
職員間でファイリングルールが未整備
職員の間でファイリングのルールが決まっていないことも、書類が片付かない大きな原因です。
書類の整理が特定の職員のやり方に依存してしまうと、その人がいないときに必要な書類が見つからなくなります。探す時間が増えるだけでなく、担当者変更の際の引き継ぎも困難になるでしょう。
これを防ぐには、書類の分類や保存、廃棄に至るまでの明確なルール作りが不可欠です。たとえば、責任者を定めて管理マニュアルを作成し、全職員で共有する方法が有効です。
ルールを統一することで、誰でも迷わずに書類を扱える体制を整えられます。
紙文化が根強く電子化が進まない
多くの施設で紙媒体での書類管理が続いていることも、整理が進まない要因の一つです。紙の書類は保管スペースを必要とし、キャビネットの購入や外部倉庫の利用などで費用がかさみます。
また、紙は劣化しやすいため、温度や湿度の管理も必要です。必要な情報を探すには一枚ずつページをめくる必要があり、時間がかかってしまいます。職員間で情報を共有する際も、人数分のコピーを取る手間がかかるでしょう。
書類管理を電子化すれば、保管スペースの削減や検索性の向上、情報共有の効率化につながります。
上手なファイリングの仕方【4ステップ】
書類問題を解決し、誰でもわかりやすい状態を作るには、正しい手順でファイリングを進めることが大切です。やみくもに整理を始めても、すぐに元の状態に戻ってしまいます。
ここでは、具体的なファイリングの仕方を4つのステップにわけて詳しく解説していきます。
ステップ1:すべての書類を把握し分類する
ファイリングの第一歩は、まず施設内にあるすべての書類を把握し、必要なものと不要なものにわけることです。不要な書類を処分して業務スペースを広げ、作業効率を向上させましょう。
残した書類の分類方法には、主に2つの種類が挙げられます。一つは「ツミアゲ式」で、目の前の書類を小分類から中分類、大分類へと段階的に積み上げて整理する方法です。
もう一つは「ワリツケ式」で、施設全体の業務から大きな分類を決め、そこから細かく割り振っていく方法です。どちらの方法を選ぶかは、実務の流れや組織の方針に合わせて、施設の状況に最適なものを選びましょう。
ステップ2:保管と廃棄のルールを明確にする
次に、書類の保管期間と廃棄方法に関するルールを明確に定めましょう。介護施設の書類は、法律で保管期間が決められています。
たとえば「介護給付費請求書」の保管期間は5年間で「介護記録」は原則2年間ですが、自治体の条例によっては5年の保管が求められることもあります。これらのルールを一覧表にまとめ、全職員で共有することが重要です。
保管期間が過ぎた書類は必ず廃棄し、廃棄記録も残す手順をマニュアルに明記しておくことで、誰でも迷わず適切な管理を続けられます。
参考1:厚生労働省『介護分野の文書に係る負担軽減について(意見)』
参考2:厚生労働省『介護保険最新情報Vol.1201』
ステップ3:施設の状況に合う用品を選ぶ
書類の分類方法とルールが決まったら、施設の状況に合ったファイリング用品を選びましょう。
ファイリング方法には、書類を挟んで立てる「バーチカル式」、ファイルに綴じる「簿冊式」、箱に入れて保管する「レターケース」など、さまざまな種類があります。書類の出し入れの頻度や、保管スペースの広さに応じて最適なものを選んでください。
たとえば、頻繁に出し入れする書類にはバーチカル式が便利です。個人情報を含む重要書類は、施錠できるキャビネットや耐火金庫に保管すると安全です。
書類をスキャンして電子データで管理する方法も、省スペース化や情報共有の面で非常に有効な手段といえるでしょう。
ステップ4:誰でもわかるラベリングを行う
最後のステップは、誰が見ても内容がすぐにわかるようにラベルをつけることです。ファイルには「2023年度4月経費報告書」のように、具体的な名称を記載しましょう。
インデックスをつけたり、カテゴリごとに色分けしたりするのも有効ですが、色の多用は混乱を招くため注意しましょう。何よりも大切なのは、ファイリングのルールを職員全員で統一・共有する意識です。
「自分以外の人でもわかる」状態を意識することで、書類管理が特定の人に依存せず、常に整理された状態を維持できます。
監査と防災に備えるファイリング

ファイリングは、日々の業務効率化だけでなく、万が一の事態に備えて施設を守るためにも重要です。いざというときに慌てないためには、平常時から監査や防災を意識した書類管理が不可欠です。
ここでは、監査でチェックされる点や災害時に必要な書類、個人情報の保護について解説します。
監査で求められる書類と保管ルール
監査(運営指導)では、運営基準を守っているかを確認するため、多岐にわたる書類が厳しくチェックされます。
