
会社からBCP対策として、自社オリジナルの地震ハザードマップを作るよう指示されたものの、何をどう進めればよいのかわからず困っていませんか?
本記事では、地震ハザードマップの作成手順を5つのステップでわかりやすく解説します。情報の集め方、ツールの使い方、マップの質を高めるコツまで丁寧にまとめました。
この記事を読めば、防災初心者の方でも安心してマップ作成に着手でき、従業員の安全と会社の事業継続に役立てることができます。ぜひ最後までご覧ください。
地震ハザードマップの作り方【5ステップ】
地震ハザードマップの作成は、段階的に進めることが大切です。
目的を明確にして必要な情報を整理したうえで、信頼できる地図を用いて図示し、現地確認まで行うことで、実用的なマップが完成します。
ここでは、初心者でも取り組める5つの手順を解説します。
ステップ1:目的と範囲を決める
まず、マップを作る目的と対象範囲をはっきりさせましょう。何のために作るのかがあいまいだと、必要な情報や対応すべき災害も定まりません。
たとえば、事業継続の観点から従業員の安全確保を目的とするなら「どの地震を想定するのか」「どの地域を対象にするのか」を先に決める必要があります。
首都直下型の地震を例に取れば、都心南部直下地震を前提にマップを作成することになります。
目的がはっきりすれば、次に必要な情報が見えてくるでしょう。
ステップ2:必須情報をリストアップする
地図に何を載せるかを整理します。必要な情報が抜けていると、マップとしての信頼性が下がってしまいます。
地震の場合は、揺れやすさや液状化のリスク、建物倒壊の可能性などが必要です。また、避難所や避難経路、危険箇所、防災機関の位置なども忘れてはいけません。
これらの情報は、自治体のハザードマップや被害想定資料から集められます。最初にリストを作っておけば、あとの作業が格段にスムーズになるでしょう。
ステップ3:基図を入手する
地図に書き込むためのベースとなる地図を準備します。正確なマップを作るには、信頼できる基図が欠かせません。
たとえば、国土地理院の地理院地図はオンラインで自由に使えますし、市区町村の白地図も便利です。ゼンリンのような民間地図も、住宅の配置まで細かく確認したいときに役立ちます。
地図の縮尺や更新日、著作権の有無なども確認して、目的に合った地図を選びましょう。
参考:国土地理院『地理院地図』
ステップ4:地図に書き込む
必要な情報を、見やすくわかりやすく地図に記載します。ただ書き込むだけではなく、色分けや記号を使って一目で理解できるようにするのがポイントです。
揺れやすさは震度に応じて色分けし、避難場所や危険箇所は記号で表します。凡例も忘れずに入れて、誰が見ても意味がわかるようにしましょう。
パソコンが苦手な方は手書きでも大丈夫ですが、水に強いペンを使うと安心です。見やすさを意識して、情報を整理しましょう。
ステップ5:現地確認をする
完成したマップが本当に役に立つかを確かめるために、現場での確認作業を行います。地図だけでは見えないリスクがあるため、実際に歩いてチェックすることが重要です。
避難経路を歩いてみて、通行の妨げになる物がないか確認します。古い建物やがけなど、地図に載っていない危険箇所も見つかるかもしれません。地域の人から話を聞くことも有効です。
現地確認をもとにマップを修正すれば、より実用的なものになります。
地震ハザードマップの質を高める情報収集のポイント

質の高い地震ハザードマップを作るには、正確で信頼できる情報が欠かせません。
公的機関が発信する最新のデータを使い、目的に合った作成ツールを選ぶことが重要です。そのうえで情報の限界を理解し、継続的な更新を行う必要があります。
ここでは、情報収集と活用のポイントを4つに分けて解説します。
信頼できる情報源から情報を集める
正しい情報をもとにしたマップでなければ、実際の災害時に役に立ちません。だからこそ、情報の出どころには細心の注意が必要です。
たとえば、国や自治体が出しているハザードマップや、J-SHISといった専門機関の地震予測データは、高い信頼性があります。
震度の分布、液状化の危険度、避難所の位置など、必要な情報をそろえることが重要です。質の高いマップは、正確な情報の積み重ねで成り立っています。
参考:防災科学技術研究所『地震ハザードステーション(J-SHIS)』
ハザードマップ作成ツールを活用する
集めた情報を整理し、実際のマップに仕上げるには、作成ツールの活用が効果的です。
