具体的にBCPを策定しよう
これまでBCP策定に関するあれこれをご紹介してきましたが、今回からは具体的にBCPの内容について迫っていきます。どのような書き方で、どのような内容を書いていけばいいのか。基本方針から災害時の他施設との連携の取り方までご紹介していきますので、ぜひ参考にしてみてください。もっと詳しく知りたい!という方はぜひ、山口さんの著書『スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」』をご一読くださいませ!
基本方針について
まずは施設・事業所としての災害対策に関する基本方針を記載しましょう。
例としては、以下のような基本方針を文章として明記するイメージです。
「スタッフの健康と安全の上に、利用者様の安全安心があると考え、施設と自宅(利用者様の自宅)の両方の防災に日頃から努め、スタッフ自身の安全確保と利用者様の安全確保を同時に行う(避難が必要な場合は迷ったら行う)。生命の維持に必要なサービスの提供を行う(継続)。支援と受援の両方を迅速に行う(受援:支援してもらう・助けてもらう)できる限り地域に開放し協力する(地域貢献)。」
このような方針を打ち出し、その方針に従ってさまざまな体制・対応を策定していきましょう。
BCP推進体制について
ここでは平常時における災害対策や事業継続の検討・策定や各種取組を推進する体制を記載します(注:役割は兼任することが多いので現実の体制に合わせて作成してください)。
例えば、「本部長」であれば全体認識と決断を担い、法的なことを理解しておく。「施設長」は情報を集めて指示をするため、施設の維持管理を普段からになっておくなど。そのほかにもデータ管理ができる人間、利用者様に対してケアを行う主任看護師、専門的な業務を遂行できる人間など、それぞれ役割を振り、なるべく平時の業務と関わりのある人間を指名し、非常時の体制づくりを行っていきます。
リスクの把握
BCPを策定するうえで最重要とも言えるのが、リスクの把握です。ハザードマップなどを確認し、どのようなリスクや被災想定があるかをしっかり認識しておきましょう。具体的には施設・事業所が所在するハザードマップ等を掲載したり、可能性のある災害についてのマップをまとめるなど、リスクに対する情報共有をしっかり行っておくことが大切です。また、大きな被害が予想される災害について、自治体が公表する被災想定を整理して記載しておくようにしましょう。
(記入例)
〇〇介護老人ホーム
住所:〇〇県〇〇市〇〇町〇〇番地
人数:利用者様 29名 常駐スタッフ18名 非常勤2名 委託2名
建物:鉄筋コンクリート4階建、屋上あり
標高:23m
津波:海岸から約20km離れているため津波のリスクはない
土石流:土石流危険渓流
崖崩れ:急傾斜地の崩壊警戒区域
洪水:想定される浸水深:5m~10m(想定最大規模)<外部避難場所準備>
ため池:〇〇池決壊で20分後に50cm浸水
地震:震度6弱
原子力発電所:200km以上離れている(注:5km /30km圏内は対応が変わり、地域の原子力発電所の防災資料を参考に別途作成してください)
液状化:PL値5〜15(中程度)
交通被害
道路:液状化・崖崩れ・土石流で通行止め
橋梁:通行止め
鉄道:通行止め
空港:使用停止
ライフライン
上水:1週間程度の断水を覚悟
下水:1日停止の後、自治体の発表を確認
電気:3日間の停止は覚悟(注:震度7の場合7日、震度6の場合3日で作成する
7日以上の停電の場合は支援を受けなければ継続不能と考え受援体制を事前整備)
ガス:LPガス在庫(常に半分以上あり)
(注:都市ガスの場合2ヶ月など長期になる可能性あり)
通信:電話は当日は輻輳により不通、翌日より時々通信可能
(注:各県や自治体が災害被害想定をホームページで発表していますのでそこを参考にしてください)
https://www.bousai.go.jp/kyoiku/kigyou/keizoku/sk_03.html
上記の例のように網羅しておくと安心です。また、自治体発表の被災想定から、自施設の設備等を勘案のうえ記載するようにしましょう。時系列で整理すると分かりやすいのでお勧めです。
ライフラインの復旧に関しては、災害の規模によって変わりますが、なるべく大きな想定をしておくと安心です。東日本大震災の経験値として震度7の地域の復旧日数は下記の通りになります。
震度7の場合、電力:1週間 水道:3週間 ガス:5週間でほぼ復旧(リスクを考慮した日数)
震度7の場合、電力:3日 水道:1週間 ガス:3週間で50%復旧
震度6の場合、震度7の50%復旧を、復旧の目安と想定する など
災害当日〜10日目くらいまでのそれぞれの状態を想定しておきましょう。そして施設の設備と照らし合わせたり、備品が必要な場合は購入するなどの対応を考えておきましょう。
優先業務の選定
BCPにおいて最も大事だと言えるのが、優先すべき業務の選定です。BCPはただの災害対策ではなく、「事業継続計画」ですから、リソースが割けない中でどの事業を優先して継続するか?の判断が重要になります。施設が一つしかない場合はどの業務を優先するかの順番を決めるだけで済みますが、複数ある場合はどの施設ではどの業務を優先するか?といった総合的な判断が必要です。災害が起こってからでは遅いので、ぜひ事前に決めておくようにしましょう。
(記入例)
A:継続必須事業:停止させない事業
B:早めに再開する事業
C:休止する事業
入所介護支援事業:A 〇〇郡〇〇町
医療法人事業:A 〇〇市〇〇町
医療法人事業(訪問):A 〇〇郡〇〇町
居宅介護支援
(24時間体制):A 〇〇県〇〇町
訪問介護・看護事業:B 〇〇市〇〇町