「人員」「運営」「サービス提供」に関する書類として、勤務表や事故報告書、サービス提供記録などが求められます。保管期間は国の基準だけでなく、自治体の条例でより長く定められている場合があるため、地域のルールの確認が不可欠です。
書類の不備は、介護報酬の返還や、最悪の場合は指定取り消しといった深刻な事態につながりかねません。日頃からの適切な管理が極めて重要です。
災害に備える重要書類の管理方法
災害に備えるための重要書類の管理方法は、平時とは異なる視点が必要です。災害時には多くの書類を持ち出すことが難しいため、必要な情報を「いつでもどこでも確認できる」ように準備しておくことが重要です。
災害時でも必要になる重要書類には、以下のようなものがあります。
- 利用者名簿、緊急連絡先リスト
- 介護計画書(ケアプラン)やアセスメントシート
- アレルギー情報や服薬状況がわかる記録
- 介護保険被保険者証の写し
- 直近のサービス提供記録
- 医師の指示書(訪問看護やリハビリ関連)
- 非常災害時対応マニュアル
これらの書類はデータ化してクラウドに保存することで、安全かつ確実に管理できます。施設が被災した場合でも、職員はスマートフォンなどを使って、どこからでも情報を確認できます。
ただし、災害時には通信障害が発生する可能性もあるため、一部の重要書類は紙でも保管しておくと安心です。
個人情報を守る保管と廃棄のルール
利用者の個人情報は、細心の注意を払って管理しなければならない重要情報です。書類を保管する際は、必ず鍵のかかるキャビネットを使用しましょう。
電子データで管理する場合は、パスワード設定やアクセス制限を徹底してください。誰がいつ書類を閲覧したか記録を残すことも、情報漏洩のリスクを低減させます。
保管期間が過ぎた書類の廃棄も重要です。シュレッダーでの処理はもちろん、機密性が高いものは専門業者による溶解処理も検討しましょう。
廃棄した際は、いつ、誰が、どのように処分したか記録を残すことが、施設の信頼を守るうえで不可欠です。
ファイリングに関するよくある質問
ファイリングの基本ステップを理解しても、実際の現場では「この場合はどうすれば?」といった疑問が出てくるものです。特に介護施設では、利用者ごとの複雑な書類や増え続ける過去の記録など、特有の悩みがあります。
ここでは、ファイリングの仕方に関するよくある質問にお答えします。
利用者ごとのファイルはどうまとめるべき?
利用者ごとのファイルは、担当者以外でもすぐに見つけられるようにまとめるのが基本です。まず「サービス種類別」や「年度別」など、施設で統一した分類ルールを決めましょう。
そのうえでファイルにはインデックスをつけ、背表紙には「2024年度A利用者様ケアプラン」のように具体的な名前を記載します。本記事で紹介したファイルの色をわける方法も、直感的に探しやすくなるためおすすめです。
過去の書類はどこまで保管すれば良い?
過去の書類は、施設で定めた保管期間のルールに従って管理します。重要なのは、保管期間が過ぎた書類を定期的に廃棄することです。
全米記録管理評議会が提唱した「ナレムコの法則」によると、書類を作成してから1年後に見返されるのは全体の1%程度だとされています。つまり、残りの99%の書類は、ほとんど見返されることがないともいえます。
もちろん、法律で定められた期間は必ず守る必要がありますが、不要になった書類は定期的に処分する習慣をつけましょう。古い書類から順に廃棄する「玉突き方式」のようなルールを決めておくと、書類が無限に増えるのを防げます。
パソコン内のデータ整理のコツは?
パソコン内のデータ整理は、フォルダの階層構造とファイル名の付け方にルールを設けることから始めます。「利用者名」の大フォルダの中に「ケアプラン」「サービス記録」といった小フォルダを作るなど、誰でも構造がわかるようにしましょう。
ファイル名は「20240813_A利用者様_サービス記録」のように日付や内容を統一の形式で入れると、検索しやすくなります。
紙の書類もスキャンしてデータ化し、クラウドサービスを活用すれば、場所を取らず安全に保管でき、情報共有もスムーズになります。
まとめ
今回は、介護施設で書類が片付かない原因から、誰でもできる上手なファイリングの仕方、さらに監査や防災といった緊急時に備えるための管理方法まで解説しました。大切なのは、施設内の書類を正しく分類し、保管と廃棄のルールを職員全員で共有することです。
この記事をきっかけにファイリングの見直しを始めてみてください。書類を探す無駄な時間がなくなれば、職員が本来のケア業務に集中できるようになり、安全で信頼性の高い施設へと変わっていくはずです。
まずは、ご自身のデスクの上にある不要な書類を1枚処分することから始めてみましょう。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。