たとえば、国土地理院の「重ねるハザードマップ」では、洪水や土砂災害などの各種リスク情報を一枚の地図に重ねて表示できます。
先にも述べたJ-SHIS Mapは、地点ごとの地震リスクを視覚化し、地震ハザードカルテを自動作成する機能も備えています。
これらのツールは、情報を「読む」だけでなく「見える化」することで、リスクの把握を助けてくれます。用途に応じて適切なツールを選びましょう。
参考:国土地理院の『重ねるハザードマップ』
知っておきたい情報の信頼性と限界を知る
地震ハザードマップは科学的な根拠に基づいていますが、予測であることに変わりはありません。
どんなに精密なデータを使っていても、地震の発生時期や規模を正確に当てることはできません。
過去には、想定外の規模の地震が起きたこともあります。だからこそ、マップを過信せず「参考資料の一つ」として使う意識が大切です。
複数の情報を組み合わせて判断するようにしましょう。
定期的に更新する
ハザードマップは一度作れば終わりではありません。地域の開発状況や科学的知見の進歩により、情報は日々変化します。
たとえば、新しい道路ができたり、避難所の場所が変わったりすることがあります。
防災担当者は、自治体のサイトや広報などを定期的に確認し、最新版をチェックする習慣が必要です。変化を取り入れていくことが、マップの実用性を高めるポイントです。
よくあるご質問
はじめて地震ハザードマップを作成する方にとって、費用や所要時間、自治体マップとの違いは気になるポイントです。事前に基本的な疑問を解消しておくことで、作業の見通しが立てやすくなります。
ここでは、多くの方から寄せられる代表的な質問について、わかりやすくお答えします。
費用はどれくらいかかる?
個人で作成する分には、それほどお金はかかりません。なぜなら、多くの必要情報が自治体などから無料で入手できるからです。
地図をダウンロードし、自宅で印刷して手書きするだけなら、かかる費用はせいぜい文具と印刷代くらいでしょう。
一方で、企業がBCP対策として専門業者に依頼するケースでは、災害リスク診断や3Dマップなどの高度な分析が含まれるため、数十万円規模になることもあります。
目的と求める精度によって、必要なコストは変わります。
作成時間はどのくらい必要?
作り方によって、所要時間はかなり違ってきます。
簡易な「マイハザードマップ」であれば、半日もあれば完成できます。週末に家族で避難所を調べ、地図に書き込む程度なら、短時間で終わるでしょう。
ただし、範囲が広かったり、現地確認をしっかり行ったりする場合は、数日かけて丁寧に仕上げる必要があります。
専門機関によるマップ作成では、調査からレポート作成まで数週間かかるケースもあり、スケジュール管理が重要になります。
自治体マップだけではダメ?
自治体のハザードマップは、防災対策の出発点としてとても有用です。ただし、それだけに頼ってしまうのは危険です。
なぜなら、個人の家の構造や通勤経路といった「現場レベル」のリスクまでは反映されていないからです。
たとえば、自治体の地図で「色が塗られていない」場所でも、実際には危険なブロック塀があるかもしれません。
自分の足で確認し、自分の暮らしにあったマップを補完することで、はじめて実践的な防災対策になります。
まとめ
地震ハザードマップの作成には、目的と範囲の明確化、信頼できる情報の収集、使いやすい地図ツールの活用、現地確認、そして継続的な更新が欠かせません。
自治体マップだけでは把握しきれないリスクを、自分たちの目で確認し、マップに反映させることで、初めて実効性のある対策となります。
災害はいつ起きるかわかりません。まずは地元のハザード情報を調べ、白地図を印刷して気になる場所を見に行くことから始めてみましょう。
従業員が安心して働ける環境を整えることは、事業継続の基盤づくりにもつながります。
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証券会社勤務後、広告代理店兼防災用品メーカー勤務。経営管理部を立ち上げ、リスクマネジメント部を新たに新設し、社内BCP作成に従事。個人情報保護、広報(メディア対応)、情報システムのマネジメント担当。NPO事業継続推進機構関西支部(事業継続管理者)。レジリエンス認証の取得、更新を経験。レジリエンス認証「社会貢献」の取得まで行う。レジリエンスアワードとBCAOアワードの表彰を受ける。現在では、中小企業向けBCP策定コンサルティング事業部を立ち上げ、コーディネーターとして参画。