通所サービス事業:B 〇〇市〇〇町
福祉用具
レンタル・リース:C 〇〇市〇〇町
住宅改修工事
(バリアフリー工事):C 〇〇市〇〇町
など、施設ごとの継続度
上記のような表を用意し、事業継続に必要なスタッフ数までも割り出しておきましょう。足りない場合はどうするのか、といった対応も事前に決めておくと、災害後の状況でもやることが決まって動きやすくなります。
研修・訓練の実施、BCPの検証・見直し
研修・訓練の実施
BCPにおいて、資料策定だけでなく研修や訓練を継続的に実施することも大きなポイントです。訓練が一過性で終わらず、継続して実施することを担保する・いざという時に「慌てない心」を養い、利用者様の安全な状態を確保するといった目的のもと、様々な訓練内容を考え、実施しましょう。
訓練の種類については、垂直避難、火災避難、避難先へ避難、BCP机上訓練、安否確認、非常食訓練、読み合わせ訓練(文書確認)啓発研修など様々です。一回の訓練で、いくつかの訓練を組み合わせて行い、徐々に難易度をあげて臨みましょう。また、避難訓練は昼間スタッフ・夜間スタッフメンバーの両方で実施するバージョンを行い、メンバーを入れ替えて臨むなどの対応もしておくと安心です。
スタッフで歩行難易度の高い利用者様役を演じて行うことも大切であり、スタッフが訓練をしているところを利用者様に見てもらうのも啓発になります。慣れてきたら、利用者様にも積極的に参加してもらい訓練しましょう。
(記入例)
訓練項目・内容・関わるスタッフや利用者・回数を明記しておく。
①火災訓練
初期消火・119番通報・屋外避難・誘導訓練・点呼、応急手当・搬送・AED、警報機鳴動(めいどう)訓練 消火栓ホースによる放水訓練 など
②地震訓練
安全確保・集合点呼・火災がないかの点検・情報収集(震源地・津波情報)、断水確認・水の確保・貯水槽バルブチェック・災害用ビニール式トイレセット の用意 など
③設備動作訓練
警報機・放送機・通報機・避難器具・消火栓・ガス元栓・ガス復旧・発電機操作
その他、文書を確認しながら読み合わせを行い、現状とのズレがないかの確認や、災害ごとにシナリオを設定し、状況とセリフをあらかじめ決めて指示出しを行うシナリオ訓練なども有効です。年間の訓練計画書を作成し、それに基づいて訓練を行いましょう。また、訓練参加者アンケートは必ず実施しておくこと。アンケートの集計と課題の抽出、課題の改善をBCP改善計画に記入し実行することで、次回の訓練と実際の災害に活かせるように継続できます。
他施設との連携
災害時において、自分たちの施設だけですべてのサービスを提供することが不可能な場合も考えられます。そういった事態に備え、他施設や他サービスとの連携も視野に入れておきましょう。平常時から連携体制の構築・連携先との協議を行っておくことが大切です。連携先と連携内容を協議中であれば、それら協議内容や今後の計画などをBCPに記載しておきましょう。その他、連携先と共同で訓練を行うなど、様々な協力の仕方が考えられますので、ぜひ実現可能なものから実現していきましょう。
(連携すべきサービスの例)
・スタッフの応援 有資格者の応援
・医療(医薬品)サービスの応援
・入所スペース・介護スペース・会議室など場所の支援
・情報連絡の支援
・社用車・送迎バス・入浴車の支援
・経理処理代行
・水食料備品の調達代行
・燃料の支援
・衛生用品の支援
・寝具の調達支援
・洗濯の支援
地域のネットワーク等の構築・参画
また連携先は法人だけではありません。地域のネットワークや行政との連携も視野に入れ、非常時に備えておきましょう。こうした動きは、利用者様の日頃の安心にも繋がります。施設・事業所の倒壊や多数の職員の被災等、単独での事業継続が困難な事態を想定して、施設・事業所を取り巻く関係各位と協力関係を日ごろから構築する。地域で相互に支援しあうネットワークが構築されている場合は、それらに加入することを検討しておきましょう。以下の表のようにまとめておくことをお薦めします。

また、被災時の職員の派遣(災害福祉支援ネットワークへの参画や災害派遣福祉チームへの職員登録)については、地域の災害福祉支援ネットワークの協議内容等について確認し、災害派遣福祉チームのチーム員としての登録を検討するなど、対応を考えておきましょう。
「災害時の福祉支援体制の整備に向けたガイドライン」では、都道府県は、一般避難所で災害時要配慮者に対する福祉支援を行う災害派遣福祉チームを組成することが求められており、それらが円滑に実施されるよう都道府県、社会福祉協議会や社会福祉施設等関係団体などの官民協働による「災害福祉支援ネットワーク」を構築するよう示されています。 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000209718.html
ここまで、簡潔にBCPの総論や記入例について述べてきました。これでもまだ大掴みではありますので、ぜひ詳細を知りたい方は、山口さんの著書『スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」』を参考にしてみてください。
次回はBCPを策定する上で記入すべき、平常時に行う対応についてご紹介していきます。
防災⼠の詳細はこちら
著書:スタッフ30名以下の介護事業の「防災BCP(事業継続計画)」 通所、入所、訪問の事業所へ防災訓練、BCPの策定支援など約30事業所へ指導経験あり その他、ホテルや工場など一般企業への指導150社以上.商工会議所、商工会、法人会などでの講演多数